古事記~兄(火照)の下僕化 原文対訳

佐比持神
一尋和邇
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
兄の下僕化
豊玉出産
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
是以備如
海神之
教言。
 ここを以ちてつぶさに
海わたの神の
教へし言の如、
 かくして悉く
海神の
教えた通りにして
與其鉤。 その鉤を與へたまひき。 鉤を返されました。
     
故自爾以後。 かれそれより後、 そこでこれより
稍兪貧。 いよよ貧しくなりて、 いよいよ貧しくなつて
更起荒心
迫來。
更に荒き心を起して
迫め來く。
更に荒い心を起して
攻めて來ます。
     
將攻之時。 攻めむとする時は、 攻めようとする時は
鹽盈珠而令溺。 鹽盈つ珠を出して溺らし、 潮の盈ちる珠を出して溺らせ、
其愁請者。 それ愁へまをせば あやまつてくる時は
鹽乾珠而救。 鹽乾る珠を出して救ひ、 潮の乾る珠を出して救い、
如此令惚苦之時。 かく惚苦たしなめたまひし時に、 苦しめました時に、
     
稽首白。 稽首のみ白さく、 おじぎをして言うには、
僕者自今以後。 「僕あは今よ以後のち、 「わたくしは今から後、
爲汝命之
晝夜
守護人而
仕奉。
汝が命の
晝夜よるひるの
守護人まもりびととなりて
仕へまつらむ」
とまをしき。
あなた樣の
晝夜の
護衞兵となつて
お仕え申し上げましよう」
と申しました。
     
故至今。 かれ今に至るまで、 そこで今に至るまで
其溺時之。 その溺れし時の 隼人はやとは
その溺れた時の
種種之態不絶。 種種の態わざ、 しわざを演じて
仕奉也。 絶えず仕へまつるなり。 お仕え申し上げるのです。

 

佐比持神
一尋和邇
古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
兄の下僕化
豊玉出産

解説

 
 
 二つの玉の下りは、綿津見大神がそれを授けた時の説明とほぼ同じ。
 前段の溺れさせて苦しめるのは、物理的な苦しみと見れる。
 

 しかし後段の「其愁請者。出鹽乾珠而救(それが憂いを請うて来た時は、塩乾く玉で救い)」、「令惚苦(悉く苦しめて)」とはどういうことか。
 「惚苦」は、ことごと苦と掛けた音の当て字。
 
 救っているはずなのに、苦しめる。
 これは(血も)涙もない方法で救ったという意味。つまり重い利息をつけた。玉=金。
 それで奴隷にした(強いて従わせた)という表現。しかもその元手は自分の玉ではない。
 

 つまりヤマトの統治に(人格的)正統性を認めていない。それは一貫している。人格的に称えた話が一つもなく終始野蛮。仁徳ですらそれに掛けた諫言。
 生活に困ったら金を借りろというのは、この国の基本方針。
 既に困って必要なのだからさらに返しようがない。金は極力もたせない。絶妙に家賃生活相場スレスレに設定し、死ぬまで働かせようとするのも基本方針。
 実入りの相場も自分達で操作し、最低限の生活維持に金を求める仕組みにする以上、意に沿わぬ労働でも強要し、正当化することができる。
 決めさえすれば異論は認めない。それが決まりだ。それが野蛮。労働の本質が強要だから生産的ではない。だから金がないない言い続ける。
 

 周囲に極力価値を認めず与えず、一方的に求め続ける。
 自分達しか持とうとしないから、全体の価値が増えていかない。
 それすらわからないのが貧しさ。与えられたパイを取り合い続ける。余計にあってもあげない。余裕をもたせたら、黙って言うこときかせられなくなる。
 そうして自分達だけで囲って、一部のみ肥え、全体は貧弱、それにこびへつらう地獄絵図。