徒然草145段 御随身秦の重躬:原文

栂尾の上人 徒然草
第四部
145段
御随身秦の重躬
明雲座主

 
 御随身秦の重躬、北面の下野の入道信願を、「落馬の相ある人なり。よくよく慎み給へ」といひけるを、いとまことしからず思ひけるに、信願、馬より落ちて死ににけり。
道に長じぬる一言、神のごとしと人思へり。
さて、「いかなる相ぞ」と人の問ひければ、「きはめて桃尻にして、沛艾の馬を好みしかば、この相を負せ侍りき。いつかは申し誤りたる」とぞいひける。