源氏物語 玉鬘:巻別和歌14首・逐語分析

乙女 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
22帖 玉鬘
初音

 
 源氏物語・玉鬘(たまかずら)巻の和歌14首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 玉鬘個人の和歌一覧はリンク先参照。

 

 内訳:4(玉鬘)、3×2(源氏玉鬘乳母:太宰少弐の妻)、1×4(大夫の監=玉鬘求婚田舎男、兵部の君:太宰少弐の娘・玉鬘御供、右近:玉鬘高齢侍女、末摘花)※最初最後

 

 通説は玉鬘巻冒頭で筑紫に下向する際の338「舟人も」と339「岸し方も」という「二人」の歌を玉鬘ではない姉妹の歌と認定してきたところ、上京する時の玉鬘の343「行く先も」と明らかに対をなす(上の句の符合、唱和的舟歌、リードする女性が母娘である)ことから、339「岸し方も」も玉鬘の歌と改めた。この顕著な符合かつ玉鬘巻の先頭歌でありながら、脇役のみの唱和とすることは不合理。当初の曖昧な文脈(とりあえず書き出した内容)を後から情況に応じて明らかにしていくことは、古文と現代文で最も違うところ。それを知った風にして決め打ちするから全体から見るとおかしなことになるが、知った風にした手前、不都合は無視する。その象徴が古今の業平認定。古今が伊勢物語を現状のように安易に業平・在五歌集とみなした証拠しかないのに、伊勢の一貫した在五非難(在五初出のけぢめ見せぬ心以降全ての文言)を徹底して曲げ続け、業平認定を維持するために伊勢を無視し、どこかにあるはずの業平原歌集という空想の産物を古今の認定の理論的根拠としだした。これが現状の読解水準である。

 

玉鬘・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 6首  40字未満
応答 2首  40~100字未満
対応 6首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 2首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
338
唱:贈
舟人も
たれを恋ふとか
大島の
うらがなしげに
声の聞こゆる
〔二人=玉鬘乳母:太宰少弐の妻。×姉妹(通説)〕
舟人も
誰を恋い慕ってか
大島の
浦に悲しい
声が聞こえます
339
唱:答
来し方も
行方も知らぬ
沖に出でて

あはれいづくに
恋ふらむ
〔二人=玉鬘※。cf.343 ×姉妹(通説)〕
来た方角も
これから進む方角も分からない
沖に出て
ああどちらを向いて
女君を恋い求めたらよいのでしょう
340
にもし
心違はば
松浦なる
鏡の神
かけて誓はむ
〔大夫の監:玉鬘求婚田舎男〕
姫君のお心に万が一
違うようなことがあったら、どのような罰も受けましょうと
松浦に鎮座まします
鏡の神に
掛けて誓います
341
年を経て
祈る
ひなば
鏡の神
つらしとや見む
〔玉鬘乳母:太宰少弐の妻(全集)〕
  長年
祈ってきましたことと
違ったならば
鏡の神を
薄情な神様だとお思い申しましょう
342
唱:贈
浮島を
漕ぎ離れても
行く方や
いづく泊りと
知らずもあるかな
〔兵部の君:太宰少弐の娘(全集)・玉鬘の御供〕
浮き島のように思われたこの地を
漕ぎ離れて
行きますけれど
どこが落ち着き先とも
わからない身の上ですこと
343
唱:答
行く先も
見えぬ波路に
舟出して

風にまかする
身こそ浮きたれ
〔玉鬘〕行く先も
わからない波路に
舟出して
風まかせの
身の上こそ頼りないことです
344
憂きことに
胸のみ騒ぐ
響きには
の灘も
さはらざりけり
〔玉鬘乳母:太宰少弐の妻〕嫌なことに
胸がどきどきしてばかりいたので
それに比べれば
響の灘も
名前ばかりでした
345
二本の
杉のたちどを
尋ねずは
野辺に
君を見ましや
〔右近:玉鬘侍女・夕顔の乳母娘〕二本の
杉の立っている
長谷寺に参詣しなかったなら
古い川の近くで
姫君にお逢いできたでしょうか
346
瀬川
はやくのことは
知らねども
今日の逢ふ
身さへ流れぬ
〔玉鬘〕
昔のことは
知りませんが、
今日お逢いできた嬉し涙で
この身まで流れてしまいそうです
347
知らずとも
尋ねて知ら
三島江に
生ふる三稜
は絶えじを
〔源氏〕今はご存知なくとも
やがて聞けばおわかりになりましょう
三島江に
生えている三稜のように
わたしとあなたは縁のある関係なのですから
348
数ならぬ
三稜や何の
なれば
憂きにしもかく
根をとどめけむ
〔玉鬘〕物の数でもないこの身は
どうして三稜のように

この世に生まれて来たのでしょう
349
恋ひわたる
身はそれなれど
玉かづら
いかなる
尋ね来つらむ
〔源氏〕ずっと恋い慕っていた
わが身は同じであるが
【玉鬘のような】その娘は
どのような縁で
ここに来たのであろうか
350
着てみれば
恨みられけり
唐衣
しやりてむ
袖を濡らして
〔末摘花〕着てみると
恨めしく思われます、
この唐衣は
お返ししましょう、
涙で袖を濡らして
351
さむと
言ふにつけても
片敷の
夜の衣
思ひこそやれ
〔源氏〕お返ししましょうと
おっしゃるにつけても
独り
寝のあなたを
お察しいたします