紫式部集 第七部:栄花と追憶

詳解
定家本
和歌 人物
68
異61
見ても 憂きわが涙 落ち添ひて
 かごとがましき 滝の音かな
紫式部or小少将の局
69
異ナシ
一人居て ぐみける 水の面に
 浮き添はるらむ やいづれぞ
小少将の局or紫式部
70
異日4
なべて世の 憂きに泣かるる 菖蒲
 今日までかかる はいかが見る
紫式部:日記ナシ
71
異日5
何ごとと 菖蒲は分かで 今日もなほ
 袂にあまる こそ絶えせね
小少将の局:日記ナシ
72
異67
天のの の通ひ路 鎖さねども
 いかなる方に 叩く水鶏ぞ
小少将の君
73
異68
槙のも 鎖さでやすらふ 影に
 何を開かずと 叩く水鶏ぞ
紫式部
74
異日15
夜もすがら 水鶏よりけに 泣く泣くぞ
 槙の口に 叩き侘びつる
夜更けて戸を叩きし人:日記17
75
異日16
ただならじ ばかり叩く 水鶏ゆゑ
 開けてはいかに 悔しからまし
紫式部:日記18
76
異69
女郎花 盛りのを 見るからに
 分きける 身こそ知らるれ
紫式部:日記1
77
異70
は 分きても置かじ 女郎花
 心からにや の染むらむ
道長:日記2
78
異62
忘るるは 憂き世の常と 思ふにも
 身をやる方の なきぞ侘びぬる
紫式部
空白 (四行
 空白)
79
異63
誰が里も 訪ひもや来ると ほととぎす
 心のかぎり 待ちぞ侘びにし
80
異71
ましもなほ 遠方人の 声交はせ
 われしわぶる たごの呼坂
紫式部
81
異72
名に高き の白山 雪なれて
 伊吹の岳を 何とこそ見ね
紫式部
82
異73
あてに あなかたじけな 苔むせる
 仏の御顔 そとは見えねど
紫式部
83
異74
け近くて 誰れもは 見えにけむ
 言葉隔てぬ 契りともがな
84
異75
隔てじと ならひしほどに 夏衣
 薄き心を まづ知られぬる
紫式部
85
異76
峯寒み 岩間凍れる 谷水の
 行く末しもぞ 深くなるらむ
86
異77
めづらしき 光さしそふ 盃は
 もちながらこそ 世をめぐらめ
紫式部
87
異78
曇りなく 千歳に澄める 水の面に
 宿れる月の 影ものどけし
紫式部
88
異79
いかにいかが 数へやるべき 八千歳
 あまり久しき 君が御世をば
紫式部
89
異80
葦田鶴の 齢しあらば 君が代の
 千歳の数も 数へとりてむ
道長