古事記 宮人振の歌~原文対訳

軽太子と穴穗御子 古事記
下巻④
19代 允恭天皇
軽太子兄妹物語
宮人振 by大前小前宿禰
天田振の歌
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

加那斗加宜の歌

     
於是穴穂御子。
興軍

大前小前
宿禰之家。
穴穗の御子みこ
軍を興して、
大前小前の
宿禰の家を
圍かくみたまひき。
ここにアナホの御子が
軍を起して
大前小前の
宿禰の家を
圍みました。
     
爾到其
門時。
ここにその
門かなとに到りましし時に
そしてその
門に到りました時に
零大氷雨。 大氷雨ひさめ降りき。 大雨が降りました。
故歌曰。 かれ歌よみしたまひしく、 そこで歌われました歌、
     
意富麻幣 大前 大前
袁麻幣須久泥賀 小前宿禰が 小前宿禰の
加那斗加宜 かな門陰とかげ  家の門のかげに
加久余理許泥 かく寄より來こね。 お立ち寄りなさい。
阿米多知夜米牟 雨立ち止やめむ。 雨をやませて行きましよう。
     

宮人振

     
爾其
大前小前宿禰。
 ここにその
大前小前の宿禰、
 ここにその
大前小前の宿禰が、
擧手打膝。 手を擧げ、
膝を打ち、
手を擧げ膝を打つて
儛訶那傳
〈自訶下
三字以音〉
舞ひかなで、 舞い奏かなで、
歌參來。 歌ひまゐ來く。 歌つて參ります。
     
其歌曰。 その歌、 その歌は、
     
美夜比登能 宮人の 宮人の
阿由比能古須受 足結あゆひの小鈴こすず。 足に附けた小鈴が
淤知爾岐登 落ちにきと  落ちてしまつたと
美夜比登登余牟 宮人とよむ。 騷いでおります。
佐斗毘登母由米 里人もゆめ。 里人さとびとも
そんなに騷がないでください。
     
此歌者。  この歌は  この歌は
宮人振也。 宮人曲みやひとぶりなり。 宮人曲みやびとぶりです。

 

軽太子と穴穗御子 古事記
下巻④
19代 允恭天皇
軽太子兄妹物語
宮人振 by大前小前宿禰
天田振の歌