平家物語 巻第十 八島院宣 原文

内裏女房 平家物語
巻第十
八島院宣
やしまいんぜん
異:院宣請文
いんぜんうけぶみ
請文
異:院宣請文

 
 さるほどに、平三左衛門重国、御坪の召次花方、八島に参つて、院宣を奉る。
 大臣殿以下、一門の月卿、雲客、寄り合ひ給ひて、この院宣をぞ披かれける。
 

 一人聖体、北闕の宮禁を出でて、諸州に幸し、三種の神器、南海四国に埋もれて、数年を経、尤も朝家の歎き、亡国の基なり。そもそもかの重衡卿は、東大寺焼失の逆臣なり。須らく頼朝朝臣申し請くる旨に任せて、死罪に行はるべしと雖も、独り親族に別れて、已に生捕りとなる。籠鳥雲を恋ふる思ひ、遥かに千里の南海に浮かび、帰雁友を失ふ心、定めて九重の中途に通ぜんか。然れば則ち三種の神器を返し入れ奉らんに於いては、かの卿を寛宥せらるべきなり。ていれば院宣かくのごとし。仍つて執達件のごとし。
  寿永三年二月十四日、大膳大夫成忠が承り、
 進上平大納言殿へ
 

 とぞ書かれたる。
 

内裏女房 平家物語
巻第十
八島院宣
やしまいんぜん
異:院宣請文
いんぜんうけぶみ
請文
異:院宣請文