源氏物語 真木柱:巻別和歌21首・逐語分析

藤袴 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
31帖 真木柱
梅枝

 
 源氏物語・真木柱(まきばしら)巻の和歌21首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:4×2(源氏、玉鬘)、3(鬚黒:不細工な男)、2×2(木工の君=髭黒方女房、冷泉帝)、1×6(真木柱、鬚黒北の方、中将の御許、蛍兵部卿宮、近江君、夕霧)※最初最後
 

真木柱・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 6首  40字未満
応答 6首  40~100字未満
対応 6首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 3首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
407
おりたちて
汲みは見ねども
渡り
人の瀬とはた
契らざりしを
〔源氏〕あなたと立ち入った
深い関係はありませんでしたが、
三途の川を渡る時、
他の男に背負われて渡るようには
お約束しなかったはずなのに
408
みつせ
渡らぬさきに
いかでなほ
涙の澪の
泡と消えなむ
〔玉鬘〕三途の川を
渡らない前に
何とかしてやはり
涙の流れに浮かぶ
泡のように消えてしまいたいものです
409
贈:
心さへ
空に乱れし
雪もよに
ひとり冴えつる
片敷の袖
〔鬚黒(不細工な男)→玉鬘〕心までが
中空に思い乱れました
この雪に
独り冷たい
片袖を敷いて寝ました
410
ひとりゐて
焦がるる胸の
苦しきに
思ひあまれる
炎とぞ見し
〔木工の君=髭黒女房〕北の方が独り残されて、
思い焦がれる
胸の苦しさが
思い余って
炎となったその跡と拝見しました
411
憂きことを
思ひ騒げば
さまざまに
くゆる煙ぞ
いとど立ちそふ
〔鬚黒〕嫌なことを
思って心が騒ぐので、
あれこれと
後悔の炎が
ますます立つのだ
412
今はとて
宿かれぬとも
馴れ来つる
真木の柱
われを忘るな
〔真木柱〕今はもう
この家を離れて行きますが、
わたしが馴れ親しんだ
真木の柱は
わたしを忘れないでね
413
馴れきとは
思ひ出づとも
何により
立ちとまるべき
真木の柱
〔鬚黒北の方:真木柱母〕長年馴れ親しんで来た
真木柱だと思い出しても
どうしてここに
止まっていられましょうか
414
浅けれど
石間の水
澄み果てて
宿もる君や
かけ離るべき
〔中将の御許〕浅い関係の
あなたが
残って、
邸を守るはずの北の方様が
出て行かれることがあってよいものでしょうか
415
ともかくも
岩間の水
結ぼほれ
かけとむべくも
思ほえぬ世を
〔木工の君〕どのように言われても、
わたしの
心は悲しみに閉ざされて
いつまでここに居られますことやら
416
贈:
深山木に
羽うち交はし
ゐる鳥の
またなくねたき
春にもあるかな
〔蛍兵部卿宮:源氏弟→玉鬘〕深山木と
仲よくして
いらっしゃる鳥が
またなく疎ましく
思われる春ですねえ
417
などてかく
灰あひがたき
紫を
に深く
思ひそめけむ
〔冷泉帝〕どうしてこう
一緒になりがたい
あなたを
深く
思い染めてしまったのでしょう
418
いかならむ
色とも知らぬ
紫を
してこそ
人は染めけれ
〔玉鬘〕どのような
お気持ちからとも存じませんでした
この紫の色は、
深いお情けから
下さったものなのですね
419
九重に
霞隔てば
梅の
ただ香ばかり
匂ひ来じとや
〔冷泉帝〕幾重にも
霞が隔てたならば、
梅の花の
香は宮中まで
匂って来ないのだろうか
420
香ばかり
風にもつてよ
の枝に
立ち並ぶべき
匂ひなくとも
〔玉鬘〕香りだけは
風におことづけください
美しい花の枝に
並ぶべくもない
わたしですが
421
かきたれて
のどけきころの
春雨に
ふるさと人を
いかにぶや
〔源氏〕降りこめられて
のどやかな
春雨のころ
昔馴染みのわたしを
どう思っていらっしゃいますか
422
眺めする
軒の雫に
袖ぬれて
うたかた人を
ばざらめや
〔玉鬘〕物思いに耽りながら
軒の雫に
袖を濡らして
どうしてあなた様のことを
思わずにいられましょうか
423
思はずに
井手の中道
隔つとも
言はでぞ恋ふる
山吹の花
〔源氏〕思いがけずに
二人の仲は
隔てられてしまったが
心の中では恋い慕っている
山吹の花よ
424
同じ
かへりしかひの
見えぬかな
いかなる人か
手ににぎるらむ
〔源氏→玉鬘〕せっかくわたしの所で
かえった雛が
見えませんね
どんな人が
手に握っているのでしょう
425
代答
隠れて
数にもあらぬ
かりの子を
いづ方にかは
取り隠すべき
〔鬚黒〕巣の片隅に隠れて
子供の数にも入らない
雁の子を
どちらの方に
取り隠そうとおっしゃるのでしょうか
426
沖つ
よるべ波
路に
漂はば
棹さし寄らむ
泊り教へよ
〔近江君〕沖の舟さん。
寄る所がなくて波に
漂っているなら
わたしが棹さして近づいて行きますから、
行く場所を教えてください
427
よるべなみ
風の騒がす
人も
思はぬ方に
磯伝ひせず
〔夕霧〕寄る所がなく
風がもてあそんでいる
舟人でも
思ってもいない所には
磯伝いしません