古事記 雲雀の歌・倉椅山の歌~原文対訳

女鳥王 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
女鳥王の歌物語
2 雲雀の歌
山部大楯
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

隼vs雀

     
此時。  この時、 この後に
其夫速總別王。
到來之時。
その夫ひこぢ速總別の王の
來れる時に、
ハヤブサワケの王が
來ました時に、
其妻
女鳥王歌曰。
その妻みめ
女鳥の王の歌ひたまひしく、
メトリの王の
お歌いになつた歌は、
     
比婆理 雲雀ひばりは 雲雀は
阿米邇迦氣流 天あめに翔かける。 天に飛び翔ります。
多迦由玖夜 高行くや 大空高く飛ぶ
波夜夫佐和氣 速總別、 ハヤブサワケの王樣、
佐邪岐登良佐泥 鷦鷯さざき取らさね。 サザキをお取り遊ばせ。
     
天皇聞此歌。  天皇この歌を聞かして、  天皇はこの歌をお聞きになつて、
即興軍欲殺。 軍を興して、
殺とりたまはむとす。
兵士を遣わして
お殺しになろうとしました。
     

梯立ての倉椅山

     

速總別王。
女鳥王。
共逃退而。
ここに
速總別の王、
女鳥の王、
共に逃れ退きて、
そこで
ハヤブサワケの王と
メトリの王と、
共に逃げ去つて、
騰于
倉椅山。
倉椅山くらはしやまに
騰あがりましき。
クラハシ山に
登りました。
     
於是
速總別王
歌曰。
ここに
速總別の王
歌ひたまひしく、
そこで
ハヤブサワケの王が
歌いました歌、
     
波斯多弖能 梯立ての 梯子はしごを立てたような、
久良波斯夜麻袁。 倉椅山を クラハシ山が
佐賀志美登。 嶮さがしみと 嶮けわしいので、
伊波迦伎加泥弖。 岩かきかねて  岩に取り附きかねて、
和賀弖登良須母。 吾わが手取らすも。 わたしの手をお取りになる。
     
又歌曰。  また歌ひたまひしく、  また、
     
波斯多弖能 梯立ての 梯子はしごを立てたような
久良波斯夜麻波。 倉椅山は クラハシ山は
佐賀斯祁杼。 嶮しけど、 嶮しいけれど、
伊毛登能爐禮波。 妹と登れば  わが妻と登れば
佐賀斯玖母阿良受。 嶮しくもあらず。 嶮しいとも思いません。
     
故自其地逃亡。  かれそこより逃れて、  それから逃げて、
到宇陀之
蘇邇時。
宇陀うだの
蘇邇そにに到りましし時に、
宇陀うだの
ソニという處に行き到りました時に、
御軍追到
而殺也。
御軍追ひ到りて、
殺しせまつりき。
兵士が追つて來て
殺してしまいました。

 

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女鳥王の歌物語
2 雲雀の歌
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