源氏物語 紅葉賀:巻別和歌17首・逐語分析

末摘花 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
7帖 紅葉賀
花宴

 
 源氏物語・紅葉賀(もみじのが)巻の和歌17首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:9()、3(源典侍=好色な道化老女)、2×2(藤壺、頭中将)、1(王命婦)※最初最後
 

紅葉賀・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 6首  40字未満
応答 10首  40~100字未満
対応 0  ~400~1000字+対応関係文言
単体 1首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
84
もの思ふに
立ち舞ふべくも
あらぬ身の
うちりし
心知りきや
〔源氏〕つらい気持ちのまま
立派に舞うことなどはとても
できそうもないわが身が
袖を振って舞った
気持ちはお分りいただけましたでしょうか
85
唐人の
袖振ることは
遠けれど
立ち居につけて
あはれとは見き
〔藤壺〕 唐の人が
袖振って舞ったことは
遠い昔のことですが
その立ち居舞い姿は
しみじみと拝見いたしました
86
いかさまに
昔結べる
契り
にて
この世にかかる
なかの隔てぞ
〔源氏〕 どのように
前世で約束を交わした
縁で
この世にこのような
二人の仲に隔てがあるのだろうか
87
見ても思ふ
ぬはたいかに
嘆くらむ
こや世の人の
まどふてふ闇
〔王命婦〕 御覧になっている方も物思をされています、
御覧にならないあなたは、またどんなに
お嘆きのことでしょう。
これが世の人が
言う親心の闇というものでしょうか
88
よそへつつ
るに心は
なぐさまで
露けさまさる
撫子の花
〔源氏〕 思いよそえて
見ているが、気持ちは
慰まず、
涙を催させる
撫子の花の花であるよ
89
袖濡るる
露のゆかりと
思ふにも
なほ疎まれぬ
大和撫子
〔藤壺〕 袖を濡らしている方の
縁と
思うにつけても、
やはり疎ましくなってしまう
大和撫子です
90
君し来ば
手なれの
刈り飼はむ
盛り過ぎたる
下葉なりとも
〔源典侍〕 あなたがいらしたならば
良く手馴れた馬に秣を【Vラインに】
刈ってやりましょう、
盛りを過ぎた
下草であっても
91
笹分けば
やとがめむ
いつとなく
なつくめる
森の木隠れ
〔源氏〕笹を分けて入って逢いに行ったら
人が注意しましょう、
いつでもたくさんの
馬を手懐けている
森の木陰では
92
立ち濡るる
しもあらじ
東屋
うたてもかかる
雨そそきかな
〔源典侍〕誰も訪れて来て濡れる
人もいない
東屋に、
嫌な
雨垂れが落ちて来ます
93
妻は
あなわづらはし
東屋
真屋のあまりも
馴れじとぞ思ふ
〔源氏〕 人妻は
もう面倒です、
(東屋の、
真屋の軒先に立ち馴れるように:全集×)あまり
親しくなるまいと思います
(東屋の真屋のあまり=吾づまやーまや=人妻)
94
つつむめる
名や漏り出でむ
引きかはし
かくほころぶる
中の
〔頭中将〕 隠している
浮名も洩れ出てしまいましょう、
引っ張り合って
破れてしまった
二人の仲の衣から
95
隠れなき
ものと知る知る

着たるを薄き
心とぞ見る
〔源氏〕この女との仲まで知られて
しまうのを承知の上でやって来て
夏衣を着るとは、
何と薄情で浅薄な
お気持ちかと思いますよ
96
みても
いふかひぞなき
たちかさね
引きてかへりし
のなごりに
〔源典侍〕恨んでも
何の甲斐もありません、
次々とやって来ては
帰っていった
お二人の波の後は
97
荒らだちし
に心は
騒がねど
寄せけむ磯を
いかがみぬ
〔源氏〕荒々しく暴れた
波――頭中将には
驚かないが、
それを寄せつけた磯――あなたを
どうして恨まずにはいられようか
98
なか絶え
かことや負ふと
危ふさに
はなだの
取りてだに見ず
〔源氏〕あなた方の仲が切れたら
わたしのせいだと
非難されようかと思ったが、
この縹の帯など
わたしには関係ありません
99
君にかく
引き取られぬる
なれば
かくて絶えぬる
なかとかこたむ
〔頭中将〕あなたにこのように
取られてしまった
帯ですから、
こんな具合に仲も切れてしまった
ものとしましょうよ
100
尽きもせぬ
心の闇に
暮るるかな
雲居に人を
見るにつけても
〔源氏〕 尽きない
恋の思いに
何も見えない、
はるかに高い地位につかれる方を
仰ぎ見るにつけても