枕草子200段 野分のまたの日こそ

九月つごもり 枕草子
中巻下
200段
野分の
心にくき

(旧)大系:200段
新大系:188段-4、新編全集:189段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後最も索引性に優れる三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:186段
 


 
 野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。立蔀・透垣などの乱れたるに、前栽どもいと心苦しげなり。大きなる木どもも倒れ、枝など吹き折られたるが、萩、女郎花などの上によころばひ伏せる、いと思はずなり。格子の壷などに、木の葉を、ことさらにしたらむやうに、こまごまと吹き入れたるこそ、荒かりつる風のしわざとはおぼえね。
 

 いと濃き衣のうはぐもりたるに、黄朽葉の織物、薄物などの小袿着て、まことしう清げなる人の、夜は風の騒ぎに寝られざりければ、久しう寝起きたるままに、母屋より少しゐざりいでたる、髪は風に吹きまよはされて少しうちふくだみたるが、肩にかかれるほど、まことにめでたし。
 

 ものあはれなるけしきに見いだして、「むべ山風を」など言ひたるも、心あらむと見ゆるに、十七、八ばかりにやあらむ、小さうはあらねど、わざと大人とは見えぬが、生絹の単のいみじうほころび絶え、花もかへり濡れなどしたる、薄色の宿直物を着て、髪、色に、こまごまとうるはしう、末も尾花のやうにて丈ばかりなりければ、衣の裾にはづれて、袴のそばそばより見ゆるに、わらはべ、若き人々の、根ごめに吹き折られたる、ここかしこに取り集め、起こし立てなどするを、うらやましげに押し張りて、簾に添ひたる後手も、をかし。
 
 

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中巻下
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野分の
心にくき