古今和歌集 巻ニ 春下:歌の配置・コメント付

巻一:春上 古今和歌集
巻二
春歌下
巻三:夏
目次
  69
不知
70
不知
71
不知
72
不知
73
不知
74
惟喬
75
素性
76
素性
77
承均
78
貫之
79
貫之
80
因香
81
高世
82
貫之
83
貫之
84
友則
85
好風
86
躬恒
87
貫之
88
貫之
89
貫之
90
奈良
91
遍昭
92
素性
93
不知
94
貫之
95
素性
96
素性
97
不知
98
不知
99
不知
100
不知
101
興風
102
興風
103
元方
104
躬恒
105
不知
106
不知
107
洽子
108
後蔭
109
素性
110
躬恒
111
不知
112
不知
113
小町
114
素性
115
貫之
116
貫之
117
貫之
118
貫之
119
遍昭
120
躬恒
121
不知
122
不知
123
不知
124
貫之
125
不知
126
素性
127
躬恒
128
貫之
129
深養
130
元方
131
興風
132
躬恒
133
業?
134
躬恒
 
 
90は奈良の帝(平城天皇ともされる)。

 
 

巻二:春下

   
   0069
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 春霞 たなひく山の さくら花
 うつろはむとや 色かはりゆく
かな はるかすみ たなひくやまの さくらはな
 うつろはむとや いろかはりゆく
   
  0070
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 まてといふに ちらてしとまる 物ならは
 なにを桜に 思ひまさまし
かな まてといふに ちらてしとまる ものならは
 なにをさくらに おもひまさまし
   
  0071
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 のこりなく ちるそめてたき 桜花
 ありて世中 はてのうけれは
かな のこりなく ちるそめてたき さくらはな
 ありてよのなか はてのうけれは
   
  0072
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 このさとに たひねしぬへし さくら花
 ちりのまかひに いへちわすれて
かな このさとに たひねしぬへし さくらはな
 ちりのまかひに いへちわすれて
   
  0073
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 空蝉の 世にもにたるか 花さくら
 さくと見しまに かつちりにけり
かな うつせみの よにもにたるか はなさくら
 さくとみしまに かつちりにけり
   
  0074
詞書 僧正遍昭によみておくりける
作者 これたかのみこ(惟喬親王)
原文 さくら花 ちらはちらなむ ちらすとて
 ふるさと人の きても見なくに
かな さくらはな ちらはちらなむ ちらすとて
 ふるさとひとの きてもみなくに
   
  0075
詞書 雲林院にて
さくらの花のちりけるを見てよめる
作者 そうく法師(素性法師)
原文 桜ちる 花の所は 春なから
 雪そふりつつ きえかてにする
かな さくらちる はなのところは はるなから
 ゆきそふりつつ きえかてにする
   
  0076
詞書 さくらの花のちり侍りけるを見てよみける
作者 そせい法し(素性法師)
原文 花ちらす 風のやとりは たれかしる
 我にをしへよ 行きてうらみむ
かな はなちらす かせのやとりは たれかしる
 われにをしへよ ゆきてうらみむ
   
  0077
詞書 うりむゐんにてさくらの花をよめる
作者 そうく法し
原文 いささくら 我もちりなむ ひとさかり
 ありなは人に うきめ見えなむ
かな いささくら われもちりなむ ひとさかり
 ありなはひとに うきめみえなむ
   
  0078
詞書 あひしれりける人のまうてきて
 かへりにけるのちによみて花にさしてつかはしける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 ひとめ見し 君もやくると 桜花
 けふはまち見て ちらはちらなむ
かな ひとめみし きみもやくると さくらはな
 けふはまちみて ちらはちらなむ
   
  0079
詞書 山のさくらを見てよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 春霞 なにかくすらむ 桜花
 ちるまをたにも 見るへきものを
かな はるかすみ なにかくすらむ さくらはな
 ちるまをたにも みるへきものを
   
  0080
詞書 心地そこなひてわつらひける時に、
風にあたらしとておろしこめてのみ侍りけるあひたに、
をれるさくらのちりかたになれりけるを見てよめる
作者 藤原よるかの朝臣(藤原因香)
原文 たれこめて 春のゆくへも しらぬまに
 まちし桜も うつろひにけり
かな たれこめて はるのゆくへも しらぬまに
 まちしさくらも うつろひにけり
   
  0081
詞書 東宮雅院にてさくらの花のみかは
水にちりてなかれけるを見てよめる
作者 すかのの高世(菅野高世)
原文 枝よりも あたにちりにし 花なれは
 おちても水の あわとこそなれ
かな えたよりも あたにちりにし はななれは
 おちてもみつの あわとこそなれ
   
  0082
詞書 さくらの花のちりけるをよみける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 ことならは さかすやはあらぬ さくら花
 見る我さへに しつ心なし
かな ことならは さかすやはあらぬ さくらはな
 みるわれさへに しつこころなし
   
  0083
詞書 さくらのこととくちる物はなしと
人のいひけれはよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 さくら花 とくちりぬとも おもほえす
 人の心そ 風も吹きあへぬ
かな さくらはな とくちりぬとも おもほえす
 ひとのこころそ かせもふきあへぬ
   
  0084
詞書 桜の花のちるをよめる
作者 きのとものり(紀友則)
原文 久方の ひかりのとけき 春の日に
 しつ心なく 花のちるらむ
かな ひさかたの ひかりのとけき はるのひに
 しつこころなく はなのちるらむ
コメ 百人一首33
ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
 しづごころなく はなのちるらむ
/ひさかたの 光のどけき 春の日に
 静心なく 花の散るらむ
   
  0085
詞書 春宮のたちはきのちんにて
さくらの花のちるをよめる
作者 ふちはらのよしかせ(藤原好風)
原文 春風は 花のあたりを よきてふけ
 心つからや うつろふと見む
かな はるかせは はなのあたりを よきてふけ
 こころつからや うつろふとみむ
   
  0086
詞書 さくらのちるをよめる
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 雪とのみ ふるたにあるを さくら花
 いかにちれとか 風の吹くらむ
かな ゆきとのみ ふるたにあるを さくらはな
 いかにちれとか かせのふくらむ
   
  0087
詞書 ひえにのほりてかへりまうてきてよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 山たかみ みつつわかこし さくら花
 風は心に まかすへらなり
かな やまたかみ みつつわかこし さくらはな
 かせはこころに まかすへらなり
   
  0088
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
(一本大伴くろぬし(大伴黒主))
原文 春雨の ふるは涙か さくら花
 ちるををしまぬ 人しなけれは
かな はるさめの ふるはなみたか さくらはな
 ちるををしまぬ ひとしなけれは
   
  0089
詞書 亭子院歌合歌
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 さくら花 ちりぬる風の なこりには
 水なきそらに 浪そたちける
かな さくらはな ちりぬるかせの なこりには
 みつなきそらに なみそたちける
   
  0090
詞書 ならのみかとの御うた
作者 ならのみかと(奈良の帝、平城天皇?)
原文 ふるさとと なりにしならの みやこにも
 色はかはらす 花はさきけり
かな ふるさとと なりにしならの みやこにも
 いろはかはらす はなはさきけり
   
  0091
詞書 はるのうたとてよめる
作者 よしみねのむねさた(良岑宗貞、遍昭)
原文 花の色は かすみにこめて 見せすとも
 かをたにぬすめ 春の山かせ
かな はなのいろは かすみにこめて みせすとも
 かをたにぬすめ はるのやまかせ
   
  0092
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 そせい法し(素性法師)
原文 はなの木も 今はほりうゑし 春たては
 うつろふ色に 人ならひけり
かな はなのきも いまはほりうゑし はるたては
 うつろふいろに ひとならひけり
   
  0093
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 春の色の いたりいたらぬ さとはあらし
 さけるさかさる 花の見ゆらむ
かな はるのいろの いたりいたらぬ さとはあらし
 さけるさかさる はなのみゆらむ
   
  0094
詞書 はるのうたとてよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 三わ山を しかもかくすか 春霞
 人にしられぬ 花やさくらむ
かな みわやまを しかもかくすか はるかすみ
 ひとにしられぬ はなやさくらむ
   
  0095
詞書 うりむゐんのみこのもとに、
 花見にきた山のほとりにまかれりける時によめる
作者 そせい(素性法師)
原文 いさけふは 春の山辺に ましりなむ
 くれなはなけの 花のかけかは
かな いさけふは はるのやまへに ましりなむ
 くれなはなけの はなのかけかは
   
  0096
詞書 はるのうたとてよめる
作者 そせい(素性法師)
原文 いつまてか 野辺に心の あくかれむ
 花しちらすは 千世もへぬへし
かな いつまてか のへにこころの あくかれむ
 はなしちらすは ちよもへぬへし
   
  0097
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 春ことに 花のさかりは ありなめと
 あひ見む事は いのちなりけり
かな はることに はなのさかりは ありなめと
 あひみむことは いのちなりけり
   
  0098
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 花のこと 世のつねならは すくしてし
 昔は又も かへりきなまし
かな はなのこと よのつねならは すくしてし
 むかしはまたも かへりきなまし
   
  0099
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 吹く風に あつらへつくる 物ならは
 このひともとは よきよといはまし
かな ふくかせに あつらへつくる ものならは
 このひともとは よきよといはまし
   
  0100
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 まつ人も こぬものゆゑに うくひすの
 なきつる花を をりてけるかな
かな まつひとも こぬものゆゑに うくひすの
 なきつるはなを をりてけるかな
   
  0101
詞書 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 さく花は 千くさなからに あたなれと
 たれかははるを うらみはてたる
かな さくはなは ちくさなからに あたなれと
 たれかははるを うらみはてたる
   
  0102
詞書 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 春霞 色のちくさに 見えつるは
 たなひく山の 花のかけかも
かな はるかすみ いろのちくさに みえつるは
 たなひくやまの はなのかけかも
   
  0103
詞書 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた
作者 ありはらのもとかた(在原元方)
原文 霞立つ 春の山へは とほけれと
 吹きくる風は 花のかそする
かな かすみたつ はるのやまへは とほけれと
 ふきくるかせは はなのかそする
   
  0104
詞書 うつろへる花を見てよめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 花見れは 心さへにそ うつりける
 いろにはいてし 人もこそしれ
かな はなみれは こころさへにそ うつりける
 いろにはいてし ひともこそしれ
   
  0105
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 鶯の なくのへことに きて見れは
 うつろふ花に 風そふきける
かな うくひすの なくのへことに きてみれは
 うつろふはなに かせそふきける
   
  0106
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 吹く風を なきてうらみよ 鶯は
 我やは花に 手たにふれたる
かな ふくかせを なきてうらみよ うくひすは
 われやははなに てたにふれたる
   
  0107
詞書 題しらす
作者 典侍洽子朝臣
(春澄洽子、はるすみのあまねいこ)
原文 ちる花の なくにしとまる 物ならは
 我鶯に おとらましやは
かな ちるはなの なくにしとまる ものならは
 われうくひすに おとらましやは
   
  0108
詞書 仁和の中将のみやすん所の家に
歌合せむとてしける時によみける
作者 藤原のちかけ(藤原後蔭)
原文 花のちる ことやわひしき 春霞
 たつたの山の うくひすのこゑ
かな はなのちる ことやわひしき はるかすみ
 たつたのやまの うくひすのこゑ
   
  0109
詞書 うくひすのなくをよめる
作者 そせい(素性法師)
原文 こつたへは おのかはかせに ちる花を
 たれにおほせて ここらなくらむ
かな こつたへは おのかはかせに ちるはなを
 たれにおほせて ここらなくらむ
   
  0110
詞書 鶯の花の木にてなくをよめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 しるしなき ねをもなくかな うくひすの
 ことしのみちる 花ならなくに
かな しるしなき ねをもなくかな うくひすの
 ことしのみちる はなならなくに
   
  0111
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 こまなめて いさ見にゆかむ ふるさとは
 雪とのみこそ 花はちるらめ
かな こまなへて いさみにゆかむ ふるさとは
 ゆきとのみこそ はなはちるらめ
   
  0112
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ちる花を なにかうらみむ 世中に
 わか身もともに あらむものかは
かな ちるはなを なにかうらみむ よのなかに
 わかみもともに あらむものかは
   
  0113
詞書 題しらす
作者 小野小町
原文 花の色は うつりにけりな いたつらに
 わか身世にふる なかめせしまに
かな はなのいろは うつりにけりな いたつらに
 わかみよにふる なかめせしまに
コメ 百人一首9
はなのいろは うつりにけりな いたづらに
 わがみよにふる ながめせしまに
/花の色は 移りにけりな 徒に
 我が身世にふる ながめせしまに
   
  0114
詞書 仁和の中将のみやすん所の家に
歌合せむとしける時によめる
作者 そせい(素性法師)
原文 をしと思ふ 心はいとに よられなむ
 ちる花ことに ぬきてととめむ
かな をしとおもふ こころはいとに よられなむ
 ちるはなことに ぬきてととめむ
   
  0115
詞書 しかの山こえに女のおほくあへりけるに
よみてつかはしける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 あつさゆみ はるの山辺を こえくれは
 道もさりあへす 花そちりける
かな あつさゆみ はるのやまへを こえくれは
 みちもさりあへす はなそちりける
   
  0116
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 春ののに わかなつまむと こしものを
 ちりかふ花に みちはまとひぬ
かな はるののに わかなつまむと こしものを
 ちりかふはなに みちはまとひぬ
   
  0117
詞書 山てらにまうてたりけるによめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 やとりして 春の山辺に ねたる夜は
 夢の内にも 花そちりける
かな やとりして はるのやまへに ねたるよは
 ゆめのうちにも はなそちりける
   
  0118
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 吹く風と 谷の水とし なかりせは
 み山かくれの 花を見ましや
かな ふくかせと たにのみつとし なかりせは
 みやまかくれの はなをみましや
   
  0119
詞書 しかよりかへりける
をうなともの花山にいりて
ふちの花のもとにたちよりてかへりけるに、よみておくりける
作者 僧正遍昭
原文 よそに見て かへらむ人に ふちの花は
 ひまつはれよえ たはをるとも
かな よそにみて かへらむひとに ふちのはな
 はひまつはれよ えたはをるとも
   
  0120
詞書 家にふちの花のさけりけるを、
人のたちとまりて見けるをよめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 わかやとに さける藤波 たちかへり
 すきかてにのみ 人の見るらむ
かな わかやとに さけるふちなみ たちかへり
 すきかてにのみ ひとのみるらむ
   
  0121
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 今もかも さきにほふらむ 橘の
 こしまのさきの 山吹の花
かな いまもかも さきにほふらむ たちはなの
 こしまのさきの やまふきのはな
   
  0122
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 春雨に にほへる色も あかなくに
 かさへなつかし 山吹の花
かな はるさめに にほへるいろも あかなくに
 かさへなつかし やまふきのはな
   
  0123
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 山ふきは あやななさきそ 花見むと
 うゑけむ君か こよひこなくに
かな やまふきは あやななさきそ はなみむと
 うゑけむきみか こよひこなくに
   
  0124
詞書 よしの河のほとりに
山ふきのさけりけるをよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 吉野河 岸の山吹 ふくかせに
 そこの影さへ うつろひにけり
かな よしのかは きしのやまふき ふくかせに
 そこのかけさへ うつろひにけり
   
  0125
詞書 題しらす/この歌は、ある人のいはく、
たちはなのきよともか歌なり
作者 よみ人しらす
(一説、たちはなのきよとも(橘清友))
原文 かはつなく ゐての山吹 ちりにけり
 花のさかりにあはましものを
かな かはつなく ゐてのやまふき ちりにけり
 はなのさかりに あはましものを
   
  0126
詞書 春の歌とてよめる
作者 そせい(素性法師)
原文 おもふとち 春の山辺に うちむれて
 そこともいはぬ たひねしてしか
かな おもふとち はるのやまへに うちむれて
 そこともいはぬ たひねしてしか
   
  0127
詞書 はるのとくすくるをよめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 あつさゆみ 春たちしより 年月の
 いるかことくも おもほゆるかな
かな あつさゆみ はるたちしより としつきの
 いるかことくも おもほゆるかな
   
  0128
詞書 やよひにうくひすのこゑの
ひさしうきこえさりけるをよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 なきとむる 花しなけれは うくひすも
 はては物うく なりぬへらなり
かな なきとむる はなしなけれは うくひすも
 はてはものうく なりぬへらなり
   
  0129
詞書 やよひのつこもりかたに山をこえけるに、
山河より花のなかれけるをよめる
作者 ふかやふ(清原深養父)
原文 花ちれる 水のまにまに とめくれは
 山には春も なくなりにけり
かな はなちれる みつのまにまに とめくれは
 やまにははるも なくなりにけり
   
  0130
詞書 はるををしみてよめる
作者 もとかた(在原元方)
原文 をしめとも ととまらなくに 春霞
 かへる道にし たちぬとおもへは
かな をしめとも ととまらなくに はるかすみ
 かへるみちにし たちぬとおもへは
   
  0131
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 おきかせ(藤原興風)
原文 こゑたえす なけやうくひす ひととせに
 ふたたひとたに くへき春かは
かな こゑたえす なけやうくひす ひととせに
 ふたたひとたに くへきはるかは
   
  0132
詞書 やよひのつこもりの日、
花つみよりかへりける女ともを見てよめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 ととむへき 物とはなしに はかなくも
 ちる花ことに たくふこころか
かな ととむへき ものとはなしに はかなくも
 ちるはなことに たくふこころか
   
  0133
詞書 やよひのつこもりの日、あめのふりけるに
 ふちの花ををりて人につかはしける
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 ぬれつつそ しひてをりつる 年の内に
 春はいくかも あらしと思へは
かな ぬれつつそ しひてをりつる としのうちに
 はるはいくかも あらしとおもへは
コメ 出典:伊勢80段(おとろへたる家)。
「おとろへたる家に、
藤の花植ゑたる人ありけり。
やよひのつごもりに、その日雨そぼふるに、人のもとへ折りて奉らすとて、よめる。
『ぬれつゝぞ しひて折りつる 年のうちに
 春はいくかも あらじと思へば』」
   
  0134
詞書 亭子院の歌合のはるのはてのうた
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 けふのみと 春をおもはぬ 時たにも
 立つことやすき 花のかけかは
かな けふのみと はるをおもはぬ ときたにも
 たつことやすき はなのかけかは