古事記 大日下王の悲劇~原文対訳

古事記
下巻⑤
20代 安康天皇
親族殺害暗殺物語
安康が大日下王(おじ)殺害
目弱王
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

おじにおばを所望

     
天皇。 天皇、 天皇は、
爲伊呂弟
大長谷
王子而。
同母弟いろせ
大長谷はつせの
王子のために、
弟の
オホハツセの
王子のために、
坂本
臣等之祖。
坂本さかもとの
臣おみ等が祖おや
坂本の
臣たちの祖先の
根臣。 根ねの臣を、 ネの臣を、
遣大日下王
之許。
大日下おほくさかの王の
もとに遣して、
オホクサカの王〔安康のおじ〕の
もとに遣わして、
令詔者。 詔らしめたまひしくは、 仰せられましたことは
     
汝命之妹。 「汝が命の妹 「あなたの妹の
若日下王。 若日下わかくさかの王を、 ワカクサカの王〔安康おば〕を、
欲婚
大長谷王子。
大長谷の王子に
合はせむとす。
オホハツセの王〔安康弟=雄略〕と
結婚させようと思うから
故可貢。 かれ獻るべし」
とのりたまひき。
さしあげるように」
と仰せられました。
     
爾大日下王。 ここに大日下の王 そこでオホクサカの王は、
四拜
白之。
四たび拜みて
白さく、
四度拜禮して
若疑有
如此大命
「けだしかかる
大命おほみこともあらむと思ひて、
「おそらくはこのような
御命令もあろうかと思いまして
故。 かれ、 それで
不出外以置也。 外とにも出さずて置きつ。 外にも出さないでおきました。
是恐。 こは恐し。 まことに恐れ多いことです。
隨大命奉進。 大命のまにまに獻らむ」
とまをしたまひき。
御命令の通りさしあげましよう」
と申しました。
     
然言以白事。 然れども言こともちて白す事は、 しかし言葉で申すのは
其思无禮。 それ禮ゐやなしと思ひて、 無禮だと思つて、
即爲
其妹之禮物。
すなはち
その妹の禮物ゐやじろとして、
その妹の贈物として、
令持押木之
玉縵而
貢獻。
押木の
玉縵たまかづらを持たしめて、
獻りき。
大きな木の
玉の飾りを持たせて
獻りました。
     

根臣の讒をヤスヤス(安康)信じる

     
根臣。
即盜取
其禮物之
玉縵。
根の臣
すなはちその禮物ゐやじろの
玉縵たまかづらを
盜み取りて、
ネの臣は
その贈物の
玉の飾りを
盜み取つて、

大日下王曰。
大日下の王を
讒よこしまつりて曰さく、
オホクサカの王を
讒言していうには、
     
大日下王者。 「大日下の王は 「オホクサカの王は
不受勅命。 大命を受けたまはずて、 御命令を受けないで、
曰己妹乎。 おのが妹や、 自分の妹は
爲等族之
下席而。
等ひとし族うからの
下席したむしろにならむといひて、
同じほどの一族の
敷物になろうかと言つて、
取横刀之手上
而怒歟。
大刀の手上たがみ取とりしばりて、
怒りましつ」とまをしき。
大刀の柄つかをにぎつて
怒りました」と申しました。
     

大日下殺して妻寝取る

     
故天皇。 かれ天皇 それで天皇は
大怒。 いたく怒りまして、 非常にお怒りになつて、

大日下王而。
大日下の王を
殺して、
オホクサカの王を
殺して、
取持來。
其王之嫡妻。
長田大郎女。
爲皇后。
その王の嫡妻むかひめ
長田ながたの大郎女を
取り持ち來て、
皇后おほぎさきとしたまひき。
その王の正妻の
ナガタの大郎女を取つて
皇后になさいました。
古事記
下巻⑤
20代 安康天皇
親族殺害暗殺物語
安康が大日下王(おじ)殺害
目弱王