伊勢物語 21段:思ふかひなき世 あらすじ・原文・現代語訳

第20段
楓のもみぢ
伊勢物語
第一部
第21段
思ふかひなき世
第22段
千夜を一夜

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文対照
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 

  ♂世の憂い ♂♪出立

  
  ♀いたう泣き ♀♪思ふかひなき世 ♀♪玉葛

  
  ♀♪忘草 ♂♪思いもよらず

  
  ♂♪かなしき ♀♪はかなくも おのが世々
 
 
 

あらすじ

 
 
 昔、男女がいた。とても賢く思いあい、別れようなどと思うこともなかった。
 しかしある時、男が若さのあまり世の中を憂い、軽い思いと思わないでくれと書置きし、女を置いて出て行ってしまった。
 (→梓弓の冒頭参照。「むかし、男かた田舎に住みけり。男宮仕へしにとて、別れ惜しみてゆきにけるまゝに」)
 

 女はこれを見て「思う甲斐もない世だこと」と言って、いたく泣いて歌を詠んだ。
 「人はいさ 思ひやすらむ 玉葛」
  玉葛:実を結ばない花。女の恋。
 

 それでも女は長くこらえ、ある時歌をよこした。「今はもう私を忘れてしまったか」と。
 男はこれをみて、そんな風に思っていたとは知らなかった、忘れたと疑われたことが悲しいと言ったが。
 

 女は、実を結ばないのなら何になると、その身を儚んだ(実=身。つまり身を結べないのならと)。
 そして次第に連絡も遠くなってしまった。
 

 次段に続く。
 

 なお、冒頭で「世を憂い」出て行くのは男であって女ではない。常識としてもそうだし、物語の展開からもそうとしかいえない。
 流れを一切無視し、全て場当たり的で、無秩序・バラバラに見るから、しまいに著者複数人合作説などが出てくる。
 部分だけ見て、文脈の一貫性を無視し、一貫させる努力を安易に放擲する。1000年もあったのに。
 なぜ読めていないと思わないのだろう。意味がわからないことを、すぐ著者のせいにするのはあまりに失礼。古典になっている意味、長幼の序を軽んじすぎ。
 
 

原文対照

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第21段 思ふかひなき世
   
♂♀  むかし、男をんな、  むかし、おとこ女、  昔男女。
  いとかしこく思ひかはして いとかしこくおもひかはして、 いとかしこう思ひかはして。
  こと心なかりけり。 こと心なかりけり。 ことごゝろなかりけるを。
 
  さるを、いかなる事かありけむ、 さるをいかなる事かありけむ、 いかなることか有けむ。
  いさゝかなることにつけて、 いさゝかなることにつけて、 はかなきことにことづけて。
  世の中をうしと思ひて、 世中をうしと思て、 よの中をうしと思ひて。
  出でていなむと思ひて、 いでゝいなむと思て、 いでていなんとて。
  かかる歌をなむよみて、 かゝる哥をなむよみて、 かゝる歌なん
  ものに書きつけける。 ものにかきつけゝる。 物にかきつけゝり。
 

36
 いでていなば
 心かるしと言ひやせむ
 いでゝいなば
 心かるしといひやせむ
 出ていなは
 心かろしといひやせん
  世のありさまを
  人は知らねば
  世のありさまを
  人はしらねば
  世の有樣を
  人はしらすて
 
  とよみおきて、出でていにけり。 とよみをきて、いでゝいにけり。 とよみて。をきて出ていにけり。
 
  この女かく書きおきたるを、 この女かくかきをきたるを、 この男かくかきをきたるをみて。
  けしう、心おくべきことを覚えぬを、 けしう心をくべきこともおばえぬを、 心うかるべきこともおぼえぬを。
  なにによりてかかゝらむと、 なにゝよりてかかゝらむと 何によりてならむ。
  いといたう泣きて、 いといたうなきて、 いといたううちなきて。
  いづ方に求めゆかむと、 いづ方にもとめゆかむと いづ方にもとめゆかんと。
  門にいでて、とみかうみ、見けれど、 かどにいでゝ、と見かう見ゝけれど、 かどに出てとみかうみ見けれど。
  いづこをはかりとも覚えざりければ、 いづこをばかりともおぼえざりければ、 いと[づイ]こをはかともおぼえざりければ。
  かへりいりて、 かへりいりて、 かへり入て。
 

37
 思ふかひ
 なき世なりけり年月を
 おもふかひ
 なき世なりけりとし月を
 思ふかひ
 なき世成けり年月を
  あだに契りて
  我や住まひし
  あだにちぎりて
  われやすまひし
  あたに契て
  我かすまひし
 
  といひてながめをり。 といひてながめをり。  
 

38
 人はいさ
 思ひやすらむ玉かづら
 人はいさ
 おもひやすらむたまかづら
 人はいさ
 なかめやすらん玉かつら
  面影にのみ
  いとゞ見えつゝ
 おもかげにのみ
  いとゞ見えつゝ
  俤にのみ
  いてゝみえつゝ
 
      といひてながめをり。
  この女、いとひさしくありて、 この女いとひさしくありて、 この女いとひさしくありて。
  念じわびてにやありけむ。 ねむじわびてにやありけむ、 ねんじかねてにやあらん。
  いひおこせたる。 いひをこせたる。 かくいひをこしたり。
 

39
 今はとて
 忘るゝ草のたねをだに
 いまはとて
 わするゝくさのたねをだに
 今はとて
 忘るゝ草のたねをたに
  人の心に
  まかせずもがな
  人の心に
  まかせずもがな
  人の心に
  まかせすもかな
 
  返し、 返し 返し。おとこ。
 

40
 忘草
 植ふとだに聞くものならば
 わすれ草
 うふとだにきく物ならば
 忘草
 かるとたにきく物ならは
  思ひけりとは
  知りもしなまし
  おもひけりとは
  しりもしなまし
  思ひけりとは
  しりもしなまし
 
  またまたありしよりけに 又々ありしよりけに また〳〵ありしより けに
  いひかはして、をとこ、 いひかはして、おとこ いひかはして。おとこ。
 

41
 忘るらむ
 と思ふ心のうたがひに
 わする覧
 と思心のうたがひに
 忘るらん
 と思ふ心のうたかひに
  ありしよりけに
  ものぞかなしき
  ありしよりけに
  物ぞかなしき
  有しよりけに
  物そかなしき
 
  返し、 返し、 かへし。
 

42
 中空に
 立ちゐる雲のあともなく 
 なかぞらに
 たちゐるくものあともなく
 中空に
 立ゐる雲のあともなく
  身のはかなくも
  なりにけるかな
  身のはかなくも
  なりにける哉
  身のはかなくも
  成ぬへきかな
 
  とはいひけれど、 とはいひけれど、 とはいひけれど。
  おのが世々になりにければ、 をのが世ゝになりにければ、 をのが世々になりにければ。
  うとくなりにけり。 うとくなりにけり。 うとく成にけり。
   

現代語訳

 
 

むかし、男をんな、
いとかしこく思ひかはして、こと心なかりけり。

 
 
むかし、男をんな、
 むかし、男と女が、
 
(男女で始まるのはこの段のみ(64段・115段は記述がぶれる)。加えて、この段が和歌が一番多い。
 よって伊勢物語で最重要の段。しかしその一般の理解・訳の仕方は極めておかしい。それがこの物語の理解を象徴している。全くあべこべ。)
 

いとかしこく思ひかはして
 とても賢く、想いを思い交わして
(とても賢い方法で。→前段のような、互いの趣向を汲んだやりとりのこと。
 この物語は前後・全体で読まないとよく意味をとれない。その典型が初段の解釈。)
 

かしこし
 ①賢し、②畏し。ここではもちろん①の意味。
 

こと心なかりけり。
 思い合わないことはなかった。

こと:異。心を一にしていたことを裏返した表現。)
 
 

世の憂い

さるを、いかなる事かありけむ、
いさゝかなることにつけて、世の中をうしと思ひて、出でていなむと思ひて、
かかる歌をなむよみて、ものに書きつけける。

 
 
さるを、いかなる事かありけむ、
 それなのに、どのようなことがあったか、

さる(然る):そのような。)
 
 

いさゝかなることにつけて、
 わずかなことに思いつけて

いささか (聊か・些か):少し。わずか。
 少しと言っているのは、昔をふりかえって書いているから。
 本当に少しだったら好きな子を放って行かない。しかし、この子を大事にすること以上に大事なことはなかったかと。
 しかし、そうしていたら伊勢物語はできなかった。)
 
 

世の中をうしと思ひて、
 世の中を、憂いて
 
 

出でていなむと思ひて、
 男としてなすべきことのため、里を出て行こうと思い、
(それが男の宮仕え。それがこの物語として結実)
 
 

かかる歌をなむよみて、
 この(以下の)ような歌を詠んで
 

ものに書きつけける。
 ものに書きつけた。
 
 

出立

いでていなば 心かるしと言ひやせむ
 世のありさまを 人は知らねば

とよみおきて、出でていにけり。

 
 
いでていなば
(わたしは)出て行くが
 

心かるしと言ひやせむ
 心が軽いと言わないで欲しい
 

世のありさまを
 世の有様を
 

人は知らねば
 人は知らなければならないのだから。
(自分も、そして世の人も、世の有様をよく知らない、
 知ることができるようにしなければならない。賢い君なら分かってくれると)
 

とよみおきて、出でていにけり。
 と詠み置きて、出立したのであった。
 
※この歌は極めて簡明。つまり普段は趣向を凝らしていると。
 古語だから難解なのではない。竹取も同様。一字一句に意図を込めている。
 
 

いたう泣き

この女、かく書きおきたるを、
けしう、心おくべきことを覚えぬを、なにによりてかかゝらむと、いといたう泣きて、
いづ方に求めゆかむと、門にいでて、とみかうみ、見けれど、
いづこをはかりとも覚えざりければ、

 
この女かく書きおきたるを、
 この女、このような書き置きをみて、
 
(女の書置きではない。そういう解釈は無理。まかり通っていていようとも無理。ありえない。
 そう見れば、上の歌の内容も、直後の文脈も、次の段冒頭の歌とも、梓弓に至るまでの流れも、物語全体の構図も、全て崩壊する。
 女が「世の有様」を嘆いて家を出て、男が泣いて辺りを見渡す? ありえない。全くみやびではない。
 男は宮仕えで忙しいと何度も書いているのに、なぜそうなるのか。あまりに場当たり的)
 
 

けしう、心おくべきことを覚えぬを、
 (その女には)大して、男が心置いたことも、さしたることとも思われず、
 

けしう 【怪しう・異しう】:
 ①非常に。とても。
 ②〔下に打消・反語を伴って〕たいして。さして。
 
(ここでは、「けしう」が「けさう(化粧)」と暗示し、女の主体性を暗示しているとみるべき。
 「けさうじける女」(3段)で根拠はある。これは「化粧する女」で、男が懸想した女とみるのは本来ではない。男は化粧しない。
 言葉の理解に方向性がないとそうなる。バラバラ断片化してみるから文脈が通らない。主人公も都合でみなしているだけ。)
 

こころおく 【心置く】:
 心を残す。気にかける。
 

なにによりてかかゝらむと、
 どうして、こんなことをになったのかと
 

いといたう泣きて、
 とても痛々しく泣いて
 

いづ方に求めゆかむと、
 どっちの方に行ったのかと
 

門にいでて、とみかうみ、見けれど、
 門に出て、(??) 左右を見渡すけれども
 

とみかうみ 【と見かう見】「左見右見」とも:
 あっち見こっち見。「かうみ」は「かくみ」のウ音便。というのが一般の説明。
 しかしその出典は伊勢のこの部分なので、著者独自の含みもあるかもしれない。
 
 

いづこをはかりとも覚えざりければ、
 どこに訪ねて行ったらいいかもわからなかったので、
 

はかり 【計り・量り】 以下は一般の定義。
 ①目当て。見当。手掛かり。→一般の訳:「どこを目当てと(してよいか)もわからなかったので。」
 ②限度。際限。限り。
 ①は、この伊勢が出典の定義と解説。②は「ばかり」のことだろう。
 
はかる」とは、料理のように(器で)よく調べ・検分してみるという意味。定義に計量とあるように。
 つまり自分の目分(量)・見当は「はかり」ではない。自分ではない他の目線=客観的なはかりが必要。だから他人に尋ねると見る。
 
 

思ふかひなき世

かへりいりて、
 
 思ふかひ なき世なりけり 年月を
  あだに契りて 我や住まひし
 
といひてながめをり。

 
かへりいりて、
 家に帰って
 
 

思ふかひ なき世なりけり
 思う甲斐もない世だこと。
(男への当てつけ)
 
 

年月を あだに契りて
 この先長い年月を、
 無駄に(夫婦として)契って(→梓弓)
 

あだなり 【徒なり】
 :無駄だ。無用だ。
 
 

我や住まひし
 私が住むこの家で(どうせーっての)
 
 

といひてながめをり。(△塗籠本では下の歌の直後に回される)
 といって、ぼんやりと詠んだ。
 

ながめ
 ①【眺め】(物思いにふけりながら)ぼんやりと見ていること。物思い。和歌では「長雨(ながめ)」とかけて用いることが多い。
 ②【詠め】詩歌を吟ずること。
 
 

玉葛

人はいさ 思ひやすらむ 玉かづら
 面影にのみ いとゞ見えつゝ

 
 この歌は、万葉集02/0149に即して歌われる。この女の子の歌はよく万葉を参照する(23,24段)。とても賢い子ということを表している。
 その解釈には、どこが変化しているかを見る。
 

人はいさ 思ひやすらむ 玉葛 面影にのみ いとゞ見えつゝ(伊勢)
人はよし 思ひやむとも 玉葛 影に見えつつ 忘らえぬかも(万葉)

 
 つまり、いとど見えつつ、忘れられない。→何度も思い返される。
 しかしその心(中心)は、実らない(のは変わらない)。
 
 
人はいさ
 行ってしまう人なんて、もう知らない、
 

いさ
 ①感動詞 さあ。ええと。
 ②副詞 〔下に「知らず」などを伴って〕さあ、どうだかわからない。
 →「よし」がわからないになっているのだから、「良いかどうか分からない」。
 

思ひやすらむ(△なかめやすらん)
 もう思うのをやめようかと、思いつつ
 

おもいやす:2つ意味をかけていると思われる。
 ①:思いを休めるの意味、
 ②:思ひ遣すを当て→おもひおこす。
 合わせて、思うのをやめようかなと思い起こす。
 
 

玉かづら
 あの玉葛の歌のように
 

たまかずら【玉葛】
 ①花だけ咲いて実がならないことから、女の実らない恋を象徴。
 ②つる草が長くはえのびるところから「遠長し」「絶えず」「はふ」などにかかる。
  鶴=首が長い=長く待つ。弦→梓弓・24段。
 

面影にのみ
 面影ばかりと思いつつ
 

いとゞ見えつゝ
 ますます見えてくるように(思われる)。
(おもかげにかけ、おもわれを補う。→忘れられない。万葉とあわせて見るように)
 

いとど:ますます、いっそう、そのうえさらに)
 
 

忘草

この女、いとひさしくありて、念じわびてにやありけむ。
いひおこせたる。
 
 今はとて 忘るゝ草の たねをだに
  人の心に まかせずもがな

 
この女、いとひさしくありて、
 この女、とても長い(と思われる=辛い)時間を経て
 

ひさし 【久し】
:長い期間や時間。
 
 

念じわびてにやありけむ。
 心の中でこらえ、気落ちしていた。
 

ねんず 【念ず】
 ①心の中で祈る。心の中で願う。
 ②がまんする。じっとこらえる。)
 

 わび 【侘び】
 :気がめいること。気落ち。
 
 

いひおこせたる。
 こう言ってよこした。
(→時間が立って男と連絡がついた。連絡先を連絡してきた。だって妻だから)
 
(いひおこす 【言ひ遣す】
 言ってよこす。
 
 

今はとて
 今はもう、と言って
 

忘るゝ草の たねをだに
 忘れ草の種を
 

人の心に
 

まかせずもがな
 まかせないのならいいのに
 
(まかせず→任せず+播かせず
 

 もがな
 〔願望〕…があったらなあ。…があればいいなあ。
 
 その心は、「ワタシのこと忘れてないよね?」)
 
 

思いもよらず

返し、

 忘草 植ふとだに 聞くものならば
  思ひけりとは 知りもしなまし

 
  ※この歌も、万葉にかけて歌われている(12/2896 )。

忘草 植ふとだに 聞くものならば 思ひけりとは 知りもしなまし(伊勢)
   うたがたも 言ひつつもあるか 我れならば 地には落ちず 空に消なまし (万葉)

 

 
返し、
(男が)返事を返し
 

忘草
 

植ふとだに 聞くものならば
 植えるようだと聞くなんて、
 

思ひけりとは
 そんな(疑った)ことを思っていたとは
 

知りもしなまし
 知らなんだ。
 
 →知らないといっても忘れ草の話。君のことを忘れるわけない。離れていてもいつも大事に思っている。
 
 

かなしき

またまたありしよりけにいひかはして、をとこ、
 
 忘るらむ と思ふ心の うたがひに
  ありしよりけに ものぞかなしき

 
 
またまたありしよりけに
 またまた(家に)よる機会があった時に、
 

(またまた:またの機会にかけ、さらに後述「よくよく」の布石。

 ありし:昔の。以前の。いつぞやの。

 よりけ:寄りけりと、因りという原因を合わせる
 

いひかはして、をとこ、
 よくよく言い交わして、男(が言うには)
 
 

忘るらむ
 忘れるだろう
 

と思ふ心のうたがひに
 と思う心の疑いのために
 

ありしよりけに
 よったのだが、
 

ものぞかなしき
 何とも悲しいこと。
(再会は楽しいことのはず。忘れるなんてありえない)
 
 

はかなくも

返し、
 中空に 立ちゐる雲の あともなく 
  身のはかなくも なりにけるかな

 
 
返し、
 女が返し、
 

中空に
 空の中に、
(泣くそらに。→嘆く空(万葉で用いられる語))
 

立ちゐる雲のあともなく
 立ち去る雲の跡もなく
(その心は、空っぽで)
 

身のはかなくも
 この身が儚く
(儚く散って)
 

はかなし 【果無し・果敢無し】
 ①頼りない。むなしい。あっけない。幼い。たわいない。
 ②ちょっとしたこと。何ということもない。粗末。取るに足りない。
→実を結ばない玉葛とかかる。
 

なりにけるかな
 何になるのか(→梓弓)
 
 

おのが世々

とはいひけれど、おのが世々になりにければ、うとくなりにけり。

 
とはいひけれど、
 と言ったが、
 

おのが世々になりにければ、
 それぞれの生活をしていくうちに
 

うとくなりにけり。
 疎遠になってしまった。
 
 

 これを互いに恋人ができたなどとするのは、実に安易で、誤った解釈の態度。
 次段の冒頭、「むかし、はかなくて絶えにけるなか、 なほや忘れざりけむ、女のもとより、」とあること、
 この段から一つの流れで続いている、梓弓の内容を完全に無視している。
 

 直接文面にない事情は、相当な根拠(明確なかかり等)なく補ってはいけない。それは解釈ではなく単なる想像。
 文章の意味を、語義に即し、時々の状況に応じ、よく通るよう説明しなおすのが解釈。あくまで既にある言葉の枠内・枠周辺の話。
 別個独立の事情を独自に付け足してはいけない。違う文章になってしまう。それを混同するのは、解釈という言葉の解釈を誤っている。つまり誤解。
 それが「はかり」という言葉の定義の仕方にもあらわされる。言葉を正確にはからないから、目当てとかいう見当違いの意味を、簡単に都合であてる。