古事記 忍熊王~原文対訳

宇美の伊斗 古事記
中巻⑦
14代 仲哀天皇
神功皇后の後日談
2 忍熊王
建振熊
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是息長帶日賣命。  ここに息長帶日賣の命、  オキナガタラシ姫の命は、
於倭還上之時。 倭やまとに還り上ります時に 大和に還りお上りになる時に、
因疑人心。 人の心疑うたがはしきに因りて、 人の心が疑わしいので
一具喪船。 喪船を一つ具へて、 喪もの船を一つ作つて、
御子載其喪船。 御子をその喪船に載せまつりて、 御子をその喪の船にお乘せ申し上げて、
先令言漏之
御子既崩。
まづ「御子は既に崩りましぬ」
と言ひ漏らさしめたまひき。
まず御子は既にお隱れになりました
と言い觸らさしめました。
     

兄弟で共謀

     
如此
上幸之時。
かくして
上りいでましし時に、
かようにして
上つておいでになる時に、
香坂王。 香坂かごさかの王 カゴサカの王、
忍熊王聞而。 忍熊おしくまの王聞きて、 オシクマの王が聞いて
思將待取。 待ち取らむと思ほして、 待ち取ろうと思つて、
進出於斗賀野。 斗賀野とがのに進み出でて、 トガ野に進み出て
爲宇氣比獦也。 祈狩うけひがりしたまひき。 誓を立てて狩をなさいました。
     
爾香坂王。 ここに香坂かごさかの王、 その時にカゴサカの王は
騰坐歴木而是。 歴木くぬぎに騰りいまして見たまふに、 クヌギに登つて御覽になると、
大怒猪出。 大きなる怒り猪出でて、 大きな怒り猪じしが出て
堀其歴木。 その歴木くぬぎを掘りて、 そのクヌギを掘つて
即咋食
其香坂王。
すなはちその香坂かごさかの王を
咋くひ食はみつ。
カゴサカの王を
咋くいました。
     
其弟忍熊王。 その弟忍熊の王、 しかるにその弟のオシクマの王は、
不畏
其態。
その態しわざを
畏かしこまずして、
誓の狩にかような惡い事があらわれたのを
畏れつつしまないで、
興軍
待向之時。
軍を興し、
待ち向ふる時に、
軍を起して
皇后の軍を待ち迎えられます時に、
赴喪船
將攻空船。
喪船に赴むかひて
空むなし船ふねを攻めたまはむとす。
喪の船に向かつて
からの船をお攻めになろうとしました。
     
爾自其喪船
下軍相戰。
ここにその喪船より
軍を下して戰ひき。
そこでその喪の船から
軍隊を下して戰いました。
宇美の伊斗 古事記
中巻⑦
14代 仲哀天皇
神功皇后の後日談
2 忍熊王
建振熊