古事記 御祖の詛戸(とこひど)~原文対訳

伊豆志袁登賣神 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
秋山と春山兄弟物語
2 御祖の詛戸
傍系の系譜
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
御祖答曰。 御祖の答へて曰はく、 母親が言うには、
我御世之事。 「我が御世の事、 「わたしたちの世の事は、
能許曾
〈此二字以音〉
神習。
能くこそ
神習はめ。
すべて
神の仕業に習うものです。
又宇都志岐青人草習乎。 またうつしき青人草習へや、 それだのにこの世の人の仕業に習つてか、
不償其物。 その物償はぬ」といひて、 その物を償わない」と言つて、
     
恨其兄子。 その兄なる子を恨みて、 その兄の子を恨んで、
乃取其
伊豆志河之
河嶋節竹而。
すなはちその
伊豆志河いづしかはの
河島の一節竹よだけを取りて、
イヅシ河の
河島の節のある竹を取つて、
作八目之荒籠。 八やつ目めの
荒籠あらこを作り、
大きな目の
荒い籠を作り、
取其河石。 その河の石を取り、 その河の石を取つて、
合鹽而。 鹽に合へて、 鹽にまぜて
裹其竹葉。 その竹の葉に裹み、 竹の葉に包んで、
令詛言。 詛言とこひいはしめしく、 詛言のろいごとを言つて、
     
如此竹葉青。 「この竹葉たかばの青むがごと、 「この竹の葉の青いように、
如此竹葉萎而。 この竹葉の萎しなゆるがごと、 この竹の葉の萎しおれるように、
青萎。 青み萎えよ。 青くなつて萎れよ。
又如此
鹽之盈乾而。
またこの
鹽の盈みち乾ふるがごと、
またこの
鹽の盈みちたり乾ひたりするように
盈乾。 盈ち乾ひよ。 盈ち乾よ。
又如此
石之沈而。沈臥。
またこの
石の沈むがごと、沈み臥せ」と
またこの
石の沈むように沈み伏せ」と、
     
如此令詛
置於烟上。
かく詛とこひて、
竈へつひの上に置かしめき。
このように詛のろつて、
竈かまどの上に置かしめました。
     
是以其兄。 ここを以ちてその兄 それでその兄が
八年之間。 八年の間に 八年もの間、
于萎病枯。 干かわき萎え病み枯れき。 乾かわき萎しおれ病やみ伏ふしました。
     
故其兄患泣。 かれその兄患へ泣きて、 そこでその兄が、
請其御祖者。 その御祖に請ひしかば、 泣なき悲しんで願いましたから、
即令返其詛戸。 すなはちその詛戸とこひどを返さしめき。 その詛のろいの物をもとに返しました。
     
於是其身
如本以安平也。
ここにその身
本の如くに安平やすらぎき。
そこでその身が
もとの通りに安らかになりました。
〈此者
神宇禮豆玖
之言本者也〉
(こは
神うれづく
といふ言の本なり)
 
伊豆志袁登賣神 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
秋山と春山兄弟物語
2 御祖の詛戸
傍系の系譜