万葉集 第十七巻:一覧と配置

第十六巻
有由縁并雜歌
万葉集
第十七巻
第十八巻

 
 万葉集第十七巻、その一覧と配置(歌の内容はリンク先を参照)。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

第十七巻 目次と配置(3890~4031:142首)
                  3890
三野連石守
3891
不審姓名
3892
不審姓名
3893
不審姓名
3894
不審姓名
3895
不審姓名
3896
不審姓名
3897
不審姓名
3898
不審姓名
3899
不審姓名
3900
 
 
3901
大伴書持
3902
書持
3903
書持
3904
書持
3905
書持
3906
書持
3907
境部老麻呂
3908
境部老麻呂
3909
書持
3910
書持
3911
3912
3913
3914
田口馬長
3915
山部明人:赤☆
3916
3917
3918
3919
3920
3921
3922
橘諸兄
3923
紀清人
3924
紀男梶
3925
葛井諸会
3926
3927
大伴坂上郎女
3928
大伴坂上郎女
3929
大伴坂上郎女
3930
大伴坂上郎女
3931
平群女郎
3932
平群女郎
3933
平群女郎
3934
平群女郎
3935
平群女郎
3936
平群女郎
3937
平群女郎
3938
平群女郎
3939
平群女郎
3940
平群女郎
3941
平群女郎
3942
平群女郎
3943
3944
大伴池主
3945
池主
3946
池主
3947
3948
3949
池主
3950
3951
秦忌寸八千嶋
3952
僧玄勝
3953
3954
3955
土師道良
3956
秦忌寸八千嶋
3957
3958
3959
3960
3961
3962
3963
3964
3965
3966
3967
池主
3968
池主
3969
3970
3971
3972
3973
池主
3974
池主
3975
池主
3976
3977
3978
3979
3980
3981
3982
3983
3984
3985
3986
3987
3988
3989
3990
3991
3992
3993
池主
3994
池主
3995
3996
内蔵縄麻呂
3997
3998
石川水通
3999
4000
 
 
4001
4002
4003
池主
4004
池主
4005
池主
4006
4007
4008
池主
4009
池主
4010
池主
4011
4012
4013
4014
4015
4016
高市黒人
4017
4018
4019
4020
4021
4022
4023
4024
4025
4026
4027
4028
4029
4030
4031
                 
 

第十七巻

   
   17/3890
題詞 天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首
題訓 天平てむひやう二年ふたとせといふとし庚午かのえうま冬十一月しもつき、太宰帥おほみこともちのかみ大伴の卿まへつきみの、大納言おほきものまをすつかさに任よさされ帥を兼ねたまふこと旧の如し、京みやこに上りたまふ時、陪従人ともひとら、海路うみつぢに別れて京に入むかへり。是に羇旅たびを悲傷かなしみ、各おのもおのも所心おもひを陳べてよめる歌十首とを
原文 和我勢兒乎 安我松原欲 見度婆 安麻乎等女登母 多麻藻可流美由
訓読 我が背子を安我松原よ見わたせば海人娘子ども玉藻刈る見ゆ
仮名 わがせこを あがまつばらよ みわたせば あまをとめども たまもかるみゆ
左注 右一首三野連石守作
左注訓 右の一首ひとうたは、三野連石守みぬのむらじいそもりがよめる。
校異 羇 [元][紀][細](塙) 羈
事項 天平2年11月 年紀 作者:三野石守 旅人従者 羈旅 大伴旅人 帰京 地名 北九州 福岡 叙景 枕詞
訓異 わがせこを;わかせこを, あがまつばらよ;あかまつはらよ, みわたせば;みわたせは, あまをとめども;あまをとめとも,
   
  17/3891
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 荒津乃海 之保悲思保美知 時波安礼登 伊頭礼乃時加 吾孤悲射良牟
訓読 荒津の海潮干潮満ち時はあれどいづれの時か我が恋ひざらむ
仮名 あらつのうみ しほひしほみち ときはあれど いづれのときか あがこひざらむ
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 なし
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 羈旅 福岡 地名 恋情 大伴旅人 望郷
訓異 ときはあれど;ときはあれと, いづれのときか;いつれのときか, あがこひざらむ;わかこひさらむ,
   
  17/3892
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 伊蘇其登尓 海夫乃<釣>船 波氐尓家里 我船波氐牟 伊蘇乃之良奈久
訓読 礒ごとに海人の釣舟泊てにけり我が船泊てむ礒の知らなく
仮名 いそごとに あまのつりぶね はてにけり わがふねはてむ いそのしらなく
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 鈎→釣 [元][類][紀]
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 羈旅 大伴旅人 漂泊 旅愁
訓異 いそごとに;いそことに, あまのつりぶね;あまのつりふね, わがふねはてむ;わかふねはてむ, いそのしらなく;いそのしらなく,
   
  17/3893
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 昨日許曽 敷奈R婆勢之可 伊佐魚取 比治奇乃奈太乎 今日見都流香母
訓読 昨日こそ船出はせしか鯨魚取り比治奇の灘を今日見つるかも
仮名 きのふこそ ふなではせしか いさなとり ひぢきのなだを けふみつるかも
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 なし
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 羈旅 枕詞 地名 響灘 山口 土地讃美 大伴旅人
訓異 ふなではせしか;ふなてはかしか, ひぢきのなだを;ひちきのなたを,
   
  17/3894
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 淡路嶋 刀和多流船乃 可治麻尓毛 吾波和須礼受 伊弊乎之曽於毛布
訓読 淡路島門渡る船の楫間にも我れは忘れず家をしぞ思ふ
仮名 あはぢしま とわたるふねの かぢまにも われはわすれず いへをしぞおもふ
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 なし
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 羈旅 地名 淡路 兵庫 序詞 望郷 大伴旅人
訓異 あはぢしま;あはちしま, かぢまにも;かちまにも, われはわすれず;われはわすれす, いへをしぞおもふ;いへをしそおもふ,
   
  17/3895
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 多麻波夜須 武庫能和多里尓 天傳 日能久礼由氣<婆> 家乎之曽於毛布
訓読 たまはやす武庫の渡りに天伝ふ日の暮れ行けば家をしぞ思ふ
仮名 たまはやす むこのわたりに あまづたふ ひのくれゆけば いへをしぞおもふ
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 波→婆 [元][類]
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 羈旅 枕詞 兵庫 望郷 大伴旅人
訓異 たまはやす;たまはとす, あまづたふ;あまつたふ, ひのくれゆけば;ひのくれゆけは, いへをしぞおもふ;いへをしそおもふ,
   
  17/3896
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 家尓底母 多由多敷命 浪乃宇倍尓 思之乎礼波 於久香之良受母 [一云 宇伎氐之乎礼八]
訓読 家にてもたゆたふ命波の上に思ひし居れば奥か知らずも [一云 浮きてし居れば]
仮名 いへにても たゆたふいのち なみのうへに おもひしをれば おくかしらずも [うきてしをれば]
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 なし
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 異伝 羈旅 漂泊 不安 大伴旅人
訓異 おもひしをれば;おもひしをれは, おくかしらずも;おくかしらすも, [うきてしをれば];うきてしをれは,
   
  17/3897
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 大海乃 於久可母之良受 由久和礼乎 何時伎麻佐武等 問之兒<良>波母
訓読 大海の奥かも知らず行く我れをいつ来まさむと問ひし子らはも
仮名 おほうみの おくかもしらず ゆくわれを いつきまさむと とひしこらはも
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 等→良 [元][類]
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 羈旅 望郷 恋情 遊行女婦 大伴旅人
訓異 おくかもしらず;きくかもしらす,
   
  17/3898
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 大船乃 宇倍尓之居婆 安麻久毛乃 多度伎毛思良受 歌乞和我世
訓読 大船の上にし居れば天雲のたどきも知らず歌ひこそ我が背
仮名 おほぶねの うへにしをれば あまくもの たどきもしらず うたひこそわがせ
左注 (右九首作者不審姓名)
校異 なし
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 羈旅 大伴旅人 女歌 遊行女婦
訓異 おほぶねの;おほふねの, うへにしをれば;うへにしをれは, たどきもしらず;たときもしらす, うたひこそわがせ;うたこつわかせ,
   
  17/3899
題詞 (天平二年庚午冬十一月大宰帥大伴卿被任大納言 [兼帥如舊]上京之時傔従等別取海路入京 於是悲傷羇旅各陳所心作歌十首)
原文 海未通女 伊射里多久火能 於煩保之久 都努乃松原 於母保由流可<問>
訓読 海人娘子漁り焚く火のおぼほしく角の松原思ほゆるかも
仮名 あまをとめ いざりたくひの おぼほしく つののまつばら おもほゆるかも
左注 右九首作者不審姓名
左注訓 右の九首ここのうたは、作者よみびと不審姓名しらず。
校異 聞→問 [元][類]
事項 天平2年11月 年紀 旅人従者 大伴旅人 序詞 地名 西宮 兵庫 旅情
訓異 いざりたくひの;いさりたくひの, おぼほしく;おほほしく, つののまつばら;つののまつはら, おもほゆるかも;
   
  17/3900
題詞 十年七月七日之夜獨仰天漢聊述懐一首
題訓 十年ととせといふとし七月ふみつきの七日なぬかの夜、独り天漢あまのがはを仰みて懐おもひを述ぶる歌一首
原文 多奈波多之 船乗須良之 麻蘇鏡 吉欲伎月夜尓 雲起和多流
訓読 織女し舟乗りすらしまそ鏡清き月夜に雲立ちわたる
仮名 たなばたし ふなのりすらし まそかがみ きよきつくよに くもたちわたる
左注 右一首大伴宿祢家持作
左注訓 右の一首ひとうたは、大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平10年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠 枕詞 織女渡河
訓異 たなばたし;たなはたの, まそかがみ;まそかかみ, きよきつくよに;きよきつきよに,
   
  17/3901
題詞 追和<大>宰之時梅花新歌六首
題訓 十二年ととせまりふたとせといふとし十一月しもつき九日ここのかのひ、太宰おほみこともちの時の梅の花の歌を追ひて和よめる新歌にひうた六首
原文 民布由都藝 芳流波吉多礼登 烏梅能芳奈 君尓之安良祢婆 遠<久>人毛奈之
訓読 み冬継ぎ春は来たれど梅の花君にしあらねば招く人もなし
仮名 みふゆつぎ はるはきたれど うめのはな きみにしあらねば をくひともなし
左注 (右十二年十<二>月九日大伴宿祢<書>持作)
校異 太→大 [元][類][紀][温] / 流→久 [元]
事項 天平12年12月9日 年紀 作者:大伴書持 追和 梅花宴 植物
訓異 みふゆつぎ;みふゆつき, はるはきたれど;はるはきたれと, きみにしあらねば;きみにしあらねは, をくひともなし;をるひともなし,
   
  17/3902
題詞 (追和<大>宰之時梅花新歌六首)
原文 烏梅乃花 美夜万等之美尓 安里登母也 如此乃未君波 見礼登安可尓勢牟
訓読 梅の花み山としみにありともやかくのみ君は見れど飽かにせむ
仮名 うめのはな みやまとしみに ありともや かくのみきみは みれどあかにせむ
左注 (右十二年十<二>月九日大伴宿祢<書>持作)
校異 此 [元] 是 / 可 [元] 加
事項 天平12年12月9日 年紀 作者:大伴書持 追和 梅花宴 植物
訓異 みれどあかにせむ;みれとあかにせむ,
   
  17/3903
題詞 (追和<大>宰之時梅花新歌六首)
原文 春雨尓 毛延之楊奈疑可 烏梅乃花 登母尓於久礼奴 常乃物能香聞
訓読 春雨に萌えし柳か梅の花ともに後れぬ常の物かも
仮名 はるさめに もえしやなぎか うめのはな ともにおくれぬ つねのものかも
左注 (右十二年十<二>月九日大伴宿祢<書>持作)
校異 なし
事項 天平12年12月9日 年紀 作者:大伴書持 追和 梅花宴 植物
訓異 もえしやなぎか;もえしやなきか,
   
  17/3904
題詞 (追和<大>宰之時梅花新歌六首)
原文 宇梅能花 伊都波乎良自等 伊登波祢登 佐吉乃盛波 乎思吉物奈利
訓読 梅の花いつは折らじといとはねど咲きの盛りは惜しきものなり
仮名 うめのはな いつはをらじと いとはねど さきのさかりは をしきものなり
左注 (右十二年十<二>月九日大伴宿祢<書>持作)
校異 なし
事項 天平12年12月9日 年紀 作者:大伴書持 追和 梅花宴 植物
訓異 いつはをらじと;いつはをらしと, いとはねど;いとはねと,
   
  17/3905
題詞 (追和<大>宰之時梅花新歌六首)
原文 遊内乃 多努之吉庭尓 梅柳 乎理加謝思底<婆> 意毛比奈美可毛
訓読 遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざしてば思ひなみかも
仮名 あそぶうちの たのしきにはに うめやなぎ をりかざしてば おもひなみかも
左注 (右十二年十<二>月九日大伴宿祢<書>持作)
校異 謝 [元][京] 射 / 波→婆 [元][類][細]
事項 天平12年12月9日 年紀 作者:大伴書持 追和 梅花宴 植物
訓異 あそぶうちの;あそふうちの, うめやなぎ;うめやなき, をりかざしてば;をりかさしては,
   
  17/3906
題詞 (追和<大>宰之時梅花新歌六首)
原文 御苑布能 百木乃宇梅乃 落花之 安米尓登妣安我里 雪等敷里家牟
訓読 御園生の百木の梅の散る花し天に飛び上がり雪と降りけむ
仮名 みそのふの ももきのうめの ちるはなし あめにとびあがり ゆきとふりけむ
左注 右十二年十<二>月九日大伴宿祢<書>持作
左注訓 右、大伴宿禰家持がよめる。
校異 一→二 [元] / 家→書 [元]
事項 天平12年12月9日 年紀 作者:大伴書持 追和 梅花宴 植物
訓異 ちるはなし;ちるはなの, あめにとびあがり;あめにとひあかり,
   
  17/3907
題詞 讃三香原新都歌一首[并短歌]
題訓 十二年ととせまりみとせといふとしの二月きさらぎ、三香原みかのはらの新都にひみやこを讃むる歌一首、また短歌みじかうた
原文 山背乃 久<邇>能美夜古波 春佐礼播 花<咲>乎々理 秋<左>礼婆 黄葉尓保<比> 於婆勢流 泉河乃 可美都瀬尓 宇知橋和多之 余登瀬尓波 宇枳橋和多之 安里我欲比 都加倍麻都良武 万代麻弖尓
訓読 山背の 久迩の都は 春されば 花咲きををり 秋されば 黄葉にほひ 帯ばせる 泉の川の 上つ瀬に 打橋渡し 淀瀬には 浮橋渡し あり通ひ 仕へまつらむ 万代までに
仮名 やましろの くにのみやこは はるされば はなさきををり あきされば もみちばにほひ おばせる いづみのかはの かみつせに うちはしわたし よどせには うきはしわたし ありがよひ つかへまつらむ よろづよまでに
左注 (右天平十三年二月右<馬>頭境部宿祢老麻呂作也)
校異 歌 [西] 謌 / 尓→邇 [元] / 喚→咲 [元][紀][細] / 佐→左 [元][類] / 比美[西(右書)]→比 [元][類]
事項 天平13年2月 年紀 作者:境部老麻呂 宮廷讃美 地名 京都 植物 儀礼歌 寿歌 恭仁京
訓異 はるされば;はるされは, あきされば;あきされは, もみちばにほひ;もみちはにほひ, おばせる;おはせる, いづみのかはの;いつみのかはの, よどせには;よとせには, ありがよひ;ありかよひ, よろづよまでに;よろつよまてに,
   
  17/3908
題詞 (讃三香原新都歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 楯並而 伊豆美乃河波乃 水緒多要受 都可倍麻都良牟 大宮所
訓読 たたなめて泉の川の水脈絶えず仕へまつらむ大宮ところ
仮名 たたなめて いづみのかはの みをたえず つかへまつらむ おほみやところ
左注 右天平十三年二月右<馬>頭境部宿祢老麻呂作也
左注訓 右、右馬頭みぎのうまのつかさのかみ境部宿禰老麿さかひべのすくねおゆまろがよめる。
校異 歌 [西] 謌 / 馬寮→馬 [元][古][細][温]
事項 天平13年2月 年紀 作者:境部老麻呂 地名 木津川 枕詞 宮廷讃美 寿歌 儀礼歌 京都 恭仁京
訓異 たたなめて;たてなめて, いづみのかはの;いつみのかはの, みをたえず;みをたえす,
   
  17/3909
題詞 詠霍公鳥歌二首
題訓 四月うつきの二日ふつかのひ、霍公鳥ほととぎすを詠める歌二首
原文 多知婆奈波 常花尓毛歟 保登等藝須 周無等来鳴者 伎可奴日奈家牟
訓読 橘は常花にもが霍公鳥住むと来鳴かば聞かぬ日なけむ
仮名 たちばなは とこはなにもが ほととぎす すむときなかば きかぬひなけむ
左注 (右四月二日大伴宿祢書持従奈良宅贈兄家持)
校異 なし
事項 天平13年4月2日 年紀 作者:大伴書持 植物 動物 贈答 大伴家持 恭仁京 京都
訓異 たちばなは;たちはなは, とこはなにもが;とこはなにもか, ほととぎす;ほとときす, すむときなかば;すむときなかは,
   
  17/3910
題詞 (詠霍公鳥歌二首)
原文 珠尓奴久 安布知乎宅尓 宇恵多良婆 夜麻霍公鳥 可礼受許武可聞
訓読 玉に貫く楝を家に植ゑたらば山霍公鳥離れず来むかも
仮名 たまにぬく あふちをいへに うゑたらば やまほととぎす かれずこむかも
左注 右四月二日大伴宿祢書持従奈良宅贈兄家持
左注訓 右、大伴宿禰書持が奈良の宅いへより兄家持に贈る。
校異 なし
事項 天平13年4月2日 年紀 作者:大伴書持 贈答 植物 動物 大伴家持 恭仁京 京都
訓異 うゑたらば;うゑたらは, やまほととぎす;やまほとときす, かれずこむかも;かれすこむかも,
   
  17/3911
題詞 橙橘初咲霍<公>鳥飜嚶 對此時候詎不暢志 因作三首短歌以散欝結之緒耳
題訓 四月の三日みかのひ、和ふる歌三首 橙橘たちばな初めて咲き、霍公鳥嚶なき飜かへる。此の時候ときに対あたりて、なぞも志を暢のべざらむ。因かれ三首みつの短歌をよみて、欝結おほほしき緒おもひを散やるにこそ
原文 安之比奇能 山邊尓乎礼婆 保登等藝須 木際多知久吉 奈可奴日波奈之
訓読 あしひきの山辺に居れば霍公鳥木の間立ち潜き鳴かぬ日はなし
仮名 あしひきの やまへにをれば ほととぎす このまたちくき なかぬひはなし
左注 (右四月三日内舎人大伴宿祢家持従久邇京報送弟書持)
校異 <>→公 [細][温] / 歌 [西] 謌
事項 天平13年4月3日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 動物 贈答 大伴書持 恭仁京 京都
訓異 やまへにをれば;やまへにをれは, ほととぎす;ほとときす,
   
  17/3912
題詞 (橙橘初咲霍<公>鳥飜嚶 對此時候詎不暢志 因作三首短歌以散欝結之緒耳)
原文 保登等藝須 奈尓乃情曽 多知花乃 多麻奴久月之 来鳴登餘牟流
訓読 霍公鳥何の心ぞ橘の玉貫く月し来鳴き響むる
仮名 ほととぎす なにのこころぞ たちばなの たまぬくつきし きなきとよむる
左注 (右四月三日内舎人大伴宿祢家持従久邇京報送弟書持)
校異 なし
事項 天平13年4月3日 年紀 作者:大伴家持 動物 植物 贈答 大伴書持 恭仁京 京都
訓異 ほととぎす;ほとときす, なにのこころぞ;なにのこころそ, たちばなの;たちはなの,
   
  17/3913
題詞 (橙橘初咲霍<公>鳥飜嚶 對此時候詎不暢志 因作三首短歌以散欝結之緒耳)
原文 保登等藝須 安不知能枝尓 由吉底居者 花波知良牟奈 珠登見流麻泥
訓読 霍公鳥楝の枝に行きて居ば花は散らむな玉と見るまで
仮名 ほととぎす あふちのえだに ゆきてゐば はなはちらむな たまとみるまで
左注 右四月三日内舎人大伴宿祢家持従久邇京報送弟書持
左注訓 右、内舎人うちとねり大伴宿禰家持が久迩の京より弟おと書持に報送こたふ。
校異 なし
事項 天平13年4月3日 年紀 作者:大伴家持 恭仁京 京都 動物 植物 大伴書持
訓異 ほととぎす;ほとときす, あふちのえだに;あふちのえたに, ゆきてゐば;ゆきてゐは, たまとみるまで;たまとみるまて,
   
  17/3914
題詞 思霍公鳥歌一首 田口朝臣馬長作
題訓 霍公鳥を思しのふ歌一首 田口朝臣馬長たぐちのあそみうまをさがよめる
原文 保登等藝須 今之来鳴者 餘呂豆代尓 可多理都具倍久 所念可母
訓読 霍公鳥今し来鳴かば万代に語り継ぐべく思ほゆるかも
仮名 ほととぎす いましきなかば よろづよに かたりつぐべく おもほゆるかも
左注 右傳云 一時交遊集宴 此日此處霍公鳥不喧 仍作件歌 以陳思慕之意 但其宴所并年月未得詳審也
左注訓 右ハ伝ヘテ云ク、一時交遊集宴セリ。此ノ日 此処ニ霍公鳥喧カズ。仍チ件ノ歌ヲ作ミテ、 思慕ノ意ヲ陳ベリト。但其ノ宴ノ所ト年月ハ、 詳審ラカニスルコトヲ得ズ。
校異 歌 [西] 謌 / 霍公 [類] 霍
事項 作者:田口馬長 動物 誦詠 宴席 伝誦
訓異 ほととぎす;ほとときす, いましきなかば;いましきなかは, よろづよに;よろつよに, かたりつぐべく;かたりつくへく,
   
  17/3915
題詞 山部宿祢明人詠春鴬歌一首
題訓 山部宿禰赤人が春鴬うぐひすを詠める歌一首
原文 安之比奇能 山谷古延氐 野豆加佐尓 今者鳴良武 宇具比須乃許恵
訓読 あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむ鴬の声
仮名 あしひきの やまたにこえて のづかさに いまはなくらむ うぐひすのこゑ
左注 右年月所處未得詳審 但随聞之時記載於茲
左注訓 右ハ年月所処、詳審カニスルコトヲ得ズ。但 聞キシ時ノ随ニ茲ニ記載ス。
校異 歌 [西] 謌
事項 作者:山部赤人 古歌 伝誦 動物 枕詞
訓異 のづかさに;のつかさに, うぐひすのこゑ;うくひすのこゑ
   
  17/3916
題詞 十六年四月五日獨居平城故宅作歌六首
題訓 十六年ととせまりむとせといふとし四月の五日いつかのひ、独り平城ならの故宅ふるへに居りてよめる歌六首
原文 橘乃 尓保敝流香可聞 保登等藝須 奈久欲乃雨尓 宇都路比奴良牟
訓読 橘のにほへる香かも霍公鳥鳴く夜の雨にうつろひぬらむ
仮名 たちばなの にほへるかかも ほととぎす なくよのあめに うつろひぬらむ
左注 (右六首歌者天平十六年四月五日獨居於平城故郷舊宅大伴宿祢家持作)
校異 なし
事項 天平16年4月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 動物 悲嘆 独詠 奈良
訓異 たちばなの;たちはなの, ほととぎす;ほとときす,
   
  17/3917
題詞 (十六年四月五日獨居平城故宅作歌六首)
原文 保登等藝須 夜音奈都可思 安美指者 花者須<具>登毛 可礼受加奈可牟
訓読 霍公鳥夜声なつかし網ささば花は過ぐとも離れずか鳴かむ
仮名 ほととぎす よごゑなつかし あみささば はなはすぐとも かれずかなかむ
左注 (右六首歌者天平十六年四月五日獨居於平城故郷舊宅大伴宿祢家持作)
校異 登等 [元] 等登 / 久→具 [元][類][紀][細]
事項 天平16年4月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 動物 独詠 奈良
訓異 ほととぎす;ほとときす, よごゑなつかし;よこゑなつかし, あみささば;あみささは, はなはすぐとも;はなはすくとも, かれずかなかむ;かれすかなかむ,
   
  17/3918
題詞 (十六年四月五日獨居平城故宅作歌六首)
原文 橘乃 尓保敝流苑尓 保登等藝須 鳴等比登都具 安美佐散麻之乎
訓読 橘のにほへる園に霍公鳥鳴くと人告ぐ網ささましを
仮名 たちばなの にほへるそのに ほととぎす なくとひとつぐ あみささましを
左注 (右六首歌者天平十六年四月五日獨居於平城故郷舊宅大伴宿祢家持作)
校異 なし
事項 天平16年4月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 動物 独詠 奈良
訓異 たちばなの;たちはなの, ほととぎす;ほとときす, なくとひとつぐ;なくとひとつく,
   
  17/3919
題詞 (十六年四月五日獨居平城故宅作歌六首)
原文 青丹余之 奈良能美夜古波 布里奴礼登 毛等保登等藝須 不鳴安良<奈>久尓
訓読 あをによし奈良の都は古りぬれどもと霍公鳥鳴かずあらなくに
仮名 あをによし ならのみやこは ふりぬれど もとほととぎす なかずあらなくに
左注 (右六首歌者天平十六年四月五日獨居於平城故郷舊宅大伴宿祢家持作)
校異 <>→奈 [代匠記初稿本]
事項 天平16年4月5日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 地名 奈良 動物 独詠 懐古
訓異 ふりぬれど;ふりぬれと, もとほととぎす;もとほとときす, なかずあらなくに;なかぬあらなくに,
   
  17/3920
題詞 (十六年四月五日獨居平城故宅作歌六首)
原文 鶉鳴 布流之登比等波 於毛敝礼騰 花橘乃 尓保敷許乃屋度
訓読 鶉鳴く古しと人は思へれど花橘のにほふこの宿
仮名 うづらなく ふるしとひとは おもへれど はなたちばなの にほふこのやど
左注 (右六首歌者天平十六年四月五日獨居於平城故郷舊宅大伴宿祢家持作)
校異 なし
事項 天平16年4月5日 年紀 作者:大伴家持 動物 枕詞 奈良 植物 懐古
訓異 うづらなく;うつらなく, おもへれど;おもへれと, はなたちばなの;はなたちはなの, にほふこのやど;にほふこのやと,
   
  17/3921
題詞 (十六年四月五日獨居平城故宅作歌六首)
原文 加吉都播多 衣尓須里都氣 麻須良雄乃 服曽比猟須流 月者伎尓家里
訓読 かきつばた衣に摺り付け大夫の着襲ひ猟する月は来にけり
仮名 かきつばた きぬにすりつけ ますらをの きそひかりする つきはきにけり
左注 右六首歌者天平十六年四月五日獨居於平城故郷舊宅大伴宿祢家持作
左注訓 右、大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平16年4月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 奈良
訓異 かきつばた;かきつはた,
   
  17/3922
題詞 天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌 / 左大臣橘宿祢應詔歌一首
題訓 十八年ととせまりやとせといふとしの正月むつき、白雪ゆき多く零り地つちに積むこと数寸ふかし。時に左大臣ひだりのおほまへつきみ橘の卿まへつきみ、中納言なかのものまをすつかさ藤原豊成朝臣と諸王おほきみたち諸臣おみたちとを率ゐて、太上天皇おほきすめらみことの御在所みあらか中宮西院 に参入まゐりて、供つかへ奉まつりて雪を掃はらふ。是に詔みことのりして大臣おほまへつきみ参議おほまつりごとひとまた諸王をば大殿の上へに侍さもらはしめ、諸卿大夫まへつきみたちをば南の細殿に侍はしめて、酒おほみき賜ひて肆宴とよのあかりす。勅みことのりしたまはく、汝いまし諸王卿等(おほきみたち、まへつきみたち)、此の雪を賦よみて、各おのもおのも其の歌を奏まをせとのりたまへり。
左大臣橘宿禰の詔を応うけたまはる歌一首
原文 布流由吉乃 之路髪麻泥尓 大皇尓 都可倍麻都礼婆 貴久母安流香
訓読 降る雪の白髪までに大君に仕へまつれば貴くもあるか
仮名 ふるゆきの しろかみまでに おほきみに つかへまつれば たふとくもあるか
左注 (藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也)
校異 天平十八 [元] 十八 / 諸臣 [元] 諸 / 卿等 [元] 卿 / 歌 [西] 謌
事項 天平18年1月 年紀 作者:橘諸兄 肆宴 宴席 奈良 宮廷 寿歌 大君讃美 応詔
訓異 しろかみまでに;しろかみまてに, つかへまつれば;つかへまつれは,
   
  17/3923
題詞 (天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌) / 紀朝臣清人應詔歌一首
題訓 紀朝臣清人きのあそみきよひとが詔を応はる歌一首
原文 天下 須泥尓於保比氐 布流雪乃 比加里乎見礼婆 多敷刀久母安流香
訓読 天の下すでに覆ひて降る雪の光りを見れば貴くもあるか
仮名 あめのした すでにおほひて ふるゆきの ひかりをみれば たふとくもあるか
左注 (藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也)
校異 なし
事項 天平18年1月 年紀 作者:紀清人 肆宴 宴席 奈良 宮廷 寿歌 応詔
訓異 すでにおほひて;すてにおほひて, ひかりをみれば;ひかりをみれは,
   
  17/3924
題詞 (天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌) / 紀朝臣男梶應詔歌一首
題訓 紀朝臣男梶をかぢが詔を応はる歌一首
原文 山乃可比 曽許登母見延受 乎登都日毛 昨日毛今日毛 由吉能布礼々<婆>
訓読 山の狭そことも見えず一昨日も昨日も今日も雪の降れれば
仮名 やまのかひ そこともみえず をとつひも きのふもけふも ゆきのふれれば
左注 (藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也)
校異 波→婆 [元][類][温]
事項 天平18年1月 年紀 作者:紀男梶 肆宴 宴席 奈良 宮廷 寿歌 応詔
訓異 そこともみえず;そこともみえす, ゆきのふれれば;ゆきのふれれは,
   
  17/3925
題詞 (天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌) / 葛井連諸會應詔歌一首
題訓 葛井連諸會ふぢゐのむらじもろあひが詔を応はる歌一首
原文 新 年乃婆自米尓 豊乃登之 思流須登奈良思 雪能敷礼流波
訓読 新しき年の初めに豊の年しるすとならし雪の降れるは
仮名 あらたしき としのはじめに とよのとし しるすとならし ゆきのふれるは
左注 (藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也)
校異 なし
事項 天平18年1月 年紀 作者:葛井諸会 肆宴 宴席 奈良 宮廷 寿歌 応詔
訓異 としのはじめに;としのはしめに,
   
  17/3926
題詞 (天平十八年正月白雪多零積地數寸也 於時左大臣橘卿率大納言藤原豊成朝臣及諸王諸臣等参入太上天皇御在所 [中宮西院]供奉掃雪 於是降詔大臣参議并諸王者令侍于大殿上諸卿大夫者令侍于南細殿 而則賜酒肆宴勅曰汝諸王卿等聊賦此雪各奏其歌) / 大伴宿祢家持應詔歌一首
題訓 大伴宿禰家持が詔を応はる歌一首
原文 大宮<能> 宇知尓毛刀尓毛 比賀流麻泥 零<流>白雪 見礼杼安可奴香聞
訓読 大宮の内にも外にも光るまで降れる白雪見れど飽かぬかも
仮名 おほみやの うちにもとにも ひかるまで ふれるしらゆき みれどあかぬかも
左注 藤原豊成朝臣 / 巨勢奈弖麻呂朝臣 / 大伴牛養宿祢 / 藤原仲麻呂朝臣 / 三原王 / 智奴王 / 船王 / 邑知王 / <小>田王 / 林王 / 穂積朝臣老 / 小田朝臣諸人 / 小野朝臣綱手 / 高橋朝臣國足 / 太朝臣徳太理 / 高丘連河内 / 秦忌寸朝元 / 楢原造東人 / 右件王卿等 應詔作歌依次奏之 登時不記其歌漏失 但秦忌寸朝元者 左大臣橘卿謔云 靡堪賦歌以麝贖之 因此黙已也
左注訓 藤原豊成朝臣、巨勢奈弖麻呂朝臣、大伴牛養宿禰、 藤原仲麻呂朝臣、三原王、智奴王、船王、邑知王、 小田王、林王、穂積朝臣老、小田朝臣諸人、小野 朝臣綱手、高橋朝臣国足、太朝臣徳太理、高丘連 河内、秦忌寸朝元、楢原造東人。右の件くだりの王おほきみ 卿まへつきみたち、詔を応はりてよめる歌、次つぎての依まにま に奏まをせりき。登時すなはち其の歌の漏失もれしをば記さず。 但ただ秦忌寸朝元は、左大臣橘の卿の謔たはぶれて曰のたまは く、歌を賦み堪あへずば、麝かほりけだもの以ちて贖あがなへと のりたまへり。此に因りて黙止もだりき。
校異 之→能 [元][類] / 須→流 [類] / 養 [元] 飼 / 山→小 [元]
事項 天平18年1月 年紀 作者:大伴家持 肆宴 宴席 奈良 宮廷 寿歌 応詔
訓異 ひかるまで;ひかるまて, ふれるしらゆき;ふるすしらゆき, みれどあかぬかも;みれとあかぬかも,
   
  17/3927
題詞 大伴宿祢家持以天平十八年閏七月被任越中國守 即取七月赴任所於時 姑大伴氏坂上郎女贈家持歌二首
題訓 大伴宿禰家持、天平十八年閏七月のちのふみつき、越中国こしのみちのなかのくにの守かみに任まけられ、即ち七月に任所まけどころに赴ゆく。時に姑をば大伴坂上郎女が家持に贈れる歌二首
原文 久佐麻久良 多妣由久吉美乎 佐伎久安礼等 伊波比倍須恵都 安我登許能敝尓
訓読 草枕旅行く君を幸くあれと斎瓮据ゑつ我が床の辺に
仮名 くさまくら たびゆくきみを さきくあれと いはひへすゑつ あがとこのへに
左注 なし
校異 天平十八年閏 [元] 閏
事項 天平18年閏7月 年紀 作者:坂上郎女 贈答 枕詞 出発 羈旅 女歌 神祭り 大伴家持
訓異 たびゆくきみを;たひゆくきみを, あがとこのへに;あかとこのへに,
   
  17/3928
題詞 (大伴宿祢家持以天平十八年閏七月被任越中國守 即取七月赴任所於時 姑大伴氏坂上郎女贈家持歌二首)
原文 伊麻能<其>等 古非之久伎美我 於毛保要婆 伊可尓加母世牟 須流須邊乃奈左
訓読 今のごと恋しく君が思ほえばいかにかもせむするすべのなさ
仮名 いまのごと こひしくきみが おもほえば いかにかもせむ するすべのなさ
左注 なし
校異 去→其 [元][紀][細][温]
事項 天平18年閏7月 年紀 作者:坂上郎女 贈答 出発 羈旅 女歌 悲別 大伴家持
訓異 いまのごと;いまのこと, こひしくきみが;こひしくきみか, おもほえば;おもほえは, するすべのなさ;するすへのなさ,
   
  17/3929
題詞 更贈越中國歌二首
題訓 また越中国に贈る歌二首
原文 多妣尓伊仁思 吉美志毛都藝氐 伊米尓美由 安我加多孤悲乃 思氣家礼婆可聞
訓読 旅に去にし君しも継ぎて夢に見ゆ我が片恋の繁ければかも
仮名 たびにいにし きみしもつぎて いめにみゆ あがかたこひの しげければかも
左注 なし
校異 なし
事項 作者:坂上郎女 贈答 大伴家持 羈旅 悲別 恋情 女歌
訓異 たびにいにし;たひにいにし, きみしもつぎて;きみしもつきて, あがかたこひの;あかかたこひの, しげければかも;しけけれはかも,
   
  17/3930
題詞 (更贈越中國歌二首)
原文 美知乃奈加 久尓都美可未波 多妣由伎母 之思良奴伎美乎 米具美多麻波奈
訓読 道の中国つみ神は旅行きもし知らぬ君を恵みたまはな
仮名 みちのなか くにつみかみは たびゆきも ししらぬきみを めぐみたまはな
左注 なし
校異 なし
事項 作者:坂上郎女 贈答 羈旅 悲別 手向醎 大伴家持 女歌
訓異 たびゆきも;たひゆきも, めぐみたまはな;めくみたまはな,
   
  17/3931
題詞 平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首
題訓 平群氏女郎へぐりうぢのいらつめが越中守大伴宿禰家持に贈れる歌十二首とをまりふたつ
原文 吉美尓餘里 吾名波須泥尓 多都多山 絶多流孤悲乃 之氣吉許呂可母
訓読 君により我が名はすでに龍田山絶えたる恋の繁きころかも
仮名 きみにより わがなはすでに たつたやま たえたるこひの しげきころかも
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 贈答 大伴家持 恋情 地名 奈良 掛詞 悲別 女歌
訓異 わがなはすでに;わかなはすてに, しげきころかも;しけきころかも,
   
  17/3932
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 須麻比等乃 海邊都祢佐良受 夜久之保能 可良吉戀乎母 安礼波須流香物
訓読 須磨人の海辺常去らず焼く塩の辛き恋をも我れはするかも
仮名 すまひとの うみへつねさらず やくしほの からきこひをも あれはするかも
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 序詞 贈答 大伴家持 恋情 地名 兵庫 女歌
訓異 うみへつねさらず;うみへつねさらす,
   
  17/3933
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 阿里佐利底 能知毛相牟等 於母倍許曽 都由能伊乃知母 都藝都追和多礼
訓読 ありさりて後も逢はむと思へこそ露の命も継ぎつつ渡れ
仮名 ありさりて のちもあはむと おもへこそ つゆのいのちも つぎつつわたれ
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 贈答 大伴家持 恋情 怨恨 悲別 女歌
訓異 つゆのいのちも;つえのいのちも, つぎつつわたれ;つきつつわたれ,
   
  17/3934
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 奈加奈可尓 之奈婆夜須家牟 伎美我目乎 美受比佐奈良婆 須敝奈可流倍思
訓読 なかなかに死なば安けむ君が目を見ず久ならばすべなかるべし
仮名 なかなかに しなばやすけむ きみがめを みずひさならば すべなかるべし
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 贈答 大伴家持 恋情 悲別 女歌
訓異 しなばやすけむ;しなはやすけむ, きみがめを;きみかめを, みずひさならば;みすひさならは, すべなかるべし;すへなかるへし,
   
  17/3935
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 許母利奴能 之多由孤悲安麻里 志良奈美能 伊知之路久伊泥奴 比登乃師流倍久
訓読 隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく
仮名 こもりぬの したゆこひあまり しらなみの いちしろくいでぬ ひとのしるべく
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 贈答 大伴家持 恋情 枕詞 人目 尫柜蹋 女歌
訓異 いちしろくいでぬ;いちしろくいてぬ, ひとのしるべく;ひとのしるへく,
   
  17/3936
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 久佐麻久良 多妣尓之婆々々 可久能未也 伎美乎夜利都追 安我孤悲乎良牟
訓読 草枕旅にしばしばかくのみや君を遣りつつ我が恋ひ居らむ
仮名 くさまくら たびにしばしば かくのみや きみをやりつつ あがこひをらむ
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 枕詞 贈答 悲別 恋情 大伴家持 女歌
訓異 たびにしばしば;たひにしはしは, あがこひをらむ;あかこひをらむ,
   
  17/3937
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 草枕 多妣伊尓之伎美我 可敝里許牟 月日乎之良牟 須邊能思良難久
訓読 草枕旅去にし君が帰り来む月日を知らむすべの知らなく
仮名 くさまくら たびいにしきみが かへりこむ つきひをしらむ すべのしらなく
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 枕詞 贈答 大伴家持 悲別 恋情 女歌
訓異 たびいにしきみが;たひいにしきみか, すべのしらなく;すへのしらなく,
   
  17/3938
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 可久能未也 安我故非乎浪牟 奴婆多麻能 欲流乃比毛太尓 登吉佐氣受之氐
訓読 かくのみや我が恋ひ居らむぬばたまの夜の紐だに解き放けずして
仮名 かくのみや あがこひをらむ ぬばたまの よるのひもだに ときさけずして
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 枕詞 贈答 大伴家持 恋情 悲別 女歌
訓異 あがこひをらむ;あかこひをらむ, ぬばたまの;ぬはたまの, よるのひもだに;よるのひもたに, ときさけずして;ときさけすして,
   
  17/3939
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 佐刀知加久 伎美我奈里那婆 古非米也等 母登奈於毛比此 安連曽久夜思伎
訓読 里近く君がなりなば恋ひめやともとな思ひし我れぞ悔しき
仮名 さとちかく きみがなりなば こひめやと もとなおもひし あれぞくやしき
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 贈答 大伴家持 恋情 悲別 女歌
訓異 きみがなりなば;きみかなりなは, あれぞくやしき;あれそくやしき,
   
  17/3940
題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 餘呂豆代尓 許己呂波刀氣氐 和我世古我 都美之<手>見都追 志乃備加祢都母
訓読 万代に心は解けて我が背子が捻みし手見つつ忍びかねつも
仮名 よろづよに こころはとけて わがせこが つみしてみつつ しのびかねつも
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 尓 [元] 等 / 乎→手 [元]
事項 作者:平群女郎 贈答 大伴家持 恋情 女歌
訓異 よろづよに;よろつよに, わがせこが;わかせこか, つみしてみつつ;つみしをみつつ, しのびかねつも;しのひかねつも,
   
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題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 鴬能 奈久々良多尓々 宇知波米氐 夜氣波之奴等母 伎美乎之麻多武
訓読 鴬の鳴くくら谷にうちはめて焼けは死ぬとも君をし待たむ
仮名 うぐひすの なくくらたにに うちはめて やけはしぬとも きみをしまたむ
左注 (右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也)
校異 なし
事項 作者:平群女郎 動物 贈答 大伴家持 恋情 女歌
訓異 うぐひすの;うくひすの,
   
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題詞 (平群氏女郎贈越中守大伴宿祢家持歌十二首)
原文 麻都能波奈 花可受尓之毛 和我勢故我 於母敝良奈久尓 母登奈佐吉都追
訓読 松の花花数にしも我が背子が思へらなくにもとな咲きつつ
仮名 まつのはな はなかずにしも わがせこが おもへらなくに もとなさきつつ
左注 右件十二首歌者時々寄便使来贈非在<一>度所送也
左注訓 右ノ件ノ十二首ノ歌ハ、時々ニ便使ニ寄セテ来贈ル。一度ニ送レルニハ在ラズ。
校異 十二首歌 [元] 歌 / <>→一 [西(右書)][元][紀][細]
事項 作者:平群女郎 植物 贈答 恋情 怨恨 大伴家持 女歌
訓異 はなかずにしも;はなかすにしも, わがせこが;わかせこか,
   
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題詞 八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌
題訓 八月はつきの七日なぬかの夜、守大伴宿禰家持が館たちに集ひて宴する歌
原文 秋田乃 穂牟伎見我氐里 和我勢古我 布左多乎里家流 乎美奈敝之香物
訓読 秋の田の穂向き見がてり我が背子がふさ手折り来るをみなへしかも
仮名 あきのたの ほむきみがてり わがせこが ふさたをりける をみなへしかも
左注 右一首守大伴宿祢家持作
左注訓 右の一首は、守大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴家持 宴席 女歌 植物 恋愛
訓異 ほむきみがてり;ほむきみかてり, わがせこが;わかせこか,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 乎美奈敝之 左伎多流野邊乎 由伎米具利 吉美乎念出 多母登保里伎奴
訓読 をみなへし咲きたる野辺を行き廻り君を思ひ出た廻り来ぬ
仮名 をみなへし さきたるのへを ゆきめぐり きみをおもひで たもとほりきぬ
左注 (右三首掾大伴宿祢池主作)
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴池主 植物 恋愛 宴席 大伴家持
訓異 ゆきめぐり;ゆきめくり, きみをおもひで;きみをおもひて,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 安吉能欲波 阿加登吉左牟之 思路多倍乃 妹之衣袖 伎牟餘之母我毛
訓読 秋の夜は暁寒し白栲の妹が衣手着むよしもがも
仮名 あきのよは あかときさむし しろたへの いもがころもで きむよしもがも
左注 (右三首掾大伴宿祢池主作)
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴池主 枕詞 宴席 大伴家持 高岡 富山
訓異 いもがころもで;いもかころもて, きむよしもがも;きむよしもかも,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 保登等藝須 奈伎氐須疑尓之 乎加備可良 秋風吹奴 余之母安良奈久尓
訓読 霍公鳥鳴きて過ぎにし岡びから秋風吹きぬよしもあらなくに
仮名 ほととぎす なきてすぎにし をかびから あきかぜふきぬ よしもあらなくに
左注 右三首掾大伴宿祢池主作
左注訓 右の三首は、掾まつりごとひと大伴宿禰池主がよめる。
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴池主 動物 宴席 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, なきてすぎにし;なきてすきにし, をかびから;ちかひから, あきかぜふきぬ;あきかせふきぬ,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 家佐能安佐氣 秋風左牟之 登保都比等 加里我来鳴牟 等伎知可美香物
訓読 今朝の朝明秋風寒し遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも
仮名 けさのあさけ あきかぜさむし とほつひと かりがきなかむ ときちかみかも
左注 (右二首守大伴宿祢家持作)
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴家持 動物 宴席 枕詞 高岡 富山
訓異 あきかぜさむし;あきかせさむし, かりがきなかむ;かりかきなかむ,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 安麻射加流 比奈尓月歴奴 之可礼登毛 由比氐之紐乎 登伎毛安氣奈久尓
訓読 天離る鄙に月経ぬしかれども結ひてし紐を解きも開けなくに
仮名 あまざかる ひなにつきへぬ しかれども ゆひてしひもを ときもあけなくに
左注 右二首守大伴宿祢家持作
左注訓 右の二首は、守大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴家持 恋愛 宴席 枕詞 高岡 富山
訓異 あまざかる;あまさかる, しかれども;しかれとも,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 安麻射加流 比奈尓安流和礼乎 宇多我多毛 比<母>登吉佐氣氐 於毛保須良米也
訓読 天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや
仮名 あまざかる ひなにあるわれを うたがたも ひもときさけて おもほすらめや
左注 右一首掾大伴宿祢池主
左注訓 右の一首は、掾大伴宿禰池主。
校異 母毛→母 [元][類][細][温]
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴池主 枕詞 恋愛 宴席 高岡 富山
訓異 あまざかる;あまさかる, うたがたも;うたかたも, ひもときさけて;ひももときさけて,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 伊敝尓之底 由比弖師比毛乎 登吉佐氣受 念意緒 多礼賀思良牟母
訓読 家にして結ひてし紐を解き放けず思ふ心を誰れか知らむも
仮名 いへにして ゆひてしひもを ときさけず おもふこころを たれかしらむも
左注 右一首守大伴宿祢家持作
左注訓 右の一首は、守大伴宿禰家持がよめる。
校異 家持作 [元] 家持
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴家持 恋愛 望郷 宴席 高岡 富山
訓異 ときさけず;ときさけす,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 日晩之乃 奈吉奴流登吉波 乎美奈敝之 佐伎多流野邊乎 遊吉追都見倍之
訓読 ひぐらしの鳴きぬる時はをみなへし咲きたる野辺を行きつつ見べし
仮名 ひぐらしの なきぬるときは をみなへし さきたるのへを ゆきつつみべし
左注 右一首大目秦忌寸八千嶋
左注訓 右の一首は、大目おほきふみひと秦忌寸八千島はたのいみきやちしま。
校異 大目 [類] 越中大目
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:秦八千島 宴席 植物 大伴家持 高岡 富山
訓異 ひぐらしの;ひくらしの, ゆきつつみべし;ゆきつつみへし,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌) / 古歌一首[大原高安真人作] 年月不審 但随聞時記載茲焉
題訓 古歌ふるうた一首 大原高安真人ノ作。年月審ラカナラズ。但聞キシ時ノ随ニ茲ニ記載ス。
原文 伊毛我伊敝尓 伊久里能母里乃 藤花 伊麻許牟春<母> 都祢加久之見牟
訓読 妹が家に伊久里の杜の藤の花今来む春も常かくし見む
仮名 いもがいへに いくりのもりの ふぢのはな いまこむはるも つねかくしみむ
左注 右一首傳誦僧玄勝是也
左注訓 右の一首、伝へ誦よむは僧ほうし玄勝げむしやうなり。
校異 毛→母 [元][類] / 加 [元](塙) 賀
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:玄勝 古歌 伝誦 大原高安 大伴家持 宴席 枕詞 恋愛 高岡 富山
訓異 いもがいへに;いもかいへに, ふぢのはな;ふちのはな,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 鴈我祢波 都可比尓許牟等 佐和久良武 秋風左無美 曽乃可波能倍尓
訓読 雁がねは使ひに来むと騒くらむ秋風寒みその川の上に
仮名 かりがねは つかひにこむと さわくらむ あきかぜさむみ そのかはのへに
左注 (右二首守大伴宿祢家持)
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴家持 動物 叙景 望郷 宴席 高岡 富山
訓異 かりがねは;かりかねは, あきかぜさむみ;あきかせさむみ,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 馬並氐 伊射宇知由可奈 思夫多尓能 伎欲吉伊蘇<未>尓 与須流奈弥見尓
訓読 馬並めていざ打ち行かな渋谿の清き礒廻に寄する波見に
仮名 うまなめて いざうちゆかな しぶたにの きよきいそみに よするなみみに
左注 右二首守大伴宿祢家持
左注訓 右の二首は、守大伴宿禰家持。
校異 末→未 [温]
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:大伴家持 宴席 遊覧 地名 高岡 富山
訓異 いざうちゆかな;いさうちゆかな, しぶたにの;しふたにの, きよきいそみに;きよきいそまに,
   
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題詞 (八月七日夜集于守大伴宿祢家持舘宴歌)
原文 奴婆多麻乃 欲波布氣奴良之 多末久之氣 敷多我美夜麻尓 月加多夫伎奴
訓読 ぬばたまの夜は更けぬらし玉櫛笥二上山に月かたぶきぬ
仮名 ぬばたまの よはふけぬらし たまくしげ ふたがみやまに つきかたぶきぬ
左注 右一首史生土師宿祢道良
左注訓 右の一首は、史生ふみひと土師宿禰道良はにしのすくねみちよし。
校異 なし
事項 天平18年8月7日 年紀 作者:土師道良 宴席 地名 高岡 富山 大伴家持 枕詞 終宴 叙景
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, たまくしげ;たまくしけ, ふたがみやまに;ふたかみやまに, つきかたぶきぬ;つきかたふきぬ,
   
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題詞 大目秦忌寸八千嶋之館宴歌一首
題訓 大目秦忌寸八千島が館に宴する歌一首
原文 奈呉能安麻能 都里須流布祢波 伊麻許曽婆 敷奈太那宇知氐 安倍弖許藝泥米
訓読 奈呉の海人の釣する舟は今こそば舟棚打ちてあへて漕ぎ出め
仮名 なごのあまの つりするふねは いまこそば ふなだなうちて あへてこぎでめ
左注 右館之客屋居望蒼海 仍主人八千嶋作此歌也
左注訓 右、館ノ客屋ハ居ナガラニシテ蒼海ヲ望ム。仍テ主人八千島此歌ヲ作メリ。
校異 八千嶋作 [元][古] 作 / 歌 [西] 謌
事項 作者:秦八千島 宴席 地名 高岡 富山
訓異 なごのあまの;なこのあまの, いまこそば;いまこそは, ふなだなうちて;ふなたなうちて, あへてこぎでめ;あへてこきてめ,
   
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題詞 哀傷長逝之弟歌一首[并短歌]
題訓 長逝みまかれる弟おとを悲傷かなしむ歌一首、また短歌みじかうた
原文 安麻射加流 比奈乎佐米尓等 大王能 麻氣乃麻尓末尓 出而許之 和礼乎於久流登 青丹余之 奈良夜麻須疑氐 泉河 伎欲吉可波良尓 馬駐 和可礼之時尓 好去而 安礼可敝里許牟 平久 伊波比氐待登 可多良比氐 許之比乃伎波美 多麻保許能 道乎多騰保美 山河能 敝奈里氐安礼婆 孤悲之家口 氣奈我枳物能乎 見麻久保里 念間尓 多麻豆左能 使乃家礼婆 宇礼之美登 安我麻知刀敷尓 於餘豆礼能 多<波>許登等可毛 <波>之伎余思 奈弟乃美許等 奈尓之加母 時之<波>安良牟乎 <波>太須酒吉 穂出秋乃 芽子花 尓保敝流屋戸乎 [言斯人為性好愛花草花樹而多<植>於寝院之庭 故謂之花薫庭也] 安佐尓波尓 伊泥多知奈良之 暮庭尓 敷美多比良氣受 佐保能宇知乃 里乎徃過 安之比紀乃 山能許奴礼尓 白雲尓 多知多奈妣久等 安礼尓都氣都流 [佐保山火葬 故謂之佐保乃宇知乃佐<刀>乎由吉須疑]
訓読 天離る 鄙治めにと 大君の 任けのまにまに 出でて来し 我れを送ると あをによし 奈良山過ぎて 泉川 清き河原に 馬留め 別れし時に ま幸くて 我れ帰り来む 平らけく 斎ひて待てと 語らひて 来し日の極み 玉桙の 道をた遠み 山川の 隔りてあれば 恋しけく 日長きものを 見まく欲り 思ふ間に 玉梓の 使の来れば 嬉しみと 我が待ち問ふに およづれの たはこととかも はしきよし 汝弟の命 なにしかも 時しはあらむを はだすすき 穂に出づる秋の 萩の花 にほへる宿を [言斯人為性好愛花草花樹而多<植>於寝院之庭 故謂之花薫庭也] 朝庭に 出で立ち平し 夕庭に 踏み平げず 佐保の内の 里を行き過ぎ あしひきの 山の木末に 白雲に 立ちたなびくと 我れに告げつる [佐保山火葬 故謂之佐保の内の里を行き過ぎ]
仮名 あまざかる ひなをさめにと おほきみの まけのまにまに いでてこし われをおくると あをによし ならやますぎて いづみがは きよきかはらに うまとどめ わかれしときに まさきくて あれかへりこむ たひらけく いはひてまてと かたらひて こしひのきはみ たまほこの みちをたどほみ やまかはの へなりてあれば こひしけく けながきものを みまくほり おもふあひだに たまづさの つかひのければ うれしみと あがまちとふに およづれの たはこととかも はしきよし なおとのみこと なにしかも ときしはあらむを はだすすき ほにいづるあきの はぎのはな にほへるやどを あさにはに いでたちならし ゆふにはに ふみたひらげず さほのうちの さとをゆきすぎ あしひきの やまのこぬれに しらくもに たちたなびくと あれにつげつる さほのうちの さとをゆきすぎ
左注 (右天平十八年秋九月廿五日越中守大伴宿祢家持遥聞弟喪感傷作之也)
校異 里 [元][類](塙) 理 / 久 [元](塙) 安 / 婆→波 [元][類] / 婆→波 [元][類] / 婆→波 [元][類][紀][細] / 婆→波 [元][類][温] / 値→植 [類][矢][京] / 力→刀 [元][類][紀]
事項 天平18年9月25日 年紀 作者:大伴家持 挽歌 哀悼 大伴書持 悲別 枕詞 地名 京都 奈良 高岡 富山 大伴書持
訓異 あまざかる;あまさかる, いでてこし;いててこし, ならやますぎて;ならやますきて, いづみがは;いつみかは, うまとどめ;うまととめ, まさきくて;よしゆきて, たひらけく;たいらけく, みちをたどほみ;みちをたとほみ, へなりてあれば;へなりてあれは, けながきものを;けなかきものを, おもふあひだに;おもふあひたに, たまづさの;たまつさの, つかひのければ;つかひのくれは, あがまちとふに;あかまちとふに, およづれの;およつれの, はだすすき;はたすすき, ほにいづるあきの;ほにいつるあきの, はぎのはな;はきのはな, にほへるやどを;にほへるやとを, いでたちならし;いてたちならし, ふみたひらげず;ふみたひらけす, さとをゆきすぎ;さとをゆきすき, たちたなびくと;たちたなひくと, あれにつげつる[寛]あれにつけつる, さほのうちの, さとをゆきすぎ,
   
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題詞 (哀傷長逝之弟歌一首[并短歌])
原文 麻佐吉久登 伊比氐之物能乎 白雲尓 多知多奈妣久登 伎氣婆可奈思物
訓読 ま幸くと言ひてしものを白雲に立ちたなびくと聞けば悲しも
仮名 まさきくと いひてしものを しらくもに たちたなびくと きけばかなしも
左注 (右天平十八年秋九月廿五日越中守大伴宿祢家持遥聞弟喪感傷作之也)
校異 なし
事項 天平18年9月25日 年紀 作者:大伴家持 挽歌 哀悼 大伴書持 悲別 高岡 富山 大伴書持
訓異 たちたなびくと;たちたなひくと, きけばかなしも;きけはかなしも,
   
  17/3959
題詞 (哀傷長逝之弟歌一首[并短歌])
原文 可加良牟等 可祢弖思理世婆 古之能宇美乃 安里蘇乃奈美母 見世麻之物<能>乎
訓読 かからむとかねて知りせば越の海の荒礒の波も見せましものを
仮名 かからむと かねてしりせば こしのうみの ありそのなみも みせましものを
左注 右天平十八年秋九月廿五日越中守大伴宿祢家持遥聞弟喪感傷作之也
左注訓 右、天平十八年秋九月ながつきの二十五日はつかまりいつかのひ、越中守大伴 宿禰家持が遥かに弟の喪を聞き感傷かなしみてよめるなり。
校異 <>→能 [元][類][紀] / 天平十八年秋九 [元] 九
事項 天平18年9月25日 年紀 作者:大伴家持 挽歌 哀悼 大伴書持 悲別 高岡 富山 地名 大伴書持
訓異 かねてしりせば;かねてしりせは,
   
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題詞 相歡歌二首 越中守大伴宿祢家持作
題訓 相あへるを歓ぶ歌二首
原文 庭尓敷流 雪波知敝之久 思加乃未尓 於母比氐伎美乎 安我麻多奈久尓
訓読 庭に降る雪は千重敷くしかのみに思ひて君を我が待たなくに
仮名 にはにふる ゆきはちへしく しかのみに おもひてきみを あがまたなくに
左注 (右以天平十八年八月掾大伴宿祢池主附大帳使赴向京師 而同年十一月還到本任 仍設詩酒之宴弾絲飲樂 是<日>也白雪忽降積地尺餘 此時也復漁夫之船入海浮瀾 爰守大伴宿祢家持寄情二眺聊裁所心)
校異 歌 [西] 謌
事項 天平18年11月 年紀 作者:大伴家持 宴席 大伴池主 恋情 寄物陳思 高岡 富山
訓異 あがまたなくに;あかまたなくに,
   
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題詞 (相歡歌二首 越中守大伴宿祢家持作)
原文 白浪乃 余須流伊蘇<未>乎 榜船乃 可治登流間奈久 於母保要之伎美
訓読 白波の寄する礒廻を漕ぐ舟の楫取る間なく思ほえし君
仮名 しらなみの よするいそみを こぐふねの かぢとるまなく おもほえしきみ
左注 右以天平十八年八月掾大伴宿祢池主附大帳使赴向京師 而同年十一月還到本任 仍設詩酒之宴弾絲飲樂 是<日>也白雪忽降積地尺餘 此時也復漁夫之船入海浮瀾 爰守大伴宿祢家持寄情二眺聊裁所心
左注訓 右、天平十八年八月、掾大伴宿禰池主が大帳使に 附きて、京師みやこに赴向おもむき、同じ年の十一月しもつき、本の任つかさ に還到かへれり。仍かれ宴して弾琴ことふえの飲楽あそびせり。時に白雪ゆき 降りて、地つちに積むこと尺余ひとさかあまりなり。復また漁夫あまの船、 入海に瀾なみに浮かぶ。爰に守大伴宿禰家持が二つの ものを眺みて、聊か所心おもひを裁のぶ。
校異 末→未 [温] / 天平十八年八月 [元] 八月 / <>→日 [元][類][紀]
事項 天平18年11月 年紀 作者:大伴家持 宴席 大伴池主 恋情 寄物陳思 高岡 富山
訓異 よするいそみを;よするいそまを, こぐふねの;こくふねの, かぢとるまなく;かちとるまなく,
   
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題詞 忽沈<枉>疾殆臨泉路 仍作歌詞以申悲緒一首[并短歌]
題訓 十九年ととせまりここのとせといふとし春二月きさらぎの二十日はつかのひ、忽ち病ひに沈み、殆ほとほとみうせなむとす。仍かれ歌詞うたをよみて、悲緒かなしみを申のぶる一首ひとうた、また短歌
原文 大王能 麻氣能麻尓々々 大夫之 情布里於許之 安思比奇能 山坂古延弖 安麻射加流 比奈尓久太理伎 伊伎太尓毛 伊麻太夜須米受 年月毛 伊久良母阿良奴尓 宇<都>世美能 代人奈礼婆 宇知奈妣吉 等許尓許伊布之 伊多家苦之 日異益 多良知祢乃 <波>々能美許等乃 大船乃 由久良々々々尓 思多呉非尓 伊都可聞許武等 麻多須良牟 情左夫之苦 波之吉与志 都麻能美許登母 安氣久礼婆 門尓餘里多知 己呂母泥乎 遠理加敝之都追 由布佐礼婆 登許宇知波良比 奴婆多麻能 黒髪之吉氐 伊都之加登 奈氣可須良牟曽 伊母毛勢母 和可伎兒等毛<波> 乎知許知尓 佐和吉奈久良牟 多麻保己能 美知乎多騰保弥 間使毛 夜流余之母奈之 於母保之伎 許登都氐夜良受 孤布流尓思 情波母要奴 多麻伎波流 伊乃知乎之家騰 世牟須辨能 多騰伎乎之良尓 加苦思氐也 安良志乎須良尓 奈氣枳布勢良武
訓読 大君の 任けのまにまに 大夫の 心振り起し あしひきの 山坂越えて 天離る 鄙に下り来 息だにも いまだ休めず 年月も いくらもあらぬに うつせみの 世の人なれば うち靡き 床に臥い伏し 痛けくし 日に異に増さる たらちねの 母の命の 大船の ゆくらゆくらに 下恋に いつかも来むと 待たすらむ 心寂しく はしきよし 妻の命も 明けくれば 門に寄り立ち 衣手を 折り返しつつ 夕されば 床打ち払ひ ぬばたまの 黒髪敷きて いつしかと 嘆かすらむぞ 妹も兄も 若き子どもは をちこちに 騒き泣くらむ 玉桙の 道をた遠み 間使も 遺るよしもなし 思ほしき 言伝て遣らず 恋ふるにし 心は燃えぬ たまきはる 命惜しけど 為むすべの たどきを知らに かくしてや 荒し男すらに 嘆き伏せらむ
仮名 おほきみの まけのまにまに ますらをの こころふりおこし あしひきの やまさかこえて あまざかる ひなにくだりき いきだにも いまだやすめず としつきも いくらもあらぬに うつせみの よのひとなれば うちなびき とこにこいふし いたけくし ひにけにまさる たらちねの ははのみことの おほぶねの ゆくらゆくらに したごひに いつかもこむと またすらむ こころさぶしく はしきよし つまのみことも あけくれば かどによりたち ころもでを をりかへしつつ ゆふされば とこうちはらひ ぬばたまの くろかみしきて いつしかと なげかすらむぞ いももせも わかきこどもは をちこちに さわきなくらむ たまほこの みちをたどほみ まつかひも やるよしもなし おもほしき ことつてやらず こふるにし こころはもえぬ たまきはる いのちをしけど せむすべの たどきをしらに かくしてや あらしをすらに なげきふせらむ
左注 (右天平十九年春二月廿日越中國守之舘臥病悲傷聊作此歌)
校異 狂→枉 [元] / 歌 [西] 謌 / 津→都 [元][紀][細] / 婆→波 [元][紀][細] / 婆→波 [元][紀][細]
事項 天平19年2月20日 年紀 作者:大伴家持 病気 枕詞 悲嘆 高岡 富山
訓異 あまざかる;あまさかる, ひなにくだりき;ひなにくたりて, いきだにも;いきたにも, いまだやすめず;いまたやすめす, よのひとなれば;よいひとなれは, うちなびき;うちなひき, ひにけにまさる;ひにけにませは, おほぶねの;おほふねの, したごひに;したこひに, こころさぶしく;こころさふしく, あけくれば;あけくれは, かどによりたち;かとによりたち, ころもでを;ころもてを, ゆふされば;ゆふされは, ぬばたまの;ぬはたまの, なげかすらむぞ;なけかすらむそ, わかきこどもは;わかきこともは, みちをたどほみ;みちをたとほみ, ことつてやらず;ことつてやらす, いのちをしけど;いのちをしけと, せむすべの;せむすへの, たどきをしらに;たときをしらに, なげきふせらむ;なけきふせらむ,
   
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題詞 (忽沈<枉>疾殆臨泉路 仍作歌詞以申悲緒一首[并短歌])
原文 世間波 加受奈枳物能可 春花乃 知里能麻我比尓 思奴倍吉於母倍婆
訓読 世間は数なきものか春花の散りのまがひに死ぬべき思へば
仮名 よのなかは かずなきものか はるはなの ちりのまがひに しぬべきおもへば
左注 (右天平十九年春二月廿日越中國守之舘臥病悲傷聊作此歌)
校異 なし
事項 天平19年2月20日 年紀 作者:大伴家持 病気 悲嘆 無常 高岡 富山
訓異 かずなきものか;かすなきものか, ちりのまがひに;ちりのまかひに, しぬべきおもへば;しぬへきおもへは,
   
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題詞 (忽沈<枉>疾殆臨泉路 仍作歌詞以申悲緒一首[并短歌])
原文 山河乃 曽伎敝乎登保美 波之吉余思 伊母乎安比見受 可久夜奈氣加牟
訓読 山川のそきへを遠みはしきよし妹を相見ずかくや嘆かむ
仮名 やまかはの そきへをとほみ はしきよし いもをあひみず かくやなげかむ
左注 右天平十九年春二月廿日越中國守之舘臥病悲傷聊作此歌
左注訓 右、越中国の守の館にて、病に臥し悲傷みて、此の歌をよめり。
校異 天平十九年 [元] 十九年 / 廿 [元] 廿一 / 歌 [西] 謌
事項 天平19年2月20日 年紀 作者:大伴家持 病気 悲嘆 恋情 高岡 富山
訓異 いもをあひみず;いもをあひみす, かくやなげかむ;かくやなけかむ,
   
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題詞 守大伴宿祢家持贈大伴宿祢池主悲歌二首 / 忽沈枉疾累旬痛苦 祷恃百神且得消損 而由身體疼羸筋力怯軟 未堪展謝係戀弥深 方今春朝春花流馥於春苑 春暮春鴬囀聲於春林 對此節候琴罇可翫矣 雖有乗興之感不耐策杖之勞 獨臥帷幄之裏 聊作寸分之歌 軽奉机下犯解玉頤 其詞曰
題訓 二十年はたとせといふとし二月の二十九日はつかまりここのかのひ、守大伴宿禰家持が掾大伴宿禰池主に贈れる悲しみの歌二首
忽に病ひに沈み、累旬痛苦す。百神を祷ひ恃みて、且消損を得れども、由ほ身体疼いたみ羸つかれ、筋力怯軟よはくして、未だ謝を展るに堪へず。係恋弥よ深し。方今いま春の朝春の花、春の苑に流馥にほひ、春の暮春の鴬、春の林に囀なく。此の節候に対あたりて、琴樽翫もてあそびつべし。乗興の感有りと雖も、策杖の労に耐へず。独り帷幄の裏に臥して、聊か寸分の歌をよみて、軽かろがろしく机下に奉り、玉頤を解かむことを犯す。其の詞に曰く、
原文 波流能波奈 伊麻波左加里尓 仁保布良牟 乎里氐加射佐武 多治可良毛我母
訓読 春の花今は盛りににほふらむ折りてかざさむ手力もがも
仮名 はるのはな いまはさかりに にほふらむ をりてかざさむ たぢからもがも
左注 (<二>月廿九日大伴宿祢家持)
校異 沈 [元] 染
事項 天平19年2月29日 年紀 作者:大伴家持 大伴池主 贈答 病気 贈答 悲嘆 書簡 高岡 富山
訓異 をりてかざさむ;をりてかささむ, たぢからもがも;たちからをかも,
   
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題詞 (守大伴宿祢家持贈大伴宿祢池主悲歌二首 / 忽沈枉疾累旬痛苦 祷恃百神且得消損 而由身體疼羸筋力怯軟 未堪展謝係戀弥深 方今春朝春花流馥於春苑 春暮春鴬囀聲於春林 對此節候琴罇可翫矣 雖有乗興之感不耐策杖之勞 獨臥帷幄之裏 聊作寸分之歌 軽奉机下犯解玉頤 其詞曰)
原文 宇具比須乃 奈枳知良須良武 春花 伊都思香伎美登 多乎里加射左牟
訓読 鴬の鳴き散らすらむ春の花いつしか君と手折りかざさむ
仮名 うぐひすの なきちらすらむ はるのはな いつしかきみと たをりかざさむ
左注 <二>月廿九日大伴宿祢家持
左注訓 天平二十年二月二十九日、大伴宿禰家持。
校異 天平廿年二→二 [元]
事項 天平20年2月29日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 病気 悲嘆 書簡 高岡 富山
訓異 うぐひすの;うくひすの, たをりかざさむ;たをりかささむ,
   
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題詞 忽辱芳音翰苑凌雲 兼垂倭詩詞林舒錦 以吟以詠能ニ戀緒春可樂 暮春風景最可怜 紅桃灼々戯蝶廻花儛 翠柳依々嬌鴬隠葉歌 可樂哉 淡交促席得意忘言 樂矣美矣 幽襟足賞哉豈慮乎蘭ツ隔テ琴罇無用 空過令節物色軽人乎 所怨有此不能<黙><已> 俗語云以藤續錦 聊擬談咲耳
題訓 三月やよひの二日、掾まつりごとひと大伴宿禰池主が守大伴宿禰家持に報贈こたふる歌二首
忽に芳音を辱かたじけなくす。翰苑雲を凌ぎ、兼て倭詩うたを垂たまはる。詞林錦を舒べ、吟うたひ詠ながめて能く恋緒をのぞく。春の朝の和気、固より楽しむべく、春の暮の風景、最も怜たぬしむべし。紅桃灼々とし、戯蝶花を回りて舞ひ、翠柳依々として、嬌鴬葉に隠りて歌ふ。楽しきかも。淡交席を促して、意を得て言を忘る。楽しきかも、美うるはしきかも。幽襟賞いつくしむに足れり。豈あに慮はかりきや、蘭蕙叢を隔て、琴樽用つかはるること無けむと。空しく令節を過さば、物色人を軽あなづらむ。怨むる所此に有り。然黙止することを能はず。俗語に云く、藤を以て錦に続ぐと云へり。聊か談咲に擬するのみ。
原文 夜麻我比<邇> 佐家流佐久良乎 多太比等米 伎美尓弥西氐婆 奈尓乎可於母波牟
訓読 山峽に咲ける桜をただ一目君に見せてば何をか思はむ
仮名 やまがひに さけるさくらを ただひとめ きみにみせてば なにをかおもはむ
左注 (沽洗二日掾大伴宿祢池主)
校異 點→黙 [元][紀][温] / 已俗→已 [西(訂正)][元][紀][温] / 尓→邇 [元][類]
事項 天平19年3月2日 年紀 作者:大伴池主 贈答 大伴家持 病気 慰撫 書簡 高岡 富山
訓異 やまがひに;やまかひに, ただひとめ;たたひとめ, きみにみせてば;きみにみせては,
   
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題詞 (忽辱芳音翰苑凌雲 兼垂倭詩詞林舒錦 以吟以詠能ニ戀緒春可樂 暮春風景最可怜 紅桃灼々戯蝶廻花儛 翠柳依々嬌鴬隠葉歌 可樂哉 淡交促席得意忘言 樂矣美矣 幽襟足賞哉豈慮乎蘭ツ隔テ琴罇無用 空過令節物色軽人乎 所怨有此不能<黙><已> 俗語云以藤續錦 聊擬談咲耳)
原文 宇具比須能 伎奈久夜麻夫伎 宇多賀多母 伎美我手敷礼受 波奈知良米夜母
訓読 鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも
仮名 うぐひすの きなくやまぶき うたがたも きみがてふれず はなちらめやも
左注 沽洗二日掾大伴宿祢池主
左注訓 沽洗やよひの二日、掾大伴宿禰池主。
校異 なし
事項 天平19年3月2日 年紀 作者:大伴池主 贈答 大伴家持 病気 慰撫 動物 書簡 高岡 富山
訓異 うぐひすの;うくひすの, きなくやまぶき;きなくやまふき, うたがたも;うたかたも, きみがてふれず;きみかてふれす,
   
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題詞 更贈歌一首[并短歌] / 含弘之徳垂恩蓬体不貲之思報慰陋心 載荷<来眷>無堪所喩也 但以稚時不渉遊藝之庭 横翰之藻自乏<乎>彫蟲焉 幼年未逕山柿之門 裁歌之趣 詞失<乎>聚林矣 爰辱以藤續錦之言更題将石間瓊之詠 <固>是俗愚懐癖 不能黙已 仍捧數行式酬嗤咲其詞曰
題訓 三月の三日みかのひ、守大伴宿禰家持が更に贈れる歌一首、また短歌
含弘の徳、恩を蓬体に垂れ、不貲の思、陋心に報へ慰めしむ。来眷を載荷し、喩ふる所に堪ふること無し。但稚き時、遊藝の庭に渉らず、横翰の藻、自ら彫虫に乏し。幼年山柿の門に逕らず、裁歌の趣、詞を叢林に失ふ。爰に藤を以て錦に続ぐといふ言を辱かたじけなくす。更に石を将て瓊に同じくする詠を題しるす。固まことに俗愚懐癖、黙止すること能はず。仍かれ数行を捧げて、式て嗤咲に酬ふ。其の詞に曰く、
原文 於保吉民能 麻氣乃麻尓々々 之奈射加流 故之乎袁佐米尓 伊泥氐許之 麻須良和礼須良 余能奈可乃 都祢之奈家礼婆 宇知奈妣伎 登許尓己伊布之 伊多家苦乃 日異麻世婆 可奈之家口 許己尓思出 伊良奈家久 曽許尓念出 奈氣久蘇良 夜須<家>奈久尓 於母布蘇良 久流之伎母能乎 安之比紀能 夜麻伎敝奈里氐 多麻保許乃 美知能等保家<婆> 間使毛 遣縁毛奈美 於母保之吉 許等毛可欲波受 多麻伎波流 伊能知乎之家登 勢牟須辨能 多騰吉乎之良尓 隠居而 念奈氣加比 奈具佐牟流 許己呂波奈之尓 春花<乃> 佐家流左加里尓 於毛敷度知 多乎里可射佐受 波流乃野能 之氣美<登>妣久々 鴬 音太尓伎加受 乎登賣良我 春菜都麻須等 久礼奈為能 赤裳乃須蘇能 波流佐米尓 々保比々豆知弖 加欲敷良牟 時盛乎 伊多豆良尓 須具之夜里都礼 思努波勢流 君之心乎 宇流波之美 此夜須我浪尓 伊母祢受尓 今日毛之賣良尓 孤悲都追曽乎流
訓読 大君の 任けのまにまに しなざかる 越を治めに 出でて来し ますら我れすら 世間の 常しなければ うち靡き 床に臥い伏し 痛けくの 日に異に増せば 悲しけく ここに思ひ出 いらなけく そこに思ひ出 嘆くそら 安けなくに 思ふそら 苦しきものを あしひきの 山きへなりて 玉桙の 道の遠けば 間使も 遣るよしもなみ 思ほしき 言も通はず たまきはる 命惜しけど せむすべの たどきを知らに 隠り居て 思ひ嘆かひ 慰むる 心はなしに 春花の 咲ける盛りに 思ふどち 手折りかざさず 春の野の 茂み飛び潜く 鴬の 声だに聞かず 娘子らが 春菜摘ますと 紅の 赤裳の裾の 春雨に にほひひづちて 通ふらむ 時の盛りを いたづらに 過ぐし遣りつれ 偲はせる 君が心を うるはしみ この夜すがらに 寐も寝ずに 今日もしめらに 恋ひつつぞ居る
仮名 おほきみの まけのまにまに しなざかる こしををさめに いでてこし ますらわれすら よのなかの つねしなければ うちなびき とこにこいふし いたけくの ひにけにませば かなしけく ここにおもひで いらなけく そこにおもひで なげくそら やすけなくに おもふそら くるしきものを あしひきの やまきへなりて たまほこの みちのとほけば まつかひも やるよしもなみ おもほしき こともかよはず たまきはる いのちをしけど せむすべの たどきをしらに こもりゐて おもひなげかひ なぐさむる こころはなしに はるはなの さけるさかりに おもふどち たをりかざさず はるののの しげみとびくく うぐひすの こゑだにきかず をとめらが はるなつますと くれなゐの あかものすその はるさめに にほひひづちて かよふらむ ときのさかりを いたづらに すぐしやりつれ しのはせる きみがこころを うるはしみ このよすがらに いもねずに けふもしめらに こひつつぞをる
左注 (三月三日大伴宿祢家持)
校異 歌 [西] 謌 / 恩 [天](塙) 思 / 思 (塙) 恩 / 未春→来眷 [万葉集略解] / 于→乎 [元][紀][細] / 于→乎 [元][紀][細] / 因→固 [元] / 家久[西(右書)]→家 [元][紀] / 波→婆 [元] / 之→乃 [元][細] / 豆→登 [元][紀]
事項 天平19年3月3日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 書簡 枕詞 動物 恋情 悲嘆 高岡 富山
訓異 しなざかる;しなさかる, いでてこし;いててこし, つねしなければ;つねしなけれは, うちなびき;うちなひき, ひにけにませば;ひにけにませは, ここにおもひで;ここにおもひて, そこにおもひで;そこにおもひいて, なげくそら;なけくそら, みちのとほけば;みちのとほけは, こともかよはず;こともかよはす, いのちをしけど;いのちをしけと, せむすべの;せむすへの, たどきをしらに;たときをしらに, おもひなげかひ;おもひなけかひ, なぐさむる;なくさむる, おもふどち;おもふとち, たをりかざさず;たをりかささす, しげみとびくく;しけみとひくく, うぐひすの;うくひすの, こゑだにきかず;こゑたにきかす, をとめらが;をとめらか, はるなつますと;わかなくますと, にほひひづちて;にほひひつちて, いたづらに;いたつらに, すぐしやりつれ;すくしやりつれ, きみがこころを;きみかこころを, うるはしみ;むるはしみ, このよすがらに;このよすからに, いもねずに;いもねすに, こひつつぞをる;こひつつそをる,
   
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題詞 (更贈歌一首[并短歌] / 含弘之徳垂恩蓬体不貲之思報慰陋心 載荷<来眷>無堪所喩也 但以稚時不渉遊藝之庭 横翰之藻自乏<乎>彫蟲焉 幼年未逕山柿之門 裁歌之趣 詞失<乎>聚林矣 爰辱以藤續錦之言更題将石間瓊之詠 <固>是俗愚懐癖 不能黙已 仍捧數行式酬嗤咲其詞曰)
原文 安之比奇能 夜麻佐久良婆奈 比等目太尓 伎美等之見氐婆 安礼古<非>米夜母
訓読 あしひきの山桜花一目だに君とし見てば我れ恋ひめやも
仮名 あしひきの やまさくらばな ひとめだに きみとしみてば あれこひめやも
左注 (三月三日大伴宿祢家持)
校異 悲→非 [元][類][細]
事項 天平19年3月3日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 書簡 枕詞 植物 恋情 悲嘆 高岡 富山
訓異 やまさくらばな;やまさくらはな, ひとめだに;ひとめたに, きみとしみてば;きみとしみては,
   
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題詞 (更贈歌一首[并短歌] / 含弘之徳垂恩蓬体不貲之思報慰陋心 載荷<来眷>無堪所喩也 但以稚時不渉遊藝之庭 横翰之藻自乏<乎>彫蟲焉 幼年未逕山柿之門 裁歌之趣 詞失<乎>聚林矣 爰辱以藤續錦之言更題将石間瓊之詠 <固>是俗愚懐癖 不能黙已 仍捧數行式酬嗤咲其詞曰)
原文 夜麻扶枳能 之氣美<登>i久々 鴬能 許恵乎聞良牟 伎美波登母之毛
訓読 山吹の茂み飛び潜く鴬の声を聞くらむ君は羨しも
仮名 やまぶきの しげみとびくく うぐひすの こゑをきくらむ きみはともしも
左注 (三月三日大伴宿祢家持)
校異 等→登 [元][類][紀][細]
事項 天平19年3月3日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 書簡 枕詞 植物 動物 恋情 悲嘆 高岡 富山
訓異 やまぶきの;やまふきの, しげみとびくく;しけみとひくく, うぐひすの;うくひすの,
   
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題詞 (更贈歌一首[并短歌] / 含弘之徳垂恩蓬体不貲之思報慰陋心 載荷<来眷>無堪所喩也 但以稚時不渉遊藝之庭 横翰之藻自乏<乎>彫蟲焉 幼年未逕山柿之門 裁歌之趣 詞失<乎>聚林矣 爰辱以藤續錦之言更題将石間瓊之詠 <固>是俗愚懐癖 不能黙已 仍捧數行式酬嗤咲其詞曰)
原文 伊泥多々武 知加良乎奈美等 許母里為弖 伎弥尓故布流尓 許己呂度母奈思
訓読 出で立たむ力をなみと隠り居て君に恋ふるに心どもなし
仮名 いでたたむ ちからをなみと こもりゐて きみにこふるに こころどもなし
左注 三月三日大伴宿祢家持
左注訓 三月やよひの三日みかのひ、大伴宿禰家持。
校異 なし
事項 天平19年3月3日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 書簡 恋情 悲嘆 高岡 富山
訓異 いでたたむ;いてたたむ, こころどもなし;こころともなし,
   
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題詞 昨日述短懐今朝汗耳目 更承賜書且奉不次 死罪々々 不遺下賎頻恵 徳音 英<霊>星氣逸調過人 智水仁山既ヒ琳瑯之光彩 潘江陸海自坐詩書之廊廟 騁思非常託情有理 七歩成章數篇満紙 巧遣愁人之重患 能除戀者之積思 山柿歌泉比此如蔑 彫龍筆海粲然得看矣 方知僕之有幸也 敬和歌其詞云
題訓 掾大伴宿禰池主が報贈こたふる歌二首、また短歌
昨日短懐を述べ、今朝耳目を汗けがす。更に賜書を承り、且不次を奉る。死罪々々謹み言まをす。下賎を遺わすれず、頻に徳音を恵む。英雲星気、逸調人に過ぎたり。智水仁山、既に琳瑯の光彩を韜つつみ、潘江陸海、自ら詩書の廊廟に坐す。思ひを非常に騁せ、情を有理に託つけ、七歩に章を成し、数篇紙に満つ。巧に愁人の重患を遣り、能く恋者の積思を除く。山柿の歌泉、此に比ぶるに蔑なきが如し。彫龍の筆海、粲然として看ることを得。方に僕の幸有ることを知りぬ。敬みて和ふる歌、其の詞に云く、
原文 憶保枳美能 弥許等可之古美 安之比奇能 夜麻野佐<波>良受 安麻射可流 比奈毛乎佐牟流 麻須良袁夜 奈邇可母能毛布 安乎尓余之 奈良治伎可欲布 多麻豆佐能 都可比多要米也 己母理古非 伊枳豆伎和多利 之多毛比<尓> 奈氣可布和賀勢 伊尓之敝由 伊比都藝久良之 餘乃奈加波 可受奈枳毛能曽 奈具佐牟流 己等母安良牟等 佐刀i等能 安礼邇都具良久 夜麻備尓波 佐久良婆奈知利 可保等利能 麻奈久之婆奈久 春野尓 須美礼乎都牟<等> 之路多倍乃 蘇泥乎利可敝之 久礼奈為能 安可毛須蘇妣伎 乎登賣良<波> 於毛比美太礼弖 伎美麻都等 宇良呉悲須奈理 己許呂具志 伊謝美尓由加奈 許等波多奈由比
訓読 大君の 命畏み あしひきの 山野さはらず 天離る 鄙も治むる 大夫や なにか物思ふ あをによし 奈良道来通ふ 玉梓の 使絶えめや 隠り恋ひ 息づきわたり 下思に 嘆かふ我が背 いにしへゆ 言ひ継ぎくらし 世間は 数なきものぞ 慰むる こともあらむと 里人の 我れに告ぐらく 山びには 桜花散り 貌鳥の 間なくしば鳴く 春の野に すみれを摘むと 白栲の 袖折り返し 紅の 赤裳裾引き 娘子らは 思ひ乱れて 君待つと うら恋すなり 心ぐし いざ見に行かな ことはたなゆひ
仮名 おほきみの みことかしこみ あしひきの やまのさはらず あまざかる ひなもをさむる ますらをや なにかものもふ あをによし ならぢきかよふ たまづさの つかひたえめや こもりこひ いきづきわたり したもひに なげかふわがせ いにしへゆ いひつぎくらし よのなかは かずなきものぞ なぐさむる こともあらむと さとびとの あれにつぐらく やまびには さくらばなちり かほどりの まなくしばなく はるののに すみれをつむと しろたへの そでをりかへし くれなゐの あかもすそびき をとめらは おもひみだれて きみまつと うらごひすなり こころぐし いざみにゆかな ことはたなゆひ
左注 (三月五日大伴宿祢池主)
校異 三日遊覧 [元] 遊覧 / 遏→過 [元] / 含之→含 [元][紀][細] / 瀘→攄 [元][紀][細] / 雲→霊 [元] / 婆→波 [元] / 余→尓 [万葉考] / 等 [西(上書訂正)][元][紀][細] / 婆→波 [元][紀][細]
事項 天平19年3月5日 年紀 作者:大伴池主 贈答 枕詞 高岡 富山 遊覧 大伴家持 書簡
訓異 やまのさはらず;やまのはさらす, あまざかる;あまさかる, ならぢきかよふ;ならちきかよふ, たまづさの;たまつさの, いきづきわたり;いきつきわたり, したもひに;したもひよ, なげかふわがせ;なけかふわかせ, いひつぎくらし;いひつきくらし, かずなきものぞ;かすなきものか, なぐさむる;なくさむる, さとびとの;さとひとの, あれにつぐらく;あれにつくらく, やまびには;やまひには, さくらばなちり;さくらはなちり, かほどりの;かほとりの, まなくしばなく;まなくしはなく, そでをりかへし;そてをりかへし, あかもすそびき;あかもすそひき, おもひみだれて;おもひみたれて, うらごひすなり;うらこひすなり, こころぐし;こころくし, いざみにゆかな;いさみにゆかな,
   
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題詞 (昨日述短懐今朝汗耳目 更承賜書且奉不次 死罪々々 不遺下賎頻恵 徳音 英<霊>星氣逸調過人 智水仁山既ヒ琳瑯之光彩 潘江陸海自坐詩書之廊廟 騁思非常託情有理 七歩成章數篇満紙 巧遣愁人之重患 能除戀者之積思 山柿歌泉比此如蔑 彫龍筆海粲然得看矣 方知僕之有幸也 敬和歌其詞云)
原文 夜麻夫枳波 比尓々々佐伎奴 宇流波之等 安我毛布伎美波 思久々々於毛保由
訓読 山吹は日に日に咲きぬうるはしと我が思ふ君はしくしく思ほゆ
仮名 やまぶきは ひにひにさきぬ うるはしと あがもふきみは しくしくおもほゆ
左注 (三月五日大伴宿祢池主)
校異 なし
事項 天平19年3月5日 年紀 作者:大伴池主 贈答 大伴家持 恋情 遊覧 書簡 高岡 富山
訓異 やまぶきは;やまふきは, あがもふきみは;あかもふきみは,
   
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題詞 (昨日述短懐今朝汗耳目 更承賜書且奉不次 死罪々々 不遺下賎頻恵 徳音 英<霊>星氣逸調過人 智水仁山既ヒ琳瑯之光彩 潘江陸海自坐詩書之廊廟 騁思非常託情有理 七歩成章數篇満紙 巧遣愁人之重患 能除戀者之積思 山柿歌泉比此如蔑 彫龍筆海粲然得看矣 方知僕之有幸也 敬和歌其詞云)
原文 和賀勢故邇 古非須敝奈賀利 安之可伎能 保可尓奈氣加布 安礼之可奈思母
訓読 我が背子に恋ひすべながり葦垣の外に嘆かふ我れし悲しも
仮名 わがせこに こひすべながり あしかきの ほかになげかふ あれしかなしも
左注 三月五日大伴宿祢池主
左注訓 三月の五日、大伴宿禰池主。
校異 なし
事項 天平19年3月5日 年紀 作者:大伴池主 贈答 大伴家持 恋情 遊覧 書簡 高岡 富山
訓異 わがせこに;わかせこに, こひすべながり;こひすへなかり, ほかになげかふ;ほかにかけかふ,
   
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題詞 短歌<二首>
題訓 短歌二首
原文 佐家理等母 之良受之安良婆 母太毛安良牟 己能夜万夫吉乎 美勢追都母等奈
訓読 咲けりとも知らずしあらば黙もあらむこの山吹を見せつつもとな
仮名 さけりとも しらずしあらば もだもあらむ このやまぶきを みせつつもとな
左注 (三月五日大伴宿祢家持臥病作之)
校異 惟下僕 [元] 走 / 之→走 [元][紀][細] / 抄→杪 [万葉集新考] / 粛→嘯 [元][紀][細] / <>→二首 [元][細][温]
事項 天平19年3月5日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 書簡 病気 怨恨 憧憬 恋情 高岡 富山
訓異 しらずしあらば;しらすしあらは, もだもあらむ;もたもあらむ, このやまぶきを;このやまふきを,
   
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題詞 (短歌<二首>)
原文 安之可伎能 保加尓母伎美我 余里多々志 孤悲家礼許<曽>婆 伊米尓見要家礼
訓読 葦垣の外にも君が寄り立たし恋ひけれこそば夢に見えけれ
仮名 あしかきの ほかにもきみが よりたたし こひけれこそば いめにみえけれ
左注 三月五日大伴宿祢家持臥病作之
左注訓 三月の五日、大伴宿禰家持が病み臥こやりてよめる。
校異 古→曽 [西(訂正左書)][元][類][紀]
事項 天平19年3月5日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 病気 恋情 高岡 富山 書簡
訓異 ほかにもきみが;ほかにもきみか, こひけれこそば;こひけれこそは,
   
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題詞 述戀緒歌一首[并短歌]
題訓 恋の緒こころを述ぶる歌一首、また短歌
原文 妹毛吾毛 許己呂波於夜自 多具敝礼登 伊夜奈都可之久 相見<婆> 登許波都波奈尓 情具之 眼具之毛奈之尓 波思家夜之 安我於久豆麻 大王能 美許登加之古美 阿之比奇能 夜麻古要奴由伎 安麻射加流 比奈乎左米尓等 別来之 曽乃日乃伎波美 荒璞能 登之由吉我敝利 春花<乃> 宇都呂布麻泥尓 相見祢婆 伊多母須敝奈美 之伎多倍能 蘇泥可敝之都追 宿夜於知受 伊米尓波見礼登 宇都追尓之 多太尓安良祢婆 孤悲之家口 知敝尓都母里奴 近<在>者 加敝利尓太仁母 宇知由吉氐 妹我多麻久良 佐之加倍氐 祢天蒙許万思乎 多麻保己乃 路波之騰保久 關左閇尓 敝奈里氐安礼許曽 与思恵夜之 餘志播安良武曽 霍公鳥 来鳴牟都奇尓 伊都之加母 波夜久奈里那牟 宇乃花能 尓保敝流山乎 余曽能未母 布里佐氣見都追 淡海路尓 伊由伎能里多知 青丹吉 奈良乃吾家尓 奴要鳥能 宇良奈氣之都追 思多戀尓 於毛比宇良夫礼 可度尓多知 由布氣刀比都追 吾乎麻都等 奈須良牟妹乎 安比氐早見牟
訓読 妹も我れも 心は同じ たぐへれど いやなつかしく 相見れば 常初花に 心ぐし めぐしもなしに はしけやし 我が奥妻 大君の 命畏み あしひきの 山越え野行き 天離る 鄙治めにと 別れ来し その日の極み あらたまの 年行き返り 春花の うつろふまでに 相見ねば いたもすべなみ 敷栲の 袖返しつつ 寝る夜おちず 夢には見れど うつつにし 直にあらねば 恋しけく 千重に積もりぬ 近くあらば 帰りにだにも うち行きて 妹が手枕 さし交へて 寝ても来ましを 玉桙の 道はし遠く 関さへに へなりてあれこそ よしゑやし よしはあらむぞ 霍公鳥 来鳴かむ月に いつしかも 早くなりなむ 卯の花の にほへる山を よそのみも 振り放け見つつ 近江道に い行き乗り立ち あをによし 奈良の我家に ぬえ鳥の うら泣けしつつ 下恋に 思ひうらぶれ 門に立ち 夕占問ひつつ 我を待つと 寝すらむ妹を 逢ひてはや見む
仮名 いももあれも こころはおやじ たぐへれど いやなつかしく あひみれば とこはつはなに こころぐし めぐしもなしに はしけやし あがおくづま おほきみの みことかしこみ あしひきの やまこえぬゆき あまざかる ひなをさめにと わかれこし そのひのきはみ あらたまの としゆきがへり はるはなの うつろふまでに あひみねば いたもすべなみ しきたへの そでかへしつつ ぬるよおちず いめにはみれど うつつにし ただにあらねば こひしけく ちへにつもりぬ ちかくあらば かへりにだにも うちゆきて いもがたまくら さしかへて ねてもこましを たまほこの みちはしとほく せきさへに へなりてあれこそ よしゑやし よしはあらむぞ ほととぎす きなかむつきに いつしかも はやくなりなむ うのはなの にほへるやまを よそのみも ふりさけみつつ あふみぢに いゆきのりたち あをによし ならのわぎへに ぬえどりの うらなけしつつ したごひに おもひうらぶれ かどにたち ゆふけとひつつ わをまつと なすらむいもを あひてはやみむ
左注 (右三月廿日夜裏忽兮起戀情作 大伴宿祢家持)
校異 波→婆 [元][類][紀][細] / 之→乃 [元][類][細] / 有→在 [元][類][紀]
事項 天平19年3月20日 年紀 作者:大伴家持 望郷 恋情 悲別 動物 枕詞 高岡 富山 孤独
訓異 いももあれも;いももわれも, こころはおやじ;こころはおやし, たぐへれど;たくへれと, あひみれば;あひみれは, こころぐし;こころくし, めぐしもなしに;めくしもなしに, あがおくづま;あかをくつま, やまこえぬゆき;やまこえのゆき, あまざかる;あまさかる, としゆきがへり;としゆきかへり, うつろふまでに;うつろふまてに, あひみねば;あひみねは, いたもすべなみ;いともすへなみ, そでかへしつつ;そてかへしつつ, ぬるよおちず;ぬるよおちす, いめにはみれど;いめにはみれと, ただにあらねば;たたにあらねは, ちかくあらば;ちかくあらは, かへりにだにも;かへりにたにも, いもがたまくら;いもかたまくら, よしはあらむぞ;よしはあらむそ, ほととぎす;ほとときす, あふみぢに;あうみちに, いゆきのりたち;いゆきのりたて, ならのわぎへに;ならのわきへに, ぬえどりの;ぬえとりの, したごひに;したこひに, おもひうらぶれ;をもひうらふれ, かどにたち;かとにたち, わをまつと;われらまつと,
   
  17/3979
題詞 (述戀緒歌一首[并短歌])
原文 安良多麻<乃> 登之可敝流麻泥 安比見祢婆 許己呂毛之努尓 於母保由流香聞
訓読 あらたまの年返るまで相見ねば心もしのに思ほゆるかも
仮名 あらたまの としかへるまで あひみねば こころもしのに おもほゆるかも
左注 (右三月廿日夜裏忽兮起戀情作 大伴宿祢家持)
校異 之→乃 [元][細]
事項 天平19年3月20日 年紀 作者:大伴家持 望郷 恋情 悲別 枕詞 高岡 富山
訓異 としかへるまで;としかへるまて, あひみねば;あひみねは,
   
  17/3980
題詞 (述戀緒歌一首[并短歌])
原文 奴婆多麻乃 伊米尓<波>母等奈 安比見礼騰 多太尓安良祢婆 孤悲夜麻受家里
訓読 ぬばたまの夢にはもとな相見れど直にあらねば恋ひやまずけり
仮名 ぬばたまの いめにはもとな あひみれど ただにあらねば こひやまずけり
左注 (右三月廿日夜裏忽兮起戀情作 大伴宿祢家持)
校異 婆→波 [元][紀][細]
事項 天平19年3月20日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 望郷 恋情 悲別 高岡 富山
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, あひみれど;あひみれと, ただにあらねば;たたにあらねは, こひやまずけり;こひやますけり,
   
  17/3981
題詞 (述戀緒歌一首[并短歌])
原文 安之比奇能 夜麻伎敝奈里氐 等保家騰母 許己呂之遊氣婆 伊米尓美要家里
訓読 あしひきの山きへなりて遠けども心し行けば夢に見えけり
仮名 あしひきの やまきへなりて とほけども こころしゆけば いめにみえけり
左注 (右三月廿日夜裏忽兮起戀情作 大伴宿祢家持)
校異 なし
事項 天平19年3月20日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 望郷 恋情 悲別 高岡 富山
訓異 とほけども;とほけとも, こころしゆけば;こころしゆけは,
   
  17/3982
題詞 (述戀緒歌一首[并短歌])
原文 春花能 宇都路布麻泥尓 相見祢<婆> 月日餘美都追 伊母麻都良牟曽
訓読 春花のうつろふまでに相見ねば月日数みつつ妹待つらむぞ
仮名 はるはなの うつろふまでに あひみねば つきひよみつつ いもまつらむぞ
左注 右三月廿日夜裏忽兮起戀情作 大伴宿祢家持
左注訓 右、三月の二十日はつかの夜裏よ、忽ち恋の情こころを起してよめる。
大伴宿禰家持。
校異 波→婆 [類][紀][細] / 廿 [元] 廿五
事項 天平19年3月20日 年紀 作者:大伴家持 望郷 恋情 悲別 高岡 富山
訓異 うつろふまでに;うつろふまてに, あひみねば;あひみねは, いもまつらむぞ;いもまつらむそ,
   
  17/3983
題詞 立夏四月既經累日而由未聞霍公鳥喧因作恨歌二首
題訓 立夏四月うつきたち、既はやく累日ひかずを経て、由ほ霍公鳥の喧こゑを聞かず。因れ恨みてよめる歌二首
原文 安思比奇能 夜麻毛知可吉乎 保登等藝須 都奇多都麻泥尓 奈仁加吉奈可奴
訓読 あしひきの山も近きを霍公鳥月立つまでに何か来鳴かぬ
仮名 あしひきの やまもちかきを ほととぎす つきたつまでに なにかきなかぬ
左注 (霍公鳥者立夏之日来鳴必定 又越中風土希有橙橘也 因此大伴宿祢家持感發於懐聊於裁此歌 [三月廿九日])
校異 歌 [西] 謌
事項 天平19年3月29日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 動物 怨恨 高岡 富山
訓異 ほととぎす;ほとときす, つきたつまでに;つきたつまてに,
   
  17/3984
題詞 (立夏四月既經累日而由未聞霍公鳥喧因作恨歌二首)
原文 多麻尓奴久 波奈多知<婆>奈乎 等毛之美思 己能和我佐刀尓 伎奈可受安流良之
訓読 玉に貫く花橘をともしみしこの我が里に来鳴かずあるらし
仮名 たまにぬく はなたちばなを ともしみし このわがさとに きなかずあるらし
左注 霍公鳥者立夏之日来鳴必定 又越中風土希有橙橘也 因此大伴宿祢家持感發於懐聊於裁此歌 [三月廿九日]
左注訓 霍公鳥は立夏うつきたつ日、必ず来鳴きぬ。又越中こしのみちのなかの 風土くにざま、橙橘たちばな希なり。此に因りて大伴宿禰家持が懐 を感発かまけて、此歌を裁よめり。三月二十九日。
校異 波→婆 [類][紀][細]
事項 天平19年3月29日 年紀 作者:大伴家持 植物 怨恨 高岡 富山
訓異 はなたちばなを;はなたちはなを, このわがさとに;このわかさとに, きなかずあるらし;きなかすあるらし,
   
  17/3985
題詞 二上山賦一首 [此山者有射水郡也]
題訓 二上ふたがみ山の賦うた一首 此山ハ射水郡ニ在リ
原文 伊美都河泊 伊由伎米具礼流 多麻久之氣 布多我美山者 波流波奈乃 佐家流左加利尓 安吉<能>葉乃 尓保敝流等伎尓 出立氐 布里佐氣見礼婆 可牟加良夜 曽許婆多敷刀伎 夜麻可良夜 見我保之加良武 須賣可未能 須蘇未乃夜麻能 之夫多尓能 佐吉乃安里蘇尓 阿佐奈藝尓 餘須流之良奈美 由敷奈藝尓 美知久流之保能 伊夜麻之尓 多由流許登奈久 伊尓之敝由 伊麻乃乎都豆尓 可久之許曽 見流比登其等尓 加氣氐之努波米
訓読 射水川 い行き廻れる 玉櫛笥 二上山は 春花の 咲ける盛りに 秋の葉の にほへる時に 出で立ちて 振り放け見れば 神からや そこば貴き 山からや 見が欲しからむ 統め神の 裾廻の山の 渋谿の 崎の荒礒に 朝なぎに 寄する白波 夕なぎに 満ち来る潮の いや増しに 絶ゆることなく いにしへゆ 今のをつつに かくしこそ 見る人ごとに 懸けて偲はめ
仮名 いみづがは いゆきめぐれる たまくしげ ふたがみやまは はるはなの さけるさかりに あきのはの にほへるときに いでたちて ふりさけみれば かむからや そこばたふとき やまからや みがほしからむ すめかみの すそみのやまの しぶたにの さきのありそに あさなぎに よするしらなみ ゆふなぎに みちくるしほの いやましに たゆることなく いにしへゆ いまのをつつに かくしこそ みるひとごとに かけてしのはめ
左注 (右三月卅日依興作之 大伴宿祢家持)
校異 泊 [元] 伯 / 乃→能 [元][類]
事項 天平19年3月30日 年紀 作者:大伴家持 地名 高岡 富山 山讃美 寿歌 枕詞 依興 儀礼歌 土地讃美
訓異 いみづがは;いみつかは, いゆきめぐれる;いゆきめくれる, たまくしげ;たまくしけ, ふたがみやまは;ふたかみやまは, いでたちて;いてたちて, ふりさけみれば;ふりさけみれは, そこばたふとき;そこはたふとき, みがほしからむ;みかほしからむ, しぶたにの;しふたにの, あさなぎに;あさなきに, ゆふなぎに;ゆふなきに, みるひとごとに;みるひとことに,
   
  17/3986
題詞 (二上山賦一首 [此山者有射水郡也])
原文 之夫多尓能 佐伎能安里蘇尓 与須流奈美 伊夜思久思久尓 伊尓之敝於母保由
訓読 渋谿の崎の荒礒に寄する波いやしくしくにいにしへ思ほゆ
仮名 しぶたにの さきのありそに よするなみ いやしくしくに いにしへおもほゆ
左注 (右三月卅日依興作之 大伴宿祢家持)
校異 なし
事項 天平19年3月30日 年紀 作者:大伴家持 地名 高岡 富山 序詞 寿歌 儀礼歌 土地讃美 依興
訓異 しぶたにの;しふたにの,
   
  17/3987
題詞 (二上山賦一首 [此山者有射水郡也])
原文 多麻久之氣 敷多我美也麻尓 鳴鳥能 許恵乃孤悲思吉 登岐波伎尓家里
訓読 玉櫛笥二上山に鳴く鳥の声の恋しき時は来にけり
仮名 たまくしげ ふたがみやまに なくとりの こゑのこひしき ときはきにけり
左注 右三月卅日依興作之 大伴宿祢家持
左注訓 右、三月の三十日つごもりのひ、興ことに依つけてよめる。大伴宿禰家持。
校異 なし
事項 天平19年3月30日 年紀 作者:大伴家持 土地讃美 枕詞 地名 高岡 富山 寿歌 儀礼歌
訓異 たまくしげ;たまくしけ, ふたがみやまに;ふたかみやまに,
   
  17/3988
題詞 四月十六日夜裏遥聞霍公鳥喧述懐歌一首
題訓 四月の十六日とをかまりむかのひの夜裏よ、遥かに霍公鳥の喧こゑを聞きて懐おもひを述ぶる歌一首
原文 奴婆多麻<乃> 都奇尓牟加比氐 保登等藝須 奈久於登波流氣之 佐刀騰保美可聞
訓読 ぬばたまの月に向ひて霍公鳥鳴く音遥けし里遠みかも
仮名 ぬばたまの つきにむかひて ほととぎす なくおとはるけし さとどほみかも
左注 右大伴宿祢家持作之
左注訓 右、大伴宿禰家持がよめる。
校異 能→乃 [元][類] / 右 [元] 右一首
事項 天平19年4月16日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 動物 叙景
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, ほととぎす;ほとときす, さとどほみかも;さととほみかも,
   
  17/3989
題詞 大目秦忌寸八千嶋之舘餞守大伴宿祢家持宴歌二首
題訓 大目おほきふみひと秦忌寸八千島の館にて、守大伴宿禰家持を餞うまのはなむけする宴の歌二首
原文 奈呉能宇美能 意吉都之良奈美 志苦思苦尓 於毛保要武可母 多知和可礼奈<婆>
訓読 奈呉の海の沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば
仮名 なごのうみの おきつしらなみ しくしくに おもほえむかも たちわかれなば
左注 (右守大伴宿祢家持以正税帳須入京師 仍作此歌聊陳送別之嘆 [四月廿日])
校異 波→婆 [元]
事項 天平19年4月20日 年紀 作者:大伴家持 宴席 恋情 羈旅 出発 悲別 地名 富山 高岡 序詞 秦八千島
訓異 なごのうみの;なこのうみの, たちわかれなば;たちわかれなは,
   
  17/3990
題詞 (大目秦忌寸八千嶋之舘餞守大伴宿祢家持宴歌二首)
原文 和<我>勢故波 多麻尓母我毛奈 手尓麻伎氐 見都追由可牟乎 於吉氐伊加婆乎思
訓読 我が背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜し
仮名 わがせこは たまにもがもな てにまきて みつつゆかむを おきていかばをし
左注 右守大伴宿祢家持以正税帳須入京師 仍作此歌聊陳送別之嘆 [四月廿日]
左注訓 右、守大伴宿禰家持が正税帳を以ちて京師みやこに入まゐらむとす。  仍かれ此歌をよみて、相別わかれの嘆を陳ぶ。四月二十日。
校異 加→我 [元][類] / 歌 [西] 謌
事項 天平19年4月20日 年紀 作者:大伴家持 宴席 恋情 羈旅 出発 悲別 富山 高岡 秦八千島
訓異 わがせこは;わかせこは, たまにもがもな;たまにもかもな, おきていかばをし;おきていかはをし,
   
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題詞 遊覧布勢水海賦一首[并短歌] [此海者有射水郡舊江村也]
題訓 布勢水海ふせのみづうみに遊覧あそべる賦うた一首、また短歌 此海ハ射水郡ノ舊江村ニ在リ
原文 物能乃敷能 夜蘇等母乃乎能 於毛布度知 許己呂也良武等 宇麻奈米氐 宇知久知夫利乃 之良奈美能 安里蘇尓与須流 之夫多尓能 佐吉多母登保理 麻都太要能 奈我波麻須義氐 宇奈比河波 伎欲吉勢其等尓 宇加波多知 可由吉加久遊岐 見都礼騰母 曽許母安加尓等 布勢能宇弥尓 布祢宇氣須恵氐 於伎敝許藝 邊尓己伎見礼婆 奈藝左尓波 安遅牟良佐和伎 之麻<未>尓波 許奴礼波奈左吉 許己婆久毛 見乃佐夜氣吉加 多麻久之氣 布多我弥夜麻尓 波布都多能 由伎波和可礼受 安里我欲比 伊夜登之能波尓 於母布度知 可久思安蘇婆牟 異麻母見流其等
訓読 もののふの 八十伴の男の 思ふどち 心遣らむと 馬並めて うちくちぶりの 白波の 荒礒に寄する 渋谿の 崎た廻り 松田江の 長浜過ぎて 宇奈比川 清き瀬ごとに 鵜川立ち か行きかく行き 見つれども そこも飽かにと 布勢の海に 舟浮け据ゑて 沖辺漕ぎ 辺に漕ぎ見れば 渚には あぢ群騒き 島廻には 木末花咲き ここばくも 見のさやけきか 玉櫛笥 二上山に 延ふ蔦の 行きは別れず あり通ひ いや年のはに 思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと
仮名 もののふの やそとものをの おもふどち こころやらむと うまなめて うちくちぶりの しらなみの ありそによする しぶたにの さきたもとほり まつだえの ながはますぎて うなひがは きよきせごとに うかはたち かゆきかくゆき みつれども そこもあかにと ふせのうみに ふねうけすゑて おきへこぎ へにこぎみれば なぎさには あぢむらさわき しまみには こぬれはなさき ここばくも みのさやけきか たまくしげ ふたがみやまに はふつたの ゆきはわかれず ありがよひ いやとしのはに おもふどち かくしあそばむ いまもみるごと
左注 右守大伴宿祢家持作之 [四月廿四日]
左注訓
校異 末→未 [類]
事項 天平19年4月24日 年紀 作者:大伴家持 遊覧 土地讃美 地名 氷見 富山 枕詞 道行翮 高岡 寿歌
訓異 おもふどち;おもふとち, うちくちぶりの;うちこちふりの, しぶたにの;しふたにの, まつだえの;まつたえの, ながはますぎて;なかはますきて, うなひがは;うなひかは, きよきせごとに;きよきせことに, みつれども;みつれとも, おきへこぎ;おきへこき, へにこぎみれば;へにこきみれは, なぎさには;なきさには, あぢむらさわき;あちむらさわき, しまみには;しままには, ここばくも;ここはくも, たまくしげ;たまくしけ, ふたがみやまに;ふたかみやまに, ゆきはわかれず;ゆきはわかれす, ありがよひ;ありかよひ, おもふどち;おもふとち, かくしあそばむ;かくしあそはむ, いまもみるごと;いまもみること,
   
  17/3992
題詞 (遊覧布勢水海賦一首[并短歌] [此海者有射水郡舊江村也])
原文 布勢能宇美能 意枳都之良奈美 安利我欲比 伊夜登偲能波尓 見都追思<努>播牟
訓読 布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年のはに見つつ偲はむ
仮名 ふせのうみの おきつしらなみ ありがよひ いやとしのはに みつつしのはむ
左注 右守大伴宿祢家持作之 [四月廿四日]
左注訓 右、守大伴宿禰家持がよめる。四月廿四日。
校異 奴→努 [類][紀][細]
事項 天平19年4月24日 年紀 作者:大伴家持 遊覧 土地讃美 地名 氷見 富山 寿歌
訓異 ありがよひ;ありかよひ,
   
  17/3993
題詞 敬和遊覧布勢水海賦一首并一絶
題訓 布勢水海に遊覧びたまへる賦うたに敬和こたへまをす一首うたひとつ、また一絶みじかうたひとつ
原文 布治奈美波 佐岐弖知理尓伎 宇能波奈波 伊麻曽佐可理等 安之比奇能 夜麻尓毛野尓毛 保登等藝須 奈伎之等与米婆 宇知奈妣久 許己呂毛之努尓 曽己乎之母 宇良胡非之美等 於毛布度知 宇麻宇知牟礼弖 多豆佐波理 伊泥多知美礼婆 伊美豆河泊 美奈刀能須登利 安佐奈藝尓 可多尓安佐里之 思保美弖婆 都麻欲<妣>可波須 等母之伎尓 美都追須疑由伎 之夫多尓能 安利蘇乃佐伎尓 於枳追奈美 余勢久流多麻母 可多与理尓 可都良尓都久理 伊毛我多米 氐尓麻吉母知弖 宇良具波之 布<勢>能美豆宇弥尓 阿麻夫祢尓 麻可治加伊奴吉 之路多倍能 蘇泥布<理>可邊之 阿登毛比弖 和賀己藝由氣婆 乎布能佐伎 <波>奈知利麻我比 奈伎佐尓波 阿之賀毛佐和伎 佐射礼奈美 多知弖毛為弖母 己藝米具利 美礼登母安可受 安伎佐良婆 毛美知能等伎尓 波流佐良婆 波奈能佐可利尓 可毛加久母 伎美我麻尓麻等 可久之許曽 美母安吉良米々 多由流比安良米也
訓読 藤波は 咲きて散りにき 卯の花は 今ぞ盛りと あしひきの 山にも野にも 霍公鳥 鳴きし響めば うち靡く 心もしのに そこをしも うら恋しみと 思ふどち 馬打ち群れて 携はり 出で立ち見れば 射水川 港の渚鳥 朝なぎに 潟にあさりし 潮満てば 夫呼び交す 羨しきに 見つつ過ぎ行き 渋谿の 荒礒の崎に 沖つ波 寄せ来る玉藻 片縒りに 蘰に作り 妹がため 手に巻き持ちて うらぐはし 布勢の水海に 海人船に ま楫掻い貫き 白栲の 袖振り返し あどもひて 我が漕ぎ行けば 乎布の崎 花散りまがひ 渚には 葦鴨騒き さざれ波 立ちても居ても 漕ぎ廻り 見れども飽かず 秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに かもかくも 君がまにまと かくしこそ 見も明らめめ 絶ゆる日あらめや
仮名 ふぢなみは さきてちりにき うのはなは いまぞさかりと あしひきの やまにものにも ほととぎす なきしとよめば うちなびく こころもしのに そこをしも うらごひしみと おもふどち うまうちむれて たづさはり いでたちみれば いみづがは みなとのすどり あさなぎに かたにあさりし しほみてば つまよびかはす ともしきに みつつすぎゆき しぶたにの ありそのさきに おきつなみ よせくるたまも かたよりに かづらにつくり いもがため てにまきもちて うらぐはし ふせのみづうみに あまぶねに まかぢかいぬき しろたへの そでふりかへし あどもひて わがこぎゆけば をふのさき はなちりまがひ なぎさには あしがもさわき さざれなみ たちてもゐても こぎめぐり みれどもあかず あきさらば もみちのときに はるさらば はなのさかりに かもかくも きみがまにまと かくしこそ みもあきらめめ たゆるひあらめや
左注 右掾大伴宿祢池主作 [四月廿六日追和]
左注訓
校異 泊 [元] 伯 / 比→妣 [元][類] / 施→勢 [元][類][紀] / 里→理 [元][類] / 婆→波 [元][類][紀]
事項 天平19年4月26日 年紀 作者:大伴池主 追和 大伴家持 遊覧 枕詞 地名 氷見 高岡 寿歌 儀礼歌 土地讃美
訓異 ふぢなみは;ふちなみは, いまぞさかりと;いまそさかりと, ほととぎす;ほとときす, なきしとよめば;なきしとよめは, うちなびく;うちなひく, うらごひしみと;うらこひしみと, おもふどち;おもふとち, たづさはり;たつさはり, いでたちみれば;いてたちみれは, いみづがは;いみつかは, みなとのすどり;みなとのすとり, あさなぎに;あさなきに, しほみてば;しほみては, つまよびかはす;つまよひかはす, みつつすぎゆき;みつつすきゆき, しぶたにの;しふたにの, かづらにつくり;かつらにつくり, いもがため;いもかため, うらぐはし;うらくはし, ふせのみづうみに;ふせのみつうみに, あまぶねに;あまふねに, まかぢかいぬき;まかちかいぬき, そでふりかへし;そてふりかへし, あどもひて;あともひて, わがこぎゆけば;わかこきゆけは, はなちりまがひ;はなちりまかひ, なぎさには;なきさには, あしがもさわき;あしかもさわき, さざれなみ;さされなみ, こぎめぐり;こきめくり, みれどもあかず;みれともあかす, あきさらば;あきさらは, はるさらば;はるさらは, きみがまにまと;きみかまにまと,
   
  17/3994
題詞 (敬和遊覧布勢水海賦一首并一絶)
原文 之良奈美能 与世久流多麻毛 余能安比太母 都藝弖民仁許武 吉欲伎波麻備乎
訓読 白波の寄せ来る玉藻世の間も継ぎて見に来む清き浜びを
仮名 しらなみの よせくるたまも よのあひだも つぎてみにこむ きよきはまびを
左注 右掾大伴宿祢池主作 [四月廿六日追和]
左注訓 右、掾大伴宿禰池主がよめる。四月廿六日追和。
校異 なし
事項 天平19年4月26日 年紀 作者:大伴池主 追和 大伴家持 遊覧 枕詞 地名 氷見 高岡 寿歌 儀礼歌 植物 土地讃美
訓異 よのあひだも;よのあひたも, つぎてみにこむ;つきてみにこむ, きよきはまびを;きよきはまひを,
   
  17/3995
題詞 四月廿六日掾大伴宿祢池主之舘餞税帳使守大伴宿祢家持宴歌并古歌四首
題訓 四月の二十六日はつかまりむかのひ、掾大伴宿禰池主が館にて、税帳使守大伴宿禰家持を餞うまのはなむけする宴の歌、また古歌ふるうた四首
原文 多麻保許乃 美知尓伊泥多知 和可礼奈婆 見奴日佐麻祢美 孤悲思家武可母 [一云 不見日久弥 戀之家牟加母]
訓読 玉桙の道に出で立ち別れなば見ぬ日さまねみ恋しけむかも [一云 見ぬ日久しみ恋しけむかも]
仮名 たまほこの みちにいでたち わかれなば みぬひさまねみ こひしけむかも [みぬひひさしみ こひしけむかも]
左注 右一首大伴宿祢家持作之
左注訓 右の一首は、大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平19年4月26日 年紀 作者:大伴家持 宴席 餞別 羈旅 出発 大伴池主 恋情 悲別 枕詞 推敲 高岡 富山
訓異 みちにいでたち;みちにいてたち, わかれなば;わかれなみ,
   
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題詞 (四月廿六日掾大伴宿祢池主之舘餞税帳使守大伴宿祢家持宴歌并古歌四首)
原文 和我勢古我 久尓敝麻之奈婆 保等登藝須 奈可牟佐都奇波 佐夫之家牟可母
訓読 我が背子が国へましなば霍公鳥鳴かむ五月は寂しけむかも
仮名 わがせこが くにへましなば ほととぎす なかむさつきは さぶしけむかも
左注 右一首介内蔵忌寸縄麻呂作之
左注訓 右の一首は、介すけ内藏忌寸繩麿うちのくらのいみきなはまろがよめる。
校異 なし
事項 天平19年4月26日 年紀 作者:内蔵縄麻呂 動物 宴席 餞別 羈旅 出発 大伴家持 大伴池主 恋情 悲別 高岡 富山
訓異 わがせこが;わかせこか, くにへましなば;くにへましなは, ほととぎす;ほとときす, さぶしけむかも;さふしけむかも,
   
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題詞 (四月廿六日掾大伴宿祢池主之舘餞税帳使守大伴宿祢家持宴歌并古歌四首)
原文 安礼奈之等 奈和備和我勢故 保登等藝須 奈可牟佐都奇波 多麻乎奴香佐祢
訓読 我れなしとなわび我が背子霍公鳥鳴かむ五月は玉を貫かさね
仮名 あれなしと なわびわがせこ ほととぎす なかむさつきは たまをぬかさね
左注 右一首守大伴宿祢家持和
左注訓 右の一首は、守大伴宿禰家持が和こたふ。
校異 なし
事項 天平19年4月26日 年紀 作者:大伴家持 唱和 宴席 餞別 羈旅 出発 大伴池主 内蔵縄麻呂 動物 慰撫 高岡 富山
訓異 なわびわがせこ;なわひわかせこ, ほととぎす;ほとときす,
   
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題詞 石<川>朝臣水通橘歌一首
題訓 石川朝臣水通みとほしが橘の歌一首
原文 和我夜度能 花橘乎 波奈其米尓 多麻尓曽安我奴久 麻多婆苦流之美
訓読 我が宿の花橘を花ごめに玉にぞ我が貫く待たば苦しみ
仮名 わがやどの はなたちばなを はなごめに たまにぞあがぬく またばくるしみ
左注 右一首傳誦主人大伴宿祢池主云尓
左注訓 右の一首、伝へ誦むは主人あるじ大伴宿禰池主なりき。
校異 河→川 [元][類]
事項 天平19年4月26日 年紀 大伴池主 伝誦 古歌 石川水通 植物 宴席 餞別 出発 高岡 富山
訓異 わがやどの;わかやとの, はなたちばなを;はなたちはなを, はなごめに;はなこめに, たまにぞあがぬく;たまにそあかぬく, またばくるしみ;またはくるしみ,
   
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題詞 守大伴宿祢家持舘飲宴歌一首[四月廿六日]
題訓 守大伴宿禰家持が館にて飲宴さけのみするひの歌一首 四月二十六日
原文 美夜故敝尓 多都日知可豆久 安久麻弖尓 安比見而由可奈 故布流比於保家牟
訓読 都辺に立つ日近づく飽くまでに相見て行かな恋ふる日多けむ
仮名 みやこへに たつひちかづく あくまでに あひみてゆかな こふるひおほけむ
左注 なし
校異 なし
事項 天平19年4月26日 年紀 作者:大伴家持 羈旅 出発 餞別 宴席 恋情 富山 高岡
訓異 たつひちかづく;たつひちかつく, あくまでに;あくまてに,
   
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題詞 立山賦一首[并短歌] [此山者有新<川>郡也]
題訓 立山たちやまの賦うた一首、また短歌 此山ハ新河郡ニ在リ
原文 安麻射可流 比奈尓名可加須 古思能奈可 久奴知許登其等 夜麻波之母 之自尓安礼登毛 加波々之母 佐波尓由氣等毛 須賣加未能 宇之波伎伊麻須 尓比可波能 曽能多知夜麻尓 等許奈都尓 由伎布理之伎弖 於<婆>勢流 可多加比河波能 伎欲吉瀬尓 安佐欲比其等尓 多都奇利能 於毛比須疑米夜 安里我欲比 伊夜登之能播仁 余<増>能未母 布利佐氣見都々 余呂豆餘能 可多良比具佐等 伊末太見奴 比等尓母都氣牟 於登能未毛 名能未<母>伎吉氐 登母之夫流我祢
訓読 天離る 鄙に名懸かす 越の中 国内ことごと 山はしも しじにあれども 川はしも 多に行けども 統め神の 領きいます 新川の その立山に 常夏に 雪降り敷きて 帯ばせる 片貝川の 清き瀬に 朝夕ごとに 立つ霧の 思ひ過ぎめや あり通ひ いや年のはに よそのみも 振り放け見つつ 万代の 語らひぐさと いまだ見ぬ 人にも告げむ 音のみも 名のみも聞きて 羨しぶるがね
仮名 あまざかる ひなになかかす こしのなか くぬちことごと やまはしも しじにあれども かははしも さはにゆけども すめかみの うしはきいます にひかはの そのたちやまに とこなつに ゆきふりしきて おばせる かたかひがはの きよきせに あさよひごとに たつきりの おもひすぎめや ありがよひ いやとしのはに よそのみも ふりさけみつつ よろづよの かたらひぐさと いまだみぬ ひとにもつげむ おとのみも なのみもききて ともしぶるがね
左注 (四月廿七日大伴宿祢家持作之)
校異 歌 [西] 謌 / 山 [元][類][紀][温] 立山 / 河→川 [元][細][温] / 波→婆 [元][類][紀] / 曽→増 [元][細][温] / 毛→母 [元][類][細]
事項 天平19年4月27日 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 山讃美 寿歌 儀礼歌 序詞 枕詞 国見 土地讃美
訓異 あまざかる;あまさかる, くぬちことごと;くぬちことこと, しじにあれども;ししにあれとも, さはにゆけども;さはにゆけとも, おばせる;おはせる, かたかひがはの;かたかひかはの, あさよひごとに;あさよひことに, おもひすぎめや;おもひすきめや, ありがよひ;ありかよひ, よろづよの;よろつよの, かたらひぐさと;かたらひくさと, いまだみぬ;いまたみぬ, ひとにもつげむ;ひとにもつけむ, ともしぶるがね;ともしふるかね,
   
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題詞 (立山賦一首[并短歌] [此山者有新<川>郡也])
原文 多知夜麻尓 布里於家流由伎乎 登己奈都尓 見礼等母安可受 加武賀良奈良之
訓読 立山に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神からならし
仮名 たちやまに ふりおけるゆきを とこなつに みれどもあかず かむからならし
左注 (四月廿七日大伴宿祢家持作之)
校異 なし
事項 天平19年4月27日 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 山讃美 寿歌 儀礼歌 国見 土地讃美
訓異 みれどもあかず;みれともあかす,
   
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題詞 (立山賦一首[并短歌] [此山者有新<川>郡也])
原文 可多加比能 可波能瀬伎欲久 由久美豆能 多由流許登奈久 安里我欲比見牟
訓読 片貝の川の瀬清く行く水の絶ゆることなくあり通ひ見む
仮名 かたかひの かはのせきよく ゆくみづの たゆることなく ありがよひみむ
左注 四月廿七日大伴宿祢家持作之
左注訓 四月の二十七日、大伴宿禰家持がよめる。
校異 なし
事項 天平19年4月27日 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 山讃美 序詞 儀礼歌 寿歌 土地讃美
訓異 ゆくみづの;ゆくみつの, ありがよひみむ;ありかよひみむ,
   
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題詞 敬和立山賦一首并二絶
題訓 立山の賦に敬和こたへまをす一首うたひとつ、また二絶みじかうたふたつ
原文 阿佐比左之 曽我比尓見由流 可無奈我良 弥奈尓於婆勢流 之良久母能 知邊乎於之和氣 安麻曽々理 多可吉多知夜麻 布由奈都登 和久許等母奈久 之路多倍尓 遊吉波布里於吉弖 伊尓之邊遊 阿理吉仁家礼婆 許其志可毛 伊波能可牟佐備 多末伎波流 伊久代經尓家牟 多知氐為弖 見礼登毛安夜之 弥祢太可美 多尓乎布可美等 於知多藝都 吉欲伎可敷知尓 安佐左良受 綺利多知和多利 由布佐礼婆 久毛為多奈i吉 久毛為奈須 己許呂毛之努尓 多都奇理能 於毛比須具佐受 由久美豆乃 於等母佐夜氣久 与呂豆余尓 伊比都藝由可牟 加<波>之多要受波
訓読 朝日さし そがひに見ゆる 神ながら 御名に帯ばせる 白雲の 千重を押し別け 天そそり 高き立山 冬夏と 別くこともなく 白栲に 雪は降り置きて 古ゆ あり来にければ こごしかも 岩の神さび たまきはる 幾代経にけむ 立ちて居て 見れども異し 峰高み 谷を深みと 落ちたぎつ 清き河内に 朝さらず 霧立ちわたり 夕されば 雲居たなびき 雲居なす 心もしのに 立つ霧の 思ひ過ぐさず 行く水の 音もさやけく 万代に 言ひ継ぎゆかむ 川し絶えずは
仮名 あさひさし そがひにみゆる かむながら みなにおばせる しらくもの ちへをおしわけ あまそそり たかきたちやま ふゆなつと わくこともなく しろたへに ゆきはふりおきて いにしへゆ ありきにければ こごしかも いはのかむさび たまきはる いくよへにけむ たちてゐて みれどもあやし みねだかみ たにをふかみと おちたぎつ きよきかふちに あささらず きりたちわたり ゆふされば くもゐたなびき くもゐなす こころもしのに たつきりの おもひすぐさず ゆくみづの おともさやけく よろづよに いひつぎゆかむ かはしたえずは
左注 (右掾大伴宿祢池主和之 四月廿八日)
校異 婆→波 [元][類][紀]
事項 天平19年4月28日 年紀 作者:大伴池主 唱和 大伴家持 枕詞 土地讃美 地名 富山 山讃美 儀礼歌 寿歌 序詞
訓異 そがひにみゆる;そかひにみゆる, かむながら;かむなから, みなにおばせる;みなにおはせる, ありきにければ;ありきにけれは, こごしかも;ここしかも, いはのかむさび;いはのかむさひ, みれどもあやし;みれともあやし, みねだかみ;みねたかみ, おちたぎつ;おちたきつ, あささらず;あささらす, ゆふされば;ゆふされは, くもゐたなびき;くもゐたなひき, おもひすぐさず;おもひすくさす, ゆくみづの;ゆくみつの, よろづよに;よろつよに, いひつぎゆかむ;いひつきゆかむ, かはしたえずは;かはしたえすは,
   
  17/4004
題詞 (敬和立山賦一首并二絶)
原文 多知夜麻尓 布理於家流由伎能 等許奈都尓 氣受弖和多流波 可無奈我良等曽
訓読 立山に降り置ける雪の常夏に消ずてわたるは神ながらとぞ
仮名 たちやまに ふりおけるゆきの とこなつに けずてわたるは かむながらとぞ
左注 (右掾大伴宿祢池主和之 四月廿八日)
校異 なし
事項 天平19年4月28日 年紀 作者:大伴池主 唱和 大伴家持 土地讃美 地名 富山 山讃美 儀礼歌 寿歌
訓異 けずてわたるは;けすてわたるは, かむながらとぞ;かむなからとそ,
   
  17/4005
題詞 (敬和立山賦一首并二絶)
原文 於知多藝都 可多加比我波能 多延奴期等 伊麻見流比等母 夜麻受可欲波牟
訓読 落ちたぎつ片貝川の絶えぬごと今見る人もやまず通はむ
仮名 おちたぎつ かたかひがはの たえぬごと いまみるひとも やまずかよはむ
左注 右掾大伴宿祢池主和之 四月廿八日
左注訓 右、掾大伴宿禰池主が和ふ。四月廿八日。
校異 なし
事項 天平19年4月28日 年紀 作者:大伴池主 唱和 大伴家持 土地讃美 地名 富山 山讃美 儀礼歌 寿歌
訓異 おちたぎつ;おちたきつ, かたかひがはの;かたかひかはの, たえぬごと;たえぬこと, やまずかよはむ;やますかよはむ,
   
  17/4006
題詞 入京漸近悲情難撥述懐一首并一絶
題訓 京みやこに入まゐらむこと漸やや近く、悲しみの情こころ撥はらひ難くて、懐おもひを述ぶる歌一首、また一絶
原文 可伎加蘇布 敷多我美夜麻尓 可牟佐備弖 多氐流都我能奇 毛等母延毛 於夜自得伎波尓 波之伎与之 和我世乃伎美乎 安佐左良受 安比弖許登騰比 由布佐礼婆 手多豆佐波利弖 伊美豆河波 吉欲伎可布知尓 伊泥多知弖 和我多知弥礼婆 安由能加是 伊多久之布氣婆 美奈刀尓波 之良奈美多可弥 都麻欲夫等 須騰理波佐和久 安之可流等 安麻乃乎夫祢波 伊里延許具 加遅能於等多可之 曽己乎之毛 安夜尓登母志美 之努比都追 安蘇夫佐香理乎 須賣呂伎能 乎須久尓奈礼婆 美許登母知 多知和可礼奈婆 於久礼多流 吉民婆安礼騰母 多麻保許乃 美知由久和礼播 之良久毛能 多奈妣久夜麻乎 伊波祢布美 古要敝奈利奈<婆> 孤悲之家久 氣乃奈我家牟曽 則許母倍婆 許己呂志伊多思 保等登藝須 許恵尓安倍奴久 多麻尓母我 手尓麻吉毛知弖 安佐欲比尓 見都追由可牟乎 於伎弖伊加<婆>乎<思>
訓読 かき数ふ 二上山に 神さびて 立てる栂の木 本も枝も 同じときはに はしきよし 我が背の君を 朝去らず 逢ひて言どひ 夕されば 手携はりて 射水川 清き河内に 出で立ちて 我が立ち見れば 東風の風 いたくし吹けば 港には 白波高み 妻呼ぶと 渚鳥は騒く 葦刈ると 海人の小舟は 入江漕ぐ 楫の音高し そこをしも あやに羨しみ 偲ひつつ 遊ぶ盛りを 天皇の 食す国なれば 御言持ち 立ち別れなば 後れたる 君はあれども 玉桙の 道行く我れは 白雲の たなびく山を 岩根踏み 越えへなりなば 恋しけく 日の長けむぞ そこ思へば 心し痛し 霍公鳥 声にあへ貫く 玉にもが 手に巻き持ちて 朝夕に 見つつ行かむを 置きて行かば惜し
仮名 かきかぞふ ふたがみやまに かむさびて たてるつがのき もともえも おやじときはに はしきよし わがせのきみを あささらず あひてことどひ ゆふされば てたづさはりて いみづがは きよきかふちに いでたちて わがたちみれば あゆのかぜ いたくしふけば みなとには しらなみたかみ つまよぶと すどりはさわく あしかると あまのをぶねは いりえこぐ かぢのおとたかし そこをしも あやにともしみ しのひつつ あそぶさかりを すめろきの をすくになれば みこともち たちわかれなば おくれたる きみはあれども たまほこの みちゆくわれは しらくもの たなびくやまを いはねふみ こえへなりなば こひしけく けのながけむぞ そこもへば こころしいたし ほととぎす こゑにあへぬく たまにもが てにまきもちて あさよひに みつつゆかむを おきていかばをし
左注 (右大伴宿祢家持贈掾大伴宿祢池主 四月卅日)
校異 波→婆 [元][細] / 波→婆 [元][細][温] / 志→思 [元][細][温]
事項 天平19年4月30日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 地名 高岡 富山 植物 羈旅 出発 悲別 恋情
訓異 かきかぞふ;かきかそふ, ふたがみやまに;ふたかみやまに, かむさびて;かむさひて, たてるつがのき;たてるとかのち, おやじときはに;おやしときはに, わがせのきみを;わかせのきみを, あささらず;あささらす, あひてことどひ;あひてこととひ, ゆふされば;ゆふされは, てたづさはりて;てたつさはりて, いみづがは;いみつかは, いでたちて;いてたちて, わがたちみれば;わかたちみれは, あゆのかぜ;あゆのかせ, いたくしふけば;いたくしふけは, つまよぶと;つまよふと, すどりはさわく;すとりはさわく, あまのをぶねは;あまのをふねは, いりえこぐ;いりえこく, かぢのおとたかし;かちのおとたかし, あそぶさかりを;あそふさかりを, をすくになれば;をすくになれは, たちわかれなば;たちわかれなは, きみはあれども;きみはあれとも, たなびくやまを;たなひくやまを, こえへなりなば;こえへなりなは, けのながけむぞ;けのなかけむそ, そこもへば;そこもへは, ほととぎす;ほとときす, たまにもが;たまにもか, おきていかばをし;おきていかはをし,
   
  17/4007
題詞 (入京漸近悲情難撥述懐一首并一絶)
原文 和我勢故<波> 多麻尓母我毛奈 保登等伎須 許恵尓安倍奴吉 手尓麻伎弖由可牟
訓読 我が背子は玉にもがもな霍公鳥声にあへ貫き手に巻きて行かむ
仮名 わがせこは たまにもがもな ほととぎす こゑにあへぬき てにまきてゆかむ
左注 右大伴宿祢家持贈掾大伴宿祢池主 四月卅日
左注訓 右、大伴宿禰家持が掾大伴宿禰池主に贈る。四月卅日。
校異 婆→波 [元][類]
事項 天平19年4月30日 年紀 作者:大伴家持 贈答 大伴池主 羈旅 動物 出発 悲別 恋情 高岡 富山
訓異 わがせこは;わかせこは, たまにもがもな;たまにもかもな, ほととぎす;ほとときす,
   
  17/4008
題詞 忽見入京述懐之作生別悲<兮>断腸万廻怨緒難禁聊奉所心一首并二絶
題訓 忽に入京述懐の作を見て、生きながら別るる悲しみ、腸を断つこと万回。怨緒禁のぞき難し。聊か所心を奉まをす一首うたひとつ、また二絶みじかうたふたつ
原文 安遠邇与之 奈良乎伎波奈礼 阿麻射可流 比奈尓波安礼登 和賀勢故乎 見都追志乎礼婆 於毛比夜流 許等母安利之乎 於保伎美乃 美許等可之古美 乎須久尓能 許等登理毛知弖 和可久佐能 安由比多豆久利 無良等理能 安佐太知伊奈婆 於久礼多流 阿礼也可奈之伎 多妣尓由久 伎美可母孤悲無 於毛布蘇良 夜須久安良祢婆 奈氣可久乎 等騰米毛可祢氐 見和多勢婆 宇能婆奈夜麻乃 保等登藝須 <祢>能未之奈可由 安佐疑理能 美太流々許己呂 許登尓伊泥弖 伊<波><婆>由遊思美 刀奈美夜麻 多牟氣能可味尓 奴佐麻都里 安我許比能麻久 波之家夜之 吉美賀多太可乎 麻佐吉久毛 安里多母等保利 都奇多々婆 等伎毛可波佐受 奈泥之故我 波奈乃佐可里尓 阿比見之米等曽
訓読 あをによし 奈良を来離れ 天離る 鄙にはあれど 我が背子を 見つつし居れば 思ひ遣る こともありしを 大君の 命畏み 食す国の 事取り持ちて 若草の 足結ひ手作り 群鳥の 朝立ち去なば 後れたる 我れや悲しき 旅に行く 君かも恋ひむ 思ふそら 安くあらねば 嘆かくを 留めもかねて 見わたせば 卯の花山の 霍公鳥 音のみし泣かゆ 朝霧の 乱るる心 言に出でて 言はばゆゆしみ 砺波山 手向けの神に 幣奉り 我が祈ひ祷まく はしけやし 君が直香を ま幸くも ありた廻り 月立たば 時もかはさず なでしこが 花の盛りに 相見しめとぞ
仮名 あをによし ならをきはなれ あまざかる ひなにはあれど わがせこを みつつしをれば おもひやる こともありしを おほきみの みことかしこみ をすくにの こととりもちて わかくさの あゆひたづくり むらとりの あさだちいなば おくれたる あれやかなしき たびにゆく きみかもこひむ おもふそら やすくあらねば なげかくを とどめもかねて みわたせば うのはなやまの ほととぎす ねのみしなかゆ あさぎりの みだるるこころ ことにいでて いはばゆゆしみ となみやま たむけのかみに ぬさまつり あがこひのまく はしけやし きみがただかを まさきくも ありたもとほり つきたたば ときもかはさず なでしこが はなのさかりに あひみしめとぞ
左注 (右大伴宿祢池主報贈和歌 [五月二日])
校異 号→兮 [元] / 弥→祢 [元][紀][細] / 婆→波 [元][細][温] / 々→婆 [元][細][温]
事項 天平19年5月2日 年紀 作者:大伴池主 贈答 大伴家持 枕詞 植物 動物 地名 高岡 富山 砺波 恋情 悲別 羈旅 出発
訓異 あまざかる;あまさかる, ひなにはあれど;ひなにはあれと, わがせこを;わかせこを, みつつしをれば;みつつしをれは, あゆひたづくり;あゆひたつくり, あさだちいなば;あさたちいなは, たびにゆく;たひにゆく, やすくあらねば;やすくあらねは, なげかくを;なけかくを, とどめもかねて;ととめもかねて, みわたせば;みわたせは, ほととぎす;ほとときす, あさぎりの;あさきりの, みだるるこころ;みたるるこころ, ことにいでて;ことにいてて, いはばゆゆしみ;いははゆゆしみ, あがこひのまく;あかこひのまく, きみがただかを;きみかたたかを, つきたたば;つきたたは, ときもかはさず;ときもかはさす, なでしこが;なてしこか, あひみしめとぞ;あひみしめとそ,
   
  17/4009
題詞 (忽見入京述懐之作生別悲<兮>断腸万廻怨緒難禁聊奉所心一首并二絶)
原文 多麻保許<乃> 美知能可<未>多知 麻比波勢牟 安賀於毛布伎美乎 奈都可之美勢余
訓読 玉桙の道の神たち賄はせむ我が思ふ君をなつかしみせよ
仮名 たまほこの みちのかみたち まひはせむ あがおもふきみを なつかしみせよ
左注 (右大伴宿祢池主報贈和歌 [五月二日])
校異 能→乃 [元][類] / 味→未 [元][類][紀]
事項 天平19年5月2日 年紀 作者:大伴池主 贈答 大伴家持 枕詞 羈旅 出発 悲別 恋情 手向醎 無事 高岡 富山
訓異 あがおもふきみを;あかおもふきみを,
   
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題詞 (忽見入京述懐之作生別悲<兮>断腸万廻怨緒難禁聊奉所心一首并二絶)
原文 宇良故非之 和賀勢能伎美波 奈泥之故我 波奈尓毛我母奈 安佐奈々々見牟
訓読 うら恋し我が背の君はなでしこが花にもがもな朝な朝な見む
仮名 うらごひし わがせのきみは なでしこが はなにもがもな あさなさなみむ
左注 右大伴宿祢池主報贈和歌 [五月二日]
左注訓 右、大伴宿禰池主が報贈こたふる和歌うた。五月二日。
校異 歌 [西] 謌
事項 天平19年5月2日 年紀 作者:大伴池主 贈答 大伴家持 羈旅 出発 悲別 恋情 高岡 富山 植物
訓異 うらごひし;うらこひし, わがせのきみは;わかせのきみは, なでしこが;なてしこか, はなにもがもな;はなにもかもな,
   
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題詞 思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌]
題訓 放逸そらせる鷹を思しぬひ、夢いめに見て感悦よろこびよめる歌一首、また短歌
原文 大王乃 等保能美可度曽 美雪落 越登名尓於敝流 安麻射可流 比奈尓之安礼婆 山高美 河登保之呂思 野乎比呂美 久佐許曽之既吉 安由波之流 奈都能左<加>利等 之麻都等里 鵜養我登母波 由久加波乃 伎欲吉瀬其<等>尓 可賀里左之 奈豆左比能保流 露霜乃 安伎尓伊多礼<婆> 野毛佐波尓 等里須太家里等 麻須良乎能 登母伊射奈比弖 多加波之母 安麻多安礼等母 矢形尾乃 安我大黒尓 [大黒者蒼鷹之名也] 之良奴里<能> 鈴登里都氣弖 朝猟尓 伊保都登里多氐 暮猟尓 知登理布美多氐 於敷其等邇 由流須許等奈久 手放毛 乎知母可夜須伎 許礼乎於伎氐 麻多波安里我多之 左奈良敝流 多可波奈家牟等 情尓波 於毛比保許里弖 恵麻比都追 和多流安比太尓 多夫礼多流 之許都於吉奈乃 許等太尓母 吾尓波都氣受 等乃具母利 安米能布流日乎 等我理須等 名乃未乎能里弖 三嶋野乎 曽我比尓見都追 二上 山登妣古要氐 久母我久理 可氣理伊尓伎等 可敝理伎弖 之波夫礼都具礼 呼久餘思乃 曽許尓奈家礼婆 伊敷須敝能 多騰伎乎之良尓 心尓波 火佐倍毛要都追 於母比孤悲 伊<伎>豆吉安麻利 氣太之久毛 安布許等安里也等 安之比奇能 乎氐母許乃毛尓 等奈美波里 母利敝乎須恵氐 知波夜夫流 神社尓 氐流鏡 之都尓等里蘇倍 己比能美弖 安我麻都等吉尓 乎登賣良我 伊米尓都具良久 奈我古敷流 曽能保追多加波 麻追太要乃 波麻由伎具良之 都奈之等流 比美乃江過弖 多古能之麻 等<妣>多毛登保里 安之我母<乃> 須太久舊江尓 乎等都日毛 伎能敷母安里追 知加久安良婆 伊麻布都可太未 等保久安良婆 奈奴可乃<乎>知<波> 須疑米也母 伎奈牟和我勢故 祢毛許呂尓 奈孤悲曽余等曽 伊麻尓都氣都流
訓読 大君の 遠の朝廷ぞ み雪降る 越と名に追へる 天離る 鄙にしあれば 山高み 川とほしろし 野を広み 草こそ茂き 鮎走る 夏の盛りと 島つ鳥 鵜養が伴は 行く川の 清き瀬ごとに 篝さし なづさひ上る 露霜の 秋に至れば 野も多に 鳥すだけりと 大夫の 友誘ひて 鷹はしも あまたあれども 矢形尾の 我が大黒に [大黒者蒼鷹之名也] 白塗の 鈴取り付けて 朝猟に 五百つ鳥立て 夕猟に 千鳥踏み立て 追ふ毎に 許すことなく 手放れも をちもかやすき これをおきて またはありがたし さ慣らへる 鷹はなけむと 心には 思ひほこりて 笑まひつつ 渡る間に 狂れたる 醜つ翁の 言だにも 我れには告げず との曇り 雨の降る日を 鳥猟すと 名のみを告りて 三島野を そがひに見つつ 二上の 山飛び越えて 雲隠り 翔り去にきと 帰り来て しはぶれ告ぐれ 招くよしの そこになければ 言ふすべの たどきを知らに 心には 火さへ燃えつつ 思ひ恋ひ 息づきあまり けだしくも 逢ふことありやと あしひきの をてもこのもに 鳥網張り 守部を据ゑて ちはやぶる 神の社に 照る鏡 倭文に取り添へ 祈ひ祷みて 我が待つ時に 娘子らが 夢に告ぐらく 汝が恋ふる その秀つ鷹は 松田江の 浜行き暮らし つなし捕る 氷見の江過ぎて 多古の島 飛びた廻り 葦鴨の すだく古江に 一昨日も 昨日もありつ 近くあらば いま二日だみ 遠くあらば 七日のをちは 過ぎめやも 来なむ我が背子 ねもころに な恋ひそよとぞ いまに告げつる
仮名 おほきみの とほのみかどぞ みゆきふる こしとなにおへる あまざかる ひなにしあれば やまたかみ かはとほしろし のをひろみ くさこそしげき あゆはしる なつのさかりと しまつとり うかひがともは ゆくかはの きよきせごとに かがりさし なづさひのぼる つゆしもの あきにいたれば のもさはに とりすだけりと ますらをの ともいざなひて たかはしも あまたあれども やかたをの あがおほぐろに しらぬりの すずとりつけて あさがりに いほつとりたて ゆふがりに ちとりふみたて おふごとに ゆるすことなく たばなれも をちもかやすき これをおきて またはありがたし さならへる たかはなけむと こころには おもひほこりて ゑまひつつ わたるあひだに たぶれたる しこつおきなの ことだにも われにはつげず とのくもり あめのふるひを とがりすと なのみをのりて みしまのを そがひにみつつ ふたがみの やまとびこえて くもがくり かけりいにきと かへりきて しはぶれつぐれ をくよしの そこになければ いふすべの たどきをしらに こころには ひさへもえつつ おもひこひ いきづきあまり けだしくも あふことありやと あしひきの をてもこのもに となみはり もりへをすゑて ちはやぶる かみのやしろに てるかがみ しつにとりそへ こひのみて あがまつときに をとめらが いめにつぐらく ながこふる そのほつたかは まつだえの はまゆきくらし つなしとる ひみのえすぎて たこのしま とびたもとほり あしがもの すだくふるえに をとつひも きのふもありつ ちかくあらば いまふつかだみ とほくあらば なぬかのをちは すぎめやも きなむわがせこ ねもころに なこひそよとぞ いまにつげつる
左注 (右射水郡古江村取獲蒼鷹 形<容>美麗鷙雉秀群也 於時養吏山田史君麻呂調試失節野猟乖候 摶風之翅高翔匿雲 腐鼠之<餌>呼留靡驗 於是<張>設羅網窺乎非常奉幣神祇恃乎不虞也 <粤>以夢裏有娘子喩曰 使君勿作苦念空費<精><神> 放逸彼鷹獲得未幾矣哉 須叟覺<寤>有悦於懐 因作却恨之歌式旌感信 守大伴宿祢家持 [九月廾六日作也])
校異 短歌 [西] 短謌 / 可→加 [元][類][紀][細] / 登→等 [元][類] / 波→婆 [元] / 奴→能 [元][類][紀][細] / 岐→伎 [元][類][紀] / 比→妣 [元][類] / 能→乃 [元][類] / 未 [元][類][温] 米 / 宇→乎 [元][類] / 婆→波 [元][類][紀][細]
事項 天平19年9月26日 年紀 作者:大伴家持 動物 地名 富山 高岡 神祭り 託宣 山田君麻呂 枕詞 狩猟
訓異 とほのみかどぞ;とほのみかとそ, あまざかる;あまさかる, ひなにしあれば;ひなにしあれは, くさこそしげき;くさこそしけき, うかひがともは;うかひかともは, きよきせごとに;きよきせことに, かがりさし;かかりさし, なづさひのぼる;なつさひのほる, あきにいたれば;あきにいたれは, とりすだけりと;とりすたけりと, ともいざなひて;ともいさなひて, あまたあれども;あまたあれとも, あがおほぐろに;あかおほくろに, すずとりつけて;すすとりつけて, あさがりに;あさかりに, ゆふがりに;ゆふかりに, おふごとに;おふことに, たばなれも;たはなれも, またはありがたし;またはありかたし, わたるあひだに;わたるあひたに, たぶれたる;たふれたる, ことだにも;ことたにも, われにはつげず;われにはつけす, とがりすと;とかりすと, そがひにみつつ;そかひにみつつ, ふたがみの;ふたかみの, やまとびこえて;やまとひこえて, くもがくり;くもかくり, しはぶれつぐれ;しはふれつくれ, そこになければ;そこになけれは, いふすべの;いふすへの, たどきをしらに;たときをしらに, いきづきあまり;いきつきあまり, けだしくも;けたしくも, ちはやぶる;ちはやふる, てるかがみ;てるかかみ, あがまつときに;あかまつときに, をとめらが;をとめらか, いめにつぐらく;いめにつくらく, ながこふる;なかこふる, まつだえの;まつたえの, ひみのえすぎて;ひみのえすきて, とびたもとほり;とひたもとほり, あしがもの;あしかもの, すだくふるえに;すたくふるえに, ちかくあらば;ちかくあらは, いまふつかだみ;いまふつかたみ, とほくあらば;ととくあらは, なぬかのをちは;なぬかのうちは, すぎめやも;すきめやも, きなむわがせこ;きなむわかせこ, なこひそよとぞ;なこひそよとそ, いまにつげつる;いまにつけつる,
   
  17/4012
題詞 (思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌])
原文 矢形尾能 多加乎手尓須恵 美之麻野尓 可良奴日麻祢久 都奇曽倍尓家流
訓読 矢形尾の鷹を手に据ゑ三島野に猟らぬ日まねく月ぞ経にける
仮名 やかたをの たかをてにすゑ みしまのに からぬひまねく つきぞへにける
左注 (右射水郡古江村取獲蒼鷹 形<容>美麗鷙雉秀群也 於時養吏山田史君麻呂調試失節野猟乖候 摶風之翅高翔匿雲 腐鼠之<餌>呼留靡驗 於是<張>設羅網窺乎非常奉幣神祇恃乎不虞也 <粤>以夢裏有娘子喩曰 使君勿作苦念空費<精><神> 放逸彼鷹獲得未幾矣哉 須叟覺<寤>有悦於懐 因作却恨之歌式旌感信 守大伴宿祢家持 [九月廾六日作也])
校異 なし
事項 天平19年9月26日 年紀 作者:大伴家持 動物 地名 高岡 富山 狩猟
訓異 つきぞへにける;つきそへにける,
   
  17/4013
題詞 (思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌])
原文 二上能 乎弖母許能母尓 安美佐之弖 安我麻都多可乎 伊米尓都氣追母
訓読 二上のをてもこのもに網さして我が待つ鷹を夢に告げつも
仮名 ふたがみの をてもこのもに あみさして あがまつたかを いめにつげつも
左注 (右射水郡古江村取獲蒼鷹 形<容>美麗鷙雉秀群也 於時養吏山田史君麻呂調試失節野猟乖候 摶風之翅高翔匿雲 腐鼠之<餌>呼留靡驗 於是<張>設羅網窺乎非常奉幣神祇恃乎不虞也 <粤>以夢裏有娘子喩曰 使君勿作苦念空費<精><神> 放逸彼鷹獲得未幾矣哉 須叟覺<寤>有悦於懐 因作却恨之歌式旌感信 守大伴宿祢家持 [九月廾六日作也])
校異 なし
事項 天平19年9月26日 年紀 作者:大伴家持 動物 地名 高岡 富山 託宣 神祭り
訓異 ふたがみの;ふたかみの, あがまつたかを;あかまつたかを, いめにつげつも;いめにつけつも,
   
  17/4014
題詞 (思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌])
原文 麻追我敝里 之比尓弖安礼可母 佐夜麻太乃 乎治我其日尓 母等米安波受家牟
訓読 松反りしひにてあれかもさ山田の翁がその日に求めあはずけむ
仮名 まつがへり しひにてあれかも さやまだの をぢがそのひに もとめあはずけむ
左注 (右射水郡古江村取獲蒼鷹 形<容>美麗鷙雉秀群也 於時養吏山田史君麻呂調試失節野猟乖候 摶風之翅高翔匿雲 腐鼠之<餌>呼留靡驗 於是<張>設羅網窺乎非常奉幣神祇恃乎不虞也 <粤>以夢裏有娘子喩曰 使君勿作苦念空費<精><神> 放逸彼鷹獲得未幾矣哉 須叟覺<寤>有悦於懐 因作却恨之歌式旌感信 守大伴宿祢家持 [九月廾六日作也])
校異 なし
事項 天平19年9月26日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 難解 山田君麻呂 怨恨
訓異 まつがへり;まつかへり, さやまだの;さやまたの, をぢがそのひに;をちかそのひに, もとめあはずけむ;もとめあはすけむ,
   
  17/4015
題詞 (思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌])
原文 情尓波 由流布許等奈久 須加能夜麻 須加奈久能未也 孤悲和多利奈牟
訓読 心には緩ふことなく須加の山すかなくのみや恋ひわたりなむ
仮名 こころには ゆるふことなく すかのやま すかなくのみや こひわたりなむ
左注 右射水郡古江村取獲蒼鷹 形<容>美麗鷙雉秀群也 於時養吏山田史君麻呂調試失節野猟乖候 摶風之翅高翔匿雲 腐鼠之<餌>呼留靡驗 於是<張>設羅網窺乎非常奉幣神祇恃乎不虞也 <粤>以夢裏有娘子喩曰 使君勿作苦念空費<精><神> 放逸彼鷹獲得未幾矣哉 須叟覺<寤>有悦於懐 因作却恨之歌式旌感信 守大伴宿祢家持 [九月廾六日作也]
左注訓 右、射水郡古江の村にて蒼鷹を取獲たり。形容 美麗うるはしくて、雉を鷙とること群に秀れたり。時に 養吏たかかひ山田史君麿、調試節を失ひ、野猟候に乖く。 風に搏る翅、高く翔り雲に匿る。腐鼠の餌、呼 び留むるに験靡し。是に羅網を張り設けて非常 を窺ひ、神祇に奉幣して虞らざるを恃む。粤ここに 夢裏いめに娘子有り。喩して曰く、使君きみ苦念を作し て空に精神を費すこと勿れ。逸放そらせる彼の鷹、 獲り得むこと未幾ちかけむ。須叟ありて覚寤して、懐に 悦びて、因かれ恨みを却す歌をよみ、式て感信を旌 す。守大伴宿禰家持。九月二十六日ニ作メリ。
校異 <>→容 [西(右書)][元][類][紀] / 雉 [新校] 雄 / 鉗→餌 [元][紀][細] / 帳→張 [元][類][紀] / 奥→粤 [拾穂抄] / 情→精 [元][類] / 邪→神 [西(訂正右書)][元][類][紀] / 寐→寤 [元][類]
事項 天平19年9月26日 年紀 作者:大伴家持 地名 高岡 富山 恋情 動物
訓異 -
   
  17/4016
題詞 高市連黒人歌一首 [年月不審]
題訓 高市連黒人が歌一首 年月審ラカナラズ
原文 賣比能野能 須々吉於之奈倍 布流由伎尓 夜度加流家敷之 可奈之久於毛倍遊
訓読 婦負の野のすすき押しなべ降る雪に宿借る今日し悲しく思ほゆ
仮名 めひののの すすきおしなべ ふるゆきに やどかるけふし かなしくおもほゆ
左注 右傳誦此歌三國真人五百國是也
左注訓 右、此の歌を伝へ誦むは三國真人五百國いほくになり。
校異 なし
事項 高市黒人 羈旅 旅情 伝誦 三国五百国 漂泊 地名 高岡 富山
訓異 すすきおしなべ;すすきおしなへ, やどかるけふし;やとかるけふし, かなしくおもほゆ;かなしくおもへゆ,
   
  17/4017
題詞 なし
原文 東風 [越俗語東風謂<之>安由乃可是也] 伊多久布久良之 奈呉乃安麻能 都利須流乎夫祢 許藝可久流見由
訓読 あゆの風 [越俗語東風謂之あゆの風是也] いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小船漕ぎ隠る見ゆ
仮名 あゆのかぜ いたくふくらし なごのあまの つりするをぶね こぎかくるみゆ
左注 (右四首天平廿年春正月廿九日大伴宿祢家持)
校異 <>→之 [元][類]
事項 天平20年1月29日 年紀 作者:大伴家持 地名 高岡 富山 叙景 方言
訓異 あゆのかぜ;あゆのかせ, なごのあまの;なこのあまの, つりするをぶね;つりするをふね, こぎかくるみゆ;こきかくるみゆ,
   
  17/4018
題詞 なし
原文 美奈刀可是 佐牟久布久良之 奈呉乃江尓 都麻欲<妣>可波之 多豆左波尓奈久 [一云 多豆佐和久奈里]
訓読 港風寒く吹くらし奈呉の江に妻呼び交し鶴多に鳴く [一云 鶴騒くなり]
仮名 みなとかぜ さむくふくらし なごのえに つまよびかはし たづさはになく [たづさわくなり]
左注 (右四首天平廿年春正月廿九日大伴宿祢家持)
校異 比→妣 [元][類]
事項 天平20年1月29日 年紀 作者:大伴家持 地名 高岡 富山 叙景 推敲
訓異 みなとかぜ;みなとかせ, なごのえに;なこのえに, つまよびかはし;つまよひかはし, たづさはになく;たつさはになく, [たづさわくなり];たつさわくなり,
   
  17/4019
題詞 なし
原文 安麻射可流 比奈等毛之流久 許己太久母 之氣伎孤悲可毛 奈具流日毛奈久
訓読 天離る鄙ともしるくここだくも繁き恋かもなぐる日もなく
仮名 あまざかる ひなともしるく ここだくも しげきこひかも なぐるひもなく
左注 (右四首天平廿年春正月廿九日大伴宿祢家持)
校異 なし
事項 天平20年1月29日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 望郷
訓異 あまざかる;あまさかる, ここだくも;ここたくも, しげきこひかも;しけきこひかも, なぐるひもなく;なくるひもなく,
   
  17/4020
題詞 なし
原文 故之能宇美能 信濃[濱名也]乃波麻乎 由伎久良之 奈我伎波流比毛 和須礼弖於毛倍也
訓読 越の海の信濃[濱名也]の浜を行き暮らし長き春日も忘れて思へや
仮名 こしのうみの しなぬのはまを ゆきくらし ながきはるひも わすれておもへや
左注 右四首天平廿年春正月廿九日大伴宿祢家持
左注訓 右の四首ようたは、大伴宿禰家持。
校異 天平廿 [元] 廿
事項 天平20年1月29日 年紀 作者:大伴家持 地名 高岡 富山 望郷
訓異 しなぬのはまを;しなののはまを, ながきはるひも;なかきはるひも,
   
  17/4021
題詞 礪波郡雄神河邊作歌一首
題訓 礪波郡となみのこほり雄神河をかみのかはの辺へにてよめる歌一首
原文 乎加未河<泊> 久礼奈為尓保布 乎等賣良之 葦附[水松之類]等流登 湍尓多々須良之
訓読 雄神川紅にほふ娘子らし葦付[水松之類]取ると瀬に立たすらし
仮名 をかみがは くれなゐにほふ をとめらし あしつきとると せにたたすらし
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 伯→泊 [細][温][矢][京]
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 部内巡航 地名 富山 植物 叙景 羈旅
訓異 をかみがは;をかみかは,
   
  17/4022
題詞 婦負郡渡鵜坂河邊時作一首
題訓 婦負郡めひのこほりにて鵜坂河うさかがはを渡る時よめる歌一首
原文 宇佐可河<泊> 和多流瀬於保美 許乃安我馬乃 安我枳乃美豆尓 伎<奴>々礼尓家里
訓読 鵜坂川渡る瀬多みこの我が馬の足掻きの水に衣濡れにけり
仮名 うさかがは わたるせおほみ このあがまの あがきのみづに きぬぬれにけり
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 伯→泊 [元][類][細][温] / 努→奴 [元][類][紀][細]
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 動物 部内巡航 羈旅
訓異 うさかがは;うさかかは, このあがまの;このあかまの, あがきのみづに;あかきのみつに,
   
  17/4023
題詞 見潜鵜人作歌一首
題訓 潜鵜うつかふ人を見てよめる歌一首
原文 賣比河波能 波夜伎瀬其等尓 可我里佐之 夜蘇登毛乃乎波 宇加波多知家里
訓読 婦負川の早き瀬ごとに篝さし八十伴の男は鵜川立ちけり
仮名 めひがはの はやきせごとに かがりさし やそとものをは うかはたちけり
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 なし
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 動物 叙景 部内巡航 羈旅
訓異 めひがはの;めひかはの, はやきせごとに;はやきせことに, かがりさし;かかりさし,
   
  17/4024
題詞 新川郡渡延槻河時作歌一首
題訓 新河郡にひかはのこほりにて延槻河はひつきがはを渡る時よめる歌一首
原文 多知夜麻乃 由吉之久良之毛 波比都奇能 可波能和多理瀬 安夫美都加須毛
訓読 立山の雪し消らしも延槻の川の渡り瀬鐙漬かすも
仮名 たちやまの ゆきしくらしも はひつきの かはのわたりせ あぶみつかすも
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 なし
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 部内巡航 羈旅
訓異 あぶみつかすも;あふみつかすも,
   
  17/4025
題詞 赴参<氣>太神宮行海邊之時作歌一首
題訓 氣多の大神宮おほかみのみやに赴参まゐるに、海辺を行く時よめる歌一首
原文 之乎路可良 多太古要久礼婆 波久比能海 安佐奈藝思多理 船梶母我毛
訓読 志雄路から直越え来れば羽咋の海朝なぎしたり船楫もがも
仮名 しをぢから ただこえくれば はくひのうみ あさなぎしたり ふなかぢもがも
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 氣比→氣 [元][類]
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 石川 部内巡航 能登 叙景 羽咋 羈旅
訓異 しをぢから;そをちから, ただこえくれば;たたこえくれは, あさなぎしたり;あさなきしたり, ふなかぢもがも;ふねかちもかも,
   
  17/4026
題詞 能登郡従香嶋津發船射熊来村徃時作歌二首
題訓 能登郡にて、香島の津より発船ふなでして、熊來くまきの村を射して徃く時よめる歌二首
原文 登夫佐多氐 船木伎流等伊<布> 能登乃嶋山 今日見者 許太知之氣思物 伊久代神備曽
訓読 鳥総立て船木伐るといふ能登の島山今日見れば木立繁しも幾代神びぞ
仮名 とぶさたて ふなききるといふ のとのしまやま けふみれば こだちしげしも いくよかむびぞ
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 有→布 [元][類]
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 能登 富山 部内巡航 旋頭歌 土地讃美 羈旅
訓異 とぶさたて;とふさたて, けふみれば;けふみれは, こだちしげしも;こたちしけしも, いくよかむびぞ;いくよかみひそ,
   
  17/4027
題詞 (能登郡従香嶋津發船射熊来村徃時作歌二首)
原文 香嶋欲里 久麻吉乎左之氐 許具布祢能 河治等流間奈久 京<師>之於母<倍>由
訓読 香島より熊来をさして漕ぐ船の楫取る間なく都し思ほゆ
仮名 かしまより くまきをさして こぐふねの かぢとるまなく みやこしおもほゆ
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 都→師 [元][類][細] / 保→倍 [元][類]
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 富山 能登 羈旅 部内巡航 望郷 序詞
訓異 こぐふねの;こくふねの, かぢとるまなく;かちとるまなく,
   
  17/4028
題詞 鳳至郡渡饒石<川>之時作歌一首
題訓 鳳至郡ふふしのこほりにて饒石川にぎしかはを渡る時よめる歌一首
原文 伊母尓安波受 比左思久奈里奴 尓藝之河波 伎欲吉瀬其登尓 美奈宇良波倍弖奈
訓読 妹に逢はず久しくなりぬ饒石川清き瀬ごとに水占延へてな
仮名 いもにあはず ひさしくなりぬ にぎしがは きよきせごとに みなうらはへてな
左注 (右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持)
校異 河→川 [元][類]
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 能登 富山 占媿 望郷 羈旅 部内巡航
訓異 いもにあはず;いもにあはす, にぎしがは;にきしかは, きよきせごとに;きよきせことに,
   
  17/4029
題詞 従珠洲郡發船還太沼郡之時泊長濱灣仰見月光作歌一首
題訓 珠洲郡すすのこほりより発船ふなでして、太沼郡おほみのさとに還る時、長濱の湾うらに泊てて月光つきを仰見みてよめる歌一首
原文 珠洲能宇美尓 安佐<妣>良伎之弖 許藝久礼婆 奈我<波>麻能宇良尓 都奇氐理尓家里
訓読 珠洲の海に朝開きして漕ぎ来れば長浜の浦に月照りにけり
仮名 すずのうみに あさびらきして こぎくれば ながはまのうらに つきてりにけり
左注 右件歌詞者 依春出擧巡行諸郡 當時<當>所属目作之 大伴宿祢家持
左注訓 右の件の歌詞うたは、春の出挙すいこに依りて諸郡こほりこほりを巡行めぐる。  当時すなはち目に属つく所ごとによめる。大伴宿禰家持。
校異 比→妣 [元][類] / 婆→波 [元][類][紀][細] / <>→當 [元]
事項 天平20年春 年紀 作者:大伴家持 地名 能登 富山 道行翮 氷見 叙景 羈旅 土地讃美
訓異 すずのうみに;すすのうみに, あさびらきして;あさひらきして, こぎくれば;こきくれは, ながはまのうらに;なかはまのうらに,
   
  17/4030
題詞 怨鴬晩哢歌一首
題訓 鴬の晩哢おそきを怨む歌一首
原文 宇具比須波 伊麻波奈可牟等 可多麻氐<婆> 可須美多奈妣吉 都奇波倍尓都追
訓読 鴬は今は鳴かむと片待てば霞たなびき月は経につつ
仮名 うぐひすは いまはなかむと かたまてば かすみたなびき つきはへにつつ
左注 なし
校異 波→婆 [元][類]
事項 作者:大伴家持 動物 怨恨 季節 風物
訓異 うぐひすは;うくひすは, かたまてば;かたまては, かすみたなびき;かすみたなひき,
   
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題詞 造酒歌一首
題訓 造酒みきたてまつる歌一首
原文 奈加等美乃 敷刀能里<等其>等 伊比波良倍 安<賀>布伊能知毛 多我多米尓奈礼
訓読 中臣の太祝詞言言ひ祓へ贖ふ命も誰がために汝れ
仮名 なかとみの ふとのりとごと いひはらへ あかふいのちも たがためになれ
左注 右大伴宿祢家持作之
左注訓 右、大伴宿禰家持がよめる。
校異 其等[西(朱訂正)]→等其 [元][類] / 加→賀 [元][類][紀]
事項 作者:大伴家持 祝詞 神祭り 言祝ぎ 寿歌
訓異 ふとのりとごと;ふとのりとこと, たがためになれ;たかためになれ,