古事記~禊祓① 原文対訳

黄泉③ 古事記
上巻 第一部
イザナギとイザナミ
禊祓①
禊祓②
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
是以
伊邪那伎
大神詔。
 ここを以ちて
伊耶那岐の
大神の詔りたまひしく、
 イザナギの命は
黄泉よみの國から
お還りになつて、
吾者到於
伊那志許米〈上〉
志許米岐
〈此九字以音〉
穢國
而在祁理。
〈此二字以音〉
「吾あは
いな醜しこめ
醜めき
穢きたなき國に
到りてありけり。
「わたしは
隨分
厭いやな
穢きたない國
に行つたことだつた。
故吾者

御身之
禊而。
かれ吾は
御身おほみまの
禊はらへせむ」
とのりたまひて、
わたしは
禊みそぎを
しようと思う」
と仰せられて、
到坐
竺紫日向之
橘小門之
阿波岐
〈此三字以音〉
原而。
竺紫つくしの
日向ひむかの
橘の
小門をどの
阿波岐あはぎ原に
到りまして、
筑紫つくしの
日向ひむかの
橘たちばなの
小門おどの
アハギ原はらに
おいでになつて
禊祓也。 禊みそぎ祓はらへ
たまひき。
禊みそぎを
なさいました。
     
故於投棄
御杖所
成神名。
かれ
投げ棄うつる
御杖に成りませる
神の名は、
その
投げ棄てる杖によつて
あらわれた神は
衝立
船戶神。
衝つき立たつ
船戸ふなどの神。
衝つき立たつ
フナドの神、
次於投棄
御帶所
成神名。
次に投げ棄つる
御帶に
成りませる神の名は、
投げ棄てる
帶で
あらわれた神は
道之
長乳齒神。
道みちの
長乳齒ながちはの神。
道の
ナガチハの神、
次於投棄
御裳所
成神名。
次に投げ棄つる
御嚢みふくろに
成りませる神の名は、
投げ棄てる
袋で
あらわれた神は
時置師神。 時量師ときはかしの神。 トキハカシの神、
次於投棄
御衣所
成神名。
次に投げ棄つる
御衣けしに
成りませる神の名は、
投げ棄てる
衣ころもで
あらわれた神は
和豆良比能
宇斯能神。
〈此神名以音〉
煩累わづらひの
大人うしの神。
煩累わずらいの
大人うしの神、
次於投棄
御褌所
成神名。
次に投げ棄つる
御褌はかまに
成りませる神の名は、
投げ棄てる
褌はかまで
あらわれた神は
道俣神。 道俣ちまたの神。 チマタの神、
次於投棄
御冠所
成神名。
次に投げ棄つる
御冠みかがふりに
成りませる神の名は、
投げ棄てる
冠で
あらわれた神は
飽咋之
宇斯能神。
〈自宇以下
三字以音〉
飽咋あきぐひの
大人うしの神。
アキグヒの
大人の神、
     
次於投棄 次に投げ棄つる 投げ棄てる
左御手之
手纒所
成神名。
左の御手の
手纏たまきに
成りませる神の名は、
左の手につけた
腕卷で
あらわれた神は
奧疎神。
〈訓奧云於伎。
下效此。
訓疎云奢加留。
下效此〉
奧疎
おきざかるの神。
オキザカルの神と

奧津那藝佐毘古神。
〈自那以下
五字以音
下效此〉
次に
奧津那藝佐毘古
おきつなぎさびこの神。
オキツナギサビコの神と

奧津甲斐辨羅神。
〈自甲以下
四字以音
下效此〉
次に
奧津甲斐辨羅
かひべらの神。
オキツカヒベラの神、
     
次於投棄 次に投げ棄つる 投げ棄てる
右御手之
手纒所
成神名。
右の御手の
手纏に
成りませる神の名は、
右の手につけた
腕卷で
あらわれた神は
邊疎神。 邊疎へざかるの神。 ヘザカルの神と

邊津那藝佐毘古神。
次に
邊津那藝佐毘古
へつなぎさびこの神。
ヘツナギサビコの神と

邊津甲斐辨羅神。
次に
邊津甲斐辨羅
へつかひべらの神。
ヘツカヒベラの神
とであります。
     
右件 右の件くだり、 以上
自船戶神以下。 船戸ふなどの神より下、 フナドの神から
邊津甲斐辨羅神
以前。
邊津甲斐辨羅の神
より前、
ヘツカヒベラの神
まで
十二神者。 十二神
とをまりふたはしらは、
十二神は、
因脫
著身之物所
生神也。
身に著つけたる物を
脱ぎうてたまひしに因りて、
生なりませる神なり。
おからだにつけてあつた物を
投げ棄てられたので
あらわれた神です。
黄泉③ 古事記
上巻 第一部
イザナギとイザナミ
禊祓①
禊祓②