古事記 白猪と居寤清水(居醒の清泉)~原文対訳

月経の歌 古事記
中巻⑤
12代 景行天皇
倭建の歌物語
3 白猪と居寤清泉
当芸野・杖衝坂
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是詔。
茲山神者。
徒手直取而。
 ここに詔りたまひしく、
「この山の神は
徒手むなでに直ただに取りてむ」
とのりたまひて、
 そこで
「この山の神は
空手からてで取つて見せる」
と仰せになつて、
騰其山之時。 その山に騰のぼりたまふ時に、 その山にお登りになつた時に、
白猪逢于
山邊。
山の邊に
白猪逢へり。
山のほとりで
白い猪に逢あいました。
其大如牛。 その大きさ牛の如くなり。 その大きさは牛ほどもありました。
     
爾爲言擧而詔。 ここに言擧して詔りたまひしく、 そこで大言して、
是化白猪者。 「この白猪になれるは、 「この白い猪になつたものは
其神之使者。 その神の使者つかひにあらむ。 神の從者だろう。
雖今不殺。 今殺とらずとも、 今殺さないでも
還時將殺而。 還らむ時に殺とりて還りなむ」
とのりたまひて
還る時に殺して還ろう」
と仰せられて、
騰坐。 騰りたまひき。 お登りになりました。
     
於是
零大氷雨。
ここに
大氷雨おほひさめを零ふらして、
そこで山の神が
大氷雨だいひよううを降らして
打惑倭建命。 倭建の命を打ち惑はしまつりき。 ヤマトタケルの命を打ち惑わしました。
     
〈此化白猪者。 (この白猪に化れるは、 この白い猪に化けたものは、
非其神之使者。 その神の使者にはあらずて、 この神の從者ではなくして、
當其神之正身。 その神の正身なりしを、 正體であつたのですが、
因言擧 言擧したまへるによりて、 命が大言されたので
見惑也〉 惑はさえつるなり) 惑わされたのです。
     

玉倉部之清泉=居寤清泉

     
故還下坐之。 かれ還り下りまして、 かくて還つておいでになつて、
到玉倉部之
清泉以息
坐之時。
玉倉部たまくらべの
清泉しみづに到りて、
息ひます時に、
玉倉部たまくらべの
清水に到つて
お休みになつた時に、
御心稍寤。 御心やや寤さめたまひき。 御心がややすこしお寤さめになりました。
故號其清泉。 かれその清泉しみづに名づけて そこでその清水を
謂居寤清泉也。 居寤ゐさめの清泉しみづといふ。 居寤いさめの清水と言うのです。
月経の歌 古事記
中巻⑤
12代 景行天皇
倭建の歌物語
3 白猪と居寤清泉
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