紫式部日記 13 午の時に空晴れて 逐語分析

彰子出産 紫式部日記
第一部
男子誕生の慶び
出産直後の渡殿
目次
冒頭
1 午の時に
2 平らかにおはしますうれしさの
3 昨日しほれ暮らし
4 御前には、うちねびたる人びとの
5 殿も上もあなたに渡らせたまひて
6 人の局々には

 

原文
(黒川本)
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜当サイトで改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜当サイトで補注〉

1

 午の時に、  午の時刻に、  
空晴れて
朝日さし出でたる
心地す。
空が晴れて
朝日がさし出したような
気持ちがする。
 

2

平らかに
おはします
うれしさの
類もなきに、
御安産で
いらっしゃる
うれしさが
類もないうえに、
 
男にさへ
おはしましける
慶び、
男御子でさえ
いらっしゃる
お慶びは、
 
いかがは
なのめ
ならむ。
どうして
並一通りのこと
であろうか。
 

3

昨日
しほれ
暮らし、
昨日は
心配で泣き濡れて
過ごし、
 
今朝のほど、 今朝のうちは、  
秋霧に
おぼほれつる
女房など、
秋霧に
むせび泣いていた
女房などが、
 
みな
立ちあかれつつ
休む。
みなそれぞれ
局に引き下がって
休む。
 

4

御前には、 中宮様の御前には、  
うちねびたる
人びとの、
〈少し〉年輩の
女房たちで、
〈うち+ねぶ〉
かかる折節
つきづきしき
さぶらふ。
このような折に
ふさわしい人たちが
付き添う。
 

5

 殿も上も、  殿も北の方様も、 【殿の上】-道長の北の方倫子。
あなたに
渡らせたまひて、
あちらのお部屋に
お移りあそばして、
 
月ごろ、 ここ数か月来、  
御修法、読経に
さぶらひ、
御修法や読経に
奉仕し、
 
昨日今日
召しにて
参り集ひつる僧の
布施賜ひ、
また昨日今日の
呼び寄せに
参集した僧侶たちに
布施を賜い、
 
医師、陰陽師など、
道々の
しるし現れたる、
禄賜はせ、
医師や陰陽師などで、
それぞれの方面で
効験を現した者たちに、
禄を賜わり、
 
内には
御湯殿の儀式など、
また一方、内部では
御湯殿の儀式などを、
【内には】-『全注釈』は「内裏には」とするが、他の諸本は「内には」と解釈する。
【御湯殿の儀式】-新生児に産湯をつかわせる儀式。誕生直後の産湯ではなく、公的儀礼的な沐浴の儀式。
かねて
まうけ
させたまふ
べし。
前もって
御準備を
おさせになる
のであろう。
〈最後「べし」で終わっているのは、見てないので知らんけどそうしてるんでないの、という意味。ちなみに両者の関係は最悪で双方極力顔を見たくない〉

6

 人の局々には、  女房の部屋部屋では、  
大きやかなる袋、 見るからに大きな衣装袋や、  
包ども
持てちがひ、
いくつもの包を
運び込む人たちが出入りし、
 
唐衣の縫物、裳、 唐衣の刺繍や、裳の 【縫物、裳】-『全注釈』は「縫物も」とするが、他の諸本は「縫物、裳」と解釈する。
ひき結び、
螺鈿縫物、
けしからぬまでして、
ひき結びの
螺鈿や刺繍の飾りを
あまりにと思われるまでして、
 
ひき隠し、 またそれをひき隠したりして、  
「扇を持て来ぬかな」など、 「桧扇をまだ持って来ないですね」などと、  
言ひ交しつつ
化粧じつくろふ。
女房どうしで言い交わしながら、
化粧をし身づくろいをする。