紫式部集76 女郎花:原文対訳・逐語分析

75ただならじ 紫式部集
第七部
栄花と追憶

76女郎花
異本69
77白露は
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜当サイトで改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜当サイトで補注〉
朝霧のをかしきほどに、  朝霧が美しい時分に、 【をかしきほどに】-実践本「おかし」は定家の仮名遣い。
御前の花ども 前栽の花どもが  
色々に乱れたる中に、 色とりどりに咲き乱れている中に、  
女郎花いと盛りなるを、 女郎花がたいそう花盛りであるのを、  
殿御覧じて、 殿が御覧になって、 【殿】-藤原道長。
一枝折らせさせたまひて、 一枝折らせなさって、 【折らせ】-「おる」は定家の仮名遣い。
几帳の上より、 几帳の上から、  
「これただに返すな」とて、 「これをむだには返すな」とおっしゃって、  
賜はせたり。 お与えなさった。  
     
女郎花 女郎花の  
盛りの色を 花盛りの色を  
見るからに 見ると同時に 【見るからに】-接続助詞「からに」、--と共に、--するや否や。
露の分きける

〈取り分け泣きたい(相手がいない)〉

×露が分け隔てしているように

【露】-道長の恩恵を暗喩する

〈とするのが支配的通説だが、日記で続く息子同様幼稚な行為を暗に批判した文脈を全力で針小棒大に美化した解釈で誤り。露を恩恵に例えるとは噴飯ものの解釈で、露ほどの恩恵ということか?と世が世なら打ち首レベル。

 この露は自分の忍ばせた涙(白露)でこれが王道。論語・古事記・竹取以来の詩歌の性質を知らないのは、権力へのおもねりと盲従・知的怠慢を助長し世に不幸〉

身こそ知らるれ わが身の上が思われます  
     

参考異本=本人日記歌+後世の二次資料

*「をみなへしさかりの色をみるからにつゆのわきける身こそしらるれ」(黒川本「紫日記」一)
*「法成寺入道前摂政太政大臣、女郎花ををりて、歌よむべきよし侍りければ  紫式部
をみなへしさかりの色をみるからに露のわきける身こそしらるれ」(寿本「新古今集」雑上 一五六七)