古事記~天のウズメ 原文対訳

猿女の君 古事記
上巻 第五部
ニニギの物語
天宇受賣命
(あめのウズメのミコト)
木花之佐久夜毘賣
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是送
猿田毘古神而。
 ここに
猿田毘古の神を送りて、
 ウズメの命は
サルタ彦の神を送つてから
還到。 還り到りて、 還つて來て、
乃悉追聚
鰭廣物
鰭狹物以。
問言
すなはち悉に
鰭はたの廣物
鰭の狹さ物を
追ひ聚めて問ひて曰はく、
悉く
大小樣々の
魚どもを集めて、
汝者
天神御子
仕奉耶
之時。
「汝いましは
天つ神の御子に
仕へまつらむや」
と問ふ時に、
「お前たちは
天の神の御子に
お仕え申し上げるか、どうですか」
と問う時に、
諸魚。
皆仕奉
白之中。
諸の魚どもみな
「仕へまつらむ」
とまをす中に、
魚どもは皆
「お仕え申しましよう」
と申しました中に、
海鼠
不白。
海鼠こ
白さず。
海鼠なまこだけが
申しませんでした。
     
爾天宇受賣命。 ここに天の宇受賣の命、 そこでウズメの命が
謂海鼠。 海鼠こに謂ひて、 海鼠に言うには、
云此口乎。
不答之口而。
「この口や
答へせぬ口」といひて、
「この口は
返事をしない口か」と言つて
以紐小刀。 紐小刀ひもがたな以ちて 小刀かたなで
拆其口。 その口を拆さきき。 その口を裂さきました。
故於今
海鼠口拆也。
かれ今に
海鼠の口拆さけたり。
それで今でも
海鼠の口は裂けております。
     
是以
御世。
ここを以ちて、
御世みよみよ、
かようの次第で、
御世みよごとに
嶋之
速贄
獻之時。
島の
速贄はやにへ
獻る時に、
志摩しまの國から
魚類の貢物みつぎものを
獻たてまつる時に

猿女君等也。
猿女の君等に
給ふなり。
猿女の君等に
下くだされるのです。
猿女の君 古事記
上巻 第五部
ニニギの物語
天宇受賣命
(あめのウズメのミコト)
木花之佐久夜毘賣

解説

 
 
 冒頭、サルタを送り、還って来た 天宇受賣命(アメノウズメのミコト) とは、天から受けた天命を全うし、天に戻った女性という意味。
 サルタを送ったとは、前段の文脈から子を生んだことを意味している。子を生むと掛け、この段のナマコ(生子)のご褒美。
 前段で猿田神が精子を象徴している解釈を裏づける。
 

 ここでサカナとナマコを出しているが、ナマコは魚ではない。つまりこれは肴に当てている。
 「海鼠の口拆さけ」とはつまり、頑張って仕事をしたから、口に酒して、ナマコでも口なして下さいという意味。
 

 これは子を生まないと仕事してないという意味ではない。子を生んだだけで仕事という意味。
 それ以上に、前向きに生ききった(天に還る=天道を忘れない)だけで、報われる大変な仕事という意味。
 ウズメは明らかにウマズメと掛かっている。それを天命を受けていると掛けている。そこまで安易ではないし、天道は物以上の真っ当な視点のこと。
 

 これまでの男達(天菩比神、天若日子)はしばしば天に帰ってこなかった。地上の権力者に媚び付いて。つまり即物化した。
 だからそういう行為は、天から見て仕事ではない(堕落)。しかしそれで仕事しているという。
 

 神は公平。自然法則の精神が男尊女卑などおかしな話。おかしなのは神を私的に利用する野蛮な人達。
 男女が一つになって至高の神。これが一つの三位一体。