古事記~鹽椎神 原文対訳

返佐知
カエサジ
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
鹽椎神
しほつちの神
綿津見
神之宮
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是其弟。  ここにその弟、  そこでその弟が
泣患居
海邊之時。
泣き患へて
海邊うみべたにいましし時に、
海邊に出て
泣き患うれえておられた時に、
鹽椎神
來問曰。
鹽椎しほつちの神
來て問ひて曰はく、
シホツチの神が
來て尋ねるには、

虛空津日高
泣患所由。
「何いかにぞ
虚空津日高そらつひこの
泣き患へたまふ所由ゆゑは」
と問へば、
「貴い御子樣みこさまの
御心配なすつていらつしやるのは
どういうわけですか」
と問いますと、
     
答言。 答へたまはく、 答えられるには、
我與兄易鉤而。 「我、兄と鉤つりばりを易へて、 「わたしは兄と鉤を易えて
失其鉤。 その鉤を失ひつ。 鉤をなくしました。
是乞其鉤
故雖償多鉤
不受。
ここにその鉤を乞へば、
多あまたの鉤を償へども、
受けずて、
しかるに鉤を求めますから
多くの鉤を償つぐないましたけれども
受けないで、
云猶欲得
其本鉤。
なほその本の鉤を得むといふ。 もとの鉤をよこせと言います。
故泣患之。 かれ泣き患ふ」
とのりたまひき。
それで泣き悲しむのです」
と仰せられました。

 

返佐知
カエサジ
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
鹽椎神
しほつちの神
綿津見
神之宮

解説

 
 
 訳註によれば、鹽椎神(しほつちのかみ)は「海水の神靈。諸國の海岸にうち寄せるので物知りだとする」。
 しかし言葉の上からは、鹽は塩。椎は土に掛ける。つまり海底の神。直後に出てくる綿津見の神(海神)自身。
 綿津見神は禊払の段で「底津綿津見神」「中津綿津見神」「上津綿津見神」とされるが、塩土なので最初の海底の神。
 
 だから次の段で一見地上の話のようにしつつ、海底の話をしている。
 訳者は地上を想定しているが、続く魚たちを集める話からも違う。そもそも海神が地上にいると見るのが無理。
 それとも海神や魚は、話す時に地上にあがるのだろうか。
 

 「若渡海中時 無令惶畏」(海中を渡る時にこわがらせ申すなと言つて)
 この表現が、海神の使の一尋和邇の所で出てくるのはどういう意味か。
 そういう意味。