伊勢物語 38段:恋といふ あらすじ・原文・現代語訳

第37段
下紐
伊勢物語
第二部
第38段
恋といふ
第39段
源の至

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文対照
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 

あらすじ

 
 
 むかし、紀有常の家に行ったが、遅くなってしまったことで歌を詠んだ。
 

 君により 思ひならひぬ 世の中は 人はこれをや 恋問いふらむ
 →君よりも 思い通りにならない世の中よ、人はこれを恋というのか。
  

 ならはねば 世の人ごとに なにをかも 恋とはいふと 問ひし我しも
 →そんなら、世の人のことは、何もかも 恋なのかと こっちがききたいわ
 

 思い通りにならないとは、16段で有常の家で、別に仲良くもなかった妻が、尼になると言って出て行った話を揶揄している。
 つまりそういう人が妻になったこと、妻が出て行ったというオチになってしまった、以上の2点が思い通りにならないこと。
 

 しかるにこのような皮肉は、後家とかけて、家に後れてついたことへの有常へのご挨拶(ボケ・いけず)なのであった。
 いや、随分じゃないの。だから「随分なご挨拶だね」(ひどいね)。ごめんね。
 
 

原文対照

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第38段 恋といふ
   
 むかし、紀有常がり行きたるに、  むかし、紀の有つねがりいきたるに、  むかし。きのありつね物にいきて。
  ありきて遅く来けるに、 ありきてをそくきけるに、 ひさしうかへらざりけるに
  よみてやりける。 よみてやりける。 いひやる。
       

73
 君により
 思ひならひぬ世の中は
 きみにより
 おもひならひぬ世中の
 君により
 思ひならひぬ世中の
  人はこれをや
  恋問いふらむ
  人はこれをや
  こひといふらむ
  人は是をや
  戀といふらん
       
  返し、 返し、 返し。
       

74
 ならはねば
 世の人ごとになにをかも
 ならはねば
 世の人ごとになにをかも
 習はねは
 世の人ことに何をかも
  恋とはいふと
  問ひし我しも
  こひとはいふと
  ゝひしわれしも
  戀とはいふと
  とひわふれ共
   

現代語訳

 
 

むかし、紀有常がり行きたるに、
ありきて遅く来けるに、よみてやりける。
 
君により 思ひならひぬ 世の中は
 人はこれをや 恋問いふらむ

 
 
むかし、紀有常がり行きたるに、
 むかし、有り常の許に行ったが、
 

 がり:許
 が(の)+あたり(所)が一体化したもの。
 

ありきて遅く来けるに、
 歩いてきて、遅く来てしまったので、
 
 ありき:おそきという韻。
 

よみてやりける。
 その遅くなったことで、詠んでやった。
 
 

君により
 君よりも
 
 がりと対置して「君のとこより」
 

思ひならひぬ 世の中は
 思いどおりにならない 世の中は
 

 16段:紀有常における「世の常」を暗示している。
 この話は、有常の妻が(世の常の貴族らしい生活ができんのなら)尼になると言って、無常にもどっかに行ったことを、二人でネタにしあった話だった。
 ちなみに、ネタというのは、有常がこの妻とほとんどネタことがないというものであった。これだけ見れば有常が悪いが、そこら辺もひっくるめてネタ。
 

人はこれをや
 人はこれを
 

恋問いふらむ
 恋というのだろうか
 

 らむ
 推測かつ、問いかけ、さらに反語でもある。つまり「んなわけない」。
 つまり16段同様のネタ話。
 つまり有常にとっては、またその話か~となるわけ。
 

返し、
 
ならはねば 世の人ごとに なにをかも
 恋とはいふと 問ひし我しも

  

 
返し、
 
 

ならはねば
 そうであるなら
 

世の人ごとに なにをかも
 世の人々の 何をかも
 

恋とはいふと
 全部恋なのかと
 

問ひし我しも
 オレだって聞きたいわ 
 

 いやもちろんそうじゃないことくらいは、どちらもわかってる。つまりこれは挨拶なの。二人の。
 「いやいや、遅れて来ておいて、ずいぶんなご挨拶だね(皮肉だね)」ということ。
 メンゴメンゴ。ちょっと思いもよらぬことがあってさ。