源氏物語 竹河:巻別和歌24首・逐語分析

紅梅 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
44帖 竹河
橋姫

 
 源氏物語・竹河(たけかわ)巻の和歌24首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:5()、5(蔵人少将=夕霧の子)、2×3(宰相君、藤侍従、鬚黒長女:通称大君)、1×8(内の人=簾中の女房(新大系)・玉鬘邸の侍女(全集)、鬚黒次女:中の君:内裏の君、大輔君:中の君方女房、中の君方童女、なれき=大君方童女、中将=中将の御許:大君方女房、※玉鬘:大君母vs中将の御許or大君侍女(通説)、内の人=うち:女房(新大系・集成)、大君侍女(全集))※最初最後
 

竹河・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 12首  40字未満
応答 5首  40~100字未満
対応 6首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 1首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
595
折りて見ば
いとど匂ひも
まさるやと
すこし色めけ
梅の初花
〔宰相君:上臈の女房〕手折ってみたら
ますます匂いも
勝ろうかと
もう少し色づいてみてはどうですか、
梅の初花
596
よそにては
もぎ木なりとや
定むらむ
下に匂へる
梅の初花
〔薫:柏木の子〕傍目には
枯木だと
決めていましょうが
心の中は咲き匂っている
梅の初花ですよ
597
人はみな
に心を
移すらむ
一人ぞ惑ふ
春の夜の闇
〔蔵人少将:夕霧の子〕人はみな
花に心を
寄せているのでしょうが
わたし一人は迷っております、
春の夜の闇の中で
598
をりからや
あはれも知らむ
梅の
ただ香ばかりに
移りしもせじ
〔内の人=簾中の女房(新大系)・玉鬘邸の侍女(全集)〕
時と場合によって
心を寄せるものです
ただ梅の花の
香りだけに
こうも引かれるものではありませんよ
599
竹河
橋うちいでし

深き心の
底は知りきや
〔薫〕竹河の
歌を謡ったあの文句の
一端から
わたしの深い心の
うちを知っていただけましたか
600
竹河
夜を更かさじと
いそぎしも
いかなる
思ひおかまし
〔藤侍従:玉鬘の子・薫のいとこ〕竹河を謡って
夜を更かすまいと
急いでいらっしゃったのも
どのようなことを
心に止めておけばよいのでしょう
601
桜ゆゑ
風に心の
騒ぐかな
思ひぐまなき
と見る見る
〔鬚黒長女:通称大君〕桜のせいで
吹く風ごとに
気が揉めます
わたしを思ってくれない
花だと思いながらも
602
咲くと見て
かつはりぬる
なれば
負くるを深き
恨みともせず
〔宰相君:大君方女房〕咲いたかと見ると
一方では散ってしまう
花なので
負けて木を取られたことを
深く恨みません
603
風に
ことは世の常
枝ながら
移ろふ
ただにしも見じ
〔鬚黒次女:中の君〕風に散る
ことは世の常のことですが、
枝ごとそっくり
こちらの木になった花を
平気で見ていられないでしょう
604
心ありて
池のみぎはに
落つる
あわとなりても
わが方に寄れ
〔大輔君:中の君方女房〕こちらに味方して
池の汀に
散る花よ
水の泡となっても
こちらに流れ寄っておくれ
605
大空の
風にれども
桜花
おのがものとぞ
かきつめて見る
〔中の君方の童女〕大空の
風に散った
桜の花を
わたしのものと思って
掻き集めて見ました
606
桜花
匂ひあまたに
らさじと
おほふばかりの
袖はありやは
〔なれき:大君方の童女〕桜の花の
はなやかな美しさを
方々に散らすまいとしても
大空を覆うほど
大きな袖がございましょうか
607
贈:
つれなくて
過ぐる月日を
かぞへつつ
もの恨めしき
暮の春かな
〔薫→藤侍従〕わたしの気持ちを分かっていただけずに
過ぎてゆく年月を
数えていますと
恨めしくも
春の暮になりました
608
いでやなぞ
数ならぬ身に
かなはぬは
人に負けじの
なりけり
〔蔵人少将:夕霧の子〕いったい何ということか、
物の数でもない身なのに
かなえることができないのは
負けじ
魂だとは
609
わりなしや
強きによらむ
勝ち負け
一つに
いかがまかする
〔中将=中将の御許:大君方女房(全集)〕無理なこと、
強い方が勝つ
勝負事を
あなたのお心一つで
どうなりましょう
610
あはれとて
手を許せかし
生き死にを
君にまかする
わが身とならば
〔蔵人少将〕かわいそうだと思って、
姫君をわたしに許してください
この先の生死は
あなた次第の
わが身と思われるならば
611
を見て
春は暮らしつ
今日よりや
しげき嘆きの
下に惑はむ
〔蔵人少将→大君〕花を見て
春は過ごしました。
今日からは
茂った木の下で途方に
暮れることでしょう
612
代答
今日ぞ知る
空を眺むる
けしきにて
に心を
移しけりとも
〔玉鬘=御前:大君母※
?「中将のおもとの代作であろう」(新大系。集成同旨)全集「別の女房の作か」〕
今日こそ分かりました、
空を眺めているような
ふりをして
花に心を
奪われていらしたのだと
613
あはれてふ
常ならぬ
一言
いかなる人に
かくるものぞは
〔鬚黒長女:通称大君〕あわれという
一言も、
この無常の世に
いったいどなたに
言い掛けたらよいのでしょう
614
生ける
死には心に
まかせねば
聞かでややまむ
君が一言
〔蔵人少将〕生きているこの世の
生死は思う
通りにならないので
聞かずに諦めきれましょうか、
あなたのあわれという一言を
615
手にかくる
ものにしあらば
藤の花
松よりまさる
色を見ましや
〔薫〕手に取ることが
できるものなら、
藤の花の
松の緑より勝れた
色を空しく眺めていましょうか
616
紫の
色はかよへど
藤の花
心にえこそ
かからざりけれ
〔藤侍従〕紫の色は同じだが、
あの藤の花は
わたしの思う通りに
できなかったのです
617
竹河
その夜のことは
思ひ出づや
しのぶばかりの
節はなけれど
〔内の人=うち:女房(新大系・集成)、大君侍女(全集)〕
竹河を
謡ったあの夜のことは
覚えていらっしゃいますか
思い出すほどの
出来事はございませんが
618
流れての
頼めむなしき
竹河
世は憂きものと
思ひ知りにき
〔薫〕今までの期待も
空しいとことと分かって
 
世の中は嫌なものだと
つくづく思い知りました