枕草子109段 見苦しきもの

方弘は 枕草子
上巻下
109段
見苦しき
いひにくき

(旧)大系:109段
新大系:105段、新編全集:105段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:320段
 


 
 見苦しきもの 衣の背縫、肩によせて着たる。また、のけ頸したる。例ならぬ人の前に、子負ひて出で来たる。法師、陰陽師の、紙冠して祓へしたる。色くろうにくげなる女の鬘したると、鬚がちに、かじけやせやせなる男と、夏昼寝したるこそ、いと見苦しけれ。なにの見るかひにて、さて臥いたるならむ。夜などはかたちも見えず、また、みなおしなべてさることとなりければ、我はにくげなるとて、起きゐるべきにもあらずかし。さて、つとめてはとく起きぬる、いとめやすしかし。
 夏昼寝して起きたるは、よき人こそ、いますこしをかしかなれ、えせかたちは、つやめき、寝腫れて、ようせずは、頬ゆがみもしぬべし。かたみにうち見かはしたらむほどの、生けるかひなさや。やせ、色黒き人の、生絹の単衣着たる、いと見苦しかし。