古今和歌集 巻十七 雑上:歌の配置・コメント付

巻十六
哀傷
古今和歌集
巻十七
雑歌上
巻十八
雑下
目次
  863
不知
864
不知
865
不知
866
先太
867
不知
868
業×
869
近院
870
今道
871
業?
872
遍昭
873
源融
874
敏行
875
兼芸
876
友則
877
不知
878
不知
879
業×
880
貫之
881
貫之
882
不知
883
不知
884
業平
885
敬信
886
不知
887
不知
888
不知
889
不知
890
不知
891
不知
892
不知
893
不知
894
不知
895
不知
896
不知
897
不知
898
不知
899
不知
900
901
業?
902
棟梁
903
敏行
904
不知
905
不知
906
不知
907
柿?
908
不知
909
興風
910
不知
911
不知
912
不知
913
不知
914
忠房
915
貫之
916
貫之
917
忠岑
918
貫之
919
法皇
920
伊勢
921
真静
922
行平
923
業×
924
承均
925
神退
926
伊勢
927
長盛
928
忠岑
929
躬恒
930
静子
931
貫之
932
是則
 
 

※不知が41%(29/70)。
 伊勢物語とリンクが多いと増える傾向にある(恋一・恋四・恋五・雑下)。
 ここでは9つ。900は業平の母とされるがそれは誤り。伊勢全体を業平の歌集と認定し、それを個別の歌の認定に波及させただけ。
 歌が収録される伊勢84段で、男の身は卑しいがその母は宮という記述は無視。中将は身を卑しいとは言わない。謙遜でもない。伊勢の昔男は大和の田舎(筒井)出身で宮仕えに出たということは、初段~筒井筒・梓弓から全て一貫している。
 そうした記述や「在五」「けぢめ見せぬ心」(63段)という記述で、主人公を業平の異名で呼んでいるとか、業平を思慕している者などとアゴが外れるようなことをいう。古今の業平認定があるから、伊勢に何が書いてあろうとそうだと思いこむ。全力の否定すら全力で肯定にねじまげる。伊勢に何が書いてあろうと関係ない。ただただ古今に基づく。それは公の歌集だからである。公の認定こそ確実で信頼に足りる。それに反する個人の記録は直ちに間違い。それを全体主義とかファ○ズムという。証拠の理解が全くない。だから筋が全く通らないし通す気もない。おかしければ著者のせい。おかしいのはそういう人々。この国は根拠のない公万能主義、どれだけ不都合が出ても頑なにそれを認めず、問題ないと言い張り続け、問題を自ら真摯に検証してひき返せない所。過ちと認めない。つまり真実・実態などは本質的に興味がない。大事なのは権力と面子。
 
 古今が先ではなく伊勢が先。何より記述内容の年代がそう。
 伊勢の圧倒的影響は、伊勢に偏重した詞書からも明らかだし、伊勢の影響力は派生物のそれではない。源氏物語は「伊勢物語」と直接言及し「伊勢の海の深き心」とする。
 古今で有名な業平ではない。伊勢で有名な業平。だから内実は伊勢にしかない。つまり業平には実は何もない。
 伊勢の登場人物は、全て古今世代以前の人々。伊勢で最後の方に若者として出てくるの内記の敏行(貫之の生まれた866に少内記)。
 ちなみに、39段「源の至」で源順という後撰筆頭の撰者とされる人物が末尾に突然記されるが(至は順が祖父なり)、ここだけ後世の付け足し。この一箇所をもって全体を規定するのは本末転倒。それなら源氏以前の人物を注記さえすれば成立を操作できる。そしてまずその意図でされている。ちはやぶるの屏風と同じ構図。ピンポイント捏造。屏風など文脈も背景も、記録との一貫性も整合性も何もない。何とでもいえる。つまりオリジナル要素を一つでも付け足したかった。だから伊勢の文脈は完全無視で屏風。
 
 古今はオリジナルではない。伊勢がオリジナル。
 古今は必ず参照元がある歌集だが、業平の歌と根拠づけるに足りる出典元は、伊勢以外に確認されていない(素朴に考えても、伊勢にセンスの源泉を与えられたのは伊勢の著者以外に存在しない)。そして伊勢は業平を否定していることは上述。
 
 こうした整合性は一切無視し、古今の認定の根拠は一切検証せず、認定を維持する方向で論を立て続ける、勅撰という権威のみに基づく業平説。最初の土台がおかしいから、積み上げるほど、おかしくなっていく。

 
 

巻十七:雑上

   
   0863
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わかうへに 露そおくなる あまの河
 とわたる舟の かいのしつくか
かな わかうへに つゆそおくなる あまのかは
 とわたるふねの かいのしつくか
コメ 出典:伊勢59段(東山)
「わが上に 露ぞ置くなる天の河
 門渡る船の かいのしづくか」
   
  0864
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 思ふとち まとゐせる夜は 唐錦
 たたまくをしき 物にそありける
かな おもふとち まとゐせるよは からにしき
 たたまくをしき ものにそありける
   
  0865
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 うれしきを なににつつまむ 唐衣
 たもとゆたかに たてといはましを
かな うれしきを なににつつまむ からころも
 たもとゆたかに たてといはましを
   
  0866
詞書 題しらす(※)/ある人のいはく、
この歌はさきのおほいまうち君のなり
作者 よみ人しらす(※)
(一説、さきのおほいまうち君)
原文 限なき 君かためにと をる花は
 ときしもわかぬ 物にそ有りける
かな かきりなき きみかためにと をるはなは
 ときしもわかぬ ものにそありける
コメ 参照:伊勢98段(梅の造り枝)。
「むかし、
太政大臣(おほきおほいまうちぎみ)
と聞ゆる、おはしけり。
仕うまつる男、なが月ばかりに、
梅のつくり枝に雉をつけて、奉るとて、
わがたのむ 君がためにと 折る花は
 ときしもわかぬ ものにぞありける』
とよみて奉りたりければ、
いとかしこくおかしがり給ひて、
使に禄たまへりけり。」
 
 これは伊勢の著者、文屋の代作。
 それを伏せるために「わがたのむ」が「限りなき」というベタベタのヨイショになっている。
 「仕うまつる男」は、95段の「二条の后に仕うまつる男」とリンクさせた表現。縫殿の文屋で昔男。
 太政大臣は、この二条の后の兄として出てきている流れなので、その部下の男が突如出てきているのではない。
   
  0867
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 紫の ひともとゆゑに むさしのの
 草はみなから あはれとそ見る
かな むらさきの ひともとゆゑに むさしのの
 くさはみなから あはれとそみる
   
  0868
詞書 めのおとうとをもて侍りける人に
うへのきぬをおくるとてよみてやりける
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 紫の 色こき時は めもはるに
 野なる草木そ わかれさりける
かな むらさきの いろこきときは めもはるに
 のなるくさきそ わかれさりける
コメ 出典:伊勢41段(紫 上のきぬ)。
「これを、かのあてなる男聞きて、
いと心苦しかりければ、
いと清らかなる録衫の上の衣を
見出でてやるとて、
『紫の 色濃き時 はめもはるに
 野なる草木ぞ わかれざりける』
 武蔵野の心なるべし。」
   
  0869
詞書 大納言ふちはらのくにつねの朝臣の
宰相より中納言になりける時、
そめぬうへのきぬあやをおくるとてよめる
作者 近院右のおほいまうちきみ
原文 色なしと 人や見るらむ 昔より
 ふかき心に そめてしものを
かな いろなしと ひとやみるらむ むかしより
 ふかきこころに そめてしものを
   
  0870
詞書 いそのかみのなむまつか宮つかへもせて
いそのかみといふ所にこもり侍りけるを、
にはかにかうふりたまはれりけれは、
よろこひいひつかはすとて
よみてつかはしける
作者 ふるのいまみち(布留今道)
原文 日のひかり やふしわかねは いそのかみ
 ふりにしさとに 花もさきけり
かな ひのひかり やふしわかねは いそのかみ
 ふりにしさとに はなもさきけり
   
  0871
詞書 二条のきさきの
また東宮のみやすんところと申しける時に、
おほはらのにまうてたまひける日よめる
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 おほはらや をしほの山も けふこそは
 神世の事も 思ひいつらめ
かな おほはらや をしほのやまも けふこそは
 かみよのことも おもひいつらめ
コメ 出典:伊勢76段(小塩の山)。
「むかし、二条の后の、
まだ春宮の御息所と申しける時、
氏神にまうで給ひけるに、
近衛府にさぶらひける翁
人々の禄たまはるついでに、
御車より給はりて、よみて奉りける。
『大原や をしほの山も 今日こそは
 神代のことも 思ひいづらめ』とて、
心にもかなしと思ひけむ、
いかが思ひけむ、知らずかし。」
   
  0872
詞書 五節のまひひめを見てよめる
作者 よしみねのむねさた(良岑宗貞、遍昭)
原文 あまつかせ 雲のかよひち 吹きとちよ
 をとめのすかた しはしととめむ
かな あまつかせ くものかよひち ふきとちよ
 をとめのすかた しはしととめむ
コメ 百人一首12
あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ
 をとめのすがた しばしとどめむ
/天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ
 をとめの姿 しばしとどめむ
   
  0873
詞書 五せちのあしたに
かむさしのたまのおちたりけるを見て、
たかならむととふらひてよめる
作者 河原の左のおほいまうちきみ
(源融、みなもとのとおる)
原文 ぬしやたれ とへとしら玉 いはなくに
 さらはなへてや あはれとおもはむ
かな ぬしやたれ とへとしらたま いはなくに
 さらはなへてや あはれとおもはむ
   
  0874
詞書 寛平御時
うへのさふらひに侍りけるをのことも、
かめをもたせて
きさいの宮の御方におほみきのおろしと
きこえにたてまつりたりけるを、
くら人ともわらひて
かめをおまへにもていてて
ともかくもいはすなりにけれは、
つかひのかへりきて、さなむありつる
といひけれは、くら人のなかにおくりける
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 玉たれの こかめやいつら こよろきの
 いその浪わけ おきにいてにけり
かな たまたれの こかめやいつら こよろきの
 いそのなみわけ おきにいてにけり
   
  0875
詞書 女ともの見てわらひけれはよめる
作者 けむけいほうし(兼芸法師)
原文 かたちこそ み山かくれの くち木なれ
 心は花に なさはなりなむ
かな かたちこそ みやまかくれの くちきなれ
 こころははなに なさはなりなむ
   
  0876
詞書 方たかへに人の家にまかれりける時に、
あるしのきぬをきせたりけるを
あしたにかへすとてよみける
作者 きのとものり(紀友則)
原文 蝉のはの よるの衣は うすけれと
 うつりかこくも にほひぬるかな
かな せみのはの よるのころもは うすけれと
 うつりかこくも にほひぬるかな
   
  0877
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 おそくいつる 月にもあるかな 葦引の
 山のあなたも をしむへらなり
かな おそくいつる つきにもあるかな あしひきの
 やまのあなたも をしむへらなり
   
  0878
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わか心 なくさめかねつ さらしなや
 をはすて山に てる月を見て
かな わかこころ なくさめかねつ さらしなや
 をはすてやまに てるつきをみて
   
  0879
詞書 題しらす
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 おほかたは 月をもめてし これそこの
 つもれは人の おいとなるもの
かな おほかたは つきをもめてし これそこの
 つもれはひとの おいとなるもの
コメ 出典:伊勢88段(月をもめでじ)。
「むかし、いと若きにはあらぬ、
これかれ友だちども集りて、
月を見て、それがなかにひとり、
『おほかたは 月をもめでじ これぞこの
 つもれば人の 老いとなるもの』」
   
  0880
詞書 月おもしろしとて
凡河内躬恒かまうてきたりけるによめる
作者 きのつらゆき(紀貫之)
原文 かつ見れと うとくもあるかな 月影の
 いたらぬさとも あらしと思へは
かな かつみれと うとくもあるかな つきかけの
 いたらぬさとも あらしとおもへは
   
  0881
詞書 池に月の見えけるをよめる
作者 きのつらゆき(紀貫之)
原文 ふたつなき 物と思ひしを みなそこに
 山のはならて いつる月かけ
かな ふたつなき ものとおもひしを みなそこに
 やまのはならて いつるつきかけ
   
  0882
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あまの河 雲のみをにて はやけれは
 ひかりととめす 月そなかるる
かな あまのかは くものみをにて はやけれは
 ひかりととめす つきそなかるる
   
  0883
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 あかすして 月のかくるる 山本は
 あなたおもてそ こひしかりける
かな あかすして つきのかくるる やまもとは
 あなたおもてそ こひしかりける
   
  0884
詞書 これたかのみこの
かりしけるともにまかりて、
やとりにかへりて
夜ひとよさけをのみ物かたりをしけるに、
十一日の月もかくれなむとしけるをりに、
みこ、ゑひてうちへいりなむとしけれは
よみ侍りける
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※)
原文 あかなくに またきも月の かくるるか
 山のはにけて いれすもあらなむ
かな あかなくに またきもつきの かくるるか
 やまのはにけて いれすもあらなむ
コメ 出典:伊勢82段(渚の院)。
「十一日の月もかくれなむとすれば、
かの馬頭のよめる。
『あかなくに まだきも月の かくるゝか
 山の端にげて 入れずもあらなむ』」
   
  0885
詞書 田むらのみかとの御時に、
斎院に侍りけるあきらけいこのみこを、
ははあやまちありといひて
斎院をかへられむとしけるを、
そのことやみにけれはよめる
作者 あま敬信(詳細不明。『古今和歌集目録』では尼敬信)
原文 おほそらを てりゆく月し きよけれは
 雲かくせとも ひかりけなくに
かな おほそらを てりゆくつきし きよけれは
 くもかくせとも ひかりけなくに
   
  0886
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 いそのかみ ふるからをのの もとかしは
 本の心は わすられなくに
かな いそのかみ ふるからをのの もとかしは
 もとのこころは わすられなくに
   
  0887
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 いにしへの 野中のし水 ぬるけれと
 本の心を しる人そくむ
かな いにしへの のなかのしみつ ぬるけれと
 もとのこころを しるひとそくむ
   
  0888
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす(※)
原文 いにしへの しつのをたまき いやしきも
 よきもさかりは 有りしものなり
かな いにしへの しつのをたまき いやしきも
 よきもさかりは ありしものなり
コメ 出典:伊勢32段(しづのをだまき)。
「むかし、ものいひける女に、
年ごろありて、
『古の しづのをだまき くりかへし
 昔を今に なすよしもがな』
といへりけれど、
なにとも思はずやありけむ。」
   
  0889
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 今こそあれ 我も昔は をとこ山
 さかゆく時も 有りこしものを
かな いまこそあれ われもむかしは をとこやま
 さかゆくときも ありこしものを
   
  0890
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 世中に ふりぬる物は つのくにの
 なからのはしと 我となりけり
かな よのなかに ふりぬるものは つのくにの
 なからのはしと われとなりけり
   
  0891
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ささのはに ふりつむ雪の うれをおもみ
 本くたちゆく わかさかりはも
かな ささのはに ふりつむゆきの うれをおもみ
 もとくたちゆく わかさかりはも
   
  0892
詞書 題しらす/又は、
さくらあさのをふのしたくさおいぬれは
作者 よみ人しらす
原文 おほあらきの もりのした草 おいぬれは
 駒もすさめす かる人もなし
かな おほあらきの もりのしたくさ おいぬれは
 こまもすさへす かるひともなし
   
  0893
詞書 題しらす/このみつの歌は、
昔ありけるみたりのおきなのよめるとなむ
作者 よみ人しらす
原文 かそふれは とまらぬ物を 年といひて
 ことしはいたく おいそしにける
かな かそふれは とまらぬものを としといひて
 ことしはいたく おいそしにける
   
  0894
詞書 題しらす
/又は、おほとものみつのはまへに
/このみつの歌は、
昔ありけるみたりのおきなのよめるとなむ
作者 よみ人しらす
原文 おしてるや なにはのみつに やくしほの
 からくも我は おいにけるかな
かな おしてるや なにはのみつに やくしほの
 からくもわれは おいにけるかな
   
  0895
詞書 題しらす/このみつの歌は、
昔ありけるみたりのおきなのよめるとなむ
作者 よみ人しらす
原文 おいらくの こむとしりせは かとさして
 なしとこたへて あはさらましを
かな おいらくの こむとしりせは かとさして
 なしとこたへて あはさらましを
   
  0896
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 さかさまに 年もゆかなむ とりもあへす
 すくるよはひや ともにかへると
かな さかさまに としもゆかなむ とりもあへす
 すくるよはひや ともにかへると
   
  0897
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 とりとむる 物にしあらねは 年月を
 あはれあなうと すくしつるかな
かな とりとむる ものにしあらねは としつきを
 あはれあなうと すくしつるかな
   
  0898
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ととめあへす むへもとしとは いはれけり
 しかもつれなく すくるよはひか
かな ととめあへす うへもとしとは いはれけり
 しかもつれなく すくるよはひか
   
  0899
詞書 題しらす/この歌は、
ある人のいはく、おほとものくろぬしかなり
作者 よみ人しらす(一説、おほとものくろぬし)
原文 鏡山 いさ立ちよりて 見てゆかむ
 年へぬる身は おいやしぬると
かな かかみやま いさたちよりて みてゆかむ
 としへぬるみは おいやしぬると
   
  0900
詞書 業平朝臣(※問題あり)の
ははのみこ長岡にすみ侍りける時に、
なりひら(※問題あり)宮つかへすとて
時時もえまかりとふらはす侍りけれは、
しはすはかりにははのみこのもとより、
とみの事とてふみをもてまうてきたり、
あけて見れは、ことははなくてありけるうた
作者 業平朝臣(※問題あり)のははのみこ
原文 老いぬれは さらぬ別も ありといへは
 いよいよ見まく ほしき君かな
かな おいぬれは さらぬわかれも ありといへは
 いよいよみまく ほしききみかな
コメ 出典:伊勢84段(さらぬ別れ)。
「むかし、男ありけり。
身はいやしながら、母なむ宮なりける。
その母長岡といふ所に住み給ひけり。
子は京に宮仕へしければ、
まうづとしけれど、しばしばえまうでず。
ひとつ子さへありければ、
いとかなしうし給ひけり。
さるに、しはすばかりに、
とみの事とて、御ふみあり。
おどろきて見れば、うたあり。
『老いぬれば さらぬ別れの ありといへば
 いよいよ見まく ほしく君かな』」
   
  0901
詞書 返し
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 世中に さらぬ別の なくもかな
 千世もとなけく 人のこのため
かな よのなかに さらぬわかれの なくもかな
 ちよもとなけく ひとのこのため
コメ 出典:伊勢84段(さらぬ別れ)。
「かの子、いたううちなきてよめる。
『世の中に さらぬ別れの なくもがな
 千代もといのる 人の子のため』」
   
  0902
詞書 寛平御時きさいの宮の歌合のうた
作者 在原むねやな(在原棟梁)
原文 白雪の やへふりしける かへる山
 かへるかへるも おいにけるかな
かな しらゆきの やへふりしける かへるやま
 かへるかへるも おいにけるかな
   
  0903
詞書 おなし御時のうへのさふらひにて、
をのこともにおほみきたまひて、
おほみあそひありけるついてに
つかうまつれる
作者 としゆきの朝臣(藤原敏行)
原文 おいぬとて なとかわか身を せめきけむ
 おいすはけふに あはましものか
かな おいぬとて なとかわかみを せめきけむ
 おいすはけふに あはましものか
   
  0904
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 ちはやふる 宇治の橋守 なれをしそ
 あはれとは思ふ 年のへぬれは
かな ちはやふる うちのはしもり なれをしそ
 あはれとはおもふ としのへぬれは
   
  0905
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 我見ても ひさしく成りぬ 住の江の
 岸の姫松 いくよへぬらむ
かな われみても ひさしくなりぬ すみのえの
 きしのひめまつ いくよへぬらむ
   
  0906
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 住吉の 岸のひめ松 人ならは
 いく世かへしと とはましものを
かな すみよしの きしのひめまつ ひとならは
 いくよかへしと とはましものを
   
  0907
詞書 題しらす/この歌は、ある人のいはく、
柿本人麿かなり
作者 よみ人しらす(一説、柿本人麻呂)
原文 梓弓 いそへのこ松 たか世にか
 よろつ世かねて たねをまきけむ
かな あつさゆみ いそへのこまつ たかよにか
 よろつよかねて たねをまきけむ
   
  0908
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 かくしつつ 世をやつくさむ 高砂の
 をのへにたてる 松ならなくに
かな かくしつつ よをやつくさむ たかさこの
 をのへにたてる まつならなくに
   
  0909
詞書 題しらす
作者 藤原おきかせ(藤原興風)
原文 誰をかも しる人にせむ 高砂の
 松も昔の 友ならなくに
かな たれをかも しるひとにせむ たかさこの
 まつもむかしの ともならなくに
コメ 百人一首34
たれをかも しるひとにせむ たかさごの
 まつもむかしの ともならなくに
   
  0910
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わたつ海の おきつしほあひに うかふあわの
 きえぬものから よる方もなし
かな わたつうみの おきつしほあひに うかふあわの
 きえぬものから よるかたもなし
   
  0911
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わたつ海の かさしにさせる 白妙の
 浪もてゆへる 淡路しま山
かな わたつうみの かさしにさせる しろたへの
 なみもてゆへる あはちしまやま
   
  0912
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 わたの原 よせくる浪の しはしはも
 見まくのほしき 玉津島かも
かな わたのはら よせくるなみの しはしはも
 みまくのほしき たまつしまかも
   
  0913
詞書 題しらす
作者 よみ人しらす
原文 なにはかた しほみちくらし あま衣
 たみのの島に たつなき渡る
かな なにはかた しほみちくらし あまころも
 たみののしまに たつなきわたる
   
  0914
詞書 貫之かいつみのくにに侍りける時に、
やまとよりこえまうてきて
よみてつかはしける
作者 藤原たたふさ(藤原忠房)
原文 君を思ひ おきつのはまに なくたつの
 尋ねくれはそ ありとたにきく
かな きみをおもひ おきつのはまに なくたつの
 たつねくれはそ ありとたにきく
   
  0915
詞書 返し
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 おきつ浪 たかしのはまの 浜松の
 名にこそ君を まちわたりつれ
かな おきつなみ たかしのはまの はままつの
 なにこそきみを まちわたりつれ
   
  0916
詞書 なにはにまかれりける時よめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 なにはかた おふるたまもを かりそめの
 あまとそ我は なりぬへらなる
かな なにはかた おふるたまもを かりそめの
 あまとそわれは なりぬへらなる
   
  0917
詞書 あひしれりける人の住吉にまうてけるに
よみてつかはしける
作者 みふのたたみね(壬生忠岑)
原文 すみよしと あまはつくとも なかゐすな
 人忘草 おふといふなり
かな すみよしと あまはつくとも なかゐすな
 ひとわすれくさ おふといふなり
   
  0918
詞書 なにはへまかりける時、
たみののしまにて雨にあひてよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 あめにより たみのの島を けふゆけと
 名にはかくれぬ 物にそ有りける
かな あめにより たみののしまを けふゆけと
 なにはかくれぬ ものにそありける
   
  0919
詞書 法皇にし河におはしましたりける日、
つるすにたてりといふことを題にて
よませたまひける
作者 法皇
原文 あしたつの たてる河辺を 吹く風に
 よせてかへらぬ 浪かとそ見る
かな あしたつの たてるかはへを ふくかせに
 よせてかへらぬ なみかとそみる
   
  0920
詞書 中務のみこの家の池に
舟をつくりておろしはしめてあそひける日、
法皇御覧しにおはしましたりけり、
ゆふさりつかた、
かへりおはしまさむとしけるをりに、
よみてたてまつりける
作者 伊勢(伊勢の御)
原文 水のうへに うかへる舟の 君ならは
 ここそとまりと いはましものを
かな みつのうへに うかへるふねの きみならは
 ここそとまりと いはましものを
   
  0921
詞書 からことといふ所にてよめる
作者 真せいほうし(真静法師、『古今和歌集目録』。詳細不明)
原文 宮こまて ひひきかよへる からことは
 浪のをすけて 風そひきける
かな みやこまて ひひきかよへる からことは
 なみのをすけて かせそひきける
   
  0922
詞書 ぬのひきのたきにてよめる
作者 在原行平朝臣
原文 こきちらす たきの白玉 ひろひおきて
 世のうき時の 涙にそかる
かな こきちらす たきのしらたま ひろひおきて
 よのうきときの なみたにそかる
コメ 元には、たきのしら「いと」とあったが誤記だろう。
   
  0923
詞書 布引の滝の本にて
人人あつまりて歌よみける時によめる
作者 なりひらの朝臣(在原業平)(※問題あり)
原文 ぬきみたる 人こそあるらし 白玉の
 まなくもちるか 袖のせはきに
かな ぬきみたる ひとこそあるらし しらたまの
 まなくもちるか そてのせはきに
コメ 出典:伊勢87段(布引の滝)。
「むかし、男、…(略)…
この男、なま宮仕へしければ、
それを便りにて、衛府佐ども集まり来にけり。
この男のこのかみも衛府督なりけり。
…(略)…
「いざ、この山のかみにありといふ布引の滝
見にのぼらむ」といひてのぼり見るに、
…(略)…
そこなる人にみな滝の歌よます。
かの衛府督まづよむ。
『わが世をば けふかあすかと 待つかひの
 涙のたきと いづれたかけむ』
あるじ、つぎによむ。
「『ぬき乱る 人こそあるらし 白玉の
 まなくもちるか 袖のせばきに』
とよめりければ、かたへの人、笑ふ。
ことにやありけむ、
この歌にめでて止みにけり。」
   
  0924
詞書 よしののたきを見てよめる
作者 承均法師
原文 たかために ひきてさらせる ぬのなれや
 世をへて見れと とる人もなき
かな たかために ひきてさらせる ぬのなれや
 よをへてみれと とるひとのなき
   
  0925
詞書 題しらす
作者 神たい法し(神退法師、『古今和歌集目録』。詳細不明)
原文 きよたきの せせのしらいと くりためて
 山わけ衣 おりてきましを
かな きよたきの せせのしらいと くりためて
 やまわけころも おりてきましを
   
  0926
詞書 竜門にまうててたきのもとにてよめる
作者 伊勢(伊勢の御)
原文 たちぬはぬ きぬきし人も なきものを
 なに山姫の ぬのさらすらむ
かな たちぬはぬ きぬきしひとも なきものを
 なにやまひめの ぬのさらすらむ
   
  0927
詞書 朱雀院のみかとぬのひきのたき御覧せむとて
ふん月のなぬかの日おはしましてありける時に、
さふらふ人人に歌よませたまひけるによめる
作者 たちはなのなかもり(橘長盛)
原文 ぬしなくて さらせるぬのを たなはたに
 わか心とや けふはかさまし
かな ぬしなくて さらせるぬのを たなはたに
 わかこころとや けふはかさまし
   
  0928
詞書 ひえの山なるおとはのたきを見てよめる
作者 たたみね(壬生忠岑)
原文 おちたきつ たきのみなかみ としつもり
 おいにけらしな くろきすちなし
かな おちたきつ たきのみなかみ としつもり
 おいにけらしな くろきすちなし
   
  0929
詞書 おなしたきをよめる
作者 みつね(凡河内躬恒)
原文 風ふけと 所もさらぬ 白雲は
 よをへておつる 水にそ有りける
かな かせふけと ところもさらぬ しらくもは
 よをへておつる みつにそありける
   
  0930
詞書 田むらの御時に女房のさふらひにて
御屏風のゑ御覧しけるに、
たきおちたりける所おもしろし、
これを題にてうたよめと
さふらふ人におほせられけれはよめる
作者 三条の町(三条町、紀静子)
原文 おもひせく 心の内の たきなれや
 おつとは見れと おとのきこえぬ
かな おもひせく こころのうちの たきなれや
 おつとはみれと おとのきこえぬ
   
  0931
詞書 屏風のゑなる花をよめる
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 さきそめし 時よりのちは うちはへて
 世は春なれや 色のつねなる
かな さきそめし ときよりのちは うちはへて
 よははるなれや いろのつねなる
   
  0932
詞書 屏風のゑによみあはせてかきける
作者 坂上これのり(坂上是則)
原文 かりてほす 山田のいねの こきたれて
 なきこそわたれ 秋のうけれは
かな かりてほす やまたのいねの こきたれて
 なきこそわたれ あきのうけれは