古事記 三色之奇虫と大根の歌~原文対訳

紅色と口姫 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬
10 三色の虫と大根
八田の菅原
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

三色の虫・蚕→三食の虫(朝昼晩食べてる)

     
於是口子臣。  ここに口子の臣、  そこでクチコの臣、
亦其妹口比賣。 またその妹口比賣、 その妹のクチ姫、
及奴理能美。 また奴理能美ぬりのみ、 またヌリノミが
三人議而。 三人議はかりて、 三人して相談して
令奏天皇云。 天皇に奏まをさしめて曰さく、 天皇に申し上げましたことは、
     
大后幸行所以者。 「大后の幸でませる故は、 「皇后樣のおいで遊ばされたわけは、
奴理能美之所養虫。 奴理能美が養かへる蟲、 ヌリノミの飼つている蟲が、
一度爲匐虫。 一度は匐はふ蟲になり、 一度は這はう蟲になり、
一度爲殻。 一度は殼かひこになり、 一度は殼からになり、
一度爲飛鳥。 一度は飛ぶ鳥になりて、 一度は飛ぶ鳥になつて、
有變三色之
奇虫。
三色くさに變かはる
奇あやしき蟲あり。
三色に變る
めずらしい蟲があります。
看行此虫而。 この蟲を看そなはしに、 この蟲を御覽になるために
入坐耳。 入りませるのみ。 おはいりなされたのでございます。
更無異心。 更に異けしき心まさず」 別に變つたお心はございません」
如此奏時。 とかく奏す時に、 とかように申しました時に、
     
天皇詔。 天皇、 天皇は
然者吾。 「然らば吾あれも奇しと思へば、 「それでは
思奇異故欲見行。 見に行かな」
と詔りたまひて、
わたしも不思議に思うから見に行こう」
と仰せられて、
自大宮上幸行。 大宮より上り幸でまして、 大宮から上つておいでになつて、
入坐奴理能美之家時。 奴理能美が家に入ります時に、 ヌリノミの家におはいりになつた時に、
其奴理能美。 その奴理能美、 ヌリノミが
己所養之三種虫。 おのが養へる三種の蟲を、 自分の飼つている三色に變る蟲を
獻於大后。 大后に獻りき。 皇后樣に獻りました。
     

大根サワサワの歌(太い足さわってきた)

     
爾天皇。 ここに天皇、 そこで天皇が
御立
其大后所坐殿戶。
その大后のませる
殿戸に御立みたちしたまひて、
その皇后樣のおいでになる
御殿の戸にお立ちになつて、
歌曰。 歌よみしたまひしく、 お歌い遊ばされた御歌、
     
都藝泥布 つぎねふ 山また山の
夜麻斯呂賣能 山代女の 山城の女が
許久波母知 木钁こくは持もち 木の柄のついた鍬で
宇知斯意富泥 打ちし大根、 掘つた大根、
佐和佐和 さわさわに そのようにざわざわと
那賀伊幣勢許曾 汝なが言へせこそ、 あなたが云うので、
宇知和多須 うち渡す 見渡される
夜賀波延那須 やがは枝えなす 樹の茂みのように
岐伊理麻韋久禮 來き入り參ゐ來れ。 賑にぎやかにやつて來たのです。
     

志都歌之歌返

     
此天皇與大后
所歌之六歌者。
 この天皇と大后と
歌よみしたまへる六歌は、
 この天皇と皇后樣と
お歌いになつた六首の歌は、
志都歌之歌返也。 志都しつ歌の歌ひ返しなり。 靜歌の歌い返しでございます。
紅色と口姫 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬
10 三色の虫と大根
八田の菅原