古今和歌集 巻十五 恋五:歌の配置・コメント付

巻十四
恋四
古今和歌集
巻十五
恋歌五
巻十六
哀傷
目次
  747
業×
748
仲平
749
兼輔
750
躬恒
751
元方
752
不知
753
友則
754
不知
755
不知
756
伊勢
757
不知
758
不知
759
不知
760
不知
761
不知
762
不知
763
不知
764
不知
765
不知
766
不知
767
不知
768
兼芸
769
貞登
770
遍昭
771
遍昭
772
不知
773
不知
774
不知
775
不知
776
不知
777
不知
778
不知
779
兼覧
780
伊勢
781
雲林
782
小町
783
貞樹
784
有常女×
785
業×
786
景式
787
友則
788
宗于
789
兵衛
790
小町姉?
791
伊勢
792
友則
793
不知
794
躬恒
795
不知
796
不知
797
小町
798
不知
799
素性
800
不知
801
宗于
802
素性
803
素性
804
貫之
805
不知
806
不知
807
直子
808
稲葉?
809
忠臣
810
伊勢
811
不知
812
不知
813
不知
814
興風
815
不知
816
不知
817
不知
818
不知
819
不知
820
不知
821
不知
822
小町
823
貞文
824
不知
825
不知
826
是則
827
友則
828
不知
 
 

※不知が50%(41/82)。恋一の次に歌が多く全体では二番目に歌が多い巻。
 伊勢と小町が丁度半々。
 790「こまちがあね」を「こまちの姉さん」とみれば。だからそう見る。
 これはあねさん・ねえさんという親しみを込めた敬称。小町の姉(別人)ではない。
 伊勢と小町の均衡を崩し、何ら認知されていない小町の姉を登場させることはない。
 そして古今は目上は呼び捨てにしない。「こまちがあね」は一部で「小町」とされていることへの貫之のフォロー。だから一部が呼び捨てにされていても、後世が呼び捨てにすることとわけが違う。しかしその人々以上に古を知っているのならそれでもいい。

 
 

巻十五:恋五

   
   0747
詞書 五条のきさいの宮の にしのたいにすみける人に ほいにはあらてものいひわたりけるを、
む月のとをかあまりに なむほかへかくれにける、あり所はききけれとえ物もいはて、
又のとしのはるむめの花さかりに 月のおもしろかりける夜、
こそをこひてかのにしのたいにいきて月のかたふくまて
あはらなるいたしきにふせりてよめる
作者 在原業平朝臣(※問題あり)
原文 月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ
 わか身ひとつは もとの身にして
かな つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ
 わかみひとつは もとのみにして
コメ

出典:伊勢4段(西の対)。
「むかし、ひんがしの五条に、
大后の宮おはしましける、
西の対に住む人ありけり。…(略)…
正月の十日ばかりのほどに、
ほかにかくれにけり。…(略)…
またの年の睦月に梅の花ざかりに、
去年を恋ひていきて、
立ちて見、ゐて見、見れど、
去年に似るべくもあらず。
うち泣て、あばらなる板敷に、
月のかたぶくまでふせてりて、
去年を思ひいでてよめる。
『月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ
 わが身は一つ もとの身にして』」

   
  0748
詞書 題しらす
作者 藤原なかひらの朝臣(藤原仲平)
原文 花すすき 我こそしたに 思ひしか
 ほにいてて人に むすはれにけり
かな はなすすき われこそしたに おもひしか
 ほにいててひとに むすはれにけり
   
  0749
詞書 題しらす
作者 藤原かねすけの朝臣(藤原兼輔)
原文 よそにのみ きかましものを おとは河
 渡るとなしに 見なれそめけむ
かな よそにのみ きかましものを おとはかは
 わたるとなしに みなれそめけむ
   
  0750
詞書 題しらす
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 わかことく 我をおもはむ 人もかな
 さてもやうきと 世を心みむ
かな わかことく われをおもはむ ひともかな
 さてもやうきと よをこころみむ
   
  0751
詞書 題しらす
作者 もとかた(在原元方)
原文 久方の あまつそらにも すまなくに
 人はよそにそ 思ふへらなる
かな ひさかたの あまつそらにも すまなくに
 ひとはよそにそ おもふへらなる
   
  0752
詞書 題しらす
作者 よみひとしらす
原文 見ても又 またも見まくの ほしけれは
 なるるを人は いとふへらなり
かな みてもまた またもみまくの ほしけれは
 なるるをひとは いとふへらなり
   
  0753
詞書 題しらす
作者 きのとものり(紀友則)
原文 雲もなく なきたるあさの 我なれや
 いとはれてのみ 世をはへぬらむ
かな くももなく なきたるあさの われなれや
 いとはれてのみ よをはへぬらむ
   
  0754
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 花かたみ めならふ人の あまたあれは
 わすられぬらむ かすならぬ身は
かな はなかたみ めならふひとの あまたあれは
 わすられぬらむ かすならぬみは
   
  0755
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 うきめのみ おひて流るる 浦なれは
 かりにのみこそ あまはよるらめ
かな うきめのみ おひてなかるる うらなれは
 かりにのみこそ あまはよるらめ
   
  0756
詞書 題しらす
作者 伊勢(伊勢の御)
原文 あひにあひて 物思ふころの わか袖に
 やとる月さへ ぬるるかほなる
かな あひにあひて ものおもふころの わかそてに
 やとるつきさへ ぬるるかほなる
   
  0757
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 秋ならて おく白露は ねさめする
 わかた枕の しつくなりけり
かな あきならて おくしらつゆは ねさめする
 わかたまくらの しつくなりけり
   
  0758
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 すまのあまの しほやき衣 をさをあらみ
 まとほにあれや 君かきまさぬ
かな すまのあまの しほやきころも をさをあらみ
 まとほにあれや きみかきまさぬ
   
  0759
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 山しろの よとのわかこも かりにたに
 こぬ人たのむ 我そはかなき
かな やましろの よとのわかこも かりにたに
 こぬひとたのむ われそはかなき
   
  0760
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あひ見ねは こひこそまされ みなせ河
 なににふかめて 思ひそめけむ
かな あひみねは こひこそまされ みなせかは
 なににふかめて おもひそめけむ
   
  0761
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 暁の しきのはねかき ももはかき
 君かこぬ夜は 我そかすかく
かな あかつきの しきのはねかき ももはかき
 きみかこぬよは われそかすかく
   
  0762
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 玉かつら 今はたゆとや 吹く風の
 おとにも人の きこえさるらむ
かな たまかつら いまはたゆとや ふくかせの
 おとにもひとの きこえさるらむ
   
  0763
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わか袖に またき時雨の ふりぬるは
 君か心に 秋やきぬらむ
かな わかそてに またきしくれの ふりぬるは
 きみかこころに あきやきぬらむ
   
  0764
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 山の井の 浅き心も おもはぬに
 影はかりのみ 人の見ゆらむ
かな やまのゐの あさきこころも おもはぬに
 かけはかりのみ ひとのみゆらむ
   
  0765
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 忘草 たねとらましを 逢ふ事の
 いとかくかたき 物としりせは
かな わすれくさ たねとらましを あふことの
 いとかくかたき ものとしりせは
   
  0766
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こふれとも 逢ふ夜のなきは 忘草
 夢ちにさへや おひしけるらむ
かな こふれとも あふよのなきは わすれくさ
 ゆめちにさへや おひしけるらむ
   
  0767
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 夢にたに あふ事かたく なりゆくは
 我やいをねぬ 人やわするる
かな ゆめにたに あふことかたく なりゆくは
 われやいをねぬ ひとやわするる
   
  0768
詞書 題しらす
作者 けむけい法し(兼芸法師)
原文 もろこしも 夢に見しかは ちかかりき
 おもはぬ中そ はるけかりける
かな もろこしも ゆめにみしかは ちかかりき
 おもはぬなかそ はるけかりける
   
  0769
詞書 題しらす
作者 さたののほる(貞登、仁明の皇子)
原文 独のみ なかめふるやの つまなれは
 人を忍ふの 草そおひける
かな ひとりのみ なかめふるやの つまなれは
 ひとをしのふの くさそおひける
   
  0770
詞書 題しらす
作者 僧正へんせう(遍昭、良岑宗貞)
原文 わかやとは 道もなきまて あれにけり
 つれなき人を まつとせしまに
かな わかやとは みちもなきまて あれにけり
 つれなきひとを まつとせしまに
   
  0771
詞書 題しらす
作者 僧正へんせう(遍昭、良岑宗貞)
原文 今こむと いひてわかれし 朝より
 思ひくらしの ねをのみそなく
かな いまこむと いひてわかれし あしたより
 おもひくらしの ねをのみそなく
   
  0772
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こめやとは 思ふものから ひくらしの
 なくゆふくれは たちまたれつつ
かな こめやとは おもふものから ひくらしの
 なくゆふくれは たちまたれつつ
   
  0773
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 今しはと わひにしものを ささかにの
 衣にかかり 我をたのむる
かな いましはと わひにしものを ささかにの
 ころもにかかり われをたのむる
   
  0774
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 いまはこしと 思ふものから 忘れつつ
 またるる事の またもやまぬか
かな いまはこしと おもふものから わすれつつ
 またるることの またもやまぬか
   
  0775
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 月よには こぬ人またる かきくもり
 雨もふらなむ わひつつもねむ
かな つきよには こぬひとまたる かきくもり
 あめもふらなむ わひつつもねむ
   
  0776
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 うゑていにし 秋田かるまて 見えこねは
 けさはつかりの ねにそなきぬる
かな うゑていにし あきたかるまて みえこねは
 けさはつかりの ねにそなきぬる
   
  0777
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こぬ人を まつゆふくれの 秋風は
 いかにふけはか わひしかるらむ
かな こぬひとを まつゆふくれの あきかせは
 いかにふけはか わひしかるらむ
   
  0778
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ひさしくも なりにけるかな すみのえの
 松はくるしき 物にそありける
かな ひさしくも なりにけるかな すみのえの
 まつはくるしき ものにそありける
   
  0779
詞書 題しらす
作者 かねみのおほきみ(兼覧王)
原文 住の江の 松ほとひさに なりぬれは
 あしたつのねに なかぬ日はなし
かな すみのえの まつほとひさに なりぬれは
 あしたつのねに なかぬひはなし
   
  0780
詞書 仲平朝臣あひしりて侍りけるを
かれ方になりにけれは、
ちちかやまとのかみに侍りけるもとへ
まかるとてよみてつかはしける
作者 伊勢(伊勢の御)
原文 みわの山 いかにまち見む 年ふとも
 たつぬる人も あらしと思へは
かな みわのやま いかにまちみむ としふとも
 たつぬるひとも あらしとおもへは
   
  0781
詞書 題しらす
作者 雲林院のみこ(常康親王、仁明の皇子)
原文 吹きまよふ 野風をさむみ 秋はきの
 うつりも行くか 人の心の
かな ふきまよふ のかせをさむみ あきはきの
 うつりもゆくか ひとのこころの
   
  0782
詞書 題しらす
作者 をののこまち(小野小町)
原文 今はとて わか身時雨に ふりぬれは
 事のはさへに うつろひにけり
かな いまはとて わかみしくれに ふりぬれは
 ことのはさへに うつろひにけり
   
  0783
詞書 返し
作者 小野さたき(小野貞樹)
原文 人を思ふ 心のこのはに あらはこそ
 風のまにまに ちりみたれめ
かな ひとをおもふ こころのこのはに あらはこそ
 かせのまにまに ちりもみたれめ
   
  0784
詞書 業平朝臣(※問題あり)、
きのありつねかむすめにすみけるを、
うらむることありて
しはしのあひたひるはきて
ゆふさりはかへりのみしけれは
よみてつかはしける
作者 きのありつねかむすめ(有常女※問題あり)
原文 あま雲の よそにも人の なりゆくか
 さすかにめには 見ゆるものから
かな あまくもの よそにもひとの なりゆくか
 さすかにめには みゆるものから
コメ 出典:伊勢19段(天雲のよそ)。
「むかし、男、宮仕へしける女の方に、
御達なりける人をあひ知りたりける。
ほどもなくかれにけり。
おなじ所なれば、女の目には見ゆるものから、男はあるものかと思ひたらず。
女、『天雲の よそにも人の なりゆくか
 さすがに目には 見ゆるものから』」
   
  0785
詞書 返し
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 ゆきかへり そらにのみして ふる事は
 わかゐる山の 風はやみなり
かな ゆきかへり そらにのみして ふることは
 わかゐるやまの かせはやみなり
コメ 出典:伊勢19段(天雲のよそ)。
「とよめりければ、男、返し、
『天雲の よそにのみして 経ることは
 わが居る山の 風はやみなり』
とよめりけるは、
また男ある人となむいひける。」
   
  0786
詞書 題しらす
作者 かけのりのおほきみ(景式王)
原文 唐衣 なれは身にこそ まつはれめ
 かけてのみやは こひむと思ひし
かな からころも なれはみにこそ まつはれめ
 かけてのみやは こひむとおもひし
   
  0787
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 秋風は 身をわけてしも ふかなくに
 人の心の そらになるらむ
かな あきかせは みをわけてしも ふかなくに
 ひとのこころの そらになるらむ
   
  0788
詞書 題しらす
作者 源宗于朝臣
原文 つれもなく なりゆく人の 事のはそ
 秋よりさきの もみちなりける
かな つれもなく なりゆくひとの ことのはそ
 あきよりさきの もみちなりける
   
  0789
詞書 心地そこなへりけるころ、
あひしりて侍りける人のとはて
ここちおこたりてのちとふらへりけれは、
よみてつかはしける
作者 兵衛
原文 しての山 ふもとを見てそ かへりにし
 つらき人より まつこえしとて
かな してのやま ふもとをみてそ かへりにし
 つらきひとより まつこえしとて
   
  0790
詞書 あひしれりける人の
やうやくかれかたになりけるあひたに、
やけたるちのはに
ふみをさしてつかはせりける
作者 こまちかあね(※小野小町)
原文 時すきて かれゆくをのの あさちには
 今は思ひそ たえすもえける
かな ときすきて かれゆくをのの あさちには
 いまはおもひそ たえすもえける
コメ →「こまちがあね」は小町の姉ではなく、
小町姉さん(あねさん)と見るのが自然。
「つらゆき」「とものり」のようなノリの、親しみを込めた敬称。
「姉さん」といっても別人とは限らない。
   
  0791
詞書 物おもひけるころ、ものへまかりけるみちに
野火のもえけるを見てよめる
作者 伊勢(伊勢の御)
原文 冬かれの のへとわか身を 思ひせは
 もえても春を またましものを
かな ふゆかれの のへとわかみを おもひせは
 もえてもはるを またましものを
   
  0792
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 水のあわの きえてうき身と いひなから
 流れて猶も たのまるるかな
かな みつのあわの きえてうきみと いひなから
 なかれてなほも たのまるるかな
   
  0793
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 みなせ河 有りて行く水 なくはこそ
 つひにわか身を たえぬと思はめ
かな みなせかは ありてゆくみつ なくはこそ
 つひにわかみを たえぬとおもはめ
   
  0794
詞書 題しらす
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 吉野河 よしや人こそ つらからめ
 はやくいひてし 事はわすれし
かな よしのかは よしやひとこそ つらからめ
 はやくいひてし ことはわすれし
   
  0795
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 世中の 人の心は 花そめの
 うつろひやすき 色にそありける
かな よのなかの ひとのこころは はなそめの
 うつろひやすき いろにそありける
   
  0796
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 心こそ うたてにくけれ そめさらは
うつろふ事も をしからましや
かな こころこそ うたてにくけれ そめさらは
 うつろふことも をしからましや
   
  0797
詞書 題しらす
作者 小野小町
原文 色見えて うつろふ物は 世中の
 人の心の 花にそ有りける
かな いろみえて うつろふものは よのなかの
 ひとのこころの はなにそありける
   
  0798
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 我のみや 世をうくひすと なきわひむ
 人の心の 花とちりなは
かな われのみや よをうくひすと なきわひむ
 ひとのこころの はなとちりなは
   
  0799
詞書 題しらす
作者 そせい法し(素性法師)
原文 思ふとも かれなむ人を いかかせむ
 あかすちりぬる 花とこそ見め
かな おもふとも かれなむひとを いかかせむ
 あかすちりぬる はなとこそみめ
   
  0800
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 今はとて 君かかれなは わかやとの
 花をはひとり 見てやしのはむ
かな いまはとて きみかかれなは わかやとの
 はなをはひとり みてやしのはむ
   
  0801
詞書 題しらす
作者 むねゆきの朝臣(源宗于)
原文 忘草 かれもやすると つれもなき
 人の心に しもはおかなむ
かな わすれくさ かれもやすると つれもなき
 ひとのこころに しもはおかなむ
   
  0802
詞書 寛平御時、御屏風に歌かかせ給ひける時、
よみてかきける
作者 そせい法し(素性法師)
原文 忘草 なにをかたねと 思ひしは
 つれなき人の 心なりけり
かな わすれくさ なにをかたねと おもひしは
 つれなきひとの こころなりけり
   
  0803
詞書 題しらす
作者 そせい法し(素性法師)
原文 秋の田の いねてふ事も かけなくに
 何をうしとか 人のかるらむ
かな あきのたの いねてふことも かけなくに
 なにをうしとか ひとのかるらむ
   
  0804
詞書 題しらす
作者 きのつらゆき(紀貫之)
原文 はつかりの なきこそわたれ 世中の
 人の心の 秋しうけれは
かな はつかりの なきこそわたれ よのなかの
 ひとのこころの あきしうけれは
   
  0805
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あはれとも うしとも物を 思ふ時
 なとか涙の いとなかるらむ
かな あはれとも うしともものを おもふとき
 なにかなみたの いとなかるらむ
   
  0806
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 身をうしと 思ふにきえぬ 物なれは
 かくてもへぬる よにこそ有りけれ
かな みをうしと おもふにきえぬ ものなれは
 かくてもへぬる よにこそありけれ
   
  0807
詞書 題しらす
作者 典侍藤原直子朝臣
原文 あまのかる もにすむむしの 我からと
 ねをこそなかめ 世をはうらみし
かな あまのかる もにすむむしの われからと
 ねをこそなかめ よをはうらみし
コメ 出典:伊勢65段(在原なりける男)。
「(人目もはばからずおしかけ、恋の祈祷などしている在原なりける男の振る舞いを陳情し)女はいたう泣きけり。
「かゝる君に仕うまつらで、宿世つたなく悲しきこと、この(※在原なりける)男にほだされて」とてなむ泣きにける。
かゝるほどに帝聞しめして、この男をば流しつかはしてければ、
この女のいとこの御息所、女をばまかでさせて、蔵に籠めてしをり給うければ、蔵に籠りて泣く。
『あまの刈る 藻にすむ虫の  我からと
 音をこそなかめ 世をばうらみじ』と泣きれば、
この男、人の国より夜ごとに来つゝ、」
   
  0808
詞書 題しらす
作者 いなは(『古今和歌集目録』では稲葉)
原文 あひ見ぬも うきもわか身の から衣
 思ひしらすも とくるひもかな
かな あひみぬも うきもわかみの からころも
 おもひしらすも とくるひもかな
   
  0809
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 すかののたたおむ(菅野忠臣?)
原文 つれなきを 今はこひしと おもへとも
 心よわくも おつる涙か
かな つれなきを いまはこひしと おもへとも
 こころよわくも おつるなみたか
   
  0810
詞書 題しらす
作者 伊勢(伊勢の御)
原文 人しれす たえなましかは わひつつも
 なき名そとたに いはましものを
かな ひとしれす たえなましかは わひつつも
 なきなそとたに いはましものを
   
  0811
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 それをたに 思ふ事とて わかやとを
 見きとないひそ 人のきかくに
かな それをたに おもふこととて わかやとを
 みきとないひそ ひとのきかくに
   
  0812
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 逢ふ事の もはらたえぬる 時にこそ
 人のこひしき こともしりけれ
かな あふことの もはらたえぬる ときにこそ
 ひとのこひしき こともしりけれ
   
  0813
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わひはつる 時さへ物の 悲しきは
 いつこをしのふ 涙なるらむ
かな わひはつる ときさへものの かなしきは
 いつこをしのふ なみたなるらむ
   
  0814
詞書 題しらす
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 怨みても なきてもいはむ 方そなき
 かかみに見ゆる 影ならすして
かな うらみても なきてもいはむ かたそなき
 かかみにみゆる かけならすして
   
  0815
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 夕されは 人なきとこを 打ちはらひ
 なけかむためと なれるわかみか
かな ゆふされは ひとなきとこを うちはらひ
 なけかむためと なれるわかみか
   
  0816
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わたつみの わか身こす浪 立返り
 あまのすむてふ うらみつるかな
かな わたつみの わかみこすなみ たちかへり
 あまのすむてふ うらみつるかな
   
  0817
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あらを田を あらすきかへし かへしても
 人の心を 見てこそやまめ
かな あらをたを あらすきかへし かへしても
 ひとのこころを みてこそやまめ
   
  0818
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 有そ海の 浜のまさこと たのめしは
 忘るる事の かすにそ有りける
かな ありそうみの はまのまさこと たのめしは
 わするることの かすにそありける
   
  0819
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 葦辺より 雲ゐをさして 行く雁の
 いやとほさかる わか身かなしも
かな あしへより くもゐをさして ゆくかりの
 いやとほさかる わかみかなしも
   
  0820
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 しくれつつ もみつるよりも 事のはの
 心の秋に あふそわひしき
かな しくれつつ もみつるよりも ことのはの
 こころのあきに あふそわひしき
   
  0821
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 秋風の ふきとふきぬる むさしのは
 なへて草はの 色かはりけり
かな あきかせの ふきとふきぬる むさしのは
 なへてくさはの いろかはりけり
   
  0822
詞書 題しらす
作者 小町(小野小町)
原文 あきかせに あふたのみこそ かなしけれ
 わか身むなしく なりぬと思へは
かな あきかせに あふたのみこそ かなしけれ
 わかみむなしく なりぬとおもへは
   
  0823
詞書 題しらす
作者 平貞文
原文 秋風の 吹きうらかへす くすのはの
 うらみても猶 うらめしきかな
かな あきかせの ふきうらかへす くすのはの
 うらみてもなほ うらめしきかな
   
  0824
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あきといへは よそにそききし あた人の
 我をふるせる 名にこそ有りけれ
かな あきといへは よそにそききし あたひとの
 われをふるせる なにこそありけれ
   
  0825
詞書 題しらす/又は、
こなたかなたに人もかよはす
作者 よみ人しらす
原文 わすらるる 身をうちはしの 中たえて
 人もかよはぬ 年そへにける
かな わすらるる みをうちはしの なかたえて
 ひともかよはぬ としそへにける
   
  0826
詞書 題しらす
作者 坂上これのり(坂上是則)
原文 あふ事を なからのはしの なからへて
 こひ渡るまに 年そへにける
かな あふことを なからのはしの なからへて
 こひわたるまに としそへにける
   
  0827
詞書 題しらす
作者 とものり(紀友則)
原文 うきなから けぬるあわとも なりななむ
 流れてとたに たのまれぬ身は
かな うきなから けぬるあわとも なりななむ
 なかれてとたに たのまれぬみは
   
  0828
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 流れては 妹背の山の なかにおつる
 よしのの河の よしや世中
かな なかれては いもせのやまの なかにおつる
 よしののかはの よしやよのなか