徒然草135段 資季大納言入道:原文

高倉院 徒然草
第四部
135段
資季大納言
医師篤成

 
 資季大納言入道とかや聞こえける人、具氏宰相中将にあひて、「わぬしの問はれんほどのこと、何事なりとも答へざらんや」と言はれければ、
具氏、「いかが侍らん」と申されけるを、
「さらば、あらがひ給へ」と言はれて、
「はかばかしき事は、片端も学び知り侍らねば、尋ね申すまでもなし。何となきそぞろごとの中に、おぼつかなき事をこそ問ひ奉れ」と申されけり。
「まして、ここもとの浅き事は、何事なりとも明らめ申さん」と言はれければ、近習の人々、女房なども、興あるあらがひなり。
「同じくは、御前にて争はるべし。負けたらん人は、供御をまうけらるべし」と定めて、御前にて召し合はせられたりけるに、
具氏、
「幼くより聞き習ひ侍れど、その心知らぬこと侍り。『むまのきつりやう、きつにのをか、なかくぼれいり、くれんとう』と申す事は、いかなる心にか侍らん。承らん」と申されけるに、
大納言入道、はたと詰まりて、
「これはそぞろごとなれば、言ふにも足らず」と言はれけるを、
「本より深き道は知り侍らず。そぞろごとを尋ね奉らんと定め申しつ」と申されければ、
大納言入道、負けになりて、所課いかめしくせられたりけるとぞ。