枕草子38段 池は

木の花は 枕草子
上巻上
38段
池は
節は

(旧)大系:38段
新大系:35段、新編全集:36段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:45段
 


 
 池は かつまたの池。磐余の池。
 

 贄野の池、初瀬にまうでしに、水鳥のひまなくゐてたちさわぎしが、いとをかしう見えしなり。
 

 水なしの池こそ、あやしう、などてつけけるならむとて問ひしかば、「五月など、すべて雨いたうふらむとする年は、この池に水といふものなむなくなる。また、いみじう照るべき年は、春の初めに水なむおほくいづる」といひしを、「むげになくかはきてあらばこそさもいはめ、出づるをりもあるを、一筋にもつけけるかな」といはまほしかりしか。
 

 猿沢の池は、采女の身投げたるを聞こしめして、行幸などありけむこそ、いみじうめでたけれ。「ねたくれ髪を」と人丸がよみけむほどなど思ふに、いふもおろかなり。
 

 おまへの池、またなにの心にてつけけるならむとゆかし。
 かみの池。狭山の池は、みくりといふ歌のをかしきがおぼゆるならむ。
 こひぬまの池。はらの池は、「玉藻な刈りそ」といひたるも、をかしうおぼゆ。