紫式部集108 うち忍び:原文対訳・逐語分析

107さらば君 紫式部集
第十部
天の川の人

108うち忍び
異本103
109しののめの
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜当サイトで改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜当サイトで補注〉
人の  あの人が

【人】-夫の宣孝

〈通説は夫と断定し(新大系等)結婚一年目などと展開。しかし特定できないとする説(新注)もある。それでも創作的詠歌とするのは結局同じ穴(家父長的結婚観)のムジナ。題詠でないことを明示したものか(上原廣田・世界)に至っては、なぜ頑なに素直に別人と見ないか。そういう決まりでもあるのか。夫の滑稽な描写と死亡した歌序を無視して〉

おこせたる、 寄越した歌、 【おこせたる】-実践本「をこす」は定家の仮名遣い。
     
うち忍び 〈人目を忍び、思い偲び

〈忍び(隠れる)と偲び(慕う)を掛ける。独自。この枕詞だけでも夫とではない大きな要素となる〉

嘆き明かせば

嘆き明かすと〉

ため息をつきながら一夜を明かすと

 
しののめの 〈東雲の〉  
ほがらかにだに 明け方になってもはっきりとあなたの

【ほがらかに】-はっきりと

〈朗らか:明るい。はっきりととするのが通説だが、原義に忠実にして通る。

だに:せめて…だけでも。…でさえ〉

夢を見ぬかな 夢を見ることができませんでした  
   

〈検討:

新大系:あなたのことを思って眠れぬ夜を嘆き明かしたので、明け方になっても「きぬぎぬ」どころか、夢でさだかに逢うことすらも叶わぬことです→「きぬぎぬ」への言及は文脈が違うから不要。文脈と文言に忠実にしてほしい。

集成:お前に逢えずに、昨夜は人知れず嘆き明かしたので、夢の中で晴れやかに逢うことでさえもできなかった →文体がストーカー。夢の中で晴れやかに会うという表現はするか。しかも夫婦で? 恋愛観が錯綜している〉

 

引歌

しののめのほがらほがらとあけゆけば おのかきぬぎぬなるぞかなしき 」(古今集恋三637・詠み人知らず)