「大伴御行の大納言は」から、「世にあはぬ事をば、あなたへがたとはいひ始めける」まで。
前に「かぐや姫、大伴大納言には、龍(たつ)の首に五色に光る玉あり。それをとりて給へ」とあった。
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文章 番号 |
竹取物語 (國民文庫) |
竹とりの翁物語 (群書類從) |
|---|---|---|
| 〔510〕 | 大伴御行の大納言は、 | 大友(伴イ)の御ゆきの大納言は。 |
| 〔511〕 | 我家にありとある人を召し集めての給はく、 | 我家に有とある人めしあつめての給はく。 |
| 〔512〕 |
「龍(たつ)の首に 五色の光ある玉あンなり。 |
龍の首に 五色の光ある玉あなり。 |
| 〔513〕 | それをとり奉りたらん人には、 | それとりてたてまつりたらん人には。 |
| 〔514〕 |
願はんことをかなへん。」 との給ふ。 |
ねがはん事をかなへん とのたまふ。 |
| 〔515〕 |
男(をのこ)ども 仰の事を承りて申さく、 |
男ども 仰の事を承て申さく。 |
| 〔516〕 | 「仰のことはいとも尊(たふと)し。 | 仰の事はいともたうとし。 |
| 〔517〕 | たゞしこの玉容易(たはやす)くえとらじを、 | 但此玉たはやすくえとらじを。 |
| 〔518〕 |
况や龍の首の玉は いかゞとらん。」と申しあへり。 |
いはんや龍の首の玉は いかゞとらむと申あへり。 |
| 〔519〕 | 大納言のたまふ、 | 大納言のたまふ。 |
| 〔520〕 | 「君の使といはんものは、 | てん[きみイ]の使といはんものは。 |
| 〔521〕 |
『命を捨てゝも 己(おの)が君の仰事をば |
命をすてゝも をのが君の仰ごとをば。 |
| 〔522〕 |
かなへん。』 とこそ思ふべけれ。 |
かなへん とこそおもは[ふイ]べけれ。 |
| 〔523〕 |
この國になき 天竺唐土の物にもあらず、 |
此國になき 天竺唐の物にもあらず。 |
| 〔524〕 |
この國の海山より 龍はおりのぼるものなり。 |
此國の海山より 龍はおりのぼるもの也。 |
| 〔525〕 | いかに思ひてか | いかに思ひてか。 |
| 〔526〕 | 汝等難きものと申すべき。」 | なんぢらかたき物と申べき。 |
| 〔527〕 | 男ども申すやう、 | をのこども申やう。 |
| 〔528〕 | 「さらばいかゞはせん。 | さらばいかがはせむ。 |
| 〔529〕 | 難きものなりとも、 | かたき事(ものイ)成とも。 |
| 〔530〕 | 仰事に從ひてもとめにまからん。」と申す。 | 仰ごとに隨てもとめにまからむと申に。 |
| 〔531〕 | 大納言見笑ひて、 | 大納言見わらひて。 |
| 〔532〕 | 「汝等君の使と名を流しつ。 | なんぢらが君の使と名をながしつ。 |
| 〔533〕 |
君の仰事をばいかゞは背くべき。」 との給ひて、 |
君のおほせごとをば如何は背くべき との給ひて。 |
| 〔534〕 | 龍の首の玉とりにとて出したて給ふ。 | 龍の首の玉取にとて出し立給ふ。 |
| 〔535〕 | この人々の | 此人々の。 |
| 〔536〕 | 道の糧・食物に、 | みちのかてくひ物に。 |
| 〔537〕 | 殿のうちの絹・綿・錢など | とののうちのきぬ。 |
| 〔538〕 | わた。 | |
| 〔539〕 | ぜに(銭)など。 | |
| 〔540〕 | あるかぎりとり出でそへて遣はす。 | ある限取出てそへてつかはす。 |
| 〔541〕 |
この人々ども、歸るまでいもひをして 「我は居らん。 |
此人どもの歸るまでいもゐをして 我はをらん。 |
| 〔542〕 |
この玉とり得では家に歸りくな。」 との給はせけり。 |
此玉取えでは家にかへりくな とのたまはせけり。 |
| 〔543〕 | 「おの\/仰承りて罷りいでぬ。 | 各仰承て罷ぬ。 |
| 〔544〕 |
龍の首の玉とり得ずは歸りくな。」 との給へば、 |
たつのかしらの玉とりえずばかへりくな とのたまへば。 |
| 〔545〕 |
いづちも\/ 足のむきたらんかたへいなんとす。 |
いづちも〳〵 足のむきたらんかたへゆか(いなイ)んとす。 |
| 〔546〕 | かゝるすき事をし給ふことゝそしりあへり。 | かゝるすき事をし給ふ事と誹りあへり。 |
| 〔547〕 |
賜はせたる物は おの\/分けつゝとり、 |
たまはら[イ无]せたる物 各分つゝとる。 |
| 〔548〕 | 或あるは己が家にこもりゐ、 | 或はをのが家に籠り居。 |
| 〔549〕 | 或はおのがゆかまほしき所へいぬ。 | 或はをのがゆかまほしき所へいぬ。 |
| 〔550〕 |
「親・君と申すとも、 かくつきなきことを仰せ給ふこと。」と、 |
親君と申とも かくつきなき事をの(仰イ)給ふ事と。 |
| 〔551〕 | ことゆかぬものゆゑ、 | ことゆかぬ・[ものイ]ゆへ。 |
| 〔552〕 | 大納言を謗りあひたり。 | 大納言をそしりあひたり。 |
| 〔553〕 | 「かぐや姫すゑんには、 | かぐや姫すへんには。 |
| 〔554〕 | 例のやうには見にくし。」との給ひて、 | れいやうには見にくしとの給ひて。 |
| 〔555〕 | 麗しき屋をつくり給ひて、 | うるはしき屋を作り給ひて。 |
| 〔556〕 | 漆を塗り、 | うるしをぬり。 |
| 〔557〕 | 蒔繪をし、いろへしたまひて、 | 蒔繪し給ひて。 |
| 〔558〕 |
屋の上には糸を染めて いろ\/に葺かせて、 |
屋のうへにはいとをそめて いろ〳〵ふかせて。 |
| 〔559〕 | 内々のしつらひには、 | 內々のしつらひには。 |
| 〔560〕 |
いふべくもあらぬ綾織物に繪を書きて、 間ごとにはりたり。 |
いふべくもあらぬ綾織物に繪を書て まごと(間每)にはりたり。 |
| 〔561〕 | もとの妻どもは去りて、 | もとのめどもは。 |
| 〔562〕 | 「かぐや姫を必ずあはん。」とまうけして、 | かぐや姫を必あはんまふけして。 |
| 〔563〕 | 獨明し暮したまふ。 | 獨明しくらし給ふ。 |
| 〔564〕 | 遣しゝ人は夜晝待ち給ふに、 | つかひし人は夜晝待給ふに。 |
| 〔565〕 | 年越ゆるまで音もせず、 | 年越るまで音もせず。 |
| 〔566〕 | 心もとながりて、 | 心もとなく(かりイ)て。 |
| 〔567〕 | いと忍びて、 | いと忍て。 |
| 〔568〕 | たゞ舍人二人召繼として | ただ舍人二人召付として。 |
| 〔569〕 | やつれ給ひて、 | やつれ給ひ・[てイ]。 |
| 〔570〕 |
難波の邊(ほとり)におはしまして、 問ひ給ふことは、 |
難波の邊におはしまして 問給ふ事は。 |
| 〔571〕 | 「大伴大納言の人や、 | 大友(伴イ)の大納言どのの人や。 |
| 〔572〕 | 船に乘りて龍殺して、 | ふねに乘て龍ころして。 |
| 〔573〕 | そが首の玉とれるとや聞く。」 | 其首の玉とれるとや聞と。 |
| 〔574〕 | と問はするに、 | とはするに。 |
| 〔575〕 | 船人答へていはく、 | 舟人こたへていはく。 |
| 〔576〕 | 「怪しきことかな。」と笑ひて、 | あやしき事哉とわらひて。 |
| 〔577〕 | 「さるわざする船もなし。」と答ふるに、 | さるわざするふねもなしと答るに。 |
| 〔578〕 | 「をぢなきことする船人にもあるかな。 | おぢなき事する船人にもある哉。 |
| 〔579〕 | え知らでかくいふ。」とおぼして、 | 得しらでかく云とおぼして。 |
| 〔580〕 | 「我弓の力は、 | 我ゆみの力は。 |
| 〔581〕 |
龍あらば ふと射殺して首の玉はとりてん。 |
龍あらば ふといころして首の玉は(いイ)とりてん。 |
| 〔582〕 | 遲く來るやつばらを待たじ。」との給ひて、 | をそくくるやつばらをまたじとの給ひて。 |
| 〔583〕 |
船に乘りて、 海ごとにありき給ふに、 |
船にのりて 海ごとにありき給ふに。 |
| 〔584〕 | いと遠くて、 | いと遠くて。 |
| 〔585〕 | 筑紫の方の海に漕ぎいで給ひぬ。 | 筑紫のかたの海に漕出給ひぬ。 |
| 〔586〕 | いかゞしけん、 | いかゞしけむ。 |
| 〔587〕 | はやき風吹きて、 | はやき風吹て。 |
| 〔588〕 | 世界くらがりて、 | 世界くらがりて。 |
| 〔589〕 | 船を吹きもてありく。 | 船を吹もてありく。 |
| 〔590〕 | いづれの方とも知らず、 | いづれのかたともしらず。 |
| 〔591〕 | 船を海中にまかり入りぬべくふき廻して、 | 舟を海中にまかり入ぬべく吹まはして。 |
| 〔592〕 | 浪は船にうちかけつゝまき入れ、 | 波は船に打かけつゝまき入。 |
| 〔593〕 | 神は落ちかゝるやうに閃きかゝるに、 | 神はおちかゝるやうにひらめきかゝるに。 |
| 〔594〕 | 大納言は惑ひて、 | 大納言はまどひて。 |
| 〔595〕 | 「まだかゝるわびしきめハ見ず。 | まだかゝる佗しさめ・[はイ]みず。 |
| 〔596〕 | いかならんとするぞ。」との給ふ。 | いかならんとするぞとのたまふ。 |
| 〔597〕 | 楫取答へてまをす、 | 梶とりこたへて申。 |
| 〔598〕 | 「こゝら船に乘りてまかりありくに、 | こゝら舟にのりてまかりありくに。 |
| 〔599〕 | まだかくわびしきめを見ず。 | まだかく侘しきめを見ず。 |
| 〔600〕 |
御(み)船海の底に入らずは 神落ちかゝりぬべし。 |
御船海のそこにいらば 神おちかゝりぬべし。 |
| 〔601〕 |
もしさいはひに神の助けあらば、 南海にふかれおはしぬべし。 |
もし幸に神のたすけあらば 南海にふかれおはしぬベし。 |
| 〔602〕 |
うたてある 主(しう)の御(み)許に 仕へ奉(まつ)りて、 |
うたてある 主のみもとに つかふまつりて。 |
| 〔603〕 |
すゞろなる死(しに)を すべかンめるかな。」 とて、楫取なく。 |
すゞろなるしにを すベかめるかな とかぢとりなく。 |
| 〔604〕 | 大納言これを聞きての給はく、 | 大納言是を聞ての給く。 |
| 〔605〕 |
「船に乘りては 楫取の申すことをこそ 高き山ともたのめ。 |
船に乘ては 梶とりの申ことをこそ 高き山ともたのめ。 |
| 〔606〕 |
などかくたのもしげなきことを申すぞ。」 と、あをへどをつきての給ふ。 |
などかくたのもしげなき事を申ぞ とあをへどをつきての給ふ。 |
| 〔607〕 | 楫取答へてまをす、 | かぢ取答て申。 |
| 〔608〕 |
「神ならねば 何業をか仕(つかうまつ)らん。 |
神ならねば 何わざをかつかふまつらむ。 |
| 〔609〕 | 風吹き浪はげしけれども、 | 風吹波はげしけれども。 |
| 〔610〕 |
神さへいたゞきに 落ちかゝるやうなるは、 |
神さへいたゞきに おちかゝるやうなるは。 |
| 〔611〕 |
龍を殺さんと 求め給ひさぶらへばかくあンなり。 |
辰を殺さんと 救[求イ]給ふ故にある也。 |
| 〔612〕 | はやても龍の吹かするなり。 | はやても龍のふかするなり。 |
| 〔613〕 | はや神に祈り給へ。」といへば、 | はや神にいのり給へといふ。 |
| 〔614〕 | 「よきことなり。」とて、 | よき事也とて。 |
| 〔615〕 | 「楫取の御(おん)神聞しめせ。 | 梶とりの御神きこしめせ。 |
| 〔616〕 | をぢなく心幼く | をと[ちイ]なく心おさなく。 |
| 〔617〕 | 龍を殺さんと思ひけり。 | 龍をころさむと思ひけり。 |
| 〔618〕 | 今より後は | 今より後は。 |
| 〔619〕 |
毛一筋をだに 動し奉らじ。」と、 |
けのすぢ(ゑイ)一すぢをだに うごかしたてまつらじと。 |
| 〔620〕 | 祝詞(よごと)をはなちて、 | よごとをはなちて。 |
| 〔621〕 | 立居なく\/呼ばひ給ふこと、 | たちゐなく〳〵よばひ給ふこと。 |
| 〔622〕 |
千度(ちたび)ばかり 申し給ふけにやあらん、 |
千度ばかり 申給ふけにやあらん。 |
| 〔623〕 | やう\/神なりやみぬ。 | 漸々神なりやみ。 |
| 〔624〕 | 少しあかりて、 | すこし光て。 |
| 〔625〕 | 風はなほはやく吹く。 | 風は猶はやく吹。 |
| 〔626〕 | 楫取のいはく、 | 梶取のいはく。 |
| 〔627〕 | 「これは龍のしわざにこそありけれ。 | 是はたつのしわざにこそありけれ。 |
| 〔628〕 | この吹く風はよき方の風なり。 | 此吹風はよき方の風也。 |
| 〔629〕 | あしき方の風にはあらず。 | 惡敷かたのかぜにはあらず。 |
| 〔630〕 | よき方に赴きて吹くなり。」といへども、 | よき方へおもむきて吹なりといへども。 |
| 〔631〕 | 大納言は是を聞き入れ給はず。 | 大納言は是を聞入給はず。 |
| 〔632〕 |
三四日(みかよか)ありて 吹き返しよせたり。 |
三四日ふきて 吹かへしよせたり。 |
| 〔633〕 |
濱を見れば、 播磨の明石の濱なりけり。 |
濱をみれば 播磨のあかしの濱なり鳧。 |
| 〔634〕 |
大納言 「南海の濱に吹き寄せられたるにやあらん。」 と思ひて、 |
大納言 南海の濱に吹よせられたるにやあらむ とおもひて。 |
| 〔635〕 | 息つき伏し給へり。 | いきつきふし給へり。 |
| 〔636〕 |
船にある男ども 國に告げたれば、 國の司まうで訪ふにも、 |
舟にある男ども 國につきたれども 國の司まうでとぶらふにも。 |
| 〔637〕 | えおきあがり給はで、 | えおきあがり給はで。 |
| 〔638〕 | 船底にふし給へり。 | ふなぞこに臥たまへり。 |
| 〔639〕 | 松原に御み筵敷きておろし奉る。 | 松原に御むしろ敷ておろし奉る。 |
| 〔640〕 |
その時にぞ 「南海にあらざりけり。」と思ひて、 |
其時にぞ 南海にあらざりけりとおもひて。 |
| 〔641〕 | 辛うじて起き上り給へるを見れば、 | からうじておきあがりたまへるを見れば。 |
| 〔642〕 | 風いとおもき人にて、 | 風いとおもき人にて。 |
| 〔643〕 | 腹いとふくれ、 | はらいとふくれ。 |
| 〔644〕 | こなたかなたの目には、 | こなたかなたの目には。 |
| 〔645〕 | 李を二つつけたるやうなり。 | すもゝを二つつけたる樣也。 |
| 〔646〕 |
これを見奉りてぞ、 國の司もほゝゑみたる。 |
是をみたてまつりてぞ 國の司もほゝえみたる。 |
| 〔647〕 |
國に仰せ給ひて、 腰輿(たごし)作らせたまひて、 |
國におほせ給ひて たごしつくらせ給ひて。 |
| 〔648〕 |
によぶ\/に なはれて |
漸々[によふ〳〵イ]に なはれたまひて。 |
| 〔649〕 | 家に入り給ひぬるを、 | 家に入たまひぬるを。 |
| 〔650〕 | いかで聞きけん、 | いかでか聞けん。 |
| 〔651〕 | 遣しゝ男ども參りて申すやう、 | つかはしし男どもまいりて申やう。 |
| 〔652〕 |
「龍の首の玉を えとらざりしかばなん、 |
龍のくびの玉を えとらざらしかば。 |
| 〔653〕 | 殿へもえ參らざりし。 | 南海へもまいらざりし。 |
| 〔654〕 |
『玉のとり難かりしことを 知り給へればなん、 |
玉の取がたかりし事を しり給へればなん。 |
| 〔655〕 |
勘當あらじ。』 とて參りつる。」と申す。 |
かむだうあらじ とて參つると申。 |
| 〔656〕 | 大納言起き出でての給はく、 | 大納言起出のたまはく。 |
| 〔657〕 | 「汝等よくもて來ずなりぬ。 | なむぢらよくもてこずなりぬ。 |
| 〔658〕 | 龍は鳴神の類にてこそありけれ。 | たつはなる神のるいにこそ有けれ。 |
| 〔659〕 | それが玉をとらんとて、 | それが玉をとらむとて。 |
| 〔660〕 |
そこらの人々の 害せられなんとしけり。 |
そこらの人々の がいせられむとしけり。 |
| 〔661〕 | まして龍を捕へたらましかば、 | ましてたつをとらへたらましかば。 |
| 〔662〕 |
またこともなく 我は害せられなまし。 |
又とこ[ことイ]もなく 我はがいせられなまし。 |
| 〔663〕 | よく捕へずなりにけり。 | よくとらへずやみ(なり)にける(りイ)。 |
| 〔664〕 | かぐや姫てふ大盜人のやつが、 | かぐや姫てふおほ盜人のやつが。 |
| 〔665〕 | 人を殺さんとするなりけり。 | 人をこるさむとする也けり。 |
| 〔666〕 | 家のあたりだに今は通らじ。 | 家のあたりだに今はとをらじ。 |
| 〔667〕 | 男どもゝなありきそ。」とて、 | 男どももなありきそとて。 |
| 〔668〕 | 家に少し殘りたりけるものどもは、 | 家に少殘りたりける物どもは。 |
| 〔669〕 | 龍の玉とらぬものどもにたびつ。 | 龍の玉をとらぬものどもにたびつ。 |
| 〔670〕 | これを聞きて、 | 是を聞て。 |
| 〔671〕 | 離れ給ひしもとのうへは、 | はなれ給ひしもとの上は。 |
| 〔672〕 | 腹をきりて笑ひ給ふ。 | はらをきりて(斷腸)わらひ給ふ。 |
| 〔673〕 | 糸をふかせてつくりし屋は、 | いとをふかせつくりし屋は。 |
| 〔674〕 |
鳶烏の巣に 皆咋(く)ひもていにけり。 |
とびからすの巢に みなくひもていにけり。 |
| 〔675〕 | 世界の人のいひけるは、 | 世界の人いひけるは。 |
| 〔676〕 | 「大伴の大納言は、 | 大とも(伴イ)の大納言は。 |
| 〔677〕 | 龍の玉やとりておはしたる。」 | 龍の首の玉や取ておはしたる。 |
| 〔678〕 | 「いなさもあらず。 | いなさもあらず。 |
| 〔679〕 |
御眼(おんまなこ)二つに 李のやうなる玉をぞ 添へていましたる。」 といひければ、 |
みまなこ二つに すもゝのやうなる玉を・[ぞイ] そへていましたる といひければ。 |
| 〔680〕 |
「あなたへがた。」 といひけるよりぞ、 |
あなたへがた といひけるよりぞ。 |
| 〔681〕 |
世にあはぬ事をば、 あなたへがた とはいひ始めける。 |
世にあはぬ事をば ・[あなイ]堪がた とはいひはじめける。 |
