枕草子269段 よろづのことよりも情けあるこそ

男こそ 枕草子
下巻中
269段
よろづのこと
人のうへ

(旧)大系:269段
新大系:250段、新編全集:251段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後は最も索引性に優れ三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:ナシ
 


 
 よろづのことよりも情けあるこそ、男はさらなり、女もめでたくおぼゆれ。なげのことばなれど、せちに心に深く入らねど、いとほしきことをば「いとほし」とも、あはれなるをば「げにいかに思ふらむ」などいひけるを、伝へて聞きたるは、さしむかひて言ふよりもうれし。いかでこの人に、思ひ知りけりとも見えにしがな、と常にこそおぼゆれ。
 

 かならず思ふべき人、とふべき人は、さるべきことなれば、とり分かれしもせず。さもあるまじき人の、さしいらへをもうしろやすくしたるは、うれしきわざなり。いとやすきことなれど、さらにえあらぬことぞかし。
 

 おほかた心よき人の、まことにかどなからぬは、男も女もありがたきことなめり。また、さる人多かるべし。
 
 

男こそ 枕草子
下巻中
269段
よろづのこと
人のうへ