伊勢物語 80段:おとろへた あらすじ・原文・現代語訳

第79段
千ひろあるかげ
伊勢物語
第三部
第80段
おとろへたる家
第81段
塩釜

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
  藤の花 しひて折り 
 
 
 
 

あらすじ

 
 
 むかし、衰えた家に藤の花を植えた人がいた。
 三月末に雨がしとしと振るので、人のもとにやろうと歌を詠む。
 

 ぬれつゝぞ しひて折りつる 年のうちに 春はいくかも あらじと思へば
 濡れながら 無理に折る 年内に 春はほとんど残っていない
 

 濡れながら無理に居る家とかけ、年の内にいくかも、あらじと思う解く、
 その心は、年内に引越しかな。値ははるかな。あーあ。
 
 いやでも、こういうのが良いよ。前段で業平が孕ませたとか、気持ち悪いことと全然関係ないやつ。
 歌ってこういうもんだよ。「年のうちに」と破格にしたのは、家が乱れている様子、そして心が乱れている様子を表わす。
 
 
 
 

原文

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第80段 おとろへたる家
   
   むかし、  むかし、  むかし。
  おとろへたる家に、 おとろへたるいへに、 おとろへたる家に
藤の花植ゑたる人ありけり。 ふぢのはなうへたる人ありけり。 藤の花うへたる人ありけり。
      いとおもしろうさけりけり。
  やよひのつごもりに、 やよひのつごもりに、 やよひのつごもり。
  その日雨そぼふるに、 その日あめそぼふるに、 雨のそぼふるに。
  人のもとへ折りて奉らすとて、よめる。 人のもとへおりてたてまつらすとてよめる。 人のもとにおりてたてまつるとて。
       

143
 ぬれつゝぞ
 しひて折りつる年のうちに
 ぬれつゝぞ
 しゐておりつる年の内に
 ぬれつゝそ
 しゐて折つる藤の花
  春はいくかも
  あらじと思へば
  はるはいくかも
  あらじと思へば
  春は幾日も
  あらしと思へは
   

現代語訳

 
 

藤の花

 

むかし、おとろへたる家に、藤の花植ゑたる人ありけり。

 
 
むかし
 

おとろへたる家に
 衰えた家に
 

 おとろふ 【衰ふ】
 :おちぶれる。
 

藤の花植ゑたる人ありけり
 藤の花を植えた人がいた。
 
 前段のかげを植えとかかっている。
 
 

しひて折り

 

やよひのつごもりに、
その日雨そぼふるに、
人のもとへ折りて奉らすとて、よめる。
 
ぬれつゝぞ しひて折りつる年のうちに
 春はいくかも あらじと思へば

 
 
やよひのつごもりに
 三月の末日に
 

 つごもり 【晦日・晦】:
 ①月の最後の日。みそか。
 ②月の終わりごろ。下旬。月末。
 

その日雨そぼふるに
 その日、雨がしとしとふるので
 

 そぼふる 【そぼ降る】
 :雨がしとしと降る。
 ここでは「その日」と韻を踏んで。
 

人のもとへ折りて奉らすとてよめる
 人のもとに藤を一花折って奉ろうと詠む
 

ぬれつゝぞ しひて折りつる
 濡れながら 無理に居るとかけ
 

年のうちに
 年内に
 
 破格(字余り)だが、うちと家をかけ、家が乱れているということ。
 

春はいくかも あらじと思へば
 春は少しも ないと解く
 
 その心は、年が明けたのに、明るいこと、心が晴れるようなことが何もない。