徒然草21段 よろづのことは:原文

なにがしと 徒然草
第一部
21段
よろづのこと
何事も古き世

 
 よろづのことは、月見ることにこそ慰むものなれ。
ある人の「月ばかりおもしろきものはあらじ」といひしに、またひとり、「露こそあはれなれ」とあらそひしこそをかしけれ。
をりにふれば、何かはあはれならざらむ。
月花はさらなり、風のみこそ人に心はつくめれ。
岩に砕けて清く流るる水のけしきこそ、時をもわかずめでたけれ。
「沅湘日夜東に流れ去る。愁人のためにとどまることしばらくもせず」といへる詩を見侍りしこそあはれなりしか。嵆康も「山沢に遊びて魚鳥を見れば心楽しぶ」といへり。
人遠く水草清き所にさまよひありきたるばかり、心慰むことはあらじ。