枕草子181段 雪のいと高うはあらで

ある所に 枕草子
中巻中
181段
雪のいと
村上の前帝

(旧)大系:181段
新大系:174段、新編全集:174段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:179段
 


 
 雪のいと高うはあらで、うすらかに降りたるなどは、いとこそをかしけれ。
 

 また、雪のいと高う降り積もりたる夕暮れより、端近う、同じ心なる人二、三人ばかり、火桶を中に据ゑて物語などするほどに、暗うなりぬれど、こなたには火もともさぬに、おほかたの雪の光いと白う見えたるに、火箸して灰など掻きすさみて、あはれなるも、をかしきも、言ひ合はせたるこそをかしけれ。
 

 宵もや過ぎぬらむと思ふほどに、沓の音近う聞こゆれば、あやしと見いだしたるに、時々かやうのをりに、おぼえなく見ゆる人なりけり。「今日の雪を、いかにと思ひやり聞こえながら、なでふことにさはりて、その所に暮らしつる」など言ふ。「今日来む」などやうのすぢをぞ言ふらむかし。昼ありつることどもなどうち始めて、よろづのことを言ふ。円座ばかりさしいでたれど、片つ方の足は下ながらあるに、鐘の音なども聞こゆるまで、内にも外にも、この言ふことは飽かずぞおぼゆる。
 

 明けぐれのほどに帰るとて、「雪なにの山に満てり」と誦したるは、いとをかしきものなり。女の限りしては、さもえ居明かさざらましを、ただなるよりはをかしう、すきたるありさまなど言ひ合はせたり。
 
 

ある所に 枕草子
中巻中
181段
雪のいと
村上の前帝