古事記 大山守命と大雀命の後継問題~原文対訳

宮と系譜 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
系譜
大山守命と大雀命
葛野歌
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是天皇。  ここに天皇、  ここに天皇が

大山守命與
大雀命詔。
大山守の命と
大雀の命とに問ひて詔りたまはく、
オホヤマモリの命と
オホサザキの命とに
汝等者。
孰愛
兄子與
弟子。
「汝等みましたちは、
兄なる子と
弟なる子と、
いづれか愛はしき」
と問はしたまひき。
「あなたたちは
兄である子と
弟である子とは、
どちらがかわいいか」
とお尋ねなさいました。
     
〈天皇所以發
是問者。
(天皇の
この問を發したまへる故は、
天皇がかように
お尋ねになつたわけは、
宇遲能和紀郎子。
有令治
天下之心也〉
宇遲の和紀郎子に
天の下治らしめむ御心
ましければなり)
ウヂの若郎子に
天下をお授けになろうとする御心が
おありになつたからであります。
     

大山守命
白愛兄子。
ここに
大山守の命白さく、
「兄なる子を愛はしとおもふ」
と白したまひき。
しかるに
オホヤマモリの命は、
「上の子の方がかわゆく思われます」
と申しました。
     

大雀命。
次に
大雀の命は、
次に
オホサザキの命は
知天皇。
所問賜之大御情
而白。
天皇の
問はしたまふ大御心を知らして、
白さく、
天皇のお尋ね遊ばされる御心を
お知りになつて
申されますには、
兄子者。
既成人。
是無悒。
「兄なる子は、
既に人となりて、
こは悒いぶせきこと無きを、
「大きい方の子は
既に人となつておりますから
案ずることもございませんが、
弟子者。
未成人。
是愛。
弟なる子は、
いまだ人とならねば、
こを愛しとおもふ」とまをしたまひき。
小さい子は
まだ若いのですから
愛らしく思われます」と申しました。
     
爾天皇詔。 ここに天皇詔りたまはく、 そこで天皇の仰せになりますには、
佐邪岐。
阿藝之言。
〈自佐至藝
五字以音〉
「雀さざき、
吾君あぎの言ことぞ、
「オホサザキよ、
あなたの言うのは
如我所思。 我が思ほすが如くなる」
とのりたまひき。
わたしの思う通りです」
と仰せになつて、
     
即詔
別者。
すなはち
詔り別けたまひしくは、
そこでそれぞれに
詔みことのりを下されて、
大山守命。 「大山守の命は、 「オホヤマモリの命は
爲山海之政。 山海うみやまの政をまをしたまへ。 海や山のことを管理なさい。
大雀命。 大雀の命は、 オホサザキの命は
執食國之
政以白賜。
食國おすくにの
政執りもちて白したまへ。
天下の政治を執つて
天皇に奏上なさい。
宇遲能和紀郎子。 宇遲うぢの和紀わき郎子は、 ウヂの若郎子は
所知天津日繼也。 天つ日繼知らせ」
と詔り別けたまひき。
帝位におつきなさい」
とお分わけになりました。
     
故大雀命者。 かれ大雀の命は、 依つてオホサザキの命は
勿違
天皇之命也。
大君の命みことに
違たがひまつらざりき。
父君の御命令に
背きませんでした。
宮と系譜 古事記
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葛野歌