枕草子151段 うつくしきもの

胸つぶる 枕草子
中巻中
151段
うつくし
人ばへ

(旧)大系:151段
新大系:144段、新編全集:145段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:155段
 


 
 うつくしきもの 瓜にかきたるちごの顔。雀の子の、ねず鳴きするにをどり来る。二つ三つばかりなるちごの、いそぎてはひ来る道に、いとちひさき塵のありけるを目ざとに見つけて、いとをかしげなるおよびにとらへて、大人などに見せたる、いとうつくし。頭はあまそぎなるちごの、目に髪のおほへるをかきはやらで、うちかたぶきて物など見たるも、うつくし。
 

 おほきにはあらぬ殿上童の、さうぞきたてられてありくもうつくし。をかしげなるちごの、あからさまにいだきて遊ばしうつくしむほどに、かいつきて寝たる、いとらうたし。
 

 雛の調度。蓮の浮葉のいとちひさきを、池よりとりあげたる。葵のいとちひさき。なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし。
 

 いみじうしろく肥えたるちごの二つばかりなるが、二藍のうすものなど、衣ながにてたすき結ひたるがはひ出でたるも、また、みじかきが袖がちなる着てありくも、みなうつくし。八つ、九つ、十ばかりなどの男児の、声はをさなげにてふみ読みたる、いとうつくし。
 

 にはとりのひなの、足高に、しろうをかしげに衣みじかなるさまして、ひよひよとかしがましう鳴きて、人のしりさきに立ちてありくもをかし。また親の、ともにつれてたちて走るも、みなうつくし。かりのこ。瑠璃の壺。
 
 

胸つぶる 枕草子
中巻中
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