徒然草190段 妻といふものこそ:原文

今日はそのことをなさむと 徒然草
第五部
190段
妻といふもの
夜に入りて

 
 妻といふものこそ、男の持つまじきものなれ。
「いつも独り住みにて」など聞くこそ心にくけれ、「誰がしが婿になりぬ」とも、また、「いかなる女を取り据ゑて相住む」など聞きつれば、無下に心劣りせらるるわざなり。
殊なる事なき女をよしと思ひ定めてこそ添ひゐたらめと、いやしいくも推し測られ、よき女ならば、らうたくしてぞ、あが仏と守りゐたらむ。
たとへば、さばかりにこそと覚えぬべし。
まして、家の内を行ひ治めたる女、いと口惜し。
子など出で来て、かしづき愛したる、心憂し。
男なくなりて後、尼になりて年寄りたる有様、亡き跡まであさまし。
 

 いかなる女なりとも、明け暮れ添ひ見んには、いと心づきなく、憎かりなん。
女のためにも、半空にこそならめ。
よそながら時々通ひ住まんこそ、年月経ても絶えぬ仲らひともならめ。
あからさまに来て、泊まり居などせんには、珍しかりぬべし。