万葉集 第九巻:一覧と配置

第八巻 万葉集
第九巻
第十巻

 
 万葉集第九巻、その一覧と配置(歌の内容はリンク先を参照)。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

 9巻は、人麻呂歌集が自然を詠んだものを主体とする。
 先頭が1巻と同じ雄略、冒頭に701年の随行歌の無名が連続、続けて人麻呂歌集。つまり帝へ随行し歌を詠んだのが人麻呂の役割。常設か特別な任かは不明。
 

 ここの中核に、槐本(柿★)、山上(憶良)、春日(蔵首老)、高市(黒人)、春日、元仁(柿◆)という呼び捨ての配置が連続しており、山柿の門を表していると思われる。つまり山は憶良と赤人であり、1巻の配置と同様に人麻呂直下の黒人が赤人であり、元仁(もとひと)は人麻呂の一つの別名(赤人のもと)。これらの連続は要所でしばしばある。

 人麻呂と黒人が直近だからといって、必ずしも同時期の人物というわけではない。後の世代が時代順に編集したと決めて見ないように。万葉はどう見ても本質的に人麻呂集である(家持はそれに乗じて乱しまくった。17巻以降の冗長な日記調の題詞が、人麻呂が支配的な冒頭4巻と全く相容れない。かつ自分はその末尾に入り込みつつ、17巻以降では完全に人麻呂を排除している)。

 残る正体不明は春日蔵首老だが、これも人麻呂ではないだろうか。弁基という別名がクサい。そもそも別名ある時点でクサい。万葉の最初がいきなり雑草魂のクサグサの歌から始まるのもクサい。これは稗田のアレ同様、自分での卑下である。だからスサノオがくさいのをまいたり、その報いでオオケツ姫の尻(ケツ)から出されたものを食らわされたりするのである。でなければそんな神話があるかと。
 ちなみに、古今1054の「くそ」という作者もこれを受けていると思う。久曽とかいう女性ではないだろう。だったら久曽にする。どんだけの名前なのかと。こういうのは作法として自称だろう。
 

 なお、山柿(サンシ)の門を、百人一首では3・4の配置(人麻呂・赤人)に当てて特別扱いしている。
 しかし憶良は破門。なぜなら人麻呂を立てないから(5巻)。だから、ここで人麻呂を立てているのは赤人である。冒頭の後人もまず赤人。
 

第九巻 目次と配置(1664~1811:148首)
雑歌(102)・相聞(29)・挽歌(17)
雑歌(102首)
      1664
泊瀬幼武◇
1665
崗本宮御宇◇
1666
崗本宮御宇◇
1667

 
1668

 
1669

  
1670

 
1671

 
1672

 
1673
長意吉麻呂
1674

 
1675

 
1676

 
1677

 
1678

 
1679
坂上人長
1680
後人
 
1681
後人
 
1682
忍壁皇子
柿◆
1683
舎人皇子
柿◆
1684
舎人皇子
柿◆
1685
間人宿祢
柿◆
1686
間人宿祢
柿◆
1687
鷺坂
柿◆
1688
名木河
柿◆
1689
名木河
柿◆
1690
高島
柿◆
1691
高島
柿◆
1692
紀伊國
柿◆
1693
紀伊國
柿◆
1694
鷺坂
柿◆
1695
泉河
柿◆
1696
名木河
柿◆
1697
名木河
柿◆
1698
名木河
柿◆
1699
宇治河
柿◆
1700
宇治河
柿◆
 
 
1701
弓削皇子
柿◆
1702
弓削皇子
柿◆
1703
弓削皇子
柿◆
1704
舎人皇子
柿◆
1705
舎人皇子
柿◆
1706
舎人皇子
柿◆
1707
鷺坂作
柿◆
1708
泉河邊
柿◆
1709
弓削皇子
柿◆
1710
柿★?
 
1711
柿★?
 
1712

 
1713

 
1714

 

1715
槐本:
柿★

1716
山上:
憶良
1717
春日:
蔵首老
1718
高市:
黒人
1719
春日蔵:
首老
1720
元仁
柿◆
1721
元仁
柿◆
1722
元仁
柿◆
1723

柿◆
1724
嶋足
柿◆
1725
柿◆
 
1726
丹比真人
1727

 
1728
石川卿 
1729
宇合卿 
1730
宇合卿 
1731
宇合卿 
1732
碁師
 
1733
碁師
 
1734
小辨
 
1735
伊保麻呂
1736
式部大倭芳野
1737
兵部川原
1738
珠名娘子
1739
珠名娘子
1740
水江浦嶋子
1741
水江浦嶋子
1742
大橋獨去娘子
1743
大橋獨去娘子
1744
武蔵小埼沼鴨
1745
那賀郡曝井
1746
手綱濱 
1747
高橋蟲麻呂集
1748
高橋蟲麻呂集
1749
高橋蟲麻呂集
1750
高橋蟲麻呂集
1751
高橋蟲麻呂集
1752
高橋蟲麻呂集
1753
高橋蟲麻呂集
1754
高橋蟲麻呂集
1755
高橋蟲麻呂集
1756
高橋蟲麻呂集
1757
高橋蟲麻呂集
1758
高橋蟲麻呂集
1759
高橋蟲麻呂集
1760
高橋蟲麻呂集
1761
柿★?
 
1762
柿★?
 
1763
沙弥女王
1764
藤原北卿
1765
藤原北卿
 
相聞(29首)
  1766
振田向 
1767
抜氣大首
1768
抜氣大首
1769
抜氣大首
1770
古集
 
1771
古集
 
1772
阿倍大夫
1773
弓削皇子
柿◆
1774
舎人皇子
柿◆
1775
舎人皇子
柿◆
1776
石川大夫
1777
石川大夫
1778
娘子
 
1779
藤井連 
1780
大伴卿 
1781
大伴卿 
1782
柿◆
与妻
1783

柿◆
1784

 
1785
笠金村集
1786
笠金村集
1787
笠金村集
1788
笠金村集
1789
笠金村集
1790
遣唐使母
1791
遣唐使母
1792
田邊福麻呂集
1793
田邊福麻呂集
1794
田邊福麻呂集
 
挽歌(17首)
  1795

 
1796
紀伊國
柿◆
1797
紀伊國
柿◆
1798
紀伊國
柿◆
1799
紀伊國
柿◆
1800
田邊福麻呂集
 
 
1801
田邊福麻呂集
1802
田邊福麻呂集
1803
田邊福麻呂集
1804
田邊福麻呂集
1805
田邊福麻呂集
1806
田邊福麻呂集
1807
勝鹿真間娘子
1808
勝鹿真間娘子
1809
高橋蟲麻呂集
1810
高橋蟲麻呂集
1811
高橋蟲麻呂集
                 
 

第九巻

   
 

雜歌

   
   09/1664
題詞 雜歌 / 泊瀬朝倉宮御宇大泊瀬幼武天<皇>御製歌一首
題訓 雑歌くさぐさのうた  泊瀬の朝倉の宮に天あめの下しろしめしし天皇すめらみことのみよみませる御製歌おほみうた一首ひとつ
原文 暮去者 小椋山尓 臥鹿之 今夜者不鳴 寐家良霜
訓読 夕されば小倉の山に伏す鹿の今夜は鳴かず寐ねにけらしも
仮名 ゆふされば をぐらのやまに ふすしかの こよひはなかず いねにけらしも
左注 右或本云崗本天皇御製 不審正指 因以累戴
左注訓
校異 歌 [西] 謌 / 皇天皇→皇 [藍][壬][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:雄略天皇 舒明天皇 斉明天皇 作者異伝 重出 地名 動物
訓異 ゆふされば;ゆふされは, をぐらのやまに;をくらのやまに, こよひはなかず;こよひはなかす,
   
  09/1665
題詞 崗本宮御宇天皇幸紀伊國時歌二首
題訓 崗本の宮に天の下しろしめしし天皇の、紀伊国きのくにに幸いでませる時の歌二首ふたつ
原文 為妹 吾玉拾 奥邊有 玉縁持来 奥津白浪
訓読 妹がため我れ玉拾ふ沖辺なる玉寄せ持ち来沖つ白波
仮名 いもがため われたまひりふ おきへなる たまよせもちこ おきつしらなみ
左注 (右二首作者未詳)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:斉明天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名
訓異 いもがため;いもかため, われたまひりふ;われたまひろふ, たまよせもちこ;たまよせもてこ,
   
  09/1666
題詞 (崗本宮御宇天皇幸紀伊國時歌二首)
原文 朝霧尓 沾尓之衣 不干而 一哉君之 山道将越
訓読 朝霧に濡れにし衣干さずしてひとりか君が山道越ゆらむ
仮名 あさぎりに ぬれにしころも ほさずして ひとりかきみが やまぢこゆらむ
左注 右二首作者未詳
左注訓 右ノ二首フタウタ、作者ヨミヒト未詳シラズ。
校異 なし
事項 雑歌 作者:斉明天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 留守
訓異 あさぎりに;あさきりに, ほさずして;ほさすして, ひとりかきみが;ひとりやきみか, やまぢこゆらむ;やまちこゆらむ,
   
  09/1667
題詞 大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首
題訓 大宝だいはうの元年はじめのとし(701年)辛丑かのとうし冬十月かみなづき、太上天皇おほきすめらみこと、大行天皇さきのすめらみこと、紀伊国に幸ませる時の歌十三首とをまりみつ
原文 為妹 我玉求 於伎邊有 白玉依来 於伎都白浪
訓読 妹がため我れ玉求む沖辺なる白玉寄せ来沖つ白波
仮名 いもがため あれたまもとむ おきへなる しらたまよせこ おきつしらなみ
左注 右一首上見既畢 但歌辞小換 年代相違 因以累戴
左注訓 右ノ一首ヒトウタ、既ニ上ニ見ルコト畢ハリヌ。但歌辞少シク換リ、年代相違ヘリ。因テ以テ累ネ戴ス。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 重出 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 いもがため;いもかため, あれたまもとむ;われたまもとむ,
   
  09/1668
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 白埼者 幸在待 大船尓 真梶繁貫 又将顧
訓読 白崎は幸くあり待て大船に真梶しじ貫きまたかへり見む
仮名 しらさきは さきくありまて おほぶねに まかぢしじぬき またかへりみむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 土地讃美 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 おほぶねに;おほふねに, まかぢしじぬき;まかちししぬき,
   
  09/1669
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 三名部乃浦 塩莫満 鹿嶋在 釣為海人乎 見變来六
訓読 南部の浦潮な満ちそね鹿島なる釣りする海人を見て帰り来む
仮名 みなべのうら しほなみちそね かしまなる つりするあまを みてかへりこむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 土地讃美 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 みなべのうら;みなへのうら, しほなみちそね;しほなみちそ,
   
  09/1670
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 朝開 滂出而我者 湯羅前 釣為海人乎 見<反>将来
訓読 朝開き漕ぎ出て我れは由良の崎釣りする海人を見て帰り来む
仮名 あさびらき こぎでてわれは ゆらのさき つりするあまを みてかへりこむ
左注 なし
校異 變→反 [藍][壬][類]
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 土地讃美 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 あさびらき;あさひらき, こぎでてわれは;こきいててわれは,
   
  09/1671
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 湯羅乃前 塩乾尓祁良志 白神之 礒浦箕乎 敢而滂動
訓読 由良の崎潮干にけらし白神の礒の浦廻をあへて漕ぐなり
仮名 ゆらのさき しほひにけらし しらかみの いそのうらみを あへてこぐなり
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 あへてこぐなり;あへてこきとよむ,
   
  09/1672
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 黒牛方 塩干乃浦乎 紅 玉裾須蘇延 徃者誰妻
訓読 黒牛潟潮干の浦を紅の玉裳裾引き行くは誰が妻
仮名 くろうしがた しほひのうらを くれなゐの たまもすそびき ゆくはたがつま
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 恋情 大宝1年10月 年紀
訓異 くろうしがた;くろうしかた, たまもすそびき;たまもすそひき, ゆくはたがつま;ゆくはたかつま,
   
  09/1673
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 風莫乃 濱之白浪 徒 於斯依久流 見人無 [一云 於斯依来藻]
訓読 風莫の浜の白波いたづらにここに寄せ来る見る人なしに [一云 ここに寄せ来も]
仮名 かざなしの はまのしらなみ いたづらに ここによせくる みるひとなしに [ここによせくも]
左注 右一首山上<臣>憶良類聚歌林曰 長忌寸意吉麻呂應詔作此歌
左注訓 ノ一首、山上臣憶良ノ類聚歌林ニ曰ク、長忌寸意吉麻呂、詔ニ応ヘテ此歌ヲ作メリト。
校異 莫 (塙) 草 / 臣 [西(上書訂正)][藍][壬][紀] / 歌林 [西] 謌林 [西(訂正)] 歌林 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌
事項 雑歌 長意吉麻呂 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 大宝1年10月 年紀 異伝 推敲
訓異 かざなしの;かさなきの, いたづらに;いたつらに, ここによせくる;ここによりくる, [ここによせくも];ここによりくも,
   
  09/1674
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 我背兒我 使将来歟跡 出立之 此松原乎 今日香過南
訓読 我が背子が使来むかと出立のこの松原を今日か過ぎなむ
仮名 わがせこが つかひこむかと いでたちの このまつばらを けふかすぎなむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 わがせこが;わかせこか, いでたちの;いてたちし, このまつばらを;このまつはらを, けふかすぎなむ;いふかすきなむ,
   
  09/1675
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 藤白之 三坂乎越跡 白栲之 我衣乎者 所沾香裳
訓読 藤白の御坂を越ゆと白栲の我が衣手は濡れにけるかも
仮名 ふぢしろの みさかをこゆと しろたへの わがころもでは ぬれにけるかも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 ふぢしろの;ふちしろの, わがころもでは;わかころもては,
   
  09/1676
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 勢能山尓 黄葉常敷 神岳之 山黄葉者 今日散濫
訓読 背の山に黄葉常敷く神岳の山の黄葉は今日か散るらむ
仮名 せのやまに もみちつねしく かむをかの やまのもみちは けふかちるらむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 望郷 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 もみちつねしく;もみちとこしく, かむをかの;みわやまの,
   
  09/1677
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 山跡庭 聞徃歟 大我野之 竹葉苅敷 廬為有跡者
訓読 大和には聞こえも行くか大我野の竹葉刈り敷き廬りせりとは
仮名 やまとには きこえもゆくか おほがのの たかはかりしき いほりせりとは
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 おほがのの;おほかのの,
   
  09/1678
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 木國之 昔弓雄之 響矢用 鹿取靡 坂上尓曽安留
訓読 紀の国の昔弓雄の鳴り矢もち鹿取り靡けし坂の上にぞある
仮名 きのくにの むかしさつをの なりやもち かとりなびけし さかのうへにぞある
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 むかしさつをの;むかしゆみをの, なりやもち;かふらもて, かとりなびけし;しかとりなひく, さかのうへにぞある;さかのへにそある,
   
  09/1679
題詞 (大寳元年辛丑冬十月太上天皇大行天皇幸紀伊國時歌十三首)
原文 城國尓 不止将徃来 妻社 妻依来西尼 妻常言長柄 [一云 嬬賜尓毛 嬬云長<良>]
訓読 紀の国にやまず通はむ妻の杜妻寄しこせね妻といひながら [一云 妻賜はにも妻といひながら]
仮名 きのくにに やまずかよはむ つまのもり つまよしこせね つまといひながら [つまたまはにも つまといひながら]
左注 右一首或云坂上忌寸人長作
左注訓 右ノ一首、或ヒト云ク、坂上忌寸人長ガ作。
校異 良→柄 [藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 持統天皇 文武天皇 行幸 羈旅 紀州 和歌山 地名 大宝1年10月 年紀
訓異 やまずかよはむ;やますかよはむ, つまのもり;つまもこそ, つまよしこせね;つまよりこさね, つまといひながら;つまといひなから, [つまたまはにも;つまたまのにも, つまといひながら];つまといひなから,
   
  09/1680
題詞 後人歌二首
題訓 後れたる人の歌二首
原文 朝裳吉 木方徃君我 信土山 越濫今日曽 雨莫零根
訓読 あさもよし紀へ行く君が真土山越ゆらむ今日ぞ雨な降りそね
仮名 あさもよし きへゆくきみが まつちやま こゆらむけふぞ あめなふりそね
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 和歌山 餞別 留守 地名
訓異 あさもよし;あさもよい, きへゆくきみが;きへゆくきみか, こゆらむけふぞ;こゆらむけふそ,
   
  09/1681
題詞 (後人歌二首)
原文 後居而 吾戀居者 白雲 棚引山乎 今日香越濫
訓読 後れ居て我が恋ひ居れば白雲のたなびく山を今日か越ゆらむ
仮名 おくれゐて あがこひをれば しらくもの たなびくやまを けふかこゆらむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 餞別 留守
訓異 あがこひをれば;わかこひをれは, たなびくやまを;たなひくやまを,
   
  09/1682
題詞 獻忍壁皇子歌一首 [詠仙人形]
題訓 忍壁皇子に献れる歌一首 仙人ノ形ヲ詠ム
原文 常之<倍>尓 夏冬徃哉 裘 扇不放 山住人
訓読 とこしへに夏冬行けや裘扇放たぬ山に住む人
仮名 とこしへに なつふゆゆけや かはごろも あふぎはなたぬ やまにすむひと
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 陪→倍 [藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 献呈歌 詠物 忍壁皇子 非略体
訓異 かはごろも;かはころも, あふぎはなたぬ;あふきはなたす,
   
  09/1683
題詞 獻舎人皇子歌二首
題訓 舎人皇子に献れる歌二首
原文 妹手 取而引与治 捄手折 吾刺可 花開鴨
訓読 妹が手を取りて引き攀ぢふさ手折り我がかざすべく花咲けるかも
仮名 いもがてを とりてひきよぢ ふさたをり わがかざすべく はなさけるかも
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 献呈歌 舎人皇子 非略体
訓異 いもがてを;いもかてを, とりてひきよぢ;とりてひきよち, ふさたをり;うつたをり, わがかざすべく;わかかさすへき,
   
  09/1684
題詞 (獻舎人皇子歌二首)
原文 春山者 散過去鞆 三和山者 未含 君持勝尓
訓読 春山は散り過ぎぬとも三輪山はいまだふふめり君待ちかてに
仮名 はるやまは ちりすぎぬとも みわやまは いまだふふめり きみまちかてに
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 献呈歌 舎人皇子 奈良 桜井 非略体 地名
訓異 ちりすぎぬとも;ちりすくれとも, いまだふふめり;いまたつほめり, きみまちかてに;きみまつかてに,
   
  09/1685
題詞 泉河邊間人宿祢作歌二首
題訓 泉河の辺ほとりにて間人宿禰はしひとのすくねがよめる歌二首
原文 河瀬 激乎見者 玉藻鴨 散乱而在 川常鴨
訓読 川の瀬のたぎつを見れば玉藻かも散り乱れたる川の常かも
仮名 かはのせの たぎつをみれば たまもかも ちりみだれたる かはのつねかも
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 玉藻 [類][古](塙) 玉
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 作者:間人宿祢 木津川 京都 羈旅 非略体 地名
訓異 たぎつをみれば;たきるをみれは, ちりみだれたる;ちりみたれてある, かはのつねかも;このかはとかも,
   
  09/1686
題詞 (泉河邊間人宿祢作歌二首)
原文 孫星 頭刺玉之 嬬戀 乱祁良志 此川瀬尓
訓読 彦星のかざしの玉の妻恋ひに乱れにけらしこの川の瀬に
仮名 ひこほしの かざしのたまの つまごひに みだれにけらし このかはのせに
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 なし
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 七夕 作者:間人宿祢 木津川 京都 羈旅 非略体
訓異 かざしのたまの;かさしのたまの, つまごひに;つまこひに, みだれにけらし;みたれにけらし,
   
  09/1687
題詞 鷺坂作歌一首
題訓 鷺坂さぎさかにてよめる歌一首
原文 白鳥 鷺坂山 松影 宿而徃奈 夜毛深徃乎
訓読 白鳥の鷺坂山の松蔭に宿りて行かな夜も更けゆくを
仮名 しらとりの さぎさかやまの まつかげに やどりてゆかな よもふけゆくを
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名
訓異 さぎさかやまの;さきさかやまの, まつかげに;まつかけに, やどりてゆかな;やとりてゆくな, よもふけゆくを;よもふけゆくを,
   
  09/1688
題詞 名木河作歌二首
題訓 名木河なきがはにてよめる歌二首
原文 焱干 人母在八方 沾衣乎 家者夜良奈 羈印
訓読 あぶり干す人もあれやも濡れ衣を家には遣らな旅のしるしに
仮名 あぶりほす ひともあれやも ぬれぎぬを いへにはやらな たびのしるしに
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名 望郷
訓異 あぶりほす;あふりほす, ぬれぎぬを;ぬれきぬを, たびのしるしに;たひのしるしに,
   
  09/1689
題詞 (名木河作歌二首)
原文 在衣邊 著而榜尼 杏人 濱過者 戀布在奈利
訓読 あり衣辺につきて漕がさね杏人の浜を過ぐれば恋しくありなり
仮名 ありそへに つきてこがさね からひとの はまをすぐれば こほしくありなり
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名 望郷
訓異 つきてこがさね;つきてこくあま, はまをすぐれば;はまをすくれは, こほしくありなり;こひしくあるなり,
   
  09/1690
題詞 高島作歌二首
題訓 高島にてよめる歌二首
原文 高嶋之 阿渡川波者 驟鞆 吾者家思 宿加奈之弥
訓読 高島の阿渡川波は騒けども我れは家思ふ宿り悲しみ
仮名 たかしまの あどかはなみは さわけども われはいへおもふ やどりかなしみ
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 滋賀県 羈旅 非略体 望郷 地名
訓異 あどかはなみは;あとかはなみは, さわけども;さわけとも, やどりかなしみ;たひねかなしみ,
   
  09/1691
題詞 (高島作歌二首)
原文 客在者 三更刺而 照月 高嶋山 隠惜毛
訓読 旅なれば夜中をさして照る月の高島山に隠らく惜しも
仮名 たびにあれば よなかをさして てるつきの たかしまやまに かくらくをしも
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 刺 (塙) 判
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 滋賀県 羈旅 非略体 地名
訓異 たびにあれば;たひにあれは,
   
  09/1692
題詞 紀伊國作歌二首
題訓 紀伊国にてよめる歌二首
原文 吾戀 妹相佐受 玉浦丹 衣片敷 一鴨将寐
訓読 我が恋ふる妹は逢はさず玉の浦に衣片敷き独りかも寝む
仮名 あがこふる いもはあはさず たまのうらに ころもかたしき ひとりかもねむ
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 和歌山 羈旅 非略体 地名 望郷
訓異 あがこふる;わかこふる, いもはあはさず;いもにあはさす,
   
  09/1693
題詞 (紀伊國作歌二首)
原文 玉匣 開巻惜 恡夜矣 袖可礼而 一鴨将寐
訓読 玉櫛笥明けまく惜しきあたら夜を衣手離れて独りかも寝む
仮名 たまくしげ あけまくをしき あたらよを ころもでかれて ひとりかもねむ
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 寐 [類] 宿
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 和歌山 羈旅 非略体 望郷
訓異 たまくしげ;たまくしけ, ころもでかれて;ころもてかれて,
   
  09/1694
題詞 鷺坂作歌一首
題訓 鷺坂にてよめる歌一首
原文 細比礼乃 鷺坂山 白管自 吾尓尼保波<尼> 妹尓示
訓読 栲領巾の鷺坂山の白つつじ我れににほはに妹に示さむ
仮名 たくひれの さぎさかやまの しらつつじ われににほはね いもにしめさむ
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 弖→尼 [藍][類][紀]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名 植物 牫侄げ 望郷
訓異 さぎさかやまの;さきさかやまの, しらつつじ;しらつつし, われににほはね;われににほはて,
   
  09/1695
題詞 泉河作歌一首
題訓 泉河にてよめる歌一首
原文 妹門 入出見川乃 床奈馬尓 三雪遣 未冬鴨
訓読 妹が門入り泉川の常滑にみ雪残れりいまだ冬かも
仮名 いもがかど いりいづみがはの とこなめに みゆきのこれり いまだふゆかも
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 木津川 京都 羈旅 非略体 地名
訓異 いもがかど;いもかかと, いりいづみがはの;いりいつみかはの, いまだふゆかも;いまたふゆかも,
   
  09/1696
題詞 名木河作歌三首
題訓 名木河にてよめる歌三首
原文 衣手乃 名木之川邊乎 春雨 吾立沾等 家念良武可
訓読 衣手の名木の川辺を春雨に我れ立ち濡ると家思ふらむか
仮名 ころもでの なきのかはへを はるさめに われたちぬると いへおもふらむか
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名 望郷
訓異 ころもでの;ころもての,
   
  09/1697
題詞 (名木河作歌三首)
原文 家人 使在之 春雨乃 与久列杼吾<等>乎 沾念者
訓読 家人の使ひにあらし春雨の避くれど我れを濡らさく思へば
仮名 いへびとの つかひにあらし はるさめの よくれどわれを ぬらさくおもへば
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 <>→等 [藍][類][紀]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 望郷
訓異 いへびとの;いへひとの, つかひにあらし;つかひなるらし, よくれどわれを;よくれとわれを, ぬらさくおもへば;ぬらすとおもへは,
   
  09/1698
題詞 (名木河作歌三首)
原文 焱干 人母在八方 家人 春雨須良乎 間使尓為
訓読 あぶり干す人もあれやも家人の春雨すらを間使ひにする
仮名 あぶりほす ひともあれやも いへびとの はるさめすらを まつかひにする
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 望郷
訓異 あぶりほす;あふりほす, いへびとの;いへひとの,
   
  09/1699
題詞 宇治河作歌二首
題訓 宇治河にてよめる歌二首
原文 巨椋乃 入江響奈理 射目人乃 伏見何田井尓 鴈渡良之
訓読 巨椋の入江響むなり射目人の伏見が田居に雁渡るらし
仮名 おほくらの いりえとよむなり いめひとの ふしみがたゐに かりわたるらし
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名 動物
訓異 いりえとよむなり;いりえひひくなり, ふしみがたゐに;ふしみかたゑに,
   
  09/1700
題詞 (宇治河作歌二首)
原文 金風 山吹瀬乃 響苗 天雲翔 鴈相鴨
訓読 秋風に山吹の瀬の鳴るなへに天雲翔る雁に逢へるかも
仮名 あきかぜに やまぶきのせの なるなへに あまくもかける かりにあへるかも
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 雁相 [藍][類][古] 相
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名
訓異 あきかぜに;あきかせの, やまぶきのせの;やまふきのせの,
   
  09/1701
題詞 獻弓削皇子歌三首
題訓 弓削皇子に献れる歌三首
原文 佐宵中等 夜者深去良斯 鴈音 所聞空 月渡見
訓読 さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月渡る見ゆ
仮名 さよなかと よはふけぬらし かりがねの きこゆるそらゆ つきわたるみゆ
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 弓削皇子 献呈歌 非略体 動物
訓異 かりがねの;かりかねの, きこゆるそらゆ;きこゆるそらに,
   
  09/1702
題詞 (獻弓削皇子歌三首)
原文 妹當 茂苅音 夕霧 来鳴而過去 及乏
訓読 妹があたり繁き雁が音夕霧に来鳴きて過ぎぬすべなきまでに
仮名 いもがあたり しげきかりがね ゆふぎりに きなきてすぎぬ すべなきまでに
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 弓削皇子 献呈歌 非略体 動物
訓異 いもがあたり;いもかあたり, しげきかりがね;しけきかりかね, ゆふぎりに;ゆふきりに, きなきてすぎぬ;きなきてすきぬ, すべなきまでに;ともしきまてに,
   
  09/1703
題詞 (獻弓削皇子歌三首)
原文 雲隠 鴈鳴時 秋山 黄葉片待 時者雖過
訓読 雲隠り雁鳴く時は秋山の黄葉片待つ時は過ぐれど
仮名 くもがくり かりなくときは あきやまの もみちかたまつ ときはすぐれど
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 弓削皇子 献呈歌 非略体 動物 植物 季節
訓異 くもがくり;くもかくれ, かりなくときは;かりなくときに, ときはすぐれど;ときは****,
   
  09/1704
題詞 獻舎人皇子歌二首
題訓 舎人皇子に献れる歌二首
原文 捄手折 多武山霧 茂鴨 細川瀬 波驟祁留
訓読 ふさ手折り多武の山霧繁みかも細川の瀬に波の騒ける
仮名 ふさたをり たむのやまきり しげみかも ほそかはのせに なみのさわける
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 舎人皇子 献呈歌 飛鳥 非略体 地名
訓異 ふさたをり;うちたをる, しげみかも;しけきかも, なみのさわける;なみさわきける,
   
  09/1705
題詞 (獻舎人皇子歌二首)
原文 冬木成 春部戀而 殖木 實成時 片待吾等叙
訓読 冬こもり春へを恋ひて植ゑし木の実になる時を片待つ我れぞ
仮名 ふゆこもり はるへをこひて うゑしきの みになるときを かたまつわれぞ
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 なし
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 舎人皇子 献呈歌 非略体 季節
訓異 ふゆこもり;ふゆこなり, かたまつわれぞ;かたまつわれそ,
   
  09/1706
題詞 舎人皇子御歌一首
題訓 舎人皇子の御歌一首
原文 黒玉 夜霧立 衣手 高屋於 霏d麻天尓
訓読 ぬばたまの夜霧は立ちぬ衣手の高屋の上にたなびくまでに
仮名 ぬばたまの よぎりはたちぬ ころもでの たかやのうへに たなびくまでに
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 舎人皇子 桜井 飛鳥 非略体 地名
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, よぎりはたちぬ;よきりはたちぬ, ころもでの;ころもての, たなびくまでに;たなひくまてに,
   
  09/1707
題詞 鷺坂作歌一首
題訓 鷺坂にてよめる歌一首
原文 山代 久世乃鷺坂 自神代 春者張乍 秋者散来
訓読 山背の久世の鷺坂神代より春は張りつつ秋は散りけり
仮名 やましろの くぜのさぎさか かむよより はるははりつつ あきはちりけり
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 京都 羈旅 非略体 地名
訓異 くぜのさぎさか;くせのさきさか, かむよより;かみよより,
   
  09/1708
題詞 泉河邊作歌一首
題訓 泉河の辺にてよめる歌一首
原文 春草 馬咋山自 越来奈流 鴈使者 宿過奈利
訓読 春草を馬咋山ゆ越え来なる雁の使は宿り過ぐなり
仮名 はるくさを うまくひやまゆ こえくなる かりのつかひは やどりすぐなり
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集所出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 木津川 京都 羈旅 非略体 動物
訓異 うまくひやまゆ;うまくひやまを, やどりすぐなり;やとすきぬなり,
   
  09/1709
題詞 獻弓削皇子歌一首
題訓 弓削皇子に献れる歌一首
原文 御食向 南淵山之 巌者 落波太列可 削遺有
訓読 御食向ふ南淵山の巌には降りしはだれか消え残りたる
仮名 みけむかふ みなぶちやまの いはほには ふりしはだれか きえのこりたる
左注 右柿本朝臣人麻呂之歌集所出
左注訓 右、柿本朝臣人麻呂ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂歌集 弓削皇子 飛鳥 献呈歌 非略体 地名 季節
訓異 みなぶちやまの;みなふちやまの, ふりしはだれか;ちるなみたらか, きえのこりたる;けつりのこせる,
   
  09/1710
題詞 なし
題訓 題闕
原文 吾妹兒之 赤裳<埿>塗而 殖之田乎 苅将蔵 倉無之濱
訓読 我妹子が赤裳ひづちて植ゑし田を刈りて収めむ倉無の浜
仮名 わぎもこが あかもひづちて うゑしたを かりてをさめむ くらなしのはま
左注 (右二首或云柿本朝臣人麻呂作)
校異 泥→埿 [藍][類][紀]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂 福岡県 中津市 地名
訓異 わぎもこが;わきもこか, あかもひづちて;あかもひつちて,
   
  09/1711
題詞 なし
原文 百<轉> 八十之嶋廻乎 榜雖来 粟小嶋者 雖見不足可聞
訓読 百伝ふ八十の島廻を漕ぎ来れど粟の小島は見れど飽かぬかも
仮名 ももづたふ やそのしまみを こぎくれど あはのこしまは みれどあかぬかも
左注 右二首或云柿本朝臣人麻呂作
左注訓 右ノ二首、或ヒト云ク、柿本朝臣人麻呂ガ作。
校異 轉之→轉 [藍][類][古][紀] / 者 [類][古][紀] 志
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂 羈旅 淡路 粟島 土地讃美 地名
訓異 ももづたふ;ももつての, やそのしまみを;やそのしまわを, こぎくれど;こきくれと, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも,
   
  09/1712
題詞 登筑波山詠月一首
題訓 筑波山つくはやまに登りて月を詠める歌一首
原文 天原 雲無夕尓 烏玉乃 宵度月乃 入巻恡毛
訓読 天の原雲なき宵にぬばたまの夜渡る月の入らまく惜しも
仮名 あまのはら くもなきよひに ぬばたまの よわたるつきの いらまくをしも
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 茨城 羈旅 地名
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの,
   
  09/1713
題詞 幸芳野離宮時歌二首
題訓 芳野の離宮とつみやに幸いでませる時の歌二首
原文 瀧上乃 三船山従 秋津邊 来鳴度者 誰喚兒鳥
訓読 滝の上の三船の山ゆ秋津辺に来鳴き渡るは誰れ呼子鳥
仮名 たきのうへの みふねのやまゆ あきづへに きなきわたるは たれよぶこどり
左注 (右<二>首作者未詳)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 吉野 離宮 行幸 地名 動物
訓異 みふねのやまゆ;みふねやまより, あきづへに;あきつへに, たれよぶこどり;たれよふことり,
   
  09/1714
題詞 (幸芳野離宮時歌二首)
原文 落多藝知 流水之 磐觸 与杼賣類与杼尓 月影所見
訓読 落ちたぎち流るる水の岩に触れ淀める淀に月の影見ゆ
仮名 おちたぎち ながるるみづの いはにふれ よどめるよどに つきのかげみゆ
左注 右<二>首作者未詳
左注訓 右ノ三首、作者未詳。
校異 三→二 [藍][矢] (楓) 三
事項 雑歌 吉野 離宮 行幸 叙景
訓異 おちたぎち;おちたきち, ながるるみづの;なかるるみつの, よどめるよどに;よとめるよとに, つきのかげみゆ;つきのかけみゆ,
   
  09/1715
題詞 槐本歌一首
題訓 槐本ゑにすのもとが歌一首
原文 樂<浪>之 平山風之 海吹者 釣為海人之 袂變所見
訓読 楽浪の比良山風の海吹けば釣りする海人の袖返る見ゆ
仮名 ささなみの ひらやまかぜの うみふけば つりするあまの そでかへるみゆ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 波→浪 [藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂 滋賀県 琵琶湖 羈旅 地名 叙景
訓異 ひらやまかぜの;ひらやまかせの, うみふけば;うみふけは, そでかへるみゆ;そてかへるみゆ,
   
  09/1716
題詞 山上歌一首
題訓 山上やまのへが歌一首
原文 白那弥<乃> 濱松之木乃 手酬草 幾世左右二箇 年薄經濫
訓読 白波の浜松の木の手向けくさ幾代までにか年は経ぬらむ
仮名 しらなみの はままつのきの たむけくさ いくよまでにか としはへぬらむ
左注 右一首或云川嶋皇子御作歌
左注訓 右ノ一首、或ヒト云ク、河島皇子ノ御作歌。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 之→乃 [藍][壬][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:山上憶良 川島皇子 異伝 重出 和歌山 羈旅 地名
訓異 いくよまでにか;いくよまてにか,
   
  09/1717
題詞 春日歌一首
題訓 春日かすがが歌一首
原文 三川之 淵瀬物不落 左提刺尓 衣手<潮> 干兒波無尓
訓読 三川の淵瀬もおちず小網さすに衣手濡れぬ干す子はなしに
仮名 みつかはの ふちせもおちず さでさすに ころもでぬれぬ ほすこはなしに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 湖→潮 [類][古][紀]
事項 雑歌 作者:春日蔵首老 滋賀県 愛知 羈旅
訓異 ふちせもおちず;ふちせもおちぬ, さでさすに;さてけしに, ころもでぬれぬ;ころもてぬれぬ,
   
  09/1718
題詞 高市歌一首
題訓 高市たけちが歌一首
原文 足利思<代> 榜行舟薄 高嶋之 足速之水門尓 極尓<監>鴨
訓読 率ひて漕ぎ行く舟は高島の安曇の港に泊てにけむかも
仮名 あどもひて こぎゆくふねは たかしまの あどのみなとに はてにけむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 伐→代 [濫][壬][類][紀] / 濫→監 [類][古][紀]
事項 雑歌 作者:高市黒人 琵琶湖 滋賀県 羈旅 地名
訓異 あどもひて;あしりをは, こぎゆくふねは;こきゆくふねは, あどのみなとに;あとのみなとに,
   
  09/1719
題詞 春日蔵歌一首
題訓 春日が歌一首
原文 照月遠 雲莫隠 嶋陰尓 吾船将極 留不知毛
訓読 照る月を雲な隠しそ島蔭に我が舟泊てむ泊り知らずも
仮名 てるつきを くもなかくしそ しまかげに わがふねはてむ とまりしらずも
左注 右一首或本云 小辨作也 或記姓氏無記名字 或称名号不称姓氏 然依古記 便以次載 凡如此類下皆放焉
左注訓 右ノ一首、或ル本ニ云ク、小辯ガ作ナリト。或ハ 姓氏ヲ記シ、名字ヲ記スコト無ク、或ハ名号ヲ称イ ヒテ姓氏ヲ称ハズ。然レドモ古記ニ依リテ、便チ 次ヲ以テ載ス。凡ソ此ノ如キ類ハ、下皆焉コレニ効ナラヘ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 辨 [藍][紀][温](塙) 弁 / 放 [文][細][温] 效
事項 雑歌 作者:春日蔵首老 小辨 異伝 羈旅
訓異 しまかげに;しまかけに, わがふねはてむ;わかふねはてむ, とまりしらずも;とまりしらすも,
   
  09/1720
題詞 元仁歌三首
題訓 元仁が歌三首
原文 馬屯而 打集越来 今日見鶴 芳野之川乎 何時将顧
訓読 馬並めてうち群れ越え来今日見つる吉野の川をいつかへり見む
仮名 うまなめて うちむれこえき けふみつる よしののかはを いつかへりみむ
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 今日 [壬][類](塙) 今
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 作者:元仁 吉野 羈旅 非略体 地名
訓異 うまなめて;うまなへて, けふみつる;いふみつる,
   
  09/1721
題詞 (元仁歌三首)
原文 辛苦 晩去日鴨 吉野川 清河原乎 雖見不飽君
訓読 苦しくも暮れゆく日かも吉野川清き川原を見れど飽かなくに
仮名 くるしくも くれゆくひかも よしのがは きよきかはらを みれどあかなくに
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 作者:元仁 吉野 土地讃美 羈旅 非略体 地名
訓異 よしのがは;よしのかは, みれどあかなくに;みれとあかなくに,
   
  09/1722
題詞 (元仁歌三首)
原文 吉野川 河浪高見 多寸能浦乎 不視歟成嘗 戀布<真>國
訓読 吉野川川波高み滝の浦を見ずかなりなむ恋しけまくに
仮名 よしのがは かはなみたかみ たきのうらを みずかなりなむ こほしけまくに
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 莫→真 [壬][類][古]
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 作者:元仁 吉野 羈旅 土地讃美 非略体 地名
訓異 よしのがは;よしのかは, みずかなりなむ;みすかなりなむ, こほしけまくに;こひしきまくに,
   
  09/1723
題詞 絹歌一首
題訓 絹が歌一首
原文 河蝦鳴 六田乃河之 川楊乃 根毛居侶雖見 不飽<河>鴨
訓読 かわづ鳴く六田の川の川柳のねもころ見れど飽かぬ川かも
仮名 かはづなく むつたのかはの かはやぎの ねもころみれど あかぬかはかも
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 君→河 [壬][類][古][紀]
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 作者:絹 吉野 土地讃美 羈旅 非略体 地名 動物
訓異 かはづなく;かはつなく, かはやぎの;かはやなきの, ねもころみれど;ねもころみれと, あかぬかはかも;あかぬきみかも,
   
  09/1724
題詞 嶋足歌一首
題訓 島足しまたりが歌一首
原文 欲見 来之久毛知久 吉野川 音清左 見二友敷
訓読 見まく欲り来しくもしるく吉野川音のさやけさ見るにともしく
仮名 みまくほり こしくもしるく よしのがは おとのさやけさ みるにともしく
左注 (右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 作者:嶋足 吉野 土地讃美 羈旅 非略体 地名
訓異 よしのがは;よしのかは, みるにともしく;みるにともしき,
   
  09/1725
題詞 麻呂歌一首
題訓 麻呂が歌一首
原文 古之 賢人之 遊兼 吉野川原 雖見不飽鴨
訓読 いにしへの賢しき人の遊びけむ吉野の川原見れど飽かぬかも
仮名 いにしへの さかしきひとの あそびけむ よしののかはら みれどあかぬかも
左注 右柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 柿本人麻呂歌集 作者:麻呂 吉野 羈旅 土地讃美 非略体 地名
訓異 あそびけむ;あそひけむ, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも,
   
  09/1726
題詞 丹比真人歌一首
題訓 丹比真人が歌一首
原文 難波方 塩干尓出<而> 玉藻苅 海未通<女>等 汝名告左祢
訓読 難波潟潮干に出でて玉藻刈る海人娘子ども汝が名告らさね
仮名 なにはがた しほひにいでて たまもかる あまをとめども ながなのらさね
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→而 [壬][類][古][紀] / <>→女 [代匠記精撰本]
事項 雑歌 作者:丹比真人 大阪 羈旅 妻問媿 地名
訓異 なにはがた;なにはかた, しほひにいでて;しほひにいてて, あまをとめども;あまのをとめら, ながなのらさね;なかなつけさね,
   
  09/1727
題詞 和歌一首
題訓 某それの娘子をとめが和ふる歌
原文 朝入為流 人跡乎見座 草枕 客去人尓 妾<名>者不<教>
訓読 あさりする人とを見ませ草枕旅行く人に我が名は告らじ
仮名 あさりする ひととをみませ くさまくら たびゆくひとに わがなはのらじ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / <>→名 [万葉集新考] / 敷→教 [万葉集略解]
事項 雑歌 和歌 答譙 羈旅 大阪 妻問媿
訓異 たびゆくひとに;たひゆくひとな, わがなはのらじ;つまにはしかし,
   
  09/1728
題詞 石川卿歌一首
題訓 石川の卿まへつきみの歌一首
原文 名草目而 今夜者寐南 従明日波 戀鴨行武 従此間別者
訓読 慰めて今夜は寝なむ明日よりは恋ひかも行かむこゆ別れなば
仮名 なぐさめて こよひはねなむ あすよりは こひかもゆかむ こゆわかれなば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:石川年足 石川宮麻呂 羈旅 恋情
訓異 なぐさめて;なくさめて, こゆわかれなば;いまわかれなは,
   
  09/1729
題詞 宇合卿歌三首
題訓 宇合うまかひの卿の歌三首
原文 暁之 夢所見乍 梶嶋乃 石<超>浪乃 敷弖志所念
訓読 暁の夢に見えつつ梶島の礒越す波のしきてし思ほゆ
仮名 あかときの いめにみえつつ かぢしまの いそこすなみの しきてしおもほゆ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 越→超 [藍][類][紀]
事項 雑歌 作者:藤原宇合 羈旅 望郷 九州 京都 地名
訓異 あかときの;あかつきの, いめにみえつつ;ゆめにみえつつ, かぢしまの;かちしまの, しきてしおもほゆ;しきてしそおもふ,
   
  09/1730
題詞 (宇合卿歌三首)
原文 山品之 石田乃小野之 母蘇原 見乍哉公之 山道越良武
訓読 山科の石田の小野のははそ原見つつか君が山道越ゆらむ
仮名 やましなの いはたのをのの ははそはら みつつかきみが やまぢこゆらむ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:藤原宇合 京都 留守 羈旅 地名
訓異 みつつかきみが;みつつやきみか, やまぢこゆらむ;やまちこゆらむ,
   
  09/1731
題詞 (宇合卿歌三首)
原文 山科乃 石田社尓 布<麻>越者 蓋吾妹尓 直相鴨
訓読 山科の石田の杜に幣置かばけだし我妹に直に逢はむかも
仮名 やましなの いはたのもりに ぬさおかば けだしわぎもに ただにあはむかも
左注 なし
校異 靡→麻 [藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 作者:藤原宇合 京都 羈旅 望郷 手向醎 地名
訓異 ぬさおかば;ふみこえは, けだしわぎもに;けたしわきもに, ただにあはむかも;たたにあはむかも,
   
  09/1732
題詞 碁師歌二首
題訓 碁師ごしが歌二首
原文 <祖>母山 霞棚引 左夜深而 吾舟将泊 等万里不知母
訓読 大葉山霞たなびきさ夜更けて我が舟泊てむ泊り知らずも
仮名 おほばやま かすみたなびき さよふけて わがふねはてむ とまりしらずも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→祖 [万葉集略解]
事項 雑歌 作者:碁師 滋賀県 琵琶湖 重出 羈旅 寂寥 地名
訓異 おほばやま;おもやまに, かすみたなびき;かすみたななき, わがふねはてむ;わかふねはてむ, とまりしらずも;とまりしらすも,
   
  09/1733
題詞 (碁師歌二首)
原文 思乍 雖来々不勝而 水尾埼 真長乃浦乎 又顧津
訓読 思ひつつ来れど来かねて三尾の崎真長の浦をまたかへり見つ
仮名 おもひつつ くれどきかねて みをのさき まながのうらを またかへりみつ
左注 なし
校異 なし
事項 雑歌 作者:碁師 滋賀県 琵琶湖 羈旅 地名
訓異 くれどきかねて;くれときかねて, みをのさき;みをかさき, まながのうらを;まなかのうらを,
   
  09/1734
題詞 小辨歌一首
題訓 小辯すなきおほともひが歌一首
原文 高嶋之 足利湖乎 滂過而 塩津菅浦 今<香>将滂
訓読 高島の安曇の港を漕ぎ過ぎて塩津菅浦今か漕ぐらむ
仮名 たかしまの あどのみなとを こぎすぎて しほつすがうら いまかこぐらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 辨 [藍][類] 弁 / 者→香 [藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 作者:少辨 滋賀県 琵琶湖 羈旅 道行翮 地名
訓異 あどのみなとを;あとのみなとを, こぎすぎて;こきすきて, しほつすがうら;しほつすかうら, いまかこぐらむ;いまかこくらむ,
   
  09/1735
題詞 伊保麻呂歌一首
題訓 伊保麻呂いほまろが歌一首
原文 吾疊 三重乃河原之 礒裏尓 如是鴨跡 鳴河蝦可物
訓読 我が畳三重の川原の礒の裏にかくしもがもと鳴くかはづかも
仮名 わがたたみ みへのかはらの いそのうらに かくしもがもと なくかはづかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:伊保麻呂 三重県 内部川 羈旅 地名
訓異 わがたたみ;わかたたみ, かくしもがもと;かはかりかもと, なくかはづかも;なくかはつかも,
   
  09/1736
題詞 式部大倭芳野作歌一首
題訓 式部のりのつかさ大倭おほやまとが芳野にてよめる歌一首
原文 山高見 白木綿花尓 落多藝津 夏身之川門 雖見不飽香開
訓読 山高み白木綿花に落ちたぎつ夏身の川門見れど飽かぬかも
仮名 やまたかみ しらゆふばなに おちたぎつ なつみのかはと みれどあかぬかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:式部大倭 吉野 土地讃美 羈旅 地名
訓異 しらゆふばなに;しらゆふはなに, おちたぎつ;おちたきつ, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも,
   
  09/1737
題詞 兵部川原歌一首
題訓 兵部つはもののつかさ川原が歌一首
原文 大瀧乎 過而夏箕尓 傍為而 浄川瀬 見何明沙
訓読 大滝を過ぎて夏身に近づきて清き川瀬を見るがさやけさ
仮名 おほたきを すぎてなつみに ちかづきて きよきかはせを みるがさやけさ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:兵部川原 吉野 土地讃美 羈旅 地名
訓異 すぎてなつみに;すきてなつみに, ちかづきて;そひてゐて, みるがさやけさ;みるかさやけさ,
   
  09/1738
題詞 詠上総末珠名娘子一首[并短歌]
題訓 上総かみつふさの周淮すゑの珠名娘子たまなをとめを詠める歌一首 、また短歌みじかうた
原文 水長鳥 安房尓継有 梓弓 末乃珠名者 胸別之 廣吾妹 腰細之 須軽娘子之 其姿之 端正尓 如花 咲而立者 玉桙乃 道<徃>人者 己行 道者不去而 不召尓 門至奴 指並 隣之君者 <預> 己妻離而 不乞尓 鎰左倍奉 人<皆乃> 如是迷有者 容艶 縁而曽妹者 多波礼弖有家留
訓読 しなが鳥 安房に継ぎたる 梓弓 周淮の珠名は 胸別けの 広き我妹 腰細の すがる娘子の その顔の きらきらしきに 花のごと 笑みて立てれば 玉桙の 道行く人は おのが行く 道は行かずて 呼ばなくに 門に至りぬ さし並ぶ 隣の君は あらかじめ 己妻離れて 乞はなくに 鍵さへ奉る 人皆の かく惑へれば たちしなひ 寄りてぞ妹は たはれてありける
仮名 しながとり あはにつぎたる あづさゆみ すゑのたまなは むなわけの ひろきわぎも こしぼその すがるをとめの そのかほの きらきらしきに はなのごと ゑみてたてれば たまほこの みちゆくひとは おのがゆく みちはゆかずて よばなくに かどにいたりぬ さしならぶ となりのきみは あらかじめ おのづまかれて こはなくに かぎさへまつる ひとみなの かくまとへれば たちしなひ よりてぞいもは たはれてありける
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 行→徃 [藍][類][紀] / 豫→預 [藍][壬][類][紀] / 乃皆→皆乃 [藍][類][温]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 千葉 美女伝説 枕詞 地名
訓異 しながとり;しなかとり, あはにつぎたる;あはにつきたる, あづさゆみ;あつさゆみ, ひろきわぎも;ひろけきわきも, こしぼその;こしほその, すがるをとめの;すかるをとめか, きらきらしきに;うつくしけさに, はなのごと;はなのこと, ゑみてたてれば;ゑみてたてれは, みちゆくひとは;みちゆきひとは, おのがゆく;おのかゆく, みちはゆかずて;みちはゆかすて, よばなくに;よはなくは, かどにいたりぬ;かとにいたりぬ, さしならぶ;さしならふ, あらかじめ;かねてより, おのづまかれて;さかつまかれて, かぎさへまつる;かきさへまたれ, ひとみなの;ひとのみな, かくまとへれば;かくまとへるは, たちしなひ;かほよきに, よりてぞいもは;よりてそいもは,
   
  09/1739
題詞 (詠上総末珠名娘子一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 金門尓之 人乃来立者 夜中母 身者田菜不知 出曽相来
訓読 金門にし人の来立てば夜中にも身はたな知らず出でてぞ逢ひける
仮名 かなとにし ひとのきたてば よなかにも みはたなしらず いでてぞあひける
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 千葉 美女伝説 地名
訓異 ひとのきたてば;ひとのきたては, みはたなしらず;みはたなしすら, いでてぞあひける;いてそあひける,
   
  09/1740
題詞 詠水江浦嶋子一首[并短歌]
題訓 水江みづのえの浦島の子を詠める歌一首、また短歌
原文 春日之 霞時尓 墨吉之 岸尓出居而 釣船之 得<乎>良布見者 <古>之 事曽所念 水江之 浦嶋兒之 堅魚釣 鯛釣矜 及七日 家尓毛不来而 海界乎 過而榜行尓 海若 神之女尓 邂尓 伊許藝趍 相誂良比 言成之賀婆 加吉結 常代尓至 海若 神之宮乃 内隔之 細有殿尓 携 二人入居而 耆不為 死不為而 永世尓 有家留物乎 世間之 愚人<乃> 吾妹兒尓 告而語久 須臾者 家歸而 父母尓 事毛告良比 如明日 吾者来南登 言家礼婆 妹之答久 常世邊 復變来而 如今 将相跡奈良婆 此篋 開勿勤常 曽己良久尓 堅目師事乎 墨吉尓 還来而 家見跡 <宅>毛見金手 里見跡 里毛見金手 恠常 所許尓念久 従家出而 三歳之間尓 <垣>毛無 家滅目八跡 此筥乎 開而見手歯 <如>本 家者将有登 玉篋 小披尓 白雲之 自箱出而 常世邊 棚引去者 立走 S袖振 反側 足受利四管 頓 情消失奴 若有之 皮毛皺奴 黒有之 髪毛白斑奴 <由>奈由奈波 氣左倍絶而 後遂 壽死祁流 水江之 浦嶋子之 家地見
訓読 春の日の 霞める時に 住吉の 岸に出で居て 釣舟の とをらふ見れば いにしへの ことぞ思ほゆる 水江の 浦島の子が 鰹釣り 鯛釣りほこり 七日まで 家にも来ずて 海境を 過ぎて漕ぎ行くに 海神の 神の娘子に たまさかに い漕ぎ向ひ 相とぶらひ 言成りしかば かき結び 常世に至り 海神の 神の宮の 内のへの 妙なる殿に たづさはり ふたり入り居て 老いもせず 死にもせずして 長き世に ありけるものを 世間の 愚か人の 我妹子に 告りて語らく しましくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと 我れは来なむと 言ひければ 妹が言へらく 常世辺に また帰り来て 今のごと 逢はむとならば この櫛笥 開くなゆめと そこらくに 堅めし言を 住吉に 帰り来りて 家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて あやしみと そこに思はく 家ゆ出でて 三年の間に 垣もなく 家失せめやと この箱を 開きて見てば もとのごと 家はあらむと 玉櫛笥 少し開くに 白雲の 箱より出でて 常世辺に たなびきぬれば 立ち走り 叫び袖振り こいまろび 足ずりしつつ たちまちに 心消失せぬ 若くありし 肌も皺みぬ 黒くありし 髪も白けぬ ゆなゆなは 息さへ絶えて 後つひに 命死にける 水江の 浦島の子が 家ところ見ゆ
仮名 はるのひの かすめるときに すみのえの きしにいでゐて つりぶねの とをらふみれば いにしへの ことぞおもほゆる みづのえの うらしまのこが かつをつり たひつりほこり なぬかまで いへにもこずて うなさかを すぎてこぎゆくに わたつみの かみのをとめに たまさかに いこぎむかひ あひとぶらひ ことなりしかば かきむすび とこよにいたり わたつみの かみのみやの うちのへの たへなるとのに たづさはり ふたりいりゐて おいもせず しにもせずして ながきよに ありけるものを よのなかの おろかひとの わぎもこに のりてかたらく しましくは いへにかへりて ちちははに こともかたらひ あすのごと われはきなむと いひければ いもがいへらく とこよへに またかへりきて いまのごと あはむとならば このくしげ ひらくなゆめと そこらくに かためしことを すみのえに かへりきたりて いへみれど いへもみかねて さとみれど さともみかねて あやしみと そこにおもはく いへゆいでて みとせのあひだに かきもなく いへうせめやと このはこを ひらきてみてば もとのごと いへはあらむと たまくしげ すこしひらくに しらくもの はこよりいでて とこよへに たなびきぬれば たちはしり さけびそでふり こいまろび あしずりしつつ たちまちに こころけうせぬ わかくありし はだもしわみぬ くろくありし かみもしらけぬ ゆなゆなは いきさへたえて のちつひに いのちしにける みづのえの うらしまのこが いへところみゆ
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 / 手→乎 [西(訂正右書)][壬][細][温][矢] / 吉→古 [西(訂正右書)][藍][壬][類] / 之→乃 [藍][壬][類] / 宅 [西(上書訂正)][藍][壬][類] / 墻→垣 [藍][類][紀] / 如来→如 [藍][類] / 反 [藍][類](塙) 返 / <>→由 [西(右書)][藍][類][紀]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 浦島伝説 若狭 地名 枕詞
訓異 きしにいでゐて;きしにいてゐて, つりぶねの;つりふねの, とをらふみれば;とをらふみれは, ことぞおもほゆる;ことそおほゆる, みづのえの;すみのえの, うらしまのこが;うらしまのこか, たひつりほこり;たひつりかねて、なぬかまで;なぬかまて, いへにもこずて;いへにもこすて, うなさかを;うみきはを, すぎてこぎゆくに;すきてこきゆくに, いこぎむかひ;いこきわしらひ, あひとぶらひ;かたらひ, ことなりしかば;ことなれしかは, かきむすび;かきつらね, うちのへの;なかのへの, たづさはり;たつさはり, おいもせず;おいもせす, しにもせずして;しにもせすして, ながきよに;なかきよに, おろかひとの;しれたるひとの, わぎもこに;わきもこに, のりてかたらく;つけてかたらく, しましくは;しはらくは, こともかたらひ;こともつけらひ, あすのごと;あすのこと, いひければ;いひけれは, いもがいへらく;いもかいへらく, いまのごと;けふのこと, あはむとならば;あはむとならは, このくしげ;このはこを, いへみれど;いへみれと, さとみれど;さとみれと, あやしみと;あやしとそ, いへゆいでて;いへいてて, みとせのあひだに;みとせのほとに, いへうせめやと;いへもうせめやと, ひらきてみてば;ひらきてみては, もとのごと;もとのこと, たまくしげ;たまくしけ, はこよりいでて;はこよりいてて, たなびきぬれば;たなひきぬれは, さけびそでふり;さけひそてふり, こいまろび;こひまろひ, あしずりしつつ;あしすりしつつ, こころけうせぬ;こころきゆうせぬ, わかくありし;わかかりし, はだもしわみぬ;かはもしはみぬ, くろくありし;くろかりし, のちつひに;のちつゐに, みづのえの;すみのえの, うらしまのこが;うらしまのこか, いへところみゆ;いへところみむ,
   
  09/1741
題詞 (詠水江浦嶋子一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 常世邊 可住物乎 劔刀 己之<行>柄 於曽也是君
訓読 常世辺に住むべきものを剣大刀汝が心からおそやこの君
仮名 とこよへに すむべきものを つるぎたち ながこころから おそやこのきみ
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 心→行 [藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 浦島伝説 若狭 地名
訓異 すむべきものを;すむへきものを, つるぎたち;つるきたち, ながこころから;なかこころから,
   
  09/1742
題詞 見河内大橋獨去娘子歌一首[并短歌]
題訓 河内かふちの大橋を独りゆく娘子を見てよめる歌一首、また短歌
原文 級照 片足羽河之 左丹塗 大橋之上従 紅 赤裳<數>十引 山藍用 <揩>衣服而 直獨 伊渡為兒者 若草乃 夫香有良武 橿實之 獨歟将宿 問巻乃 欲我妹之 家乃不知久
訓読 しな照る 片足羽川の さ丹塗りの 大橋の上ゆ 紅の 赤裳裾引き 山藍もち 摺れる衣着て ただ独り い渡らす子は 若草の 夫かあるらむ 橿の実の 独りか寝らむ 問はまくの 欲しき我妹が 家の知らなく
仮名 しなでる かたしはがはの さにぬりの おほはしのうへゆ くれなゐの あかもすそびき やまあゐもち すれるきぬきて ただひとり いわたらすこは わかくさの つまかあるらむ かしのみの ひとりかぬらむ とはまくの ほしきわぎもが いへのしらなく
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 摺 ->揩 [紀] / <>→數 [西(右書)][藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 大阪 美女 孤独 枕詞 地名
訓異 しなでる;しなてるや, かたしはがはの;かたあすはかはの, あかもすそびき;あかもすそひき, やまあゐもち;やまあゐもて, ただひとり;たたひとり, ほしきわぎもが;ほしきわきもか,
   
  09/1743
題詞 (見河内大橋獨去娘子歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 大橋之 頭尓家有者 心悲久 獨去兒尓 屋戸借申尾
訓読 大橋の頭に家あらばま悲しく独り行く子に宿貸さましを
仮名 おほはしの つめにいへあらば まかなしく ひとりゆくこに やどかさましを
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 大阪 美女 孤独 地名
訓異 つめにいへあらば;ほとりにいへあらは, やどかさましを;やとかさましを,
   
  09/1744
題詞 見武蔵小埼沼鴨作歌一首
題訓 武藏むざしの小埼をさきの沼の鴨を見てよめる歌一首
原文 前玉之 小埼乃沼尓 鴨曽翼霧 己尾尓 零置流霜乎 掃等尓有斯
訓読 埼玉の小埼の沼に鴨ぞ羽霧るおのが尾に降り置ける霜を掃ふとにあらし
仮名 さきたまの をさきのぬまに かもぞはねきる おのがをに ふりおけるしもを はらふとにあらし
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 埼玉 旋頭歌 地名
訓異 をさきのぬまに;をさきのいけに, かもぞはねきる;かもそはねきる, おのがをに;おのかみに,
   
  09/1745
題詞 那賀郡曝井歌一首
題訓 那賀の郡の曝井さらしゐの歌一首
原文 三栗乃 中尓向有 曝井之 不絶将通 従所尓妻毛我
訓読 三栗の那賀に向へる曝井の絶えず通はむそこに妻もが
仮名 みつぐりの なかにむかへる さらしゐの たえずかよはむ そこにつまもが
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 埼玉 羈旅 土地讃美 枕詞 地名
訓異 みつぐりの;みつくりの, たえずかよはむ;たへすかよはむ, そこにつまもが;そこにつまもか,
   
  09/1746
題詞 手綱濱歌一首
題訓 手綱たづなの浜の歌一首
原文 遠妻四 高尓有世婆 不知十方 手綱乃濱能 尋来名益
訓読 遠妻し多賀にありせば知らずとも手綱の浜の尋ね来なまし
仮名 とほづまし たかにありせば しらずとも たづなのはまの たづねきなまし
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城県 望郷 土地讃美 地名
訓異 とほづまし;とほつまし, たかにありせば;たかにありせは, しらずとも;しらすとも, たづなのはまの;たつなのはまの, たづねきなまし;たつねきなまし,
   
  09/1747
題詞 春三月諸卿大夫等下難波時歌二首[并短歌]
題訓 慶雲きやううむ三年みとせといふとし丙午ひのえうま春三月やよひ、諸もろもろの卿大夫等まへつきみたち、難波に下れる時の歌二首、また短歌
原文 白雲之 龍田山之 瀧上之 小鞍嶺尓 開乎為流 櫻花者 山高 風之不息者 春雨之 継而零者 最末枝者 落過去祁利 下枝尓 遺有花者 須臾者 落莫乱 草枕 客去君之 及還来
訓読 白雲の 龍田の山の 瀧の上の 小椋の嶺に 咲きををる 桜の花は 山高み 風しやまねば 春雨の 継ぎてし降れば ほつ枝は 散り過ぎにけり 下枝に 残れる花は しましくは 散りな乱ひそ 草枕 旅行く君が 帰り来るまで
仮名 しらくもの たつたのやまの たきのうへの をぐらのみねに さきををる さくらのはなは やまたかみ かぜしやまねば はるさめの つぎてしふれば ほつえは ちりすぎにけり しづえに のこれるはなは しましくは ちりなまがひそ くさまくら たびゆくきみが かへりくるまで
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 奈良 餞別 天平6年3月 年紀 難波 大阪 地名 枕詞 植物
訓異 をぐらのみねに;をくらのみねに, さきををる;さきをせる, かぜしやまねば;かせしやまねは, つぎてしふれば;つきてしふれは, ちりすぎにけり;ちりすきにけり, しづえに;したつえに, しましくは;しはらくは, ちりなまがひそ;ちりなみたれそ, たびゆくきみが;たひゆくきみか, かへりくるまで;かへりくるまて,
   
  09/1748
題詞 (春三月諸卿大夫等下難波時歌二首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 吾去者 七日<者>不過 龍田彦 勤此花乎 風尓莫落
訓読 我が行きは七日は過ぎじ龍田彦ゆめこの花を風にな散らし
仮名 わがゆきは なぬかはすぎじ たつたひこ ゆめこのはなを かぜになちらし
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→者 [藍][壬][類][紀]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 奈良 餞別 天平6年3月 年紀 難波 大阪 風神 鎮花 地名 植物
訓異 わがゆきは;わかゆきは, なぬかはすぎじ;なぬかはすきし, かぜになちらし;かせにちらすな,
   
  09/1749
題詞 (春三月諸卿大夫等下難波時歌二首[并短歌])
原文 白雲乃 立田山乎 夕晩尓 打越去者 瀧上之 櫻花者 開有者 落過祁里 含有者 可開継 許知<期>智乃 花之盛尓 雖不見<在> 君之三行者 今西應有
訓読 白雲の 龍田の山を 夕暮れに うち越え行けば 瀧の上の 桜の花は 咲きたるは 散り過ぎにけり ふふめるは 咲き継ぎぬべし こちごちの 花の盛りに あらずとも 君がみ行きは 今にしあるべし
仮名 しらくもの たつたのやまを ゆふぐれに うちこえゆけば たきのうへの さくらのはなは さきたるは ちりすぎにけり ふふめるは さきつぎぬべし こちごちの はなのさかりに あらずとも きみがみゆきは いまにしあるべし
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 斯→期 [藍][類][紀] / 左右→在 [新訓万葉集] (塙) 左右
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 奈良 餞別 天平6年3月 年紀 難波 大阪 風神 鎮花 地名 枕詞 植物
訓異 ゆふぐれに;ゆふくれに, うちこえゆけば;うちこえゆけは, ちりすぎにけり;ちりすきにけり, ふふめるは;つほめるは, さきつぎぬべし;さきつきぬへし, こちごちの;こちこちの, あらずとも;みなとまて, きみがみゆきは;きみかみゆきは, いまにしあるべし;いまにしあるへし,
   
  09/1750
題詞 (春三月諸卿大夫等下難波時歌二首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 暇有者 魚津柴比渡 向峯之 櫻花毛 折末思物緒
訓読 暇あらばなづさひ渡り向つ峰の桜の花も折らましものを
仮名 いとまあらば なづさひわたり むかつをの さくらのはなも をらましものを
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 奈良 餞別 天平6年3月 年紀 難波 大阪 風神 鎮花 植物
訓異 いとまあらば;いとまあらは, なづさひわたり;なつさひわたり,
   
  09/1751
題詞 難波經宿明日還来之時歌一首[并短歌]
題訓 難波に宿りて、明くる日還来かへる時の歌一首、また短歌
原文 嶋山乎 射徃廻流 河副乃 丘邊道従 昨日己曽 吾<超>来壮鹿 一夜耳 宿有之柄二 <峯>上之 櫻花者 瀧之瀬従 落堕而流 君之将見 其日左右庭 山下之 風莫吹登 打越而 名二負有社尓 風祭為奈
訓読 島山を い行き廻れる 川沿ひの 岡辺の道ゆ 昨日こそ 我が越え来しか 一夜のみ 寝たりしからに 峰の上の 桜の花は 瀧の瀬ゆ 散らひて流る 君が見む その日までには 山おろしの 風な吹きそと うち越えて 名に負へる杜に 風祭せな
仮名 しまやまを いゆきめぐれる かはそひの をかへのみちゆ きのふこそ わがこえこしか ひとよのみ ねたりしからに をのうへの さくらのはなは たきのせゆ ちらひてながる きみがみむ そのひまでには やまおろしの かぜなふきそと うちこえて なにおへるもりに かざまつりせな
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 越→超 [藍][紀] / 岑→峯 [藍][紀][矢][京]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 龍田 大阪 天平6年3月 年紀 風祭り 風神 地名 植物
訓異 いゆきめぐれる;いゆきもとほる, をかへのみちゆ;をかへのみちに, わがこえこしか;わかこえこしか, たきのせゆ;たきのせに, ちらひてながる;おちてなかれぬ, きみがみむ;きみかみむ, そのひまでには;そのひまてには, かぜなふきそと;かせなふきそと, うちこえて;うちこゆて, かざまつりせな;かさまつりせな,
   
  09/1752
題詞 (難波經宿明日還来之時歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 射行相乃 <坂>之踏本尓 開乎為流 櫻花乎 令見兒毛欲得
訓読 い行き逢ひの坂のふもとに咲きををる桜の花を見せむ子もがも
仮名 いゆきあひの さかのふもとに さきををる さくらのはなを みせむこもがも
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 / 坂上→坂 [藍][類][紀]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 龍田 大阪 天平6年3月 年紀 鎮花 地名 植物
訓異 さきををる;さきをせる, みせむこもがも;みせむこもかな,
   
  09/1753
題詞 検税使大伴卿登筑波山時歌一首[并短歌]
題訓 検税使けむぜいし大伴の卿の筑波山に登りたまへる時の歌一首、また短歌
原文 衣手 常陸國 二並 筑波乃山乎 欲見 君来座登 熱尓 汗可伎奈氣 木根取 嘯鳴登 <峯>上乎 <公>尓令見者 男神毛 許賜 女神毛 千羽日給而 時登無 雲居雨零 筑波嶺乎 清照 言借石 國之真保良乎 委曲尓 示賜者 歡登 紐之緒解而 家如 解而曽遊 打靡 春見麻之従者 夏草之 茂者雖在 今日之樂者
訓読 衣手 常陸の国の 二並ぶ 筑波の山を 見まく欲り 君来ませりと 暑けくに 汗かき嘆げ 木の根取り うそぶき登り 峰の上を 君に見すれば 男神も 許したまひ 女神も ちはひたまひて 時となく 雲居雨降る 筑波嶺を さやに照らして いふかりし 国のまほらを つばらかに 示したまへば 嬉しみと 紐の緒解きて 家のごと 解けてぞ遊ぶ うち靡く 春見ましゆは 夏草の 茂くはあれど 今日の楽しさ
仮名 ころもで ひたちのくにの ふたならぶ つくはのやまを みまくほり きみきませりと あつけくに あせかきなげ このねとり うそぶきのぼり をのうへを きみにみすれば をかみも ゆるしたまひ めかみも ちはひたまひて ときとなく くもゐあめふる つくはねを さやにてらして いふかりし くにのまほらを つばらかに しめしたまへば うれしみと ひものをときて いへのごと とけてぞあそぶ うちなびく はるみましゆは なつくさの しげくはあれど けふのたのしさ
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 岑→峯 [藍][類][紀][矢] / 君→公 [藍][類][紀][温]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城 国見 歌垣 大伴旅人 道足 地名 枕詞
訓異 ころもで;ころもての, ふたならぶ;ふたなみの, きみきませりと;きみかきますと, あつけくに;あつけきに, あせかきなげ;あせかきなけ, このねとり;きねとりする, うそぶきのぼり;うそふきのほり, きみにみすれば;きみにみすれは, をかみも;をのかみも, ゆるしたまひ;ゆるしたまへり, めかみも;めのかみも, くもゐあめふる;くもゐあめふり, さやにてらして;きよめてらして, いふかりし;こととひし, つばらかに;まくはしに, しめしたまへば;しめしたまへは, いへのごと;いへのこと, とけてぞあそぶ;ときてそあそふ, うちなびく;うちなひき, はるみましゆは;はるみましよりは, しげくはあれど;しけくはあれと,
   
  09/1754
題詞 (検税使大伴卿登筑波山時歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 今日尓 何如将及 筑波嶺 昔人之 将来其日毛
訓読 今日の日にいかにかしかむ筑波嶺に昔の人の来けむその日も
仮名 けふのひに いかにかしかむ つくはねに むかしのひとの きけむそのひも
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城 国見 歌垣 大伴旅人 道足 地名
訓異 いかにかしかむ;いかかをよはむ,
   
  09/1755
題詞 詠霍公鳥一首[并短歌]
題訓 霍公鳥ほととぎすを詠める歌一首、また短歌
原文 鴬之 生卵乃中尓 霍公鳥 獨所生而 己父尓 似而者不鳴 己母尓 似而者不鳴 宇能花乃 開有野邊従 飛翻 来鳴令響 橘之 花乎居令散 終日 雖喧聞吉 幣者将為 遐莫去 吾屋戸之 花橘尓 住度鳥
訓読 鴬の 卵の中に 霍公鳥 独り生れて 己が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯の花の 咲きたる野辺ゆ 飛び翔り 来鳴き響もし 橘の 花を居散らし ひねもすに 鳴けど聞きよし 賄はせむ 遠くな行きそ 我が宿の 花橘に 住みわたれ鳥
仮名 うぐひすの かひごのなかに ほととぎす ひとりうまれて ながちちに にてはなかず ながははに にてはなかず うのはなの さきたるのへゆ とびかけり きなきとよもし たちばなの はなをゐちらし ひねもすに なけどききよし まひはせむ とほくなゆきそ わがやどの はなたちばなに すみわたれとり
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 動物 植物
訓異 うぐひすの;うくひすの, かひごのなかに;かひこのなかに, ほととぎす;ほとときす, ながちちに;さかちちに, にてはなかず;にてはなかす, ながははに;さかははに, にてはなかず;にてはなかす, さきたるのへゆ;さけるのへより, とびかけり;とひかへり, きなきとよもし;きなきとよまし, たちばなの;たちはなの, なけどききよし;なけとききよし, わがやどの;わかやとの, はなたちばなに;はなたちはなに,
   
  09/1756
題詞 (詠霍公鳥一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 掻霧之 雨零夜乎 霍公鳥 鳴而去成 A怜其鳥
訓読 かき霧らし雨の降る夜を霍公鳥鳴きて行くなりあはれその鳥
仮名 かききらし あめのふるよを ほととぎす なきてゆくなり あはれそのとり
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 動物
訓異 ほととぎす;ほとときす,
   
  09/1757
題詞 登筑波山歌一首[并短歌]
題訓 筑波山に登る歌一首、また短歌
原文 草枕 客之憂乎 名草漏 事毛有<哉>跡 筑波嶺尓 登而見者 尾花落 師付之田井尓 鴈泣毛 寒来喧奴 新治乃 鳥羽能淡海毛 秋風尓 白浪立奴 筑波嶺乃 吉久乎見者 長氣尓 念積来之 憂者息沼
訓読 草枕 旅の憂へを 慰もる こともありやと 筑波嶺に 登りて見れば 尾花散る 師付の田居に 雁がねも 寒く来鳴きぬ 新治の 鳥羽の淡海も 秋風に 白波立ちぬ 筑波嶺の よけくを見れば 長き日に 思ひ積み来し 憂へはやみぬ
仮名 くさまくら たびのうれへを なぐさもる こともありやと つくはねに のぼりてみれば をばなちる しつくのたゐに かりがねも さむくきなきぬ にひばりの とばのあふみも あきかぜに しらなみたちぬ つくはねの よけくをみれば ながきけに おもひつみこし うれへはやみぬ
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 武→哉 [藍][類]
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城 山讃美 旅愁 東国 関東 枕詞 地名
訓異 たびのうれへを;たひのうれへを, なぐさもる;なくさむる, こともありやと;こともあらむと, のぼりてみれば;のほりてみれは, をばなちる;をはなちる, かりがねも;かりかねも, にひばりの;にひはりの, とばのあふみも;とはのあふみも, あきかぜに;あきかせに, よけくをみれば;よけくをみれは, ながきけに;なかきけに,
   
  09/1758
題詞 (登筑波山歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 筑波嶺乃 須蘇廻乃田井尓 秋田苅 妹許将遺 黄葉手折奈
訓読 筑波嶺の裾廻の田居に秋田刈る妹がり遣らむ黄葉手折らな
仮名 つくはねの すそみのたゐに あきたかる いもがりやらむ もみちたをらな
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城 旅愁 東国 関東 地名 植物
訓異 すそみのたゐに;すそわのたゐに, いもがりやらむ;いもかりやらむ, もみちたをらな;もみちたをりな,
   
  09/1759
題詞 登筑波嶺為嬥歌會日作歌一首[并短歌]
題訓 筑波嶺に登りてかがひする日ときよめる歌一首、また短歌
原文 鷲住 筑波乃山之 裳羽服津乃 其津乃上尓 率而 未通女<壮>士之 徃集 加賀布嬥歌尓 他妻尓 吾毛交牟 吾妻尓 他毛言問 此山乎 牛掃神之 従来 不禁行事叙 今日耳者 目串毛勿見 事毛咎莫 [嬥歌者東俗語曰賀我比]
訓読 鷲の住む 筑波の山の 裳羽服津の その津の上に 率ひて 娘子壮士の 行き集ひ かがふかがひに 人妻に 我も交らむ 我が妻に 人も言問へ この山を うしはく神の 昔より 禁めぬわざぞ 今日のみは めぐしもな見そ 事もとがむな [の歌は、東の俗語に賀我比と曰ふ]
仮名 わしのすむ つくはのやまの もはきつの そのつのうへに あどもひて をとめをとこの ゆきつどひ かがふかがひに ひとづまに われもまじらむ わがつまに ひともこととへ このやまを うしはくかみの むかしより いさめぬわざぞ けふのみは めぐしもなみそ こともとがむな
左注 (右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出)
左注訓 カガヒハ、東ノ俗語ニ曰ク、カガヒ。
校異 歌 [西] 謌 / 作歌 [西] 作謌 [西(訂正)] 作歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌 / 牡→壮 [元][藍][類] / 歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城 歌垣 東国 関東 地名
訓異 あどもひて;いさなひて, ゆきつどひ;ゆきつとひ, かがふかがひに;かかふかかひに, ひとづまに;ひとつまに, われもまじらむ;われもかよはむ, わがつまに;わかつまに, いさめぬわざぞ;いさめぬわさそ, めぐしもなみそ;めくしもみるな, こともとがむな;こともとかむな,
   
  09/1760
題詞 (登筑波嶺為嬥歌會日作歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 男神尓 雲立登 斯具礼零 沾通友 吾将反哉
訓読 男神に雲立ち上りしぐれ降り濡れ通るとも我れ帰らめや
仮名 をかみに くもたちのぼり しぐれふり ぬれとほるとも われかへらめや
左注 右件歌者高橋連蟲麻呂歌集中出
左注訓 右ノ件ノ歌ハ、高橋連蟲麻呂ノ歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌集 [西] 謌集 [西(訂正)] 歌集
事項 雑歌 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城 歌垣 東国 関東
訓異 をかみに;をのかみに, くもたちのぼり;くもたちのほり, しぐれふり;しくれふり,
   
  09/1761
題詞 詠鳴<鹿>一首[并短歌]
題訓 鳴鹿しかを詠める歌一首、また短歌
原文 三諸之 神邊山尓 立向 三垣乃山尓 秋芽子之 妻巻六跡 朝月夜 明巻鴦視 足日木乃 山響令動 喚立鳴毛
訓読 三諸の 神奈備山に たち向ふ 御垣の山に 秋萩の 妻をまかむと 朝月夜 明けまく惜しみ あしひきの 山彦響め 呼びたて鳴くも
仮名 みもろの かむなびやまに たちむかふ みかきのやまに あきはぎの つまをまかむと あさづくよ あけまくをしみ あしひきの やまびことよめ よびたてなくも
左注 (右件歌或云柿本朝臣人麻呂作)
校異 鹿謌→鹿 [元][藍][類][紀] / 歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂 異伝 飛鳥 秋 地名 植物 動物
訓異 かむなびやまに;かみなひやまに, たちむかふ;たちむかひ, あきはぎの;あきはきの, あさづくよ;あさつくよ, やまびことよめ;やまひことよみ, よびたてなくも;よひたちなくも,
   
  09/1762
題詞 (詠鳴<鹿>一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 明日之夕 不相有八方 足日木<乃> 山彦令動 呼立哭毛
訓読 明日の宵逢はざらめやもあしひきの山彦響め呼びたて鳴くも
仮名 あすのよひ あはざらめやも あしひきの やまびことよめ よびたてなくも
左注 右件歌或云柿本朝臣人麻呂作
左注訓 右ノ件ノ歌、或ヒト云ク、柿本朝臣人麻呂ガ作。
校異 歌 [西] 謌 / 之→乃 [元][藍][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 雑歌 作者:柿本人麻呂 異伝 飛鳥 秋 動物
訓異 あすのよひ;あすのよに, あはざらめやも;あはさらめやも, やまびことよめ;やまひことよみ, よびたてなくも;よひたちなくも,
   
  09/1763
題詞 沙弥女王歌一首
題訓 沙彌女王さみのおほきみの歌一首
原文 倉橋之 山乎高歟 夜牢尓 出来月之 片待難
訓読 倉橋の山を高みか夜隠りに出で来る月の片待ちかたき
仮名 くらはしの やまをたかみか よごもりに いでくるつきの かたまちかたき
左注 右一首間人宿祢大浦歌中既見 但末一句相換 亦作歌兩主不敢正指 因以累載
左注訓 右ノ一首、間人宿禰大浦ガ歌ノ中ニ既ニ見エタリ。 但末一句相換リ、亦作歌ノ両主、正指ニ敢ズ。因 テ以テ累ネ載ス。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 作歌 [西] 作謌 [西(訂正)] 作歌
事項 雑歌 作者:沙弥女王 間人大浦 異伝 飛鳥 地名
訓異 よごもりに;よこもりに, いでくるつきの;いてくるつきの,
   
  09/1764
題詞 七夕歌一首[并短歌]
題訓 七夕なぬかのよの歌一首、また短歌
原文 久堅乃 天漢尓 上瀬尓 珠橋渡之 下湍尓 船浮居 雨零而 風不吹登毛 風吹而 雨不落等物 裳不令濕 不息来益常 <玉>橋渡須
訓読 久方の 天の川に 上つ瀬に 玉橋渡し 下つ瀬に 舟浮け据ゑ 雨降りて 風吹かずとも 風吹きて 雨降らずとも 裳濡らさず やまず来ませと 玉橋渡す
仮名 ひさかたの あまのかはに かみつせに たまはしわたし しもつせに ふねうけすゑ あめふりて かぜふかずとも かぜふきて あめふらずとも もぬらさず やまずきませと たまはしわたす
左注 (右件歌或云中衛大将藤原北卿宅作也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 王→玉
事項 雑歌 作者:藤原房前 七夕 宴席
訓異 あまのかはに;あまのかはらに, かみつせに;のほりせに, しもつせに;くたりせに, ふねうけすゑ;ふねうけすゑて, かぜふかずとも;かせふかすとも, かぜふきて;かせふきて, あめふらずとも;あめふらすとも, もぬらさず;もぬらさす, やまずきませと;やまてきませと,
   
  09/1765
題詞 (七夕歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 天漢 霧立渡 且今日<々々々> 吾待君之 船出為等霜
訓読 天の川霧立ちわたる今日今日と我が待つ君し舟出すらしも
仮名 あまのがは きりたちわたる けふけふと わがまつきみし ふなですらしも
左注 右件歌或云中衛大将藤原北卿宅作也
左注訓 右ノ件ノ歌、或ヒト云ク、中衛大将藤原北卿宅ニテ 作メリト。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 且今日→々々々 [元][藍] / 歌 [西] 謌
事項 雑歌 作者:藤原房前 七夕 宴席
訓異 あまのがは;あまのかは, きりたちわたる;きりたちわたり, わがまつきみし;わかまつきみか, ふなですらしも;ふなてすらしも,
   
 

相聞

   
  09/1766
題詞 相聞 / 振田向宿祢退筑紫國時歌一首
題訓 相聞したしみうた  振田向宿禰ふるのたむけのすくねが筑紫国に退まかる時の歌一首
原文 吾妹兒者 久志呂尓有奈武 左手乃 吾奥手<二> 纒而去麻師乎
訓読 我妹子は釧にあらなむ左手の我が奥の手に巻きて去なましを
仮名 わぎもこは くしろにあらなむ ひだりての わがおくのてに まきていなましを
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 尓→二 [元][藍][類][紀]
事項 相聞 作者:振田向 恋情 福岡 餞別 離別
訓異 わぎもこは;わきもこは, ひだりての;ひたりての, わがおくのてに;わかおくのてに,
   
  09/1767
題詞 抜氣大首任筑紫時娶豊前國娘子紐兒作歌三首
題訓 拔氣大首ぬかけのおほおびとが筑紫に任まけらるる時、豊前国とよくにのみちのくちの娘子紐児ひものこに娶あひてよめる歌三首
原文 豊國乃 加波流波吾宅 紐兒尓 伊都我里座者 革流波吾家
訓読 豊国の香春は我家紐児にいつがり居れば香春は我家
仮名 とよくにの かはるはわぎへ ひものこに いつがりをれば かはるはわぎへ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:抜氣大首 豊前國娘子紐兒 福岡 恋愛 地名
訓異 かはるはわぎへ;かはるはわきへ, いつがりをれば;いつかりませは, かはるはわぎへ;かはるはわきへ,
   
  09/1768
題詞 (抜氣大首任筑紫時娶豊前國娘子紐兒作歌三首)
原文 石上 振乃早田乃 穂尓波不出 心中尓 戀流<比>日
訓読 石上布留の早稲田の穂には出でず心のうちに恋ふるこのころ
仮名 いそのかみ ふるのわさだの ほにはいでず こころのうちに こふるこのころ
左注 なし
校異 此→比 [元][類][紀][温]
事項 相聞 作者:抜氣大首 豊前國娘子紐兒 恋情 福岡 地名
訓異 ふるのわさだの;ふるのわさたの, ほにはいでず;ほにはいてす, こふるこのころ;こるるこのころ,
   
  09/1769
題詞 (抜氣大首任筑紫時娶豊前國娘子紐兒作歌三首)
原文 如是耳志 戀思度者 霊剋 命毛吾波 惜雲奈師
訓読 かくのみし恋ひしわたればたまきはる命も我れは惜しけくもなし
仮名 かくのみし こひしわたれば たまきはる いのちもわれは をしけくもなし
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:抜氣大首 豊前國娘子紐兒 恋情 枕詞
訓異 こひしわたれば;こひしわたらは,
   
  09/1770
題詞 大神大夫任長門守時集三輪河邊宴歌二首
題訓 大神おほみわの大夫まへつきみが長門守に任けらるる時、三輪河の辺ほとりに集ひて宴する歌二首
原文 三諸乃 <神>能於婆勢流 泊瀬河 水尾之不断者 吾忘礼米也
訓読 みもろの神の帯ばせる泊瀬川水脈し絶えずは我れ忘れめや
仮名 みもろの かみのおばせる はつせがは みをしたえずは われわすれめや
左注 (右二首古集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→神 [西(右書)][元][類][古][紀]
事項 相聞 三輪高市麻呂 古集 餞別 宴席 地名
訓異 かみのおばせる;かみのおはせる, はつせがは;はつせかは, みをしたえずは;みをのたえすは,
   
  09/1771
題詞 (大神大夫任長門守時集三輪河邊宴歌二首)
原文 於久礼居而 吾波也将戀 春霞 多奈妣久山乎 君之越去者
訓読 後れ居て我れはや恋ひむ春霞たなびく山を君が越え去なば
仮名 おくれゐて あれはやこひむ はるかすみ たなびくやまを きみがこえいなば
左注 右二首古集中出
左注訓 右ノ二首、古歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 集 [西(右書)] 謌集
事項 相聞 三輪高市麻呂 古集 餞別 宴席 地名
訓異 あれはやこひむ;われはやこひむ, たなびくやまを;たなひくやまを, きみがこえいなば;きみかこえいなは,
   
  09/1772
題詞 大神大夫任筑紫國時阿倍大夫作歌一首
題訓 大神の大夫が筑紫国に任けらるる時、阿倍の大夫がよめる歌一首
原文 於久礼居而 吾者哉将戀 稲見野乃 秋芽子見都津 去奈武子故尓
訓読 後れ居て我れはや恋ひむ印南野の秋萩見つつ去なむ子故に
仮名 おくれゐて あれはやこひむ いなみのの あきはぎみつつ いなむこゆゑに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 三輪高市麻呂 作者:阿倍大夫 阿倍広庭 餞別 宴席 地名 植物
訓異 あれはやこひむ;われはやこひむ, あきはぎみつつ;あきはきみつつ, いなむこゆゑに;いなむこゆへに,
   
  09/1773
題詞 獻弓削皇子歌一首
題訓 弓削皇子に献れる歌一首
原文 神南備 神依<板>尓 為杉乃 念母不過 戀之茂尓
訓読 神なびの神寄せ板にする杉の思ひも過ぎず恋の繁きに
仮名 かむなびの かみよせいたに するすぎの おもひもすぎず こひのしげきに
左注 (右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 杉→板 [西(右書)][元][類][紀]
事項 相聞 作者:柿本人麻呂歌集 献呈歌 弓削皇子 恋情 非略体 植物 地名
訓異 かむなびの;かみなひの, かみよせいたに;かみよりいたに, するすぎの;するすきの, おもひもすぎず;おもひもすきす, こひのしげきに;こひのしけきに,
   
  09/1774
題詞 獻舎人皇子歌二首
題訓 舎人皇子に献れる歌二首
原文 垂乳根乃 母之命乃 言尓有者 年緒長 憑過武也
訓読 たらちねの母の命の言にあらば年の緒長く頼め過ぎむや
仮名 たらちねの ははのみことの ことにあらば としのをながく たのめすぎむや
左注 (右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:柿本人麻呂歌集 舎人皇子 献呈歌 恋情 女歌 非略体 枕詞
訓異 ことにあらば;ことにあらは, としのをながく;としのをなかく, たのめすぎむや;たのみすきむや,
   
  09/1775
題詞 (獻舎人皇子歌二首)
原文 泊瀬河 夕渡来而 我妹兒何 家門 近舂二家里
訓読 泊瀬川夕渡り来て我妹子が家の金門に近づきにけり
仮名 はつせがは ゆふわたりきて わぎもこが いへのかなとに ちかづきにけり
左注 右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ三首、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 なし
事項 相聞 作者:柿本人麻呂歌集 舎人皇子 献呈歌 恋情 奈良 川渡り 非略体 地名
訓異 はつせがは;はつせかは, わぎもこが;わきもこか, いへのかなとに;いへのみかとは, ちかづきにけり;ちかつきにけり,
   
  09/1776
題詞 石川大夫遷任上京時播磨娘子贈歌二首
題訓 石川の大夫が任つかさを遷されて京みやこに上る時、播磨娘子が贈れる歌二首
原文 絶等寸笶 山之<峯>上乃 櫻花 将開春部者 君<之>将思
訓読 絶等寸の山の峰の上の桜花咲かむ春へは君し偲はむ
仮名 たゆらきの やまのをのへの さくらばな さかむはるへは きみをしのはむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 岑→峯 [元][類][紀][温] / 乎→之 [元][藍]
事項 相聞 作者:石川君子 播磨娘子 餞別 別悞 姫路 兵庫 枕詞 植物
訓異 さくらばな;さくらはな, きみをしのはむ;きみをおもはむ,
   
  09/1777
題詞 (石川大夫遷任上京時播磨娘子贈歌二首)
原文 君無者 奈何身将装餝 匣有 黄楊之小梳毛 将取跡毛不念
訓読 君なくはなぞ身装はむ櫛笥なる黄楊の小櫛も取らむとも思はず
仮名 きみなくは なぞみよそはむ くしげなる つげのをぐしも とらむともおもはず
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:石川君子 播磨娘子 餞別 別悞 姫路 兵庫
訓異 なぞみよそはむ;なそみかさらむ, くしげなる;くしけなる, つげのをぐしも;つけのをくしも, とらむともおもはず;とらむともはす,
   
  09/1778
題詞 藤井連遷任上京時娘子贈歌一首
題訓 藤井連ふぢゐのむらじが任を遷されて京に上る時、娘子が贈れる歌一首
原文 従明日者 吾波孤悲牟奈 名欲<山 石>踏平之 君我越去者
訓読 明日よりは我れは恋ひむな名欲山岩踏み平し君が越え去なば
仮名 あすよりは あれはこひむな なほりやま いはふみならし きみがこえいなば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 岩→山石 [西(訂正)][元][藍][類]
事項 相聞 作者:娘子 遊行女婦 藤井広成 藤井大成 餞別 別悞 大分県 地名
訓異 あれはこひむな;われはこひむな, きみがこえいなば;きみかこえいなは,
   
  09/1779
題詞 藤井連和歌一首
題訓 藤井連が和ふる歌一首
原文 命乎志 麻勢久可願 名欲山 石踐平之 復亦毛来武
訓読 命をしま幸くもがも名欲山岩踏み平しまたまたも来む
仮名 いのちをし まさきくもがも なほりやま いはふみならし またまたもこむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:藤井広成 藤井大成 大分県 餞別 再会 娘子 地名
訓異 まさきくもがも;ませひさしかれ, いはふみならし;いしふみならし,
   
  09/1780
題詞 鹿嶋郡苅野橋別大伴卿歌一首[并短歌]
題訓 鹿島郡苅野橋かるぬのはしにて、大伴の卿に別るる歌一首、また短歌
原文 <牡>牛乃 三宅之<滷>尓 指向 鹿嶋之埼尓 狭丹塗之 小船儲 玉纒之 小梶繁貫 夕塩之 満乃登等美尓 三船子呼 阿騰母比立而 喚立而 三船出者 濱毛勢尓 後奈<美>居而 反側 戀香裳将居 足垂之 泣耳八将哭 海上之 其津乎指而 君之己藝歸者
訓読 ことひ牛の 三宅の潟に さし向ふ 鹿島の崎に さ丹塗りの 小舟を設け 玉巻きの 小楫繁貫き 夕潮の 満ちのとどみに 御船子を 率ひたてて 呼びたてて 御船出でなば 浜も狭に 後れ並み居て こいまろび 恋ひかも居らむ 足すりし 音のみや泣かむ 海上の その津を指して 君が漕ぎ行かば
仮名 ことひうしの みやけのかたに さしむかふ かしまのさきに さにぬりの をぶねをまけ たままきの をかぢしじぬき ゆふしほの みちのとどみに みふなこを あどもひたてて よびたてて みふねいでなば はまもせに おくれなみゐて こいまろび こひかもをらむ あしすりし ねのみやなかむ うなかみの そのつをさして きみがこぎゆかば
左注 (右二首高橋連蟲麻呂之歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 牝→牡 [元][藍][紀] / 酒→滷 [万葉考] / <>→美 [万葉略解]
事項 相聞 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城県 鹿島 大伴旅人 大伴道足 送別歌 餞別 宴席 地名
訓異 みやけのかたに;みやけのさけに, をぶねをまけ;をふねまうけて, をかぢしじぬき;をかちししぬき, みちのとどみに;みちのととみに, あどもひたてて;あともひたてて, よびたてて;よひたてて, みふねいでなば;みふねいてなは, おくれなみゐて;おくれなをりて, こいまろび;こひまろひ, きみがこぎゆかば;きみかこきいなは,
   
  09/1781
題詞 (鹿嶋郡苅野橋別大伴卿歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 海津路乃 名木名六時毛 渡七六 加九多都波二 船出可為八
訓読 海つ道のなぎなむ時も渡らなむかく立つ波に船出すべしや
仮名 うみつぢの なぎなむときも わたらなむ かくたつなみに ふなですべしや
左注 右二首高橋連蟲麻呂之歌集中出
左注訓 右ノ二首、高橋連蟲麻呂ノ歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌集 [元][類][紀](塙) 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:高橋虫麻呂歌集 茨城県 鹿島 大伴旅人 大伴道足 送別歌 餞別 宴席 地名
訓異 うみつぢの;うみつちの, なぎなむときも;なきなむときも, ふなですべしや;ふなてかすへしや,
   
  09/1782
題詞 与妻歌一首
題訓 妻めに与おくれる歌一首
原文 雪己曽波 春日消良米 心佐閇 消失多列夜 言母不徃来
訓読 雪こそば春日消ゆらめ心さへ消え失せたれや言も通はぬ
仮名 ゆきこそば はるひきゆらめ こころさへ きえうせたれや こともかよはぬ
左注 (右二首柿本朝臣人麻呂之歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:柿本人麻呂歌集 恨牫歌 妻 非略体
訓異 ゆきこそば;ゆきこそは,
   
  09/1783
題詞 妻和歌一首
題訓 妻が和ふる歌一首
原文 松反 四臂而有八羽 三栗 中上不来 麻呂等言八子
訓読 松返りしひてあれやは三栗の中上り来ぬ麻呂といふ奴
仮名 まつがへり しひてあれやは みつぐりの なかのぼりこぬ まろといふやつこ
左注 右二首柿本朝臣人麻呂之歌集中出
左注訓 右ノ二首、柿本朝臣人麻呂ノ歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:柿本人麻呂歌集 戯歌 妻 夫 非略体 枕詞
訓異 まつがへり;まつかへり, しひてあれやは;しひにてあれやは, みつぐりの;みつくりの, なかのぼりこぬ;なかにゐこぬ, まろといふやつこ;まろといははこ,
   
  09/1784
題詞 贈入唐使歌一首
題訓 入唐使もろこしにつかはすつかひに贈れる歌一首
原文 海若之 何神乎 齋祈者歟 徃方毛来方毛 <船>之早兼
訓読 海神のいづれの神を祈らばか行くさも来さも船の早けむ
仮名 わたつみの いづれのかみを いのらばか ゆくさもくさも ふねのはやけむ
左注 右一首渡海年<記>未詳
左注訓 右ノ一首、渡海ノ年紀、詳ラカナラズ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 舶→船 [元][藍][紀] / 紀→記 [元][類]
事項 相聞 遣唐使 餞別 送別 無事 安全 贈答
訓異 いづれのかみを;いつれのかみを, いのらばか;たむけはか,
   
  09/1785
題詞 神龜五年戊辰秋八月歌一首[并短歌]
題訓 神亀五年いつとせといふとし戊辰つちのえたつ秋八月はつきによめる歌一首、また短歌
原文 人跡成 事者難乎 和久良婆尓 成吾身者 死毛生毛 <公>之随意常 念乍 有之間尓 虚蝉乃 代人有者 大王之 御命恐美 天離 夷治尓登 朝鳥之 朝立為管 群鳥之 群立行者 留居而 吾者将戀奈 不見久有者
訓読 人となる ことはかたきを わくらばに なれる我が身は 死にも生きも 君がまにまと 思ひつつ ありし間に うつせみの 世の人なれば 大君の 命畏み 天離る 鄙治めにと 朝鳥の 朝立ちしつつ 群鳥の 群立ち行かば 留まり居て 我れは恋ひむな 見ず久ならば
仮名 ひととなる ことはかたきを わくらばに なれるあがみは しにもいきも きみがまにまと おもひつつ ありしあひだに うつせみの よのひとなれば おほきみの みことかしこみ あまざかる ひなをさめにと あさとりの あさだちしつつ むらとりの むらだちゆかば とまりゐて あれはこひむな みずひさならば
左注 (右件五首笠朝臣金村之歌中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 / 君→公 [元][藍][紀][温]
事項 相聞 作者:笠金村歌集 神亀5年8月 年紀 女歌 送別 枕詞
訓異 わくらばに;わくらはに, なれるあがみは;なれるわかみは, きみがまにまと;きみかままにと, ありしあひだに;ありしあひたに, よのひとなれば;よのひとなれは, あまざかる;あまさかる, あさだちしつつ;あさたてしつつ, むらだちゆかば;むらたちゆけは, あれはこひむな;われはこひむな, みずひさならば;みてひさにあらは,
   
  09/1786
題詞 (神龜五年戊辰秋八月歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 三越道之 雪零山乎 将越日者 留有吾乎 懸而小竹葉背
訓読 み越道の雪降る山を越えむ日は留まれる我れを懸けて偲はせ
仮名 みこしぢの ゆきふるやまを こえむひは とまれるわれを かけてしのはせ
左注 (右件五首笠朝臣金村之歌中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌
事項 相聞 作者:笠金村歌集 神亀5年8月 年紀 女歌 送別 地名 餞別
訓異 みこしぢの;みこしちの,
   
  09/1787
題詞 天平元年己巳冬十二月歌一首[并短歌]
題訓 天平元年はじめのとし己巳つちのとみ冬十二月しはすによめる歌一首、また短歌
原文 虚蝉乃 世人有者 大王之 御命恐弥 礒城嶋能 日本國乃 石上 振里尓 紐不解 丸寐乎為者 吾衣有 服者奈礼奴 毎見 戀者雖益 色二山上復有山者 一可知美 冬夜之 明毛不得呼 五十母不宿二 吾歯曽戀流 妹之直香仁
訓読 うつせみの 世の人なれば 大君の 命畏み 敷島の 大和の国の 石上 布留の里に 紐解かず 丸寝をすれば 我が着たる 衣はなれぬ 見るごとに 恋はまされど 色に出でば 人知りぬべみ 冬の夜の 明かしもえぬを 寐も寝ずに 我れはぞ恋ふる 妹が直香に
仮名 うつせみの よのひとなれば おほきみの みことかしこみ しきしまの やまとのくにの いそのかみ ふるのさとに ひもとかず まろねをすれば あがきたる ころもはなれぬ みるごとに こひはまされど いろにいでば ひとしりぬべみ ふゆのよの あかしもえぬを いもねずに あれはぞこふる いもがただかに
左注 (右件五首笠朝臣金村之歌中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(別筆訂正)] 短歌 / 色 [西(右書)] 色色
事項 相聞 作者:笠金村歌集 天平1年12月 年紀 天理 奈良 羈旅 恋情 地名 枕詞
訓異 よのひとなれば;よのひとなれは, ふるのさとに;ふりにしさとに, ひもとかず;ひもとかす, まろねをすれば;まろねをすれは, あがきたる;わかきたる, みるごとに;みることに, こひはまされど;こひはまされと, いろにいでば;いろいろに,やまのへにまたあるやまは, ひとしりぬべみ;ひとしりぬへみ, いもねずに;いもねすに, あれはぞこふる;われはそこふる, いもがただかに;いもかたたかに,
   
  09/1788
題詞 (天平元年己巳冬十二月歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 振山従 直見渡 京二曽 寐不宿戀流 遠不有尓
訓読 布留山ゆ直に見わたす都にぞ寐も寝ず恋ふる遠くあらなくに
仮名 ふるやまゆ ただにみわたす みやこにぞ いもねずこふる とほくあらなくに
左注 (右件五首笠朝臣金村之歌中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:笠金村歌集 天平1年12月 年紀 天理 奈良 羈旅 恋情 地名
訓異 ふるやまゆ;ふるやまに, ただにみわたす;たたにみわたす, みやこにぞ;みやこにそ, いもねずこふる;いねすてこるる, とほくあらなくに;とほからなくに,
   
  09/1789
題詞 ((天平元年己巳冬十二月歌一首[并短歌])反歌)
原文 吾妹兒之 結手師紐乎 将解八方 絶者絶十方 直二相左右二
訓読 我妹子が結ひてし紐を解かめやも絶えば絶ゆとも直に逢ふまでに
仮名 わぎもこが ゆひてしひもを とかめやも たえばたゆとも ただにあふまでに
左注 右件五首笠朝臣金村之歌中出
左注訓 右ノ件ノ五首、笠朝臣金村ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:笠金村歌集 天平1年12月 年紀 天理 奈良 羈旅 恋情
訓異 わぎもこが;わきもこか, たえばたゆとも;たえはたゆとも, ただにあふまでに;たたにあふまてに,
   
  09/1790
題詞 天平五年癸酉遣唐使舶發難波入海之時親母贈子歌一首[并短歌]
題訓 天平五年癸酉みづのととり遣唐使もろこしにつかはすつかひの船、難波よりいづる時、親母ははが子に贈れる歌一首、また短歌
原文 秋芽子乎 妻問鹿許曽 一子二 子持有跡五十戸 鹿兒自物 吾獨子之 草枕 客二師徃者 竹珠乎 密貫垂 齋戸尓 木綿取四手而 忌日管 吾思吾子 真好去有欲得
訓読 秋萩を 妻どふ鹿こそ 独り子に 子持てりといへ 鹿子じもの 我が独り子の 草枕 旅にし行けば 竹玉を 繁に貫き垂れ 斎瓮に 木綿取り垂でて 斎ひつつ 我が思ふ我子 ま幸くありこそ
仮名 あきはぎを つまどふかこそ ひとりこに こもてりといへ かこじもの あがひとりこの くさまくら たびにしゆけば たかたまを しじにぬきたれ いはひへに ゆふとりしでて いはひつつ あがおもふあこ まさきくありこそ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 相聞 作者:遣唐使母 母親 愛情 送別 羈旅 餞別 安全 天平5年 年紀 植物 動物 枕詞
訓異 あきはぎを;あきはきを, つまどふかこそ;つまとふかこそ, ひとりこに;ひとつこふたつ, こもてりといへ;こもたりといへ, かこじもの;かこしもの, あがひとりこの;わかひとりこの, たびにしゆけば;たひにしゆけは, しじにぬきたれ;ししにぬきたれ, ゆふとりしでて;ゆふとりしてて, あがおもふあこ;わかおおふわかこ, まさきくありこそ;まよしこきてかなな,
   
  09/1791
題詞 (天平五年癸酉遣唐使舶發難波入海之時親母贈子歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 客人之 宿将為野尓 霜降者 吾子羽褁 天乃鶴群
訓読 旅人の宿りせむ野に霜降らば我が子羽ぐくめ天の鶴群
仮名 たびひとの やどりせむのに しもふらば あがこはぐくめ あめのたづむら
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:遣唐使母 母親 愛情 送別 羈旅 餞別 安全 天平5年 年紀 動物
訓異 たびひとの;たひひとの, やどりせむのに;やとりせむのに, しもふらば;しもふらは, あがこはぐくめ;わかこはくくめ, あめのたづむら;あまのつるむら,
   
  09/1792
題詞 思娘子作歌一首[并短歌]
題訓 娘子を思しぬひてよめる歌一首、また短歌
原文 白玉之 人乃其名矣 中々二 辞緒<下>延 不遇日之 數多過者 戀日之 累行者 思遣 田時乎白土 肝向 心摧而 珠手次 不懸時無 口不息 吾戀兒矣 玉釧 手尓取持而 真十鏡 直目尓不視者 下桧山 下逝水乃 上丹不出 吾念情 安虚歟毛
訓読 白玉の 人のその名を なかなかに 言を下延へ 逢はぬ日の 数多く過ぐれば 恋ふる日の 重なりゆけば 思ひ遣る たどきを知らに 肝向ふ 心砕けて 玉たすき 懸けぬ時なく 口やまず 我が恋ふる子を 玉釧 手に取り持ちて まそ鏡 直目に見ねば したひ山 下行く水の 上に出でず 我が思ふ心 安きそらかも
仮名 しらたまの ひとのそのなを なかなかに ことをしたはへ あはぬひの まねくすぐれば こふるひの かさなりゆけば おもひやる たどきをしらに きもむかふ こころくだけて たまたすき かけぬときなく くちやまず あがこふるこを たまくしろ てにとりもちて まそかがみ ただめにみねば したひやま したゆくみづの うへにいでず あがおもふこころ やすきそらかも
左注 (右三首田邊福麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 不→下 [元][藍][紀]
事項 相聞 作者:田辺福麻呂歌集 恋情 枕詞
訓異 ことをしたはへ;ことのをのへす, まねくすぐれば;あまたすくれは, かさなりゆけば;かさなりゆけは, たどきをしらに;たときをしらに, きもむかふ;きもむかひ, こころくだけて;こころくたけて, くちやまず;くちやます, あがこふるこを;わかこふるこを, たまくしろ;たまたまき, まそかがみ;まそかかみ, ただめにみねば;たためにみすは, したゆくみづの;したゆくみつの, うへにいでず;うへにいてす, あがおもふこころ;わかなもふこころ,
   
  09/1793
題詞 (思娘子作歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 垣保成 人之横辞 繁香裳 不遭日數多 月乃經良武
訓読 垣ほなす人の横言繁みかも逢はぬ日数多く月の経ぬらむ
仮名 かきほなす ひとのよここと しげみかも あはぬひまねく つきのへぬらむ
左注 (右三首田邊福麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:田辺福麻呂歌集 恋情 尫柜蹋
訓異 しげみかも;しけきかも, あはぬひまねく;あはぬひあまた,
   
  09/1794
題詞 ((思娘子作歌一首[并短歌])反歌)
原文 立易 月重而 難不遇 核不所忘 面影思天
訓読 たち変り月重なりて逢はねどもさね忘らえず面影にして
仮名 たちかはり つきかさなりて あはねども さねわすらえず おもかげにして
左注 右三首田邊福麻呂之歌集出
左注訓 右ノ三首、田邊福麻呂ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:田辺福麻呂歌集 恋情
訓異 たちかはり;たちかはる, あはねども;あはされと, さねわすらえず;さねわすられす, おもかげにして;おもかけにして,
   
 

挽歌

   
  09/1795
題詞 挽歌 / 宇治若郎子宮所歌一首
題訓 挽歌かなしみうた  宇治若郎子うぢのわきいらつこの宮所の歌一首
原文 妹等許 今木乃嶺 茂立 嬬待木者 古人見祁牟
訓読 妹らがり今木の嶺に茂り立つ嬬松の木は古人見けむ
仮名 いもらがり いまきのみねに しげりたつ つままつのきは ふるひとみけむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 宇治若郎子 京都 宇治 植物
訓異 いもらがり;いもらかり, しげりたつ;なみたてる,
   
  09/1796
題詞 紀伊國作歌四首
題訓 紀伊国にてよめる歌四首
原文 黄葉之 過去子等 携 遊礒麻 見者悲裳
訓読 黄葉の過ぎにし子らと携はり遊びし礒を見れば悲しも
仮名 もみちばの すぎにしこらと たづさはり あそびしいそを みればかなしも
左注 (右五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 作者:柿本人麻呂歌集 紀伊 和歌山 行幸 恋情 亡妻 非略体 地名
訓異 もみちばの;もみちはの, すぎにしこらと;すきゆくこらと, たづさはり;あつさひて, あそびしいそを;あそひしいそま, みればかなしも;みれはかなしも,
   
  09/1797
題詞 (紀伊國作歌四首)
原文 塩氣立 荒礒丹者雖在 徃水之 過去妹之 方見等曽来
訓読 潮気立つ荒礒にはあれど行く水の過ぎにし妹が形見とぞ来し
仮名 しほけたつ ありそにはあれど ゆくみづの すぎにしいもが かたみとぞこし
左注 (右五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 挽歌 作者:柿本人麻呂歌集 紀伊 和歌山 行幸 悲嘆 亡妻 非略体 地名
訓異 ありそにはあれど;あらそにはあと, ゆくみづの;ゆくみつの, すぎにしいもが;すきゆくいもか, かたみとぞこし;かたみとそくる,
   
  09/1798
題詞 (紀伊國作歌四首)
原文 古家丹 妹等吾見 黒玉之 久漏牛方乎 見佐府<下>
訓読 いにしへに妹と我が見しぬばたまの黒牛潟を見れば寂しも
仮名 いにしへに いもとわがみし ぬばたまの くろうしがたを みればさぶしも
左注 (右五首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
校異 下玉→下 [西(朱訂正)][元][藍][類]
事項 挽歌 作者:柿本人麻呂歌集 紀伊 和歌山 行幸 悲嘆 恋情 亡妻 非略体 地名
訓異 いにしへに;ふるいへに, いもとわがみし;いもとわかあし, ぬばたまの;ぬはたまの, くろうしがたを;くろうしかたを, みればさぶしも;みれはさふしも,
   
  09/1799
題詞 (紀伊國作歌四首)
原文 <玉>津嶋 礒之裏<未>之 真名<子>仁文 尓保比去名 妹觸險
訓読 玉津島礒の浦廻の真砂にもにほひて行かな妹も触れけむ
仮名 たまつしま いそのうらみの まなごにも にほひてゆかな いももふれけむ
左注 右五首柿本朝臣人麻呂之歌集出
左注訓 右ノ四首、柿本朝臣人麿ノ歌集ニ出ヅ。
校異 <>→玉 [西(左書)][元][藍][類] / 末→未 [元] / <>→子 [紀] / 比 (塙) 比弖 (楓) 比尓
事項 挽歌 作者:柿本人麻呂歌集 紀伊 和歌山 行幸 悲嘆 恋情 亡妻 非略体 地名
訓異 いそのうらみの;いそのうらまの, まなごにも;まなこにも,
   
  09/1800
題詞 過足柄坂見死人作歌一首
題訓 足柄の坂を過ぐるとき、死みまかれる人を見てよめる歌一首
原文 小垣内之 麻矣引干 妹名根之 作服異六 白細乃 紐緒毛不解 一重結 帶矣三重結 <苦>伎尓 仕奉而 今谷裳 國尓退而 父妣毛 妻矣毛将見跡 思乍 徃祁牟君者 鳥鳴 東國能 恐耶 神之三坂尓 和霊乃 服寒等丹 烏玉乃 髪者乱而 邦問跡 國矣毛不告 家問跡 家矣毛不云 益荒夫乃 去能進尓 此間偃有
訓読 小垣内の 麻を引き干し 妹なねが 作り着せけむ 白栲の 紐をも解かず 一重結ふ 帯を三重結ひ 苦しきに 仕へ奉りて 今だにも 国に罷りて 父母も 妻をも見むと 思ひつつ 行きけむ君は 鶏が鳴く 東の国の 畏きや 神の御坂に 和妙の 衣寒らに ぬばたまの 髪は乱れて 国問へど 国をも告らず 家問へど 家をも言はず ますらをの 行きのまにまに ここに臥やせる
仮名 をかきつの あさをひきほし いもなねが つくりきせけむ しろたへの ひもをもとかず ひとへゆふ おびをみへゆひ くるしきに つかへまつりて いまだにも くににまかりて ちちははも つまをもみむと おもひつつ ゆきけむきみは とりがなく あづまのくにの かしこきや かみのみさかに にきたへの ころもさむらに ぬばたまの かみはみだれて くにとへど くにをものらず いへとへど いへをもいはず ますらをの ゆきのまにまに ここにこやせる
左注 (右七首田邊福麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 苦侍→苦 [元][藍][類][紀]
事項 挽歌 作者:田辺福麻呂歌集 行路死人 箱根 静岡 羈旅 鎮魂 地名 枕詞
訓異 をかきつの;をかきうちの, いもなねが;いもなねの, ひもをもとかず;ひもをもとかす, おびをみへゆひ;おひをみへゆひ, いまだにも;いまたにも, くににまかりて;くににかへりて, とりがなく;とりかなく, あづまのくにの;あつまのくにの, かしこきや;かしこみや, にきたへの;にきたまの, ころもさむらに;ころものむらに, ぬばたまの;ぬはたまの, かみはみだれて;かみはみたれて, くにとへど;くにとへと, くにをものらず;くにをもつけす, いへとへど;いへとへと, いへをもいはず;いへをもいはす, ゆきのまにまに;ゆきのすすみに, ここにこやせる;ここにふしたり,
   
  09/1801
題詞 過葦屋處女墓時作歌一首[并短歌]
題訓 葦屋処女あしやをとめが墓を過ぐる時よめる歌一首、また短歌
原文 古之 益荒丁子 各競 妻問為祁牟 葦屋乃 菟名日處女乃 奥城矣 吾立見者 永世乃 語尓為乍 後人 偲尓世武等 玉桙乃 道邊近 磐構 作冢矣 天雲乃 退部乃限 此道矣 去人毎 行因 射立嘆日 或人者 啼尓毛哭乍 語嗣 偲継来 處女等賀 奥城所 吾并 見者悲喪 古思者
訓読 古への ますら壮士の 相競ひ 妻問ひしけむ 葦屋の 菟原娘子の 奥城を 我が立ち見れば 長き世の 語りにしつつ 後人の 偲ひにせむと 玉桙の 道の辺近く 岩構へ 造れる塚を 天雲の そくへの極み この道を 行く人ごとに 行き寄りて い立ち嘆かひ ある人は 哭にも泣きつつ 語り継ぎ 偲ひ継ぎくる 娘子らが 奥城処 我れさへに 見れば悲しも 古へ思へば
仮名 いにしへの ますらをとこの あひきほひ つまどひしけむ あしのやの うなひをとめの おくつきを わがたちみれば ながきよの かたりにしつつ のちひとの しのひにせむと たまほこの みちののへちかく いはかまへ つくれるつかを あまくもの そくへのきはみ このみちを ゆくひとごとに ゆきよりて いたちなげかひ あるひとは ねにもなきつつ かたりつぎ しのひつぎくる をとめらが おくつきところ われさへに みればかなしも いにしへおもへば
左注 (右七首田邊福麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 挽歌 作者:田辺福麻呂歌集 兵庫県 芦屋 妻争媿 鎮魂 伝説 尫渧媿娘子 地名
訓異 ますらをとこの;ますらをのこの, つまどひしけむ;つまとひしけむ, わがたちみれば;わかたちみれは, ながきよの;なかきよの, のちひとの;のちのひと, そくへのきはみ;しりへのかきり, ゆくひとごとに;ゆくひとことに, いたちなげかひ;いたちなけかひ, あるひとは;わひひとは, かたりつぎ;かたりつき, しのひつぎくる;しのひつきくる, をとめらが;をとめらか, われさへに;われした, みればかなしも;みれはかなしも, いにしへおもへば;むかしおもへは,
   
  09/1802
題詞 (過葦屋處女墓時作歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 古乃 小竹田丁子乃 妻問石 菟會處女乃 奥城叙此
訓読 古への信太壮士の妻問ひし菟原娘子の奥城ぞこれ
仮名 いにしへの しのだをとこの つまどひし うなひをとめの おくつきぞこれ
左注 (右七首田邊福麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 作者:田辺福麻呂歌集 兵庫県 芦屋 妻争媿 鎮魂 伝説 尫渧媿娘子 地名
訓異 しのだをとこの;ささたをのこの, つまどひし;つまとひし, おくつきぞこれ;おきつきそこれ,
   
  09/1803
題詞 ((過葦屋處女墓時作歌一首[并短歌])反歌)
原文 語継 可良仁文幾許 戀布矣 直目尓見兼 古丁子
訓読 語り継ぐからにもここだ恋しきを直目に見けむ古へ壮士
仮名 かたりつぐ からにもここだ こほしきを ただめにみけむ いにしへをとこ
左注 (右七首田邊福麻呂之歌集出)
校異 なし
事項 挽歌 作者:田辺福麻呂歌集 兵庫県 芦屋 妻争媿 鎮魂 伝説 尫渧媿娘子 地名
訓異 かたりつぐ;かたりつく, からにもここだ;からにもここた, こほしきを;こひしきを, ただめにみけむ;たためにみけむ, いにしへをとこ;むかしのをのこ,
   
  09/1804
題詞 哀弟死去作歌一首[并短歌]
題訓 弟おとの死去みまかれるを哀しみてよめる歌一首、また短歌
原文 父母賀 成乃任尓 箸向 弟乃命者 朝露乃 銷易杵壽 神之共 荒競不勝而 葦原乃 水穂之國尓 家無哉 又還不来 遠津國 黄泉乃界丹 蔓都多乃 各<々>向々 天雲乃 別石徃者 闇夜成 思迷匍匐 所射十六乃 意矣痛 葦垣之 思乱而 春鳥能 啼耳鳴乍 味澤相 宵晝不<知> 蜻蜒火之 心所燎管 悲悽別焉
訓読 父母が 成しのまにまに 箸向ふ 弟の命は 朝露の 消やすき命 神の共 争ひかねて 葦原の 瑞穂の国に 家なみか また帰り来ぬ 遠つ国 黄泉の境に 延ふ蔦の おのが向き向き 天雲の 別れし行けば 闇夜なす 思ひ惑はひ 射ゆ鹿の 心を痛み 葦垣の 思ひ乱れて 春鳥の 哭のみ泣きつつ あぢさはふ 夜昼知らず かぎろひの 心燃えつつ 嘆く別れを
仮名 ちちははが なしのまにまに はしむかふ おとのみことは あさつゆの けやすきいのち かみのむた あらそひかねて あしはらの みづほのくにに いへなみか またかへりこぬ とほつくに よみのさかひに はふつたの おのがむきむき あまくもの わかれしゆけば やみよなす おもひまとはひ いゆししの こころをいたみ あしかきの おもひみだれて はるとりの ねのみなきつつ あぢさはふ よるひるしらず かぎろひの こころもえつつ なげくわかれを
左注 (右七首田邊福麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 各→々 [元][藍][類][紀] / 云→知 [元][藍] (楓) 云
事項 挽歌 作者:田辺福麻呂歌集 哀悼 悲嘆 枕詞
訓異 ちちははが;ちちははか, おとのみことは;なせのみことは, みづほのくにに;みつほのくにに, いへなみか;いへなしや, おのがむきむき;おのかむきむき, わかれしゆけば;わかれしゆけは, おもひまとはひ;おもひまとはし, いゆししの;いるししの, おもひみだれて;おもひみたれて, はるとりの;うくひすの, ねのみなきつつ;なきになきつつ, あぢさはふ;あちさはふ, よるひるしらず;よるひるいはす, かぎろひの;かけろふの, なげくわかれを;なけくわかれを,
   
  09/1805
題詞 (哀弟死去作歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 別而裳 復毛可遭 所念者 心乱 吾戀目八方 [一云 意盡而]
訓読 別れてもまたも逢ふべく思ほえば心乱れて我れ恋ひめやも [一云 心尽して]
仮名 わかれても またもあふべく おもほえば こころみだれて あれこひめやも [こころつくして]
左注 (右七首田邊福麻呂之歌集出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 作者:田辺福麻呂歌集 哀悼 悲嘆
訓異 またもあふべく;またもあふへく, おもほえば;おもほへは, こころみだれて;こころみたれて, あれこひめやも;われこひめやも, [こころつくして];こころつきて,
   
  09/1806
題詞 ((哀弟死去作歌一首[并短歌])反歌)
原文 蘆桧木笶 荒山中尓 送置而 還良布見者 情苦喪
訓読 あしひきの荒山中に送り置きて帰らふ見れば心苦しも
仮名 あしひきの あらやまなかに おくりおきて かへらふみれば こころぐるしも
左注 右七首田邊福麻呂之歌集出
左注訓 右ノ七首、田邊福麻呂ノ歌集ニ出ヅ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 作者:田辺福麻呂歌集 哀悼 悲嘆 枕詞
訓異 かへらふみれば;かへらふみれは, こころぐるしも;こころくるしも,
   
  09/1807
題詞 詠勝鹿真間娘子歌一首[并短歌]
題訓 勝鹿かづしかの真間娘子ままをとめを詠める歌一首、また短歌
原文 鶏鳴 吾妻乃國尓 古昔尓 有家留事登 至今 不絶言来 勝<壮>鹿乃 真間乃手兒奈我 麻衣尓 青衿著 直佐麻乎 裳者織服而 髪谷母 掻者不梳 履乎谷 不著雖行 錦綾之 中丹褁有 齋兒毛 妹尓将及哉 望月之 満有面輪二 如花 咲而立有者 夏蟲乃 入火之如 水門入尓 船己具如久 歸香具礼 人乃言時 幾時毛 不生物<呼> 何為跡歟 身乎田名知而 浪音乃 驟湊之 奥津城尓 妹之臥勢流 遠代尓 有家類事乎 昨日霜 将見我其登毛 所念可聞
訓読 鶏が鳴く 東の国に 古へに ありけることと 今までに 絶えず言ひける 勝鹿の 真間の手児名が 麻衣に 青衿着け ひたさ麻を 裳には織り着て 髪だにも 掻きは梳らず 沓をだに はかず行けども 錦綾の 中に包める 斎ひ子も 妹にしかめや 望月の 足れる面わに 花のごと 笑みて立てれば 夏虫の 火に入るがごと 港入りに 舟漕ぐごとく 行きかぐれ 人の言ふ時 いくばくも 生けらじものを 何すとか 身をたな知りて 波の音の 騒く港の 奥城に 妹が臥やせる 遠き代に ありけることを 昨日しも 見けむがごとも 思ほゆるかも
仮名 とりがなく あづまのくにに いにしへに ありけることと いままでに たえずいひける かつしかの ままのてごなが あさぎぬに あをくびつけ ひたさをを もにはおりきて かみだにも かきはけづらず くつをだに はかずゆけども にしきあやの なかにつつめる いはひこも いもにしかめや もちづきの たれるおもわに はなのごと ゑみてたてれば なつむしの ひにいるがごと みなといりに ふねこぐごとく ゆきかぐれ ひとのいふとき いくばくも いけらじものを なにすとか みをたなしりて なみのおとの さわくみなとの おくつきに いもがこやせる とほきよに ありけることを きのふしも みけむがごとも おもほゆるかも
左注 (右五首高橋連蟲麻呂之歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 牡→壮 [元][藍][類][紀] / 乎→呼 [元][藍][類]
事項 挽歌 作者:高橋虫麻呂歌集 葛飾 東京 伝説 自殺 惜別 枕詞 地名
訓異 とりがなく;とりかなく, あづまのくにに;あつまのくにに, いままでに;いままてに, たえずいひける;たえすいひくる, ままのてごなが;ままのてこなか, あさぎぬに;あさきぬに, あをくびつけ;あをふすまきて, もにはおりきて;もにはをりきて, かみだにも;かみたにも, かきはけづらず;かきはけつらす, くつをだに;くつをたに, はかずゆけども;はかてゆけとも, もちづきの;もちつきの, たれるおもわに;みてるおもわに, はなのごと;はなのこと, ゑみてたてれば;ゑみてたてれは, ひにいるがごと;ひにいるかこと, ふねこぐごとく;ふねこくことく, ゆきかぐれ;ゆきかくれ, いくばくも;いくときも, いけらじものを;いけらぬものを, おくつきに;おきつきに, いもがこやせる;いもかふしせる, みけむがごとも;みもむかことも,
   
  09/1808
題詞 (詠勝鹿真間娘子歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 勝<壮>鹿之 真間之井見者 立平之 水挹家<武> 手兒名之所念
訓読 勝鹿の真間の井見れば立ち平し水汲ましけむ手児名し思ほゆ
仮名 かつしかの ままのゐみれば たちならし みづくましけむ てごなしおもほゆ
左注 (右五首高橋連蟲麻呂之歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡→壮 [元][古][類][紀] / 牟→武 [元][藍][類][紀]
事項 挽歌 作者:高橋虫麻呂歌集 葛飾 東京 伝説 自殺 惜別 地名
訓異 ままのゐみれば;ままのゐみれは, みづくましけむ;みつをくみけむ, てごなしおもほゆ;てこなしそおもふ,
   
  09/1809
題詞 見菟原處女墓歌一首[并短歌]
題訓 菟原処女うなひをとめが墓を見てよめる歌一首、また短歌
原文 葦屋之 菟名負處女之 八年兒之 片生之時従 小放尓 髪多久麻弖尓 並居 家尓毛不所見 虚木綿乃 牢而座在者 見而師香跡 <悒>憤時之 垣廬成 人之誂時 智<弩><壮>士 宇奈比<壮>士乃 廬八燎 須酒師競 相結婚 為家類時者 焼大刀乃 手頴押祢利 白檀弓 <靫>取負而 入水 火尓毛将入跡 立向 競時尓 吾妹子之 母尓語久 倭<文>手纒 賎吾之故 大夫之 荒争見者 雖生 應合有哉 <宍>串呂 黄泉尓将待跡 隠沼乃 下延置而 打歎 妹之去者 血沼<壮>士 其夜夢見 取次寸 追去祁礼婆 後有 菟原<壮>士伊 仰天 S於良妣 ひ地 牙喫建怒而 如己男尓 負而者不有跡 懸佩之 小劔取佩 冬ふ蕷都良 尋去祁礼婆 親族共 射歸集 永代尓 標将為跡 遐代尓 語将継常 處女墓 中尓造置 <壮>士墓 此方彼方二 造置有 故縁聞而 雖不知 新喪之如毛 哭泣鶴鴨
訓読 葦屋の 菟原娘子の 八年子の 片生ひの時ゆ 小放りに 髪たくまでに 並び居る 家にも見えず 虚木綿の 隠りて居れば 見てしかと いぶせむ時の 垣ほなす 人の問ふ時 茅渟壮士 菟原壮士の 伏屋焚き すすし競ひ 相よばひ しける時は 焼太刀の 手かみ押しねり 白真弓 靫取り負ひて 水に入り 火にも入らむと 立ち向ひ 競ひし時に 我妹子が 母に語らく しつたまき いやしき我が故 ますらをの 争ふ見れば 生けりとも 逢ふべくあれや ししくしろ 黄泉に待たむと 隠り沼の 下延へ置きて うち嘆き 妹が去ぬれば 茅渟壮士 その夜夢に見 とり続き 追ひ行きければ 後れたる 菟原壮士い 天仰ぎ 叫びおらび 地を踏み きかみたけびて もころ男に 負けてはあらじと 懸け佩きの 小太刀取り佩き ところづら 尋め行きければ 親族どち い行き集ひ 長き代に 標にせむと 遠き代に 語り継がむと 娘子墓 中に造り置き 壮士墓 このもかのもに 造り置ける 故縁聞きて 知らねども 新喪のごとも 哭泣きつるかも
仮名 あしのやの うなひをとめの やとせこの かたおひのときゆ をばなりに かみたくまでに ならびをる いへにもみえず うつゆふの こもりてをれば みてしかと いぶせむときの かきほなす ひとのとふとき ちぬをとこ うなひをとこの ふせやたき すすしきほひ あひよばひ しけるときは やきたちの たかみおしねり しらまゆみ ゆきとりおひて みづにいり ひにもいらむと たちむかひ きほひしときに わぎもこが ははにかたらく しつたまき いやしきわがゆゑ ますらをの あらそふみれば いけりとも あふべくあれや ししくしろ よみにまたむと こもりぬの したはへおきて うちなげき いもがいぬれば ちぬをとこ そのよいめにみ とりつづき おひゆきければ おくれたる うなひをとこい あめあふぎ さけびおらび つちをふみ きかみたけびて もころをに まけてはあらじと かけはきの をだちとりはき ところづら とめゆきければ うがらどち いゆきつどひ ながきよに しるしにせむと とほきよに かたりつがむと をとめはか なかにつくりおき をとこはか このもかのもに つくりおける ゆゑよしききて しらねども にひものごとも ねなきつるかも
左注 (右五首高橋連蟲麻呂之歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 挹→悒 [元][藍][紀] / 奴→弩 [元][藍] / 牡→壮 [元][藍][類] / 靭→靫 [元][藍] / 父→文 [元][紀] / 完→宍 [元][藍] / 牡→壮 [元][藍][類] / 牡→壮 [元][藍][類] / 牡→壮 [元][藍][類]
事項 挽歌 作者:高橋虫麻呂歌集 芦屋 兵庫 尫渧媿娘子 伝説 妻争媿 地名
訓異 かたおひのときゆ;かたおひのときに, をばなりに;をはなちに, かみたくまでに;かみたくまてに, ならびをる;ならひゐて, いへにもみえず;いへにもみえす, うつゆふの;そらゆふの, こもりてをれば;かくれてませは, いぶせむときの;いふせきときし, ひとのとふとき;ひとのいとむとき, ふせやたき;ふせやもえ, すすしきほひ;すすしきほひて, あひよばひ;あひたはけ, しけるときは;しけるときには, たかみおしねり;たかひおしねり, みづにいり;みつにいり, きほひしときに;いそひしときに, わぎもこが;わきもこか, いやしきわがゆゑ;いやしきわかゆへ, あらそふみれば;あらそふみれは, あふべくあれや;あふへくあれや, こもりぬの;かくれぬの, したはへおきて;したおきて, うちなげき;うちなけき, いもがいぬれば;いもかいぬれは, そのよいめにみ;そのよゆめみて, とりつづき;とりつつき, おひゆきければ;をひゆきけれは, うなひをとこい;うなひをとこも, あめあふぎ;いあふきて, さけびおらび;さけひをらひて, つちをふみ;ちつにふして, きかみたけびて;きかみたけひて, まけてはあらじと;まけてはあらしと, をだちとりはき;をたちとりはき, ところづら;さねかつら, とめゆきければ;つきてゆけれは, うがらどち;やからとも, いゆきつどひ;いゆきあつまり, ながきよに;なかきよに, しるしにせむと;しめさむと, かたりつがむと;かたりつかむと, をとめはか;をとめつか, をとこはか;をとこつか, このもかのもに;こなたかなたに, つくりおける;つくりおけり, ゆゑよしききて;ゆへよしききて, しらねども;しらねとも, にひものごとも;いひものことも,
   
  09/1810
題詞 (見菟原處女墓歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 葦屋之 宇奈比處女之 奥槨乎 徃来跡見者 哭耳之所泣
訓読 芦屋の菟原娘子の奥城を行き来と見れば哭のみし泣かゆ
仮名 あしのやの うなひをとめの おくつきを ゆきくとみれば ねのみしなかゆ
左注 (右五首高橋連蟲麻呂之歌集中出)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 作者:高橋虫麻呂歌集 芦屋 兵庫 尫渧媿娘子 伝説 妻争媿 地名
訓異 うなひをとめの;うなひをとめか, おくつきを;おきつきを, ゆきくとみれば;ゆきくとみては, ねのみしなかゆ;ねのみしなかる,
   
  09/1811
題詞 ((見菟原處女墓歌一首[并短歌])反歌)
原文 墓上之 木枝靡有 如聞 陳努<壮>士尓之 <依>家良信母
訓読 墓の上の木の枝靡けり聞きしごと茅渟壮士にし寄りにけらしも
仮名 はかのうへの このえなびけり ききしごと ちぬをとこにし よりにけらしも
左注 右五首高橋連蟲麻呂之歌集中出
左注訓 右ノ五首、高橋連蟲麻呂ノ歌集ノ中ニ出ヅ。
校異 牡→壮 [元][藍][類] / 依倍→依 [元][藍][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 挽歌 作者:高橋虫麻呂歌集 芦屋 兵庫 尫渧媿娘子 伝説 妻争媿 地名
訓異 はかのうへの;つかのうへの, このえなびけり;このえなひけり, ききしごと;きくかこと, よりにけらしも;よるへけらしも,