万葉集 第五巻:一覧と配置

第四巻 万葉集
第五巻
第六巻

 
 万葉集第五巻、その一覧と配置。
 ここでは個別の歌の検討というより、全体の配置に示される万葉の構造を見る。
 

 この巻は令和の出典とされる(歌ではなく815の題詞)。
 

 見た瞬間に憶良が主体であることがわかる(これまでの人麻呂同様の配置にいる。かつ人麻呂が一首もない)。
 またこれまでの配置の傾向と異なる(中核がごちゃつく=815は花見宴会の歌。宴歌は1巻で最低の配置にある)。
 冒頭からわかるように、憶良と大伴は思想を一にしている。人麻呂を排除することも。異様に長い日記調の題詞も。
 ちなみに家持が主体的になる17巻以降は、16巻以前とうってかわって人麻呂が全く出てこない。一首も出てこない。
 だから憶良と家持は似た者同士。
 

 この巻は「山柿之門」(3969題詞)の山の一人、山上憶良が人麻呂の死後その歌集を乗っ取った。そういう万葉全体の配置。
 令和とあえてこの5巻から引用した発想もこれ。万葉集の内実などどうでもいい。その名前さえあれば何でもいい。
 花見の会で紹介できるようなのがいいですねでそうなったか、余裕の花見宴会に統治の象徴性を見出したかのかもしれない。
 

 このような暴挙を受け、この巻以降もう一人の山の山部赤人がそれを押し留め、中核に人麻呂歌集を厚く配置する。
 山に山上憶良の意味はないならそれでいい。確かに実質はそうである。しかし5巻でいきなり憶良が主体になる説明はこれしかありえない。
 だから一般の見解により憶良は破門されている。というのも、貫之も定家も完全に無視しているからである。
 万葉集は万侶集、人麻呂集なのに私物化したから。古事記の太安万侶。安万侶こそ万葉の柿本人麻呂の本名。
 万侶=人麻呂(形)。卑官、歌物語、相応の影響力、没723と724。よって、万葉の編纂者は人麻呂及び、その精神を受けた赤人のみである。
 

 したがって、5巻は万葉の精神と相容れない。
 当然、家持はもっと相容れない。人麻呂を直接否定し(3969題詞)、自身は冒頭にみだりに入り込みながら、17巻以降人麻呂を完全排除しているから。
 万葉集は古事記の安万侶集。万葉1・2で古事記の続編性を示し、2巻冒頭で古事記(衣通姫の歌)を引用し、16巻最後に乞食者がいる(赤人による追悼)。
 それを特別視しているのが、貫之の仮名序である。それを受けて和歌三神(人麻呂・赤人・衣通姫)。
 

第五巻 目次と配置(793~906:114首)
雑歌(114首)
    793
大宰帥大伴卿
794
山上憶良
795
憶良
796
憶良
797
憶良
798
憶良
799
憶良
800
憶良
 
 
801
憶良
802
憶良
803
憶良
804
憶良
805
憶良
806
大宰帥大伴卿
807
大宰帥大伴卿
808
大宰帥大伴卿
809
大宰帥大伴卿
810
大伴淡等
811
大伴淡等
812
藤原房前
813
建部牛麻呂?
814
建部牛麻呂?
815
大貳紀卿
816
少貳小野大夫
817
少貳粟田大夫
818
筑前守山上大夫
819
豊後守大伴大夫
820
筑後守葛井大夫
821
笠沙弥 
822
主人
 
823
大伴百代
824
小監阿氏奥嶋
825
小監土氏百村
826
大典史氏大原
827
小典山氏若麻呂
828
大判事丹氏麻呂
829
藥師張氏福子
830
筑前介佐氏子首
831
壹岐守板氏安麻呂
832
神司荒氏稲布
833
大令史野氏宿奈麻呂
834
小令史田氏肥人
835
藥師高氏義通
836
陰陽師礒氏法麻呂
837
笇師志氏大道
838
大隅目榎氏鉢麻呂
839
筑前目田氏真上
840
壹岐目村氏彼方
841
對馬目高氏老
842
薩摩目高氏海人
843
土師氏御道
844
小野氏國堅
845
筑前拯門氏石足
846
小野氏淡理
847
大伴旅人?
848
大伴旅人?
849

 
850

 
851

 
852

 
853
大伴旅人?
854
大伴旅人?
855
蓬客等 
856
蓬客等 
857
蓬客等 
858
娘等
 
859
娘等
 
860
娘等
 
861
帥老
 
862
帥老
 
863
帥老
 
864
諸人
 
865
和松浦仙媛
866
吉田宜?
867
吉田宜?
868
憶良
869
憶良
870
憶良
871
872
873
874
875
876
877
878
879
880
憶良
881
憶良
882
憶良
883
三嶋王
884
麻田陽春
885
麻田陽春
886
憶良
887
憶良
888
憶良
889
憶良
890
憶良
891
憶良
892
憶良
893
憶良
894
憶良
895
憶良
896
憶良
897
憶良
898
憶良?
899
憶良?
900
憶良?
 
 
901
憶良?
902
憶良?
903
憶良?
904
905
906
       
 
※貧窮問答歌:892

 
 

第五巻

   
 

雜歌

   
   05/0793
題詞 雜歌 / <大>宰帥大伴卿報凶問歌一首 / 禍故重疊 凶問累集 永懐崩心之悲 獨流断腸之泣 但依兩君大助傾命纔継耳 [筆不盡言 古今所歎]
題訓 雑歌くさぐさのうた
太宰帥おほみこともちのかみ大伴の卿まへつきみの凶問に報へたまふ歌一首ひとつ、また序
禍故重畳かさなり、凶問累しきりに集まる。永ひたぶるに心を崩す悲しみを懐き、独り腸を断つ泣なみだを流す。但両君の大助に依りて傾命纔わづかに継ぐのみ。筆言を尽さず。古今歎く所なり。
原文 余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理
訓読 世間は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり
仮名 よのなかは むなしきものと しるときし いよよますます かなしかりけり
左注 神龜五年六月二十三日
左注訓 神亀じむき五年いつとせといふとし六月みなつきの二十三日はつかまりみかのひ。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太→大 [紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:大伴旅人 哀悼 無常 仏教 太宰府 福岡 地名 神亀5年6月23日 年紀
訓異  
   
  05/0794
題詞 盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠<競>走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖偕老違於要期 獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 / 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来厭離此穢土 本願託生彼浄刹 / 日本挽歌一首
題訓 筑前守つくしのみちのくちのかみ山上臣憶良やまのへのおみおくらが亡みまかれる妻めを悲傷かなしめる詩からうた一首、また序
盖し聞く、四生の起滅は、夢に方あたりて皆空なり。三界の漂流は、環の息まざるに喩ふ。所以に維摩大士は方丈に在りて、疾に染む患うれひを懐くこと有り。釋迦能仁は双林に坐し、泥ないオンの苦を免るること無しと。故に知る、二聖至極すら、力負の尋つぎて至るを払ふこと能はず。三千世界、誰か能く黒闇の捜り来たるを逃れむ。二鼠にそ競ひ走りて、目を度わたる鳥旦あしたに飛び、四蛇争ひ侵して、隙を過ぐる駒夕に走る。嗟乎ああ痛きかな。紅顏三従と共に長逝し、素質四徳と与ともに永滅す。何そ図らむ、偕老要期に違ひ、独飛半路に生ぜむとは。蘭室の屏風徒らに張り、断腸の哀しみ弥よ痛し。枕頭の明鏡空しく懸かり、染ヰンの涙逾よ落つ。泉門一掩すれば、再見に由無し。嗚呼哀しきかな。
 愛河の波浪已く先づ滅び  苦海の煩悩また結ぶこと無し  従来此の穢土を厭離す 本願生を彼の浄刹に託せむ
日本挽歌かなしみのやまとうた一首、また短歌みじかうた
原文 大王能 等保乃朝廷等 斯良農比 筑紫國尓 泣子那須 斯多比枳摩斯提 伊企陀<尓>母 伊摩陀夜周米受 年月母 伊摩他阿良祢婆 許々呂由母 於母波奴阿比陀尓 宇知那i枳 許夜斯努礼 伊波牟須弊 世武須弊斯良尓 石木乎母 刀比佐氣斯良受 伊弊那良婆 迦多知波阿良牟乎 宇良賣斯企 伊毛乃美許等能 阿礼乎婆母 伊可尓世与等可 尓保鳥能 布多利那良i為 加多良比斯 許々呂曽牟企弖 伊弊社可利伊摩須
訓読 大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国に 泣く子なす 慕ひ来まして 息だにも いまだ休めず 年月も いまだあらねば 心ゆも 思はぬ間に うち靡き 臥やしぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに 岩木をも 問ひ放け知らず 家ならば 形はあらむを 恨めしき 妹の命の 我れをばも いかにせよとか にほ鳥の ふたり並び居 語らひし 心背きて 家離りいます
仮名 おほきみの とほのみかどと しらぬひ つくしのくにに なくこなす したひきまして いきだにも いまだやすめず としつきも いまだあらねば こころゆも おもはぬあひだに うちなびき こやしぬれ いはむすべ せむすべしらに いはきをも とひさけしらず いへならば かたちはあらむを うらめしき いものみことの あれをばも いかにせよとか にほどりの ふたりならびゐ かたらひし こころそむきて いへざかりいます
左注 (神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上
校異 于 [紀][細] 乎 / <>→競 [西(右書)][紀][細] / 歌 [西] 謌 / <>→尓 [西(右書)][紀][細]
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 枕詞 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 とほのみかどと;とほのみかとと, しらぬひ;しらぬひの, いきだにも;いきたにも, いまだやすめず;いまたやすめす, いまだあらねば;いまたあらねは, おもはぬあひだに;おもはぬあひたに, うちなびき;うちなひき, いはむすべ;いはむすへ, せむすべしらに;せむすへしらに, とひさけしらず;とひさけしらす, いへならば;いへならは, あれをばも;あれをはも, にほどりの;にほとりの, ふたりならびゐ;ふたりならひゐ, いへざかりいます;いへさかりいます, 
   
  05/0795
題詞 (0794参照 / 日本挽歌一首)反歌
題訓 反し歌
原文 伊弊尓由伎弖 伊可尓可阿我世武 摩久良豆久 都摩夜左夫斯久 於母保由倍斯母
訓読 家に行きていかにか我がせむ枕付く妻屋寂しく思ほゆべしも
仮名 いへにゆきて いかにかあがせむ まくらづく つまやさぶしく おもほゆべしも
左注 (神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 いかにかあがせむ;いかにかあかせむ, まくらづく;まくらつく, つまやさぶしく;つまやさふしく, おもほゆべしも;おもほゆへしも, 
   
  05/0796
題詞 ((0794参照 / 日本挽歌一首)反歌)
原文 伴之伎与之 加久乃未可良尓 之多比己之 伊毛我己許呂乃 須別毛須別那左
訓読 はしきよしかくのみからに慕ひ来し妹が心のすべもすべなさ
仮名 はしきよし かくのみからに したひこし いもがこころの すべもすべなさ
左注 (神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 いもがこころの;いもかこころの, すべもすべなさ;すへもすへなさ, 
   
  05/0797
題詞 ((0794参照 / 日本挽歌一首)反歌)
原文 久夜斯可母 可久斯良摩世婆 阿乎尓与斯 久奴知許等其等 美世摩斯母乃乎
訓読 悔しかもかく知らませばあをによし国内ことごと見せましものを
仮名 くやしかも かくしらませば あをによし くぬちことごと みせましものを
左注 (神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 かくしらませば;かくしらませは, くぬちことごと;くぬちことこと, 
   
  05/0798
題詞 ((0794参照 / 日本挽歌一首)反歌)
原文 伊毛何美斯 阿布知乃波那波 知利奴倍斯 和何那久那美多 伊摩陀飛那久尓
訓読 妹が見し楝の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干なくに
仮名 いもがみし あふちのはなは ちりぬべし わがなくなみた いまだひなくに
左注 (神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 いもがみし;いもかみし, ちりぬべし;ちりぬへし, わがなくなみた;わかなくなみた, いまだひなくに;いまたひなくに, 
   
  05/0799
題詞 ((0794参照 / 日本挽歌一首)反歌)
原文 大野山 紀利多知<和>多流 和何那宜久 於伎蘇乃可是尓 紀利多知和多流
訓読 大野山霧立ちわたる我が嘆くおきその風に霧立ちわたる
仮名 おほのやま きりたちわたる わがなげく おきそのかぜに きりたちわたる
左注 神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上
左注訓 神亀五年七月ふみつきの二十一日はつかまりひとひ、筑前国つくしのみちのくちのくにの守かみ山上憶良上たてまつる。
校異 <>→和 [西(右書)][類][紀]
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 わがなげく;わかなけく, おきそのかぜに;おきそのかせに, 
   
  05/0800
題詞 令反<或>情歌一首[并序]
題訓 惑へる情こころを反かへさしむる歌一首、また序
或る人、父母敬はずして、侍養を忘れ、妻子を顧みざること脱履よりも軽し。自ら異俗先生せむじやうと称る。意気青雲の上に揚がると雖も、身体は猶塵俗の中に在り。未だ修行得道の聖を験しらず。蓋し是山沢に亡命する民なり。所以かれ三綱を指示しめして、更に五教を開く。遣るに歌を以て、其の惑ひを反さしむ。その歌に曰く、
原文 父母乎 美礼婆多布斗斯 妻子見礼婆 米具斯宇都久志 余能奈迦波 加久叙許等和理 母<智>騰利乃 可可良波志母与 由久弊斯良祢婆 宇既具都遠 奴伎都流其等久 布美奴伎提 由久智布比等波 伊波紀欲利 奈利提志比等迦 奈何名能良佐祢 阿米弊由迦婆 奈何麻尓麻尓 都智奈良婆 大王伊摩周 許能提羅周 日月能斯多波 雨麻久毛能 牟迦夫周伎波美 多尓具久能 佐和多流伎波美 企許斯遠周 久尓能麻保良叙 可尓迦久尓 保志伎麻尓麻尓 斯可尓波阿羅慈迦
訓読 父母を 見れば貴し 妻子見れば めぐし愛し 世間は かくぞことわり もち鳥の かからはしもよ ゆくへ知らねば 穿沓を 脱き棄るごとく 踏み脱きて 行くちふ人は 石木より なり出し人か 汝が名告らさね 天へ行かば 汝がまにまに 地ならば 大君います この照らす 日月の下は 天雲の 向伏す極み たにぐくの さ渡る極み 聞こし食す 国のまほらぞ かにかくに 欲しきまにまに しかにはあらじか
仮名 ちちははを みればたふとし めこみれば めぐしうつくし よのなかは かくぞことわり もちどりの かからはしもよ ゆくへしらねば うけぐつを ぬきつるごとく ふみぬきて ゆくちふひとは いはきより なりでしひとか ながなのらさね あめへゆかば ながまにまに つちならば おほきみいます このてらす ひつきのしたは あまくもの むかぶすきはみ たにぐくの さわたるきはみ きこしをす くにのまほらぞ かにかくに ほしきまにまに しかにはあらじか
左注 (神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)
校異 惑→或 [紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 畏→倍 [紀] / 歌令 [西] 謌令 [西(訂正)] 歌令 / 惑→或 [紀][細] / <>→智 [西(右書)][紀][細] / 可可 [紀][細][温] 可々
事項 作者:山上憶良 国司 逃亡民 儒教 教喩 道教 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 みればたふとし;みれはたふとし, めこみれば;めこみれは, めぐしうつくし;めくしうつくし, かくぞことわり;かくそことわり, もちどりの;もちとりの, ゆくへしらねば;ゆくへしらねは, うけぐつを;うきくつを, ぬきつるごとく;ぬきつることく, なりでしひとか;なりてしひとか, ながなのらさね;なかなのらさね, あめへゆかば;あめへゆかは, ながまにまに;なかまにまに, つちならば;つちならは, むかぶすきはみ;むかふすきはみ, たにぐくの;たにくくの, くにのまほらぞ;くにのまほらそ, しかにはあらじか;しかにはあらしか, 
   
  05/0801
題詞 (令反<或>情歌一首[并序]
題訓 反し歌
原文 比佐迦多能 阿麻遅波等保斯 奈保<々々>尓 伊弊尓可弊利提 奈利乎斯麻佐尓
訓読 ひさかたの天道は遠しなほなほに家に帰りて業を為まさに
仮名 ひさかたの あまぢはとほし なほなほに いへにかへりて なりをしまさに
左注 (神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 奈保→々々 [類][紀][細]
事項 作者:山上憶良 国司 逃亡民 儒教 教喩 道教 福岡 枕詞 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 あまぢはとほし;あまちはとほし, 
   
  05/0802
題詞 思子等歌一首[并序]
題訓 子等を思しぬふ歌一首、また序
釋迦如来金口こんく正に説きたまへらく、等しく衆生を思ふこと、羅ゴ羅の如しとのたまへり。又説きたまへらく、愛は子に過ぐること無しとのたまへり。至極の大聖すら、子を愛うつくしむ心有り。況乎まして世間の蒼生あをひとぐさ、誰か子を愛まざる。
原文 宇利<波><米婆> 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯提斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尓 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農
訓読 瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ いづくより 来りしものぞ まなかひに もとなかかりて 安寐し寝さぬ
仮名 うりはめば こどもおもほゆ くりはめば ましてしぬはゆ いづくより きたりしものぞ まなかひに もとなかかりて やすいしなさぬ
左注 (神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 婆→波 [紀][細][温] / <>→米婆 [西(右書)][紀][細]
事項 作者:山上憶良 愛子 仏教 福岡 子供 植物 神亀5年7月21日 年紀 地名
訓異 うりはめば;うりはめは, こどもおもほゆ;こともおもほゆ, くりはめば;くりはめは, ましてしぬはゆ;ましてしのはゆ, いづくより;いつくより, きたりしものぞ;きたりしものそ, 
   
  05/0803
題詞 (思子等歌一首[并序]
原文 銀母 金母玉母 奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米夜母
訓読 銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも
仮名 しろかねも くがねもたまも なにせむに まされるたから こにしかめやも
左注 (神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:山上憶良 愛子 仏教 福岡 子供 神亀5年7月21日 年紀 地名
訓異 くがねもたまも;くかねもたまも, 
   
  05/0804
題詞 哀世間難住歌一首[并序]
題訓 世間よのなかの住とどまり難きを哀しめる歌一首、また序
集め易く排し難し、八大辛苦。遂げ難く尽し易し、百年の賞楽。古人の歎きし所、今また及ぶ。所以因かれ一章の歌を作みて、以て二毛の歎きを撥のぞく。其の歌に曰く、
原文 世間能 周弊奈伎物能波 年月波 奈何流々其等斯 等利都々伎 意比久留<母>能波 毛々久佐尓 勢米余利伎多流 遠等咩良何 遠等咩佐備周等 可羅多麻乎 多母等尓麻可志 [或有此句云 之路多倍乃 袖布利可伴之 久礼奈為乃 阿可毛須蘇i伎] 余知古良等 手多豆佐波利提 阿蘇比家武 等伎能佐迦利乎 等々尾迦祢 周具斯野利都礼 美奈乃和多 迦具漏伎可美尓 伊都乃麻可 斯毛乃布利家武 久礼奈為能 [一云 尓能保奈須] 意母提乃宇倍尓 伊豆久由可 斯和何伎多利斯 [一云 都祢奈利之 恵麻比麻欲i伎 散久伴奈能 宇都呂比<尓>家利 余乃奈可伴 可久乃未奈良之] 麻周羅遠乃 遠刀古佐備周等 都流伎多智 許志尓刀利波枳 佐都由美乎 多尓伎利物知提 阿迦胡麻尓 志都久良宇知意伎 波比能利提 阿蘇比阿留伎斯 余乃奈迦野 都祢尓阿利家留 遠等咩良何 佐那周伊多斗乎 意斯比良伎 伊多度利与利提 麻<多麻>提乃 多麻提佐斯迦閇 佐祢斯欲能 伊久陀母阿羅祢婆 多都可豆<恵> 許志尓多何祢提 可由既婆 比等尓伊等波延 可久由既婆 比等尓邇久<麻>延 意余斯遠波 迦久能尾奈良志 多麻枳<波>流 伊能知遠志家騰 世武周弊母奈新
訓読 世間の すべなきものは 年月は 流るるごとし とり続き 追ひ来るものは 百種に 迫め寄り来る 娘子らが 娘子さびすと 唐玉を 手本に巻かし [白妙の 袖振り交はし 紅の 赤裳裾引き] よち子らと 手携はりて 遊びけむ 時の盛りを 留みかね 過ぐしやりつれ 蜷の腸 か黒き髪に いつの間か 霜の降りけむ 紅の [丹のほなす] 面の上に いづくゆか 皺が来りし [常なりし 笑まひ眉引き 咲く花の 移ろひにけり 世間は かくのみならし] ますらをの 男さびすと 剣太刀 腰に取り佩き さつ弓を 手握り持ちて 赤駒に 倭文鞍うち置き 這ひ乗りて 遊び歩きし 世間や 常にありける 娘子らが さ寝す板戸を 押し開き い辿り寄りて 真玉手の 玉手さし交へ さ寝し夜の いくだもあらねば 手束杖 腰にたがねて か行けば 人に厭はえ かく行けば 人に憎まえ 老よし男は かくのみならし たまきはる 命惜しけど 為むすべもなし
仮名 よのなかの すべなきものは としつきは ながるるごとし とりつつき おひくるものは ももくさに せめよりきたる をとめらが をとめさびすと からたまを たもとにまかし [しろたへの そでふりかはし くれなゐの あかもすそひき] よちこらと てたづさはりて あそびけむ ときのさかりを とどみかね すぐしやりつれ みなのわた かぐろきかみに いつのまか しものふりけむ くれなゐの [にのほなす] おもてのうへに いづくゆか しわがきたりし [つねなりし ゑまひまよびき さくはなの うつろひにけり よのなかは かくのみならし] ますらをの をとこさびすと つるぎたち こしにとりはき さつゆみを たにぎりもちて あかごまに しつくらうちおき はひのりて あそびあるきし よのなかや つねにありける をとめらが さなすいたとを おしひらき いたどりよりて またまでの たまでさしかへ さねしよの いくだもあらねば たつかづゑ こしにたがねて かゆけば ひとにいとはえ かくゆけば ひとににくまえ およしをは かくのみならし たまきはる いのちをしけど せむすべもなし
左注 (神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 / <>→母 [西(右書)][紀][細] / <>→尓 [西(右書)][紀][細] / <>→多麻 [西(右書)][細][温] / 慧→恵 [紀][細] / 可 [西(右書)][矢][京] 可久 / <>→麻 [西(右書)][紀][細] / 麻 [紀][細](塙) 摩 / 婆→波 [細][温]
事項 作者:山上憶良 仏教 無常 福岡 神亀5年7月21日 年紀 地名
訓異 すべなきものは;すへなきものは, ながるるごとし;なかるることし, をとめらが;をとめらか, をとめさびすと;をとめさひすと, [しろたへの, そでふりかはし, くれなゐの, あかもすそひき], てたづさはりて;てたつさはりて, あそびけむ;あそひけむ, とどみかね;ととみかね, すぐしやりつれ;すくしやりつれ, かぐろきかみに;かくろきかみに, くれなゐの;くれなゐを, [にのほなす], いづくゆか;いつくゆか, しわがきたりし;しわかきたりし, [つねなりし, ゑまひまよびき, さくはなの, うつろひにけり, よのなかは, かくのみならし], をとこさびすと;をとこさひすと, つるぎたち;つるきたち, たにぎりもちて;たにきりもちて, あかごまに;あかこまに, あそびあるきし;あそひあるきし, よのなかや;よのなかの, をとめらが;をとめらか, いたどりよりて;いたとりよりて, またまでの;またまての, たまでさしかへ;たまてさしかへ, いくだもあらねば;いくたもあらねは, たつかづゑ;たつかつゑ, こしにたがねて;こしにたかねて, かゆけば;かくゆきは, かくゆけば;かくゆきは, いのちをしけど;いのちをしけと, せむすべもなし;せむすへもなし, 
   
  05/0805
題詞 (哀世間難住歌一首[并序]
題訓 反し歌
原文 等伎波奈周 <迦>久斯母何母等 意母閇騰母 余能許等奈礼婆 等登尾可祢都母
訓読 常磐なすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも
仮名 ときはなす かくしもがもと おもへども よのことなれば とどみかねつも
左注 神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良
左注訓 神亀五年七月の二十一日、嘉摩かまの郡にて撰定えらぶ。 筑前国守山上憶良。
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 加→迦 [類][紀][温]
事項 作者:山上憶良 仏教 無常 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀
訓異 かくしもがもと;かくしもと, おもへども;おもへとも, よのことなれば;よのことなれは, とどみかねつも;ととみをかねつつも, 
   
  05/0806
題詞 伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿]
題訓 太宰帥大伴の卿の相聞歌したしみうた二首
〔脱文〕
歌詞両首 太宰帥大伴卿
原文 多都能馬母 伊麻勿愛弖之可 阿遠尓与志 奈良乃美夜古尓 由吉帝己牟丹米
訓読 龍の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来むため
仮名 たつのまも いまもえてしか あをによし ならのみやこに ゆきてこむため
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太→大 [細][温]
事項 作者:大伴旅人 書簡 枕詞 望郷 恋情 贈答
訓異  
   
  05/0807
題詞 (伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿])
原文 宇豆都仁波 安布余志勿奈子 奴<婆>多麻能 用流能伊昧仁越 都伎提美延許曽
訓読 うつつには逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
仮名 うつつには あふよしもなし ぬばたまの よるのいめにを つぎてみえこそ
左注 なし
左注訓 大伴淡等たびと謹状。
校異 波→婆 [類][古][紀]
事項 作者:大伴旅人 書簡 夢 恋情 贈答
訓異 うつつには, あふよしもなし, ぬばたまの, よるのいめにを, つぎてみえこそ
   
  05/0808
題詞 (伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿]) / 答歌二首
題訓 官氏報ふる歌二首
伏して来書を辱かたじけなくす。具つぶさに芳旨を承る。忽ち漢を隔つる恋を成し、復た梁を抱く意を傷む。唯羨ともしくは、去留恙無く、遂に雲を披ひらかむことを待つのみ。 答ふる歌二首
原文 多都乃麻乎 阿礼波毛等米牟 阿遠尓与志 奈良乃美夜古邇 許牟比等乃多仁
訓読 龍の馬を我れは求めむあをによし奈良の都に来む人のたに
仮名 たつのまを あれはもとめむ あをによし ならのみやこに こむひとのたに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 仁 [紀] 米
事項 作者:大伴旅人 書簡 枕詞 贈答
訓異  
   
  05/0809
題詞 ((伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿]) / 答歌二首)
原文 多陀尓阿波須 阿良久毛於保久 志岐多閇乃 麻久良佐良受提 伊米尓之美延牟
訓読 直に逢はずあらくも多く敷栲の枕去らずて夢にし見えむ
仮名 ただにあはず あらくもおほく しきたへの まくらさらずて いめにしみえむ
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 書簡 枕詞 夢 贈答
訓異 ただにあはず;たたにあはす, まくらさらずて;まくらさらすて, 
   
  05/0810
題詞 大伴淡等謹状 / 梧桐日本琴一面 [對馬結石山孫枝] / 此琴夢化娘子曰 余託根遥嶋之崇<巒> 晞o九陽之休光 長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間 唯恐 百年之後空朽溝壑 偶遭良匠散為小琴不顧質麁音少 恒希君子左琴 即歌曰
題訓 姓名謹状。 帥かみ大伴の卿の梧桐きりの日本琴やまとことを中衛大将なかのまもりのつかさのかみ藤原の卿に贈りたまへる歌二首
梧桐の日本琴一面ひとつ 對馬ノ結石山ノ孫枝ナリ
此の琴、夢に娘子に化なりて曰けらく、「余われ根を遥島の崇巒すうれむに託よせ、幹からを九陽くやうの休光に晞さらす。長く烟霞を帯びて、山川の阿くまに逍遥す。遠く風波を望みて、雁木の間に出入りす。唯百年の後、空しく溝壑こうがくに朽ちなむことを恐れき。偶たまたま長匠に遭ひて、散りて小琴と為りき。質麁あらく音少きを顧みず、恒に君子うまひとの左琴とならむことを希ふ」といひて、即ち歌ひけらく、
原文 伊可尓安良武 日能等伎尓可母 許恵之良武 比等能比射乃倍 和我麻久良可武
訓読 いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ
仮名 いかにあらむ ひのときにかも こゑしらむ ひとのひざのへ わがまくらかむ
左注 なし
校異 蠻→巒 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:大伴旅人 創作 藤原房前 贈り物 老荘 朝隠 書簡 対馬 琴賦 天平1年10月7日 年紀
訓異 ひとのひざのへ;ひとのひさのへ, わがまくらかむ;わかまくらせむ, 
   
  05/0811
題詞 (大伴淡等謹状 / 梧桐日本琴一面 [對馬結石山孫枝] / 此琴夢化娘子曰 余託根遥嶋之崇<巒> 晞o九陽之休光 長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間 唯恐 百年之後空朽溝壑 偶遭良匠散為小琴不顧質麁音少 恒希君子左琴 即歌曰)僕報詩詠曰
題訓 僕われその詩詠うたに報こたへけらく、
原文 許等々波奴 樹尓波安里等母 宇流波之吉 伎美我手奈礼能 許等尓之安流倍志
訓読 言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし
仮名 こととはぬ きにはありとも うるはしき きみがたなれの ことにしあるべし
左注 琴娘子答曰 / 敬奉徳音 幸甚々々 片事覺 即感於夢言慨然不得止黙 故附公使聊以進御耳 [謹状不具] / 天平元年十月七日附使進上 / 謹通 中衛高明閤下 謹空
左注訓 琴の娘子が答曰いへらく、
「敬みて徳音を奉うけたまはる。幸甚幸甚」といへり。片時にして覚めたり。即ち夢の言に感かまけ、慨然として黙止もだり得ず。故かれ公使おほやけつかひに附けて、聊か進御たてまつるのみ。 謹状不具
天平てんびやう元年十月の七日、使に附けて進上たてまつる。
謹みて中衛高明閤下に通たてまつる 謹空。
校異 止黙 [矢][京] 黙止
事項 作者:大伴旅人 創作 藤原房前 贈り物 老荘 朝隠 書簡 対馬 天平1年10月7日 年紀
訓異 きみがたなれの;きみかたなれの, ことにしあるべし;ことにしあるへし, 
   
  05/0812
題詞 跪承芳音 嘉懽交深 乃知 龍門之恩復厚蓬身之上 戀望殊念常心百倍 謹和白雲之什以奏野鄙之歌 房前謹状
題訓 中衛大将藤原の卿の報へたまふ歌一首
跪きて芳音を承はる。嘉懽交こもごも深し。乃ち龍門の恩復た蓬身の上に厚きことを知りぬ。恋望殊念、常心に百倍す。謹みて白雲の什に和へて、野鄙の歌を奏たてまつる。房前謹状。
原文 許等騰波奴 紀尓茂安理等毛 和何世古我 多那礼之美巨騰 都地尓意加米移母
訓読 言とはぬ木にもありとも我が背子が手馴れの御琴地に置かめやも
仮名 こととはぬ きにもありとも わがせこが たなれのみこと つちにおかめやも
左注 謹通 尊門 [記室]
左注訓 十一月八日、還る使大監おほきまつりごとひとに附けて、謹みて尊門記室に通たてまつる。
校異 閤 [紀] 閣 / 空 [西(訂正)] 言 / 歌 [西] 謌
事項 作者:藤原房前 大伴旅人 書簡 天平1年11月8日 年紀
訓異 わがせこが;わかせこか, つちにおかめやも;つちにおかめいも, 
   
  05/0813
題詞 筑前國怡土郡深江村子負原 臨海丘上有二石 大者長一尺二寸六分 圍一尺八寸六分 重十八斤五兩 小者長一尺一寸 圍一尺八寸 重十六斤十兩 並皆堕圓状如鷄子 其美好者不可勝論 所謂p尺璧是也 [或云 此二石者肥前國彼杵郡平敷之石 當占而取之] 去深江驛家二十許里近在路頭 公私徃来 莫不下馬跪拜 古老相傳曰 徃者息長足日女命征討新羅國之時 用茲兩石挿著御袖之中以為鎮懐 [實是御裳中矣] 所以行人敬拜此石 乃作歌曰
題訓 山上臣憶良が鎮懐石を詠める歌一首、また短歌
筑前国怡土郡いとのこほり深江村ふかえのむら子負原こふのはら、海に臨そひたる丘の上に二の石有り。大きなるは長さ一尺ひとさかまり二寸ふたき六分むきだ、囲うだき一尺八寸やき六分、重さ十八斤とをまりむはかり五両いつころ。小さきは長さ一尺一寸、囲き一尺八寸、重さ十六斤十両。並皆みな楕円にして状鶏の子の如し。其の美好うるはしきこと、勝あへて論ふベからず。所謂径尺璧これなり 或は云く、此の二の石は肥前国彼杵郡平敷の石にして、占に当りて取ると。深江の駅家を去ること二十許里はたさとばかり、近く路頭在り。公私の往来、馬より下りて跪拝をろがまざるは莫し。古老相伝へて曰く、往者いにしへ息長足日女おきながたらしひめの命、新羅の国を征討ことむけたまひし時、茲の両の石を用もちて御袖の中に挿著さしはさみたまひて、以て鎮懐と為したまふと 実はこれ御裳の中なり。所以かれ行人みちゆきひと此の石を敬拝すといへり。乃ち歌よみすらく、
原文 可既麻久波 阿夜尓可斯故斯 多良志比咩 可尾能弥許等 可良久尓遠 武氣多比良宜弖 弥許々呂遠 斯豆迷多麻布等 伊刀良斯弖 伊波比多麻比斯 麻多麻奈須 布多都能伊斯乎 世人尓 斯咩斯多麻比弖 余呂豆余尓 伊比都具可祢等 和多能曽許 意枳都布可延乃 宇奈可美乃 故布乃波良尓 美弖豆可良 意可志多麻比弖 可武奈何良 可武佐備伊麻須 久志美多麻 伊麻能遠都豆尓 多布刀伎呂可儛
訓読 かけまくは あやに畏し 足日女 神の命 韓国を 向け平らげて 御心を 鎮めたまふと い取らして 斎ひたまひし 真玉なす 二つの石を 世の人に 示したまひて 万代に 言ひ継ぐかねと 海の底 沖つ深江の 海上の 子負の原に 御手づから 置かしたまひて 神ながら 神さびいます 奇し御魂 今のをつづに 貴きろかむ
仮名 かけまくは あやにかしこし たらしひめ かみのみこと からくにを むけたひらげて みこころを しづめたまふと いとらして いはひたまひし またまなす ふたつのいしを よのひとに しめしたまひて よろづよに いひつぐかねと わたのそこ おきつふかえの うなかみの こふのはらに みてづから おかしたまひて かむながら かむさびいます くしみたま いまのをつづに たふときろかむ
左注 (右事傳言那珂<郡>伊知郷蓑嶋人建部牛麻呂是也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:山上憶良 伝説 鎮懐石 神功皇后 福岡 古事記 地名
訓異 むけたひらげて;むけたひらけて, しづめたまふと;しつめたまふと, よろづよに;よろつよに, いひつぐかねと;いひつくかねと, みてづから;みてつから, かむながら;かむなから, かむさびいます;かむさひいます, いまのをつづに;いまのおつつに, たふときろかむ;たふときろかも, 
   
  05/0814
題詞 (0813)
原文 阿米都知能 等母尓比佐斯久 伊比都夏等 許能久斯美多麻 志可志家良斯母
訓読 天地のともに久しく言ひ継げとこの奇し御魂敷かしけらしも
仮名 あめつちの ともにひさしく いひつげと このくしみたま しかしけらしも
左注 右事傳言那珂<郡>伊知郷蓑嶋人建部牛麻呂是也
左注訓 右ノ事伝ヘ言フハ、那珂郡伊知郷蓑島ノ人、 建部牛麻呂タテベノウシマロナリ。
校異 <>→郡 [西(右書)][紀][細][温]
事項 作者:山上憶良 伝説 鎮懐石 神功皇后 福岡 古事記 地名
訓異 いひつげと;いひつけと, 
   
  05/0815
題詞 梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春月 氣淑風梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠
題訓 太宰帥大伴の卿の宅に宴してよめる梅の花の歌三十二首みそぢまりふたつ、また序
天平二年ふたとせといふとし正月むつきの十三日とをかまりみかのひ、帥かみの老おきなの宅いへに萃つどひて、宴会を申のぶ。時に初春の月、気淑く風ぐ。梅は鏡前の粉を披ひらき、蘭は珮後の香を薫らす。加以しかのみにあらず曙は嶺に雲を移し、松は羅うすきぬを掛けて盖きぬかさを傾け、夕岫せきしふに霧を結び、鳥はうすものに封こもりて林に迷ふ。庭には舞ふ新蝶あり、空には帰る故雁あり。是に天を盖にし地を坐しきゐにして、膝を促して觴さかづきを飛ばし、言を一室の裏うちに忘れ、衿を煙霞の外に開き、淡然として自放に、快然として自ら足れり。若し翰苑にあらずは、何を以てか情こころをのベむ。請ひて落梅の篇を紀しるさむと。古今それ何ぞ異ならむ。園梅を賦し、聊か短詠みじかうたを成よむベし。
原文 武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎<岐>都々 多努之岐乎倍米[大貳紀卿]
訓読 正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ[大貳紀卿]
仮名 むつきたち はるのきたらば かくしこそ うめををきつつ たのしきをへめ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 役→促 [矢][京] / 詩 [細](塙) 請 / 利→岐 [紀][細]
事項 梅花宴 作者:紀男人 琴歌譜 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 地名 植物 宴席
訓異 はるのきたらば;はるのきたらは, うめををきつつ;うめをおりつつ, 
   
  05/0816
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛[少貳小野大夫]
訓読 梅の花今咲けるごと散り過ぎず我が家の園にありこせぬかも[少貳小野大夫]
仮名 うめのはな いまさけるごと ちりすぎず わがへのそのに ありこせぬかも
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:小野老 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 いまさけるごと;いまさけること, ちりすぎず;ちりすきす, わがへのそのに;わかへのそのに, 
   
  05/0817
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 佐吉多流僧能々 阿遠也疑波 可豆良尓須倍久 奈利尓家良受夜[少貳粟田大夫]
訓読 梅の花咲きたる園の青柳は蘰にすべくなりにけらずや[少貳粟田大夫]
仮名 うめのはな さきたるそのの あをやぎは かづらにすべく なりにけらずや
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:粟田人上 必登 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 あをやぎは;あをやきは, かづらにすべく;かつらにすへく, なりにけらずや;なりにけらすや, 
   
  05/0818
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武[筑前守山上大夫]
訓読 春さればまづ咲くやどの梅の花独り見つつや春日暮らさむ[筑前守山上大夫]
仮名 はるされば まづさくやどの うめのはな ひとりみつつや はるひくらさむ
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:山上憶良 孤独 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 はるされば;はるされは, まづさくやどの;まつさくやとの, 
   
  05/0819
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 余能奈可波 古飛斯宜志恵夜 加久之阿良婆 烏梅能波奈尓母 奈良麻之勿能怨[豊後守大伴大夫]
訓読 世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にもならましものを[豊後守大伴大夫]
仮名 よのなかは こひしげしゑや かくしあらば うめのはなにも ならましものを
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:大伴三依 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 こひしげしゑや;こひしきしゑや, かくしあらば;かくしあらは, 
   
  05/0820
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 加射之尓斯弖奈 伊麻佐可利奈理[筑後守葛井大夫]
訓読 梅の花今盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり[筑後守葛井大夫]
仮名 うめのはな いまさかりなり おもふどち かざしにしてな いまさかりなり
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:葛井大成 古歌謡 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 おもふどち;おもふとち, かざしにしてな;かさしにしてな, 
   
  05/0821
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 阿乎夜奈義 烏梅等能波奈乎 遠理可射之 能弥弖能々知波 知利奴得母與斯[笠沙弥]
訓読 青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし[笠沙弥]
仮名 あをやなぎ うめとのはなを をりかざし のみてののちは ちりぬともよし
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:沙弥満誓 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 あをやなぎ;あをやなき, をりかざし;をりかさし, 
   
  05/0822
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 和何則能尓 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母[主人]
訓読 我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも[主人]
仮名 わがそのに うめのはなちる ひさかたの あめよりゆきの ながれくるかも
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:大伴旅人 予祝 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 わがそのに;わかそのに, ながれくるかも;なかれくるかも, 
   
  05/0823
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都々[大監伴氏百代]
訓読 梅の花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ[大監伴氏百代]
仮名 うめのはな ちらくはいづく しかすがに このきのやまに ゆきはふりつつ
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:大伴百代 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 ちらくはいづく;ちらくはいつく, しかすがに;しかすかに, 
   
  05/0824
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃々 多氣乃波也之尓 <于>具比須奈久母[小監阿氏奥嶋]
訓読 梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも[小監阿氏奥嶋]
仮名 うめのはな ちらまくをしみ わがそのの たけのはやしに うぐひすなくも
左注 なし
校異 宇→于 [類][紀][温]
事項 梅花宴 作者:小監阿氏奥嶋 安倍 阿刀 阿曇 奥嶋 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 わがそのの;わかそのの, うぐひすなくも;うくひすなくも, 
   
  05/0825
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 佐岐多流曽能々 阿遠夜疑遠 加豆良尓志都々 阿素i久良佐奈[小監土氏百村]
訓読 梅の花咲きたる園の青柳を蘰にしつつ遊び暮らさな[小監土氏百村]
仮名 うめのはな さきたるそのの あをやぎを かづらにしつつ あそびくらさな
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:小監土氏百村 土師百村 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 あをやぎを;あをやきを, かづらにしつつ;かつらにしつつ, あそびくらさな;あそひくらさな, 
   
  05/0826
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 有知奈i久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可尓可和可武[大典史氏大原]
訓読 うち靡く春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか分かむ[大典史氏大原]
仮名 うちなびく はるのやなぎと わがやどの うめのはなとを いかにかわかむ
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:大典史氏大原 史大原 史部 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 うちなびく;うちなひく, はるのやなぎと;はるのやなきと, わがやどの;わかやとの, 
   
  05/0827
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓[小典山氏若麻呂]
訓読 春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に[小典山氏若麻呂]
仮名 はるされば こぬれがくりて うぐひすぞ なきていぬなる うめがしづえに
左注 なし
校異 利 [類][紀] 礼
事項 梅花宴 作者:小典山氏若麻呂 山口若麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物
訓異 はるされば;はるされは, こぬれがくりて;こぬれかくりて, うぐひすぞ;うくひすそ, うめがしづえに;うめかしつえに, 
   
  05/0828
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 比等期等尓 乎理加射之都々 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母[大判事<丹>氏麻呂]
訓読 人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも[大判事<丹>氏麻呂]
仮名 ひとごとに をりかざしつつ あそべども いやめづらしき うめのはなかも
左注 なし
校異 舟→丹 [類][紀][細]
事項 梅花宴 作者:大判事丹氏麻呂 丹治比 丹波 丹生 麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 ひとごとに;ひとことに, をりかざしつつ;をりかさしつつ, あそべども;あそへとも, いやめづらしき;いやめつらしき, 
   
  05/0829
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良<婆那> 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也[藥師張氏福子]
訓読 梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや[藥師張氏福子]
仮名 うめのはな さきてちりなば さくらばな つぎてさくべく なりにてあらずや
左注 なし
校異 波奈→婆那 [類][紀][細]
事項 梅花宴 作者:藥師張氏福子 張福子 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 さきてちりなば;さきてちりなは, さくらばな;くらはな, つぎてさくべく;つきてさくへく, なりにてあらずや;なりにてあらすや, 
   
  05/0830
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 萬世尓 得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子[筑前介佐氏子首]
訓読 万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし[筑前介佐氏子首]
仮名 よろづよに としはきふとも うめのはな たゆることなく さきわたるべし
左注 なし
校異 留 [細][温][矢] 流
事項 梅花宴 作者:筑前介佐氏子首 佐伯子首 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 よろづよに;よろつよに, としはきふとも;としはきのとも, さきわたるべし;さきわたるへし, 
   
  05/0831
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 烏梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母祢奈久尓[壹岐守板氏安麻呂]
訓読 春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに[壹岐守板氏安麻呂]
仮名 はるなれば うべもさきたる うめのはな きみをおもふと よいもねなくに
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:壹岐守板氏安麻呂 板持安麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 はるなれば;はるなれは, うべもさきたる;うへもさきたる, 
   
  05/0832
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 乎利弖加射世留 母呂比得波 家布能阿比太波 多努斯久阿流倍斯[神司荒氏稲布]
訓読 梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし[神司荒氏稲布]
仮名 うめのはな をりてかざせる もろひとは けふのあひだは たのしくあるべし
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:神司荒氏稲布 荒木田 荒木 荒田 新井田 稲布 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 をりてかざせる;をりてかさせる, けふのあひだは;けふのあひたは, たのしくあるべし;たのしくあるへし, 
   
  05/0833
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 得志能波尓 波流能伎多良婆 可久斯己曽 烏梅乎加射之弖 多<努>志久能麻米[大令史野氏宿奈麻呂]
訓読 年のはに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ[大令史野氏宿奈麻呂]
仮名 としのはに はるのきたらば かくしこそ うめをかざして たのしくのまめ
左注 なし
校異 弩→努 [類][紀][細]
事項 梅花宴 作者:大令史野氏宿奈麻呂 大野 小野 三野 宿奈麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 はるのきたらば;はるのきたらは, うめをかざして;うめをかさして, 
   
  05/0834
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利 毛々等利能 己恵能古保志枳 波流岐多流良斯[小令史田氏肥人]
訓読 梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来るらし[小令史田氏肥人]
仮名 うめのはな いまさかりなり ももとりの こゑのこほしき はるきたるらし
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:小令史田氏肥人 田口 田辺 太田 矢田 肥人 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 季節 動物
訓異  
   
  05/0835
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 波流佐良婆 阿波武等母比之 烏梅能波奈 家布能阿素i尓 阿比美都流可母[藥師高氏義通]
訓読 春さらば逢はむと思ひし梅の花今日の遊びに相見つるかも[藥師高氏義通]
仮名 はるさらば あはむともひし うめのはな けふのあそびに あひみつるかも
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:藥師高氏義通 高丘 高田 高橋 高向 高屋 高安 高 高麗 義道 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 はるさらば;はるさらは, けふのあそびに;けふのあそひに, 
   
  05/0836
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 多乎利加射志弖 阿蘇倍等母 阿岐太良奴比波 家布尓志阿利家利[陰陽師礒氏法麻呂]
訓読 梅の花手折りかざして遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり[陰陽師礒氏法麻呂]
仮名 うめのはな たをりかざして あそべども あきだらぬひは けふにしありけり
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:陰陽師礒氏法麻呂 磯部 法麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 たをりかざして;たをりかさして, あそべども;あそへとも, あきだらぬひは;あきたらぬひは, 
   
  05/0837
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 波流能努尓 奈久夜汙隅比須 奈都氣牟得 和何弊能曽能尓 汙米何波奈佐久[笇師志氏大道]
訓読 春の野に鳴くや鴬なつけむと我が家の園に梅が花咲く[t師志氏大道]
仮名 はるののに なくやうぐひす なつけむと わがへのそのに うめがはなさく
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:笇師志氏大道 志紀 大道 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物
訓異 なくやうぐひす;なくやうくひす, わがへのそのに;わかへのそのに, うめがはなさく;うめかはなさく, 
   
  05/0838
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥尓波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖[大隅目榎氏鉢麻呂]
訓読 梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて[大隅目榎氏鉢麻呂]
仮名 うめのはな ちりまがひたる をかびには うぐひすなくも はるかたまけて
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:大隅目榎氏鉢麻呂 榎井 榎本 榎室 鉢麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物
訓異 ちりまがひたる;ちりまかひたる, をかびには;をかひには, うぐひすなくも;うくひすなくも, 
   
  05/0839
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 波流能努尓 紀理多知和多利 布流由岐得 比得能美流麻提 烏梅能波奈知流[筑前目田氏真上]
訓読 春の野に霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る[筑前目田氏真上]
仮名 はるののに きりたちわたり ふるゆきと ひとのみるまで うめのはなちる
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:筑前目田氏真上 田中 田辺 真上 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 ひとのみるまで;ひとのみるまて, 
   
  05/0840
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 <波流>楊那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓[壹岐目村氏彼方]
訓読 春柳かづらに折りし梅の花誰れか浮かべし酒坏の上に[壹岐目村氏彼方]
仮名 はるやなぎ かづらにをりし うめのはな たれかうかべし さかづきのへに
左注 なし
校異 流波→波流 [西(訂正記号)][類][紀]
事項 梅花宴 作者:壹岐目村氏彼方 村君 村国 村山 彼方 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 はるやなぎ;はるやなき, かづらにをりし;かつらにをりし, たれかうかべし;たれかうへし, さかづきのへに;さかつききのへに, 
   
  05/0841
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 于遇比須能 於登企久奈倍尓 烏梅能波奈 和企弊能曽能尓 佐伎弖知流美由[對馬目高氏老]
訓読 鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ[對馬目高氏老]
仮名 うぐひすの おときくなへに うめのはな わぎへのそのに さきてちるみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:對馬目高氏老 高丘 高田 高橋 高向 高屋 高安 高 高麗 老 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物
訓異 うぐひすの;うくひすの, わぎへのそのに;わきへのそのに, 
   
  05/0842
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 和我夜度能 烏梅能之豆延尓 阿蘇i都々 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美[薩摩目高氏海人]
訓読 我がやどの梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ[薩摩目高氏海人]
仮名 わがやどの うめのしづえに あそびつつ うぐひすなくも ちらまくをしみ
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:薩摩目高氏海人 高丘 高田 高橋 高向 高屋 高安 高 高麗 海人 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物
訓異 わがやどの;わかやとの, うめのしづえに;うめのしつえに, あそびつつ;あそひつつ, うぐひすなくも;うくひすなくも, 
   
  05/0843
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 宇梅能波奈 乎理加射之都々 毛呂比登能 阿蘇夫遠美礼婆 弥夜古之叙毛布[土師氏御<道>]
訓読 梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ[土師氏御<道>]
仮名 うめのはな をりかざしつつ もろひとの あそぶをみれば みやこしぞもふ
左注 なし
校異 通→道 [紀][細]
事項 梅花宴 作者:土師氏御道 土師御道 太宰府 福岡 望郷 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 をりかざしつつ;をりかさしつつ, あそぶをみれば;あそふをみれは, みやこしぞもふ;みやこしそおもふ, 
   
  05/0844
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 伊母我陛邇 由岐可母不流登 弥流麻提尓 許々陀母麻我不 烏梅能波奈可毛[小野氏國堅]
訓読 妹が家に雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも[小野氏國堅]
仮名 いもがへに ゆきかもふると みるまでに ここだもまがふ うめのはなかも
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:小野國堅 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 いもがへに;いもかへに, みるまでに;みるまてに, ここだもまがふ;ここたもまかふ, 
   
  05/0845
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 宇具比須能 麻知迦弖尓勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曽 意母布故我多米[筑前拯門氏石足]
訓読 鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため[筑前拯門氏石足]
仮名 うぐひすの まちかてにせし うめがはな ちらずありこそ おもふこがため
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 作者:筑前拯門氏石足 門部石足 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物
訓異 うぐひすの;うくひすの, うめがはな;うめかはな, ちらずありこそ;ちらすありこそ, おもふこがため;おもふこかため, 
   
  05/0846
題詞 (梅花歌卅二首[并序]
原文 可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能波那可毛[小野氏淡理]
訓読 霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも[小野氏淡理]
仮名 かすみたつ ながきはるひを かざせれど いやなつかしき うめのはなかも
左注 なし
校異 波那 [類][矢][京] 波奈
事項 梅花宴 作者:小野氏淡理 小野田守 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物
訓異 ながきはるひを;なかきはるひを, かざせれど;かさせれと, 
   
  05/0847
題詞 員外思故郷歌兩首
題訓 員外かずよりほか故郷くに思しぬふ歌両首ふたつ
原文 和我佐可理 伊多久々多知奴 久毛尓得夫 久須利波武等母 麻多遠知米也母
訓読 我が盛りいたくくたちぬ雲に飛ぶ薬食むともまた変若めやも
仮名 わがさかり いたくくたちぬ くもにとぶ くすりはむとも またをちめやも
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 望郷 太宰府 福岡 老 神仙
訓異 わがさかり;わかさかり, くもにとぶ;くもにとふ, 
   
  05/0848
題詞 (員外思故郷歌兩首)
原文 久毛尓得夫 久須利波牟用波 美也古弥婆 伊夜之吉阿何微 麻多越知奴倍之
訓読 雲に飛ぶ薬食むよは都見ばいやしき我が身また変若ぬべし
仮名 くもにとぶ くすりはむよは みやこみば いやしきあがみ またをちぬべし
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 望郷 太宰府 福岡 老 神仙
訓異 くもにとぶ;くもにとふ, みやこみば;みやこみは, いやしきあがみ;いやしきあかみ, またをちぬべし;またをちぬへし, 
   
  05/0849
題詞 後追和梅歌四首
題訓 後に追ひて和よめる梅うめのはなの歌四首
原文 能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曽 由吉波氣奴等勿
訓読 残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも
仮名 のこりたる ゆきにまじれる うめのはな はやくなちりそ ゆきはけぬとも
左注 なし
校異 留 [類][紀][細](塙) 流
事項 梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物
訓異 ゆきにまじれる;ゆきにましれる, 
   
  05/0850
題詞 (後追和梅歌四首)
原文 由吉能伊呂遠 有<婆>比弖佐家流 有米能波奈 伊麻<左>加利奈利 弥牟必登母我聞
訓読 雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも
仮名 ゆきのいろを うばひてさける うめのはな いまさかりなり みむひともがも
左注 なし
校異 波→婆 [類][紀][細] / 佐→左 [類][紀][細]
事項 梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物
訓異 うばひてさける;うはひてさける, みむひともがも;みむひともかも, 
   
  05/0851
題詞 (後追和梅歌四首)
原文 和我夜度尓 左加里尓散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母
訓読 我がやどに盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも
仮名 わがやどに さかりにさける うめのはな ちるべくなりぬ みむひともがも
左注 なし
校異 なし
事項 梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物
訓異 わがやどに;わかやとに, さかりにさける;さかりにさける, ちるべくなりぬ;ちるへくなりぬ, みむひともがも;みむひともかも, 
   
  05/0852
題詞 (後追和梅歌四首)
原文 烏梅能波奈 伊米尓加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣尓于可倍許曽 [一云 伊多豆良尓 阿例乎知良須奈 左氣尓<宇>可倍許曽]
訓読 梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ [一云 いたづらに我れを散らすな酒に浮べこそ]
仮名 うめのはな いめにかたらく みやびたる はなとあれもふ さけにうかべこそ [いたづらに あれをちらすな さけにうかべこそ]
左注 なし
校異 于→宇 [類] (楓) 于 / 許 [類][紀][細](塙) 己
事項 梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物
訓異 みやびたる;みやひたる, さけにうかべこそ;さけにうかへこそ, [いたづらに;いたつらに, さけにうかべこそ];さけにうかへこそ, 
   
  05/0853
題詞 遊<於>松浦河序 / 余以暫徃松浦之縣逍遥 聊臨玉嶋之潭遊覧 忽値釣魚女子等也 花容無雙 光儀無匹 開柳葉於眉中發桃花於頬上 意氣凌雲 風流絶世 僕問曰 誰郷誰家兒等 若疑神仙者乎 娘等皆咲答曰 兒等者漁夫之舎兒 草菴之微者 無郷無家 何足稱云 唯性便水 復心樂山 或臨洛浦而徒羨<玉>魚 乍臥巫峡以空望烟霞 今以邂逅相遇貴客 不勝感應輙陳<欵>曲 而今而後豈可非偕老哉 下官對曰 唯々 敬奉芳命 于時日落山西 驪馬将去 遂申懐抱 因贈詠歌曰
題訓 松浦河まつらがはに遊びて贈り答ふる歌八首、また序
余われ暫く松浦県まつらがたに往きて逍遥し、玉島の潭に臨みて遊覧するに、忽ち魚釣る女子等に値あへり。花容双び無く、光儀匹ひ無し。柳葉を眉中に開き、桃花を頬上に発ひらく。意気雲を凌ぎ、風流世に絶えたり。僕われ問ひけらく、「誰が郷誰が家の児等ぞ。若疑けだし神仙ならむか」。娘をとめ等皆咲みて答へけらく、「児等は漁夫の舎いへの児、草菴の微いやしき者、郷も無く家も無し。なぞも称なを云のるに足らむ。唯性水に便り、復た心に山を楽しぶ。或は洛浦に臨みて、徒に王魚を羨ともしみ、乍あるいは巫峡に臥して空しく烟霞を望む。今邂逅わくらばに貴客うまひとに相遇あひ、感応に勝へず、輙ち款曲を陳ぶ。今より後、豈に偕老ならざるべけむや」。下官おのれ対ひて曰く、「唯々をを、敬みて芳命を奉うけたまはりき」。時に日は山西に落ち、驪馬りば去なむとす。遂に懐抱を申のべ、因て詠みて贈れる歌に曰く、
原文 阿佐<里><須流> 阿末能古等母等 比得波伊倍騰 美流尓之良延奴 有麻必等能古等
訓読 あさりする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人の子と
仮名 あさりする あまのこどもと ひとはいへど みるにしらえぬ うまひとのこと
左注 なし
校異 <>→於 [紀][細] / 王→玉 [温] / 歎→欵 [細] / 歌 [西] 謌 / 理→里 [類][紀][細] / 流須→須流 [西(訂正記号)][類][紀][細]
事項 作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 求婚 野遊び 地名
訓異 あまのこどもと;あまのこともと, ひとはいへど;ひとはいへと, 
   
  05/0854
題詞 (遊<於>松浦河序 / 余以暫徃松浦之縣逍遥 聊臨玉嶋之潭遊覧 忽値釣魚女子等也 花容無雙 光儀無匹 開柳葉於眉中發桃花於頬上 意氣凌雲 風流絶世 僕問曰 誰郷誰家兒等 若疑神仙者乎 娘等皆咲答曰 兒等者漁夫之舎兒 草菴之微者 無郷無家 何足稱云 唯性便水 復心樂山 或臨洛浦而徒羨<玉>魚 乍臥巫峡以空望烟霞 今以邂逅相遇貴客 不勝感應輙陳<欵>曲 而今而後豈可非偕老哉 下官對曰 唯々 敬奉芳命 于時日落山西 驪馬将去 遂申懐抱 因贈詠歌曰)答詩曰
題訓 答ふる詩うたに曰く、
原文 多麻之末能 許能可波加美尓 伊返波阿礼騰 吉美乎夜佐之美 阿良波佐受阿利吉
訓読 玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみあらはさずありき
仮名 たましまの このかはかみに いへはあれど きみをやさしみ あらはさずありき
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 求婚 野遊び 地名
訓異 いへはあれど;いへはあれと, あらはさずありき;あらはさすありき, 
   
  05/0855
題詞 蓬客等更贈歌三首
題訓 蓬客等をのれまた贈れる歌三首
原文 麻都良河波 可波能世比可利 阿由都流等 多々勢流伊毛<何> 毛能須蘇奴例奴
訓読 松浦川川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹が裳の裾濡れぬ
仮名 まつらがは かはのせひかり あゆつると たたせるいもが ものすそぬれぬ
左注 なし
校異 客等 [類](塙) 客 / 歌 [西] 謌 / 河→何 [紀] (塙) 河
事項 作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 遊仙窟 神功皇后 求婚 野遊び 地名
訓異 まつらがは;まつらかは, たたせるいもが;たたせるいもか, [左注]
   
  05/0856
題詞 (蓬客等更贈歌三首)
原文 麻都良奈流 多麻之麻河波尓 阿由都流等 多々世流古良何 伊弊遅斯良受毛
訓読 松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道知らずも
仮名 まつらなる たましまがはに あゆつると たたせるこらが いへぢしらずも
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 求婚 野遊び 地名
訓異 たましまがはに;たましまかはに, たたせるこらが;たたせるこらか, いへぢしらずも;いへちしらすも, 
   
  05/0857
題詞 (蓬客等更贈歌三首)
原文 等富都比等 末都良能加波尓 和可由都流 伊毛我多毛等乎 和礼許曽末加米
訓読 遠つ人松浦の川に若鮎釣る妹が手本を我れこそ卷かめ
仮名 とほつひと まつらのかはに わかゆつる いもがたもとを われこそまかめ
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名
訓異 いもがたもとを;いもかたもとを, 
   
  05/0858
題詞 娘等更報歌三首
題訓 娘等をとめらまた報ふる歌三首
原文 和可由都流 麻都良能可波能 可波奈美能 奈美邇之母波婆 和礼故飛米夜母
訓読 若鮎釣る松浦の川の川なみの並にし思はば我れ恋ひめやも
仮名 わかゆつる まつらのかはの かはなみの なみにしもはば われこひめやも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 作者:娘等 大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名
訓異 なみにしもはば;なみにしもはは, われこひめやも;われこひめやも, 
   
  05/0859
題詞 (娘等更報歌三首)
原文 波流佐礼婆 和伎覇能佐刀能 加波度尓波 阿由故佐婆斯留 吉美麻知我弖尓
訓読 春されば我家の里の川門には鮎子さ走る君待ちがてに
仮名 はるされば わぎへのさとの かはとには あゆこさばしる きみまちがてに
左注 なし
校異 なし
事項 作者:娘等 大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名
訓異 はるされば;はるされは, わぎへのさとの;わきへのさとの, あゆこさばしる;あゆこさはしる, きみまちがてに;きみまちかてに, 
   
  05/0860
題詞 (娘等更報歌三首)
原文 麻都良我波 奈々勢能與騰波 与等武等毛 和礼波与騰麻受 吉美遠志麻多武
訓読 松浦川七瀬の淀は淀むとも我れは淀まず君をし待たむ
仮名 まつらがは ななせのよどは よどむとも われはよどまず きみをしまたむ
左注 なし
校異 なし
事項 作者:娘等 大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名
訓異 まつらがは;まつらかは, ななせのよどは;ななせのよとは, よどむとも;よとむとも, われはよどまず;われはよとます, 
   
  05/0861
題詞 後人追和之<詩>三首 [帥老]
題訓 後れたる人の追ひて和よめる詩うた三首 都帥老
原文 麻都良河波 <可>波能世波夜美 久礼奈為能 母能須蘇奴例弖 阿由可都流良<武>
訓読 松浦川川の瀬早み紅の裳の裾濡れて鮎か釣るらむ
仮名 まつらがは かはのせはやみ くれなゐの ものすそぬれて あゆかつるらむ
左注 なし
校異 謌→詩 [類][紀][細] / 河→可 [類][紀][細] / 哉→武 [西(右書)][類][紀]
事項 作者:大伴旅人 玉島川 創作 追和 求婚 野遊び 地名
訓異 まつらがは;まつらかは, あゆかつるらむ;あゆかるらむ, 
   
  05/0862
題詞 (後人追和之<詩>三首 [帥老]
原文 比等未奈能 美良武麻都良能 多麻志末乎 美受弖夜和礼波 故飛都々遠良武
訓読 人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我れは恋ひつつ居らむ
仮名 ひとみなの みらむまつらの たましまを みずてやわれは こひつつをらむ
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 玉島川 創作 追和 求婚 野遊び 地名
訓異 みずてやわれは;みすてやわれは, 
   
  05/0863
題詞 (後人追和之<詩>三首 [帥老]
原文 麻都良河波 多麻斯麻能有良尓 和可由都流 伊毛良遠美良牟 比等能等母斯佐
訓読 松浦川玉島の浦に若鮎釣る妹らを見らむ人の羨しさ
仮名 まつらがは たましまのうらに わかゆつる いもらをみらむ ひとのともしさ
左注 なし
校異 なし
事項 作者:大伴旅人 玉島川 創作 追和 求婚 野遊び 地名
訓異 まつらがは;まつらかは, いもらをみらむ;いもらをみをむ, 
   
  05/0864
題詞 宜啓 伏奉四月六日賜書 跪開封函 拜讀芳藻 心神開朗以懐泰初之月鄙懐除<袪> 若披樂廣之天 至若羈旅邊城 懐古舊而傷志 年矢不停<憶>平生而落涙 但達人安排 君子無悶 伏冀 朝宜懐翟之化暮存放龜之術 架張趙於百代 追松喬於千齡耳 兼奉垂示 梅<苑>芳席 群英摛藻 松浦玉潭 仙媛贈答類否壇各言之作 疑衡皐税駕之篇 耽讀吟諷<感>謝歡怡 宜戀主之誠 誠逾犬馬仰徳之心 心同葵藿 而碧海分地白雲隔天 徒積傾延 何慰勞緒 孟秋膺節 伏願萬祐日新 今因相撲部領使謹付片紙 宜謹啓 不次 / 奉和諸人梅花歌一首
題訓 吉田連宜よしだのむらじよろしが答ふる歌四首
宜よろし啓まをす。伏して四月の六日の賜書を奉うけたまはり、跪きて封函を開き、芳藻を拝読するに、心神の開朗たること、泰初が月を懐うだきしに似たり。鄙懐の除こること、樂廣が天を披ひらきしが若し。至若しかのみにあらず、辺域に羇旅し、古旧を懐ひて志を傷ましむ。年矢停まらず、平生を憶ひて涙を落ながす。但達人は排に安みし、君子は悶り無し。伏して冀こひねがはくは、朝に雉きぎしを懐なつくる化を宣べ、暮に亀を放つ術を存たもち、張趙を百代に架し、松喬を千齢に追はむのみ。兼ねて垂示を奉はる、梅苑の芳席、群英藻をのべ、松浦の玉潭、仙媛の贈答、杏壇各言の作に類たぐへ、衡皐税駕の篇に疑なぞらふ。耽読吟諷し、感謝歓怡す。宜よろし主を恋しぬふ誠、誠に犬馬に逾ゆ。徳を仰ぐ心、心葵きつカクに同じ。而るに碧海地を分ち、白雲天を隔て、徒に傾延を積む。何なぞも労緒を慰めむ。孟秋膺節、伏して願はくは万祐日新たむことを。今相撲部領使すまひことりつかひに因りて、謹みて片紙を付く。宜謹みて啓す。不次。 諸人の梅の花の歌に和なぞらへ奉まつる一首ひとうた
原文 於久礼為天 那我古飛世殊波 弥曽能不乃 于梅能波奈尓<忘> 奈良麻之母能乎
訓読 後れ居て長恋せずは御園生の梅の花にもならましものを
仮名 おくれゐて ながこひせずは みそのふの うめのはなにも ならましものを
左注 なし
校異 私→袪 [細] / <>→憶 [西(右書)][紀][細] / 花→苑 [細] / 戚→感 [代匠記精撰本] / 誠 [紀][細][温] 々 / 心 [紀][細][温] 々 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 母→忘 [類][細]
事項 作者:吉田宜 書簡 大伴旅人 梅花宴 唱和 植物 贈答 恋情
訓異 ながこひせずは;なかこひせすは, 
   
  05/0865
題詞 和松浦仙媛歌一首
題訓 松浦仙媛まつらをとめの歌に和ふる一首
原文 伎弥乎麻都 々々良乃于良能 越等賣良波 等己与能久尓能 阿麻越等賣可<忘>
訓読 君を待つ松浦の浦の娘子らは常世の国の海人娘子かも
仮名 きみをまつ まつらのうらの をとめらは とこよのくにの あまをとめかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 忌→忘 [類][細]
事項 作者:吉田宜 書簡 大伴旅人 松浦仙媛 唱和 地名 贈答
訓異  
   
  05/0866
題詞 思君未盡重題二首
題訓 君を思ふこと未だ尽きずてまた題しるせる二首うたふたつ
原文 波漏々々尓 於忘方由流可母 志良久毛能 <知>弊仁邊多天留 都久紫能君仁波
訓読 はろはろに思ほゆるかも白雲の千重に隔てる筑紫の国は
仮名 はろはろに おもほゆるかも しらくもの ちへにへだてる つくしのくには
左注 (天平二年七月十日)
校異 々 [細] 婆 / 智→知 [類][紀]
事項 作者:吉田宜 書簡 奈良 大伴旅人 地名 天平2年7月10日 年紀
訓異 はろはろに;はるはるに, ちへにへだてる;ちへにへたてる, 
   
  05/0867
題詞 (思君未盡重題二首)
原文 枳美可由伎 氣那<我>久奈理奴 奈良遅那留 志満乃己太知母 可牟佐飛仁家<里>
訓読 君が行き日長くなりぬ奈良道なる山斎の木立も神さびにけり
仮名 きみがゆき けながくなりぬ ならぢなる しまのこだちも かむさびにけり
左注 天平二年七月十日
左注訓 天平二年ふたとせといふとし七月の十日とをかのひ。
校異 家→我 [類][紀][細] / 理→里 [類][紀][細]
事項 作者:吉田宜 書簡 奈良 大伴旅人 天平2年7月10日 年紀
訓異 きみがゆき;きみかゆき, けながくなりぬ;けなかくなりぬ, ならぢなる;ならちなる, しまのこだちも;しまのこたちも, かむさびにけり;かむさひにけり, 
   
  05/0868
題詞 憶良誠惶頓首謹啓 / 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰
題訓 山上臣憶良が松浦の歌三首みつ
憶良誠惶頓首謹啓す。憶良聞く、方岳の諸侯、都督の刺使、並みな典法に依りて部下を巡行し、其の風俗を察みる。意内端多く、口外出し難し。謹みて三首の鄙歌を以て、五蔵の欝結を写さむとす。其の歌に曰く、
原文 麻都良我多 佐欲比賣能故何 比列布利斯 夜麻能名乃<尾>夜 伎々都々遠良武
訓読 松浦県佐用姫の子が領巾振りし山の名のみや聞きつつ居らむ
仮名 まつらがた さよひめのこが ひれふりし やまのなのみや ききつつをらむ
左注 (天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上)
校異 鄙歌 [西] 鄙謌 [西(左別筆訂正)] 鄙歌 / 歌曰 [西] 謌曰 / 列 [紀][細] 例 [類] 礼 / 美→尾 [類][紀][細]
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 松浦佐用姫 天平2年7月11日 年紀 地名
訓異 まつらがた;まつらかた, さよひめのこが;さよひめのこか, 
   
  05/0869
題詞 (憶良誠惶頓首謹啓 / 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰)
原文 多良志比賣 可尾能美許等能 奈都良須等 美多々志世利斯 伊志遠多礼美吉 [一云 阿由都流等]
訓読 足姫神の命の魚釣らすとみ立たしせりし石を誰れ見き [一云 鮎釣ると]
仮名 たらしひめ かみのみことの なつらすと みたたしせりし いしをたれみき [あゆつると]
左注 (天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上)
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 松浦佐用姫 神功皇后 天平2年7月11日 年紀 推敲
訓異 [あゆつると]
   
  05/0870
題詞 (憶良誠惶頓首謹啓 / 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰)
原文 毛々可斯母 由加奴麻都良遅 家布由伎弖 阿須波吉奈武遠 奈尓可佐夜礼留
訓読 百日しも行かぬ松浦道今日行きて明日は来なむを何か障れる
仮名 ももがしも ゆかぬまつらぢ けふゆきて あすはきなむを なにかさやれる
左注 天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上
左注訓 天平二年七月の十一日、筑前国司山上憶良謹みて上たてまつる。
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 松浦佐用姫 天平2年7月11日 年紀 地名
訓異 ももがしも;ももかしも, ゆかぬまつらぢ;ゆかぬまつらち, 
   
  05/0871
題詞 大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰
題訓 領巾麾ひれふりの嶺ねを詠める歌一首
大伴佐提比古さでひこの良子いらつこ、特ひとり朝命おほみことを被かがふり、藩国みやつこくにに奉使まけらる。艤棹ふなよそひして帰ゆき、稍蒼波を赴あつむ。その妾め松浦佐用嬪面さよひめ、此の別れの易きを嗟なげき、彼その会ひの難きを嘆く。即ち高山の嶺に登りて遥かに離さかり去ゆく船を望む。悵然として腸を断ち、黯然として魂たまを銷けつ。遂に領巾を脱きて麾ふる。傍者流涕かなしまざるはなかりき。因かれ此の山を領巾麾の嶺と曰なづくといへり。乃ち作歌うたよみすらく、
原文 得保都必等 麻通良佐用比米 都麻胡非尓 比例布利之用利 於返流夜麻能奈
訓読 遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負へる山の名
仮名 とほつひと まつらさよひめ つまごひに ひれふりしより おへるやまのな
左注 なし
校異 黙→黯 [古] / 歌 [西] 謌
事項 山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名
訓異 つまごひに;つまこひに, 
   
  05/0872
題詞 (大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)後人追和
題訓 後の人が追ひて和なぞらふる歌一首
原文 夜麻能奈等 伊賓都夏等可母 佐用比賣何 許能野麻能閇仁 必例遠布利家<牟>
訓読 山の名と言ひ継げとかも佐用姫がこの山の上に領巾を振りけむ
仮名 やまのなと いひつげとかも さよひめが このやまのへに ひれをふりけむ
左注 なし
校異 何 [類][紀][細](塙) 河 / 無→牟 [類][紀][細]
事項 山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名
訓異 いひつげとかも;いひつけとかも, さよひめが;さよひめか, 
   
  05/0873
題詞 (大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)最後人追和
題訓 最いと後の人が追ひて和ふる歌一首
原文 余呂豆余尓 可多利都夏等之 許能多氣仁 比例布利家良之 麻通羅佐用嬪面
訓読 万世に語り継げとしこの丘に領巾振りけらし松浦佐用姫
仮名 よろづよに かたりつげとし このたけに ひれふりけらし まつらさよひめ
左注 なし
校異 なし
事項 山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名
訓異 よろづよに;よろつよに, かたりつげとし;かたりつけとし, 
   
  05/0874
題詞 (大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)最々後人追和二首
題訓 最最いといと後の人が追ひて和ふる歌二首
原文 宇奈波良能 意吉由久布祢遠 可弊礼等加 比礼布良斯家武 麻都良佐欲比賣
訓読 海原の沖行く船を帰れとか領巾振らしけむ松浦佐用姫
仮名 うなはらの おきゆくふねを かへれとか ひれふらしけむ まつらさよひめ
左注 なし
校異 なし
事項 山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名
訓異 ひれふらしけむ;ひれふらしなむ, 
   
  05/0875
題詞 ((大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)最々後人追和二首)
原文 由久布祢遠 布利等騰尾加祢 伊加婆加利 故保斯<苦>阿利家武 麻都良佐欲比賣
訓読 行く船を振り留みかねいかばかり恋しくありけむ松浦佐用姫
仮名 ゆくふねを ふりとどみかね いかばかり こほしくありけむ まつらさよひめ
左注 なし
校異 古→苦 [京]
事項 山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名
訓異 ふりとどみかね;ふりととみかね, いかばかり;いかはかり, 
   
  05/0876
題詞 書殿餞酒日<倭>歌四首
題訓 書殿ふみとのに餞酒うまのはなむけせる日の倭歌やまとうた四首
原文 阿麻等夫夜 等利尓母賀母夜 美夜故<麻>提 意久利摩遠志弖 等比可弊流母能
訓読 天飛ぶや鳥にもがもや都まで送りまをして飛び帰るもの
仮名 あまとぶや とりにもがもや みやこまで おくりまをして とびかへるもの
左注 なし
校異 和→倭 [類][紀][細] / 歌 [西] 謌 / 麻 [類][細] 摩 / 摩→麻 [類][紀][温] / 摩 [紀][温] 麻
事項 山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名
訓異 あまとぶや;あまとふや, とりにもがもや;とりにもかもや, みやこまで;みやこまて, とびかへるもの;とひかへるもの, 
   
  05/0877
題詞 (書殿餞酒日<倭>歌四首)
原文 比等母祢能 宇良夫禮遠留尓 多都多夜麻 美麻知可豆加婆 和周良志奈牟迦
訓読 ひともねのうらぶれ居るに龍田山御馬近づかば忘らしなむか
仮名 ひともねの うらぶれをるに たつたやま みまちかづかば わすらしなむか
左注 なし
校異 なし
事項 山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名
訓異 うらぶれをるに;うらふれをるに, たつたやま;たつたつやま, みまちかづかば;みまちかつかは, わすらしなむか;わすられなむか, 
   
  05/0878
題詞 (書殿餞酒日<倭>歌四首)
原文 伊比都々母 能知許曽斯良米 等乃斯久母 佐夫志計米夜母 吉美伊麻佐受斯弖
訓読 言ひつつも後こそ知らめとのしくも寂しけめやも君いまさずして
仮名 いひつつも のちこそしらめ とのしくも さぶしけめやも きみいまさずして
左注 なし
校異 なし
事項 山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名
訓異 さぶしけめやも;さふしけめやも, きみいまさずして;きみいまさすして, 
   
  05/0879
題詞 (書殿餞酒日<倭>歌四首)
原文 余呂豆余尓 伊麻志多麻比提 阿米能志多 麻乎志多麻波祢 美加<度>佐良受弖
訓読 万世にいましたまひて天の下奏したまはね朝廷去らずて
仮名 よろづよに いましたまひて あめのした まをしたまはね みかどさらずて
左注 なし
校異 <>→度 [西(右書)][類][紀][細]
事項 山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名
訓異 よろづよに;よろつよに, みかどさらずて;みかとさらすて, 
   
  05/0880
題詞 敢布私懐歌三首
題訓 敢へて私懐おもひを布のぶる歌三首
原文 阿麻社迦留 比奈尓伊都等世 周麻比都々 美夜故能提夫利 和周良延尓家利
訓読 天離る鄙に五年住まひつつ都のてぶり忘らえにけり
仮名 あまざかる ひなにいつとせ すまひつつ みやこのてぶり わすらえにけり
左注 (天平二年十二月六日筑前國守山上憶良謹上)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 宴席 帰京 地名 天平2年12月6日 年紀
訓異 あまざかる;あまさかる, みやこのてぶり;みやこのてふり, 
   
  05/0881
題詞 (敢布私懐歌三首)
原文 加久能<未>夜 伊吉豆伎遠良牟 阿良多麻能 吉倍由久等志乃 可伎利斯良受提
訓読 かくのみや息づき居らむあらたまの来経行く年の限り知らずて
仮名 かくのみや いきづきをらむ あらたまの きへゆくとしの かぎりしらずて
左注 (天平二年十二月六日筑前國守山上憶良謹上)
校異 米→未 [類][紀][細]
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 宴席 帰京 天平2年12月6日 年紀
訓異 いきづきをらむ;いきつきをらむ, かぎりしらずて;かきりしらすて, 
   
  05/0882
題詞 (敢布私懐歌三首)
原文 阿我農斯能 美多麻々々比弖 波流佐良婆 奈良能美夜故尓 咩佐宜多麻波祢
訓読 我が主の御霊賜ひて春さらば奈良の都に召上げたまはね
仮名 あがぬしの みたまたまひて はるさらば ならのみやこに めさげたまはね
左注 天平二年十二月六日筑前國守山上憶良謹上
左注訓 天平二年十二月しはすの六日むかのひ、筑前国司山上憶良、 謹みて上たてまつる。
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 宴席 帰京 天平2年12月6日
訓異 あがぬしの;あかのしの, はるさらば;はるさらは, めさげたまはね;めさけたまはね, 
   
  05/0883
題詞 三嶋王後追和松浦佐用嬪面歌一首
題訓 三島王の後に追ひて和なぞらへたまへる松浦佐用嬪面の歌一首
原文 於登尓吉<岐> 目尓波伊麻太見受 佐容比賣我 必礼布理伎等敷 吉民萬通良楊満
訓読 音に聞き目にはいまだ見ず佐用姫が領巾振りきとふ君松浦山
仮名 おとにきき めにはいまだみず さよひめが ひれふりきとふ きみまつらやま
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 伎→岐 [類][紀][細]
事項 作者:三嶋王 松浦佐用姫 追和 領布振伝説 地名
訓異 めにはいまだみず;めにはいまたみす, さよひめが;さよひめか, 
   
  05/0884
題詞 大伴君熊凝歌二首 [大典麻田陽春作]
題訓 大典おほきふみひと麻田連陽春あさたのむらじやすが大伴君熊凝くまこりに為かはりて志を述ぶる歌二首
原文 國遠伎 路乃長手遠 意保々斯久 計布夜須疑南 己等騰比母奈久
訓読 国遠き道の長手をおほほしく今日や過ぎなむ言どひもなく
仮名 くにとほき みちのながてを おほほしく けふやすぎなむ ことどひもなく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:麻田陽春 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人
訓異 みちのながてを;みちのなかてを, けふやすぎなむ;こふやすきなむ, ことどひもなく;こととひもなく, 
   
  05/0885
題詞 (大伴君熊凝歌二首 [大典麻田陽春作])
原文 朝露乃 既夜須伎我身 比等國尓 須疑加弖奴可母 意夜能目遠保利
訓読 朝露の消やすき我が身他国に過ぎかてぬかも親の目を欲り
仮名 あさつゆの けやすきあがみ ひとくにに すぎかてぬかも おやのめをほり
左注 なし
校異 露 [類][紀][細] 霧
事項 作者:麻田陽春 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人
訓異 けやすきあがみ;けやすきわかみ, すぎかてぬかも;すきかてぬかも, 
   
  05/0886
題詞 筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序]
題訓 筑前の国司守みこともちのかみ山上憶良が、熊凝に為かはりて其の志を述ぶる歌に敬みて和なぞらふるうた六首、また序
大伴君熊凝は、肥後国ひのみちのしりのくに益城郡ましきのこほりの人なり。年十八歳とをまりやつ。天平三年みとせといふとし六月みなつきの十七日とをかまりなぬかのひを以て、相撲使すまひのつかひ某の国の司みこともち官位姓名の従人ともびとと為り、京都みやこに参向まゐのぼる。天為るかも不幸、路に在りて疾を獲、即ち安藝国佐伯郡さいきのこほり高庭たかにはの駅家うまやにて、身故みまかりぬ。臨終まからむとする時、長歎息なげきて曰く、「伝へ聞く、仮合の身滅び易く、泡沫の命駐め難し。所以に千聖已く去り、百賢留まらず。况乎まして凡愚の微しき者、何ぞも能く逃れ避らむ。但我が老親、並みな菴室に在りて、我を侍つこと日を過ぐし、自ら心を傷む恨み有らむ。我を望むこと時を違へり。必ず明を喪ふ泣なみだを致さむ。哀しき哉我が父、痛き哉我が母。一身死に向かふ途を患うれへず、唯二親在生の苦を悲しむ。今日長く別れ、何れの世かも観ることを得む」。乃ち歌六首むつを作よみて死みまかりぬ。其の歌に曰く、
原文 宇知比佐受 宮弊能保留等 多羅知斯夜 波々何手波奈例 常斯良奴 國乃意久迦袁 百重山 越弖須<疑>由伎 伊都斯可母 京師乎美武等 意母比都々 迦多良比遠礼騰 意乃何身志 伊多波斯計礼婆 玉桙乃 道乃久麻尾尓 久佐太袁利 志<婆>刀利志伎提 等許自母能 宇知<許>伊布志提 意母比都々 奈宜伎布勢良久 國尓阿良婆 父刀利美麻之 家尓阿良婆 母刀利美麻志 世間波 迦久乃尾奈良志 伊奴時母能 道尓布斯弖夜 伊能知周<疑>南 [一云 和何余須疑奈牟]
訓読 うちひさす 宮へ上ると たらちしや 母が手離れ 常知らぬ 国の奥処を 百重山 越えて過ぎ行き いつしかも 都を見むと 思ひつつ 語らひ居れど おのが身し 労はしければ 玉桙の 道の隈廻に 草手折り 柴取り敷きて 床じもの うち臥い伏して 思ひつつ 嘆き伏せらく 国にあらば 父とり見まし 家にあらば 母とり見まし 世間は かくのみならし 犬じもの 道に伏してや 命過ぎなむ [一云 我が世過ぎなむ]
仮名 うちひさす みやへのぼると たらちしや ははがてはなれ つねしらぬ くにのおくかを ももへやま こえてすぎゆき いつしかも みやこをみむと おもひつつ かたらひをれど おのがみし いたはしければ たまほこの みちのくまみに くさたをり しばとりしきて とこじもの うちこいふして おもひつつ なげきふせらく くににあらば ちちとりみまし いへにあらば ははとりみまし よのなかは かくのみならし いぬじもの みちにふしてや いのちすぎなむ [わがよすぎなむ]
左注 なし
校異 筑前國守山上憶良敬和 [紀][細](楓) 敬和・・・筑前國守・・・ / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 某 [紀][細](塙) ム / 作歌 [西] 作謌 / 歌曰 [西] 謌曰 / 凝→疑 [類][紀][細] / 遠 [紀][細](塙) 袁 / 波→婆 [類][温][細] / 計→許 [代匠記(初稿)] / 凝→疑 [類][紀][細]
事項 作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常
訓異 みやへのぼると;みやへのほると, ははがてはなれ;ははかてはなれ, こえてすぎゆき;こえてすきゆき, かたらひをれど;かたらひをれと, おのがみし;おのかみし, いたはしければ;いたはしけれは, みちのくまみに;みちのまに, しばとりしきて;しはとりしきて, とこじもの;とけしもの, なげきふせらく;なけきふせらく, くににあらば;くににあらは, いへにあらば;いへにあらは, いぬじもの;いぬしもの, いのちすぎなむ;いのちすきなむ, [わがよすぎなむ];わかよすきなむ, 
   
  05/0887
題詞 (筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序]
原文 多良知子能 波々何目美受提 意保々斯久 伊豆知武伎提可 阿我和可留良武
訓読 たらちしの母が目見ずておほほしくいづち向きてか我が別るらむ
仮名 たらちしの ははがめみずて おほほしく いづちむきてか あがわかるらむ
左注 なし
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常
訓異 ははがめみずて;ははかめみすて, いづちむきてか;いつちむきてか, あがわかるらむ;あかわかるらむ, 
   
  05/0888
題詞 (筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序]
原文 都祢斯良農 道乃長手袁 久礼々々等 伊可尓可由迦牟 可利弖波奈斯尓 [一云 可例比波奈之尓]
訓読 常知らぬ道の長手をくれくれといかにか行かむ糧はなしに [一云 干飯はなしに]
仮名 つねしらぬ みちのながてを くれくれと いかにかゆかむ かりてはなしに [かれひはなしに]
左注 なし
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常
訓異 みちのながてを;みちのなかてを, 
   
  05/0889
題詞 (筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序]
原文 家尓阿利弖 波々何刀利美婆 奈具佐牟流 許々呂波阿良麻志 斯奈婆斯農等母 [一云 能知波志奴等母]
訓読 家にありて母がとり見ば慰むる心はあらまし死なば死ぬとも [一云 後は死ぬとも]
仮名 いへにありて ははがとりみば なぐさむる こころはあらまし しなばしぬとも [のちはしぬとも]
左注 なし
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常 鎮魂
訓異 ははがとりみば;ははかとりみは, なぐさむる;なくさむる, しなばしぬとも;しなはしぬとも, 
   
  05/0890
題詞 (筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序]
原文 出弖由伎斯 日乎可俗閇都々 家布々々等 阿袁麻多周良武 知々波々良波母 [一云 波々我迦奈斯佐]
訓読 出でて行きし日を数へつつ今日今日と我を待たすらむ父母らはも [一云 母が悲しさ]
仮名 いでてゆきし ひをかぞへつつ けふけふと あをまたすらむ ちちははらはも [ははがかなしさ]
左注 なし
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常
訓異 いでてゆきし;いててゆきし, ひをかぞへつつ;ひをかそへつつ, ちちははらはも;ちちははをはも, [ははがかなしさ];ははかかなしさ, 
   
  05/0891
題詞 (筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序]
原文 一世尓波 二遍美延農 知々波々袁 意伎弖夜奈何久 阿我和加礼南 [一云 相別南]
訓読 一世にはふたたび見えぬ父母を置きてや長く我が別れなむ [一云 相別れなむ]
仮名 ひとよには ふたたびみえぬ ちちははを おきてやながく あがわかれなむ [あひわかれなむ]
左注 なし
校異 なし
事項 作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常
訓異 ふたたびみえぬ;ふたたひみえぬ, おきてやながく;をきてやなかく, あがわかれなむ;あかわかれなむ, 
   
  05/0892
題詞 貧窮問答歌一首[并短歌]
題訓 貧窮問答の歌一首、また短歌
原文 風雜 雨布流欲乃 雨雜 雪布流欲波 為部母奈久 寒之安礼婆 堅塩乎 取都豆之呂比 糟湯酒 宇知須々呂比弖 之<叵>夫可比 鼻i之i之尓 志可登阿良農 比宜可伎撫而 安礼乎於伎弖 人者安良自等 富己呂倍騰 寒之安礼婆 麻被 引可賀布利 布可多衣 安里能許等其等 伎曽倍騰毛 寒夜須良乎 和礼欲利母 貧人乃 父母波 飢寒良牟 妻子等波 乞々泣良牟 此時者 伊可尓之都々可 汝代者和多流 天地者 比呂之等伊倍杼 安我多米波 狭也奈里奴流 日月波 安可之等伊倍騰 安我多米波 照哉多麻波奴 人皆可 吾耳也之可流 和久良婆尓 比等々波安流乎 比等奈美尓 安礼母作乎 綿毛奈伎 布可多衣乃 美留乃其等 和々氣佐我礼流 可々布能尾 肩尓打懸 布勢伊保能 麻宜伊保乃内尓 直土尓 藁解敷而 父母波 枕乃可多尓 妻子等母波 足乃方尓 圍居而 憂吟 可麻度柔播 火氣布伎多弖受 許之伎尓波 久毛能須可伎弖 飯炊 事毛和須礼提 奴延鳥乃 能杼与比居尓 伊等乃伎提 短物乎 端伎流等 云之如 楚取 五十戸良我許恵波 寝屋度麻R 来立呼比奴 可久<婆>可里 須部奈伎物能可 世間乃道
訓読 風交り 雨降る夜の 雨交り 雪降る夜は すべもなく 寒くしあれば 堅塩を とりつづしろひ 糟湯酒 うちすすろひて しはぶかひ 鼻びしびしに しかとあらぬ ひげ掻き撫でて 我れをおきて 人はあらじと 誇ろへど 寒くしあれば 麻衾 引き被り 布肩衣 ありのことごと 着襲へども 寒き夜すらを 我れよりも 貧しき人の 父母は 飢ゑ凍ゆらむ 妻子どもは 乞ふ乞ふ泣くらむ この時は いかにしつつか 汝が世は渡る 天地は 広しといへど 我がためは 狭くやなりぬる 日月は 明しといへど 我がためは 照りやたまはぬ 人皆か 我のみやしかる わくらばに 人とはあるを 人並に 我れも作るを 綿もなき 布肩衣の 海松のごと わわけさがれる かかふのみ 肩にうち掛け 伏廬の 曲廬の内に 直土に 藁解き敷きて 父母は 枕の方に 妻子どもは 足の方に 囲み居て 憂へさまよひ かまどには 火気吹き立てず 甑には 蜘蛛の巣かきて 飯炊く ことも忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を 端切ると いへるがごとく しもと取る 里長が声は 寝屋処まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり すべなきものか 世間の道
仮名 かぜまじり あめふるよの あめまじり ゆきふるよは すべもなく さむくしあれば かたしほを とりつづしろひ かすゆざけ うちすすろひて しはぶかひ はなびしびしに しかとあらぬ ひげかきなでて あれをおきて ひとはあらじと ほころへど さむくしあれば あさぶすま ひきかがふり ぬのかたきぬ ありのことごと きそへども さむきよすらを われよりも まづしきひとの ちちははは うゑこゆらむ めこどもは こふこふなくらむ このときは いかにしつつか ながよはわたる あめつちは ひろしといへど あがためは さくやなりぬる ひつきは あかしといへど あがためは てりやたまはぬ ひとみなか あのみやしかる わくらばに ひととはあるを ひとなみに あれもつくるを わたもなき ぬのかたぎぬの みるのごと わわけさがれる かかふのみ かたにうちかけ ふせいほの まげいほのうちに ひたつちに わらときしきて ちちははは まくらのかたに めこどもは あとのかたに かくみゐて うれへさまよひ かまどには ほけふきたてず こしきには くものすかきて いひかしく こともわすれて ぬえどりの のどよひをるに いとのきて みじかきものを はしきると いへるがごとく しもととる さとをさがこゑは ねやどまで きたちよばひぬ かくばかり すべなきものか よのなかのみち
左注 (山上憶良頓首謹上)
校異 歌 [西] 謌 / 可→叵 [定本]
事項 作者:山上憶良 社会性 国司 貧窮
訓異 かぜまじり;かせましり, あめふるよの;あめのふるよの, あめまじり;あめましり, ゆきふるよは;ゆきのふるよは, すべもなく;すへもなく, さむくしあれば;さむくしあれは, とりつづしろひ;とりつつしろひ, かすゆざけ;かすゆさけ, しはぶかひ;しかふかひ, はなびしびしに;ひひしひしに, ひげかきなでて;ひけかきなてて, ひとはあらじと;ひとはあらしと, ほころへど;ほころへと, さむくしあれば;さむくしあれは, あさぶすま;あさふすま, ひきかがふり;ひきかかふり, ありのことごと;ありのことこと, きそへども;きそへとも, さむきよすらを;さむきよすらも, まづしきひとの;まつしきひとの, うゑこゆらむ;うへさむからむ, めこどもは;めこともは, こふこふなくらむ;こひてなくらむ, ながよはわたる;なかよはわたる, ひろしといへど;ひろしといへと, あがためは;あかためは, あかしといへど;あかしといへと, あがためは;あかためは, あのみやしかる;われのみやしかる, わくらばに;わくらはに, ぬのかたぎぬの;ぬのかたきぬの, みるのごと;みるのこと, わわけさがれる;わわけさかれる, まげいほのうちに;まきいほのうちに, めこどもは;めこともは, かくみゐて;かこみゐて, かまどには;かまとには, ほけふきたてず;けふりふきたてす, ぬえどりの;ぬえとりの, のどよひをるに;のとよひをるに, みじかきものを;みしかきものを, いへるがごとく;いへるかことく, しもととる;とる, さとをさがこゑは;いとらかこゑは, ねやどまで;ねやとまて, きたちよばひぬ;きたてよはひぬ, かくばかり;かくはかり, すべなきものか;すへなきものか, 
   
  05/0893
題詞 (貧窮問答歌一首[并短歌])
原文 世間乎 宇之等夜佐之等 於母倍杼母 飛立可祢都 鳥尓之安良祢婆
訓読 世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
仮名 よのなかを うしとやさしと おもへども とびたちかねつ とりにしあらねば
左注 山上憶良頓首謹上
校異 なし
事項 作者:山上憶良 社会性 国司 貧窮
訓異 おもへども;おもへとも, とびたちかねつ;とひたちかねつ, とりにしあらねば;とりにしあらねは, 
   
  05/0894
題詞 好去好来歌一首[反歌二首]
題訓 好去好来の歌一首、また短歌
原文 神代欲理 云傳久良久 虚見通 倭國者 皇神能 伊都久志吉國 言霊能 佐吉播布國等 加多利継 伊比都賀比計理 今世能 人母許等期等 目前尓 見在知在 人佐播尓 満弖播阿礼等母 高光 日御朝庭 神奈我良 愛能盛尓 天下 奏多麻比志 家子等 撰多麻比天 勅旨 [反云 大命]<戴>持弖 唐能 遠境尓 都加播佐礼 麻加利伊麻勢 宇奈原能 邊尓母奥尓母 神豆麻利 宇志播吉伊麻須 諸能 大御神等 船舳尓 [反云 布奈能閇尓] 道引麻<遠志> 天地能 大御神等 倭 大國霊 久堅能 阿麻能見虚喩 阿麻賀氣利 見渡多麻比 事畢 還日者 又更 大御神等 船舳尓 御手<打>掛弖 墨縄遠 播倍多留期等久 阿<遅>可遠志 智可能岫欲利 大伴 御津濱備尓 多太泊尓 美船播将泊 都々美無久 佐伎久伊麻志弖 速歸坐勢
訓読 神代より 言ひ伝て来らく そらみつ 大和の国は 皇神の 厳しき国 言霊の 幸はふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり 今の世の 人もことごと 目の前に 見たり知りたり 人さはに 満ちてはあれども 高照らす 日の朝廷 神ながら 愛での盛りに 天の下 奏したまひし 家の子と 選ひたまひて 大御言 [反云 大みこと] 戴き持ちて もろこしの 遠き境に 遣はされ 罷りいませ 海原の 辺にも沖にも 神づまり 領きいます もろもろの 大御神たち 船舳に [反云 ふなのへに] 導きまをし 天地の 大御神たち 大和の 大国御魂 ひさかたの 天のみ空ゆ 天翔り 見わたしたまひ 事終り 帰らむ日には またさらに 大御神たち 船舳に 御手うち掛けて 墨縄を 延へたるごとく あぢかをし 値嘉の崎より 大伴の 御津の浜びに 直泊てに 御船は泊てむ 障みなく 幸くいまして 早帰りませ
仮名 かむよより いひつてくらく そらみつ やまとのくには すめかみの いつくしきくに ことだまの さきはふくにと かたりつぎ いひつがひけり いまのよの ひともことごと めのまへに みたりしりたり ひとさはに みちてはあれども たかてらす ひのみかど かむながら めでのさかりに あめのした まをしたまひし いへのこと えらひたまひて おほみこと [おほみこと] いただきもちて からくにの とほきさかひに つかはされ まかりいませ うなはらの へにもおきにも かむづまり うしはきいます もろもろの おほみかみたち ふなのへに [ふなのへに] みちびきまをし あめつちの おほみかみたち やまとの おほくにみたま ひさかたの あまのみそらゆ あまがけり みわたしたまひ ことをはり かへらむひには またさらに おほみかみたち ふなのへに みてうちかけて すみなはを はへたるごとく あぢかをし ちかのさきより おほともの みつのはまびに ただはてに みふねははてむ つつみなく さきくいまして はやかへりませ
左注 (天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良謹上 大唐大使卿記室)
校異 歌 [西] 謌 / 反歌 [西] 反謌 [西(訂正)] 反歌 / 載→戴 [代匠記精撰本] / 志遠→遠志 [細] / 行→打 [西(訂正)][紀][細] / 遠 [紀] 袁 / 庭→遅 [紀][細] / 太 [紀] 大
事項 作者:山上憶良 多治比広成 遣唐使 餞別 羈旅 天平5年3月1日 年紀
訓異 かむよより;かみよより, いひつてくらく;いひつてけらく, そらみつ;そらにみつ, すめかみの;すへかみの, ことだまの;ことたまの, かたりつぎ;かたりつき, いひつがひけり;いひつかひけり, ひともことごと;ひともことこと, みたりしりたり;みまちま, みちてはあれども;みちてはあれとも, ひのみかど;ひのみかとに, かむながら;かみなから, めでのさかりに;めくみのさかりに, まをしたまひし;まうしたまひし, [おほみこと], いただきもちて;のせもたしめて, からくにの;もろこしの, かむづまり;かみつまり, [ふなのへに], みちびきまをし;みちひかましを, やまとの;やまとなる, あまがけり;あまかけり, ことをはり;ことをへて, はへたるごとく;はへたることく, あぢかをし;あてかをし, ちかのさきより;ちかのくきより, みつのはまびに;みつのはまへに, ただはてに;たたはてに, 
   
  05/0895
題詞 (好去好来歌一首[反歌二首])反歌
題訓 反し歌
原文 大伴 御津松原 可吉掃弖 和礼立待 速歸坐勢
訓読 大伴の御津の松原かき掃きて我れ立ち待たむ早帰りませ
仮名 おほともの みつのまつばら かきはきて われたちまたむ はやかへりませ
左注 (天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良謹上 大唐大使卿記室)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:山上憶良 多治比広成 遣唐使 餞別 羈旅 天平5年3月1日 年紀
訓異 みつのまつばら;みつのまつはら, 
   
  05/0896
題詞 ((好去好来歌一首[反歌二首])反歌)
原文 難波津尓 美船泊農等 吉許延許婆 紐解佐氣弖 多知婆志利勢武
訓読 難波津に御船泊てぬと聞こえ来ば紐解き放けて立ち走りせむ
仮名 なにはつに みふねはてぬと きこえこば ひもときさけて たちばしりせむ
左注 天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良謹上 大唐大使卿記室
左注訓 天平五年三月の一日 良宅対面、献ルハ三日ナリ。山上憶良 謹みて上る。 大唐大使もろこしにつかはすつかひのかみの卿の記室。
校異 波 [類][紀][細] 破
事項 作者:山上憶良 多治比広成 遣唐使 餞別 羈旅 天平5年3月1日 年紀
訓異 きこえこば;きこえこは, たちばしりせむ;たちはしりせむ, 
   
  05/0897
題詞 老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首]
題訓 老身重病年を経て辛苦くるしみ、また児等を思ふ歌五首 長一首、短四首
原文 霊剋 内限者 [謂瞻州人<壽>一百二十年也] 平氣久 安久母阿良牟遠 事母無 裳無母阿良牟遠 世間能 宇計久都良計久 伊等能伎提 痛伎瘡尓波 <鹹>塩遠 潅知布何其等久 益々母 重馬荷尓 表荷打等 伊布許等能其等 老尓弖阿留 我身上尓 病遠等 加弖阿礼婆 晝波母 歎加比久良志 夜波母 息豆伎阿可志 年長久 夜美志渡礼婆 月累 憂吟比 許等々々波 斯奈々等思騰 五月蝿奈周 佐和久兒等遠 宇都弖々波 死波不知 見乍阿礼婆 心波母延農 可尓<可>久尓 思和豆良比 祢能尾志奈可由
訓読 たまきはる うちの限りは [謂瞻州人<壽>一百二十年也] 平らけく 安くもあらむを 事もなく 喪なくもあらむを 世間の 憂けく辛けく いとのきて 痛き瘡には 辛塩を 注くちふがごとく ますますも 重き馬荷に 表荷打つと いふことのごと 老いにてある 我が身の上に 病をと 加へてあれば 昼はも 嘆かひ暮らし 夜はも 息づき明かし 年長く 病みしわたれば 月重ね 憂へさまよひ ことことは 死ななと思へど 五月蝿なす 騒く子どもを 打棄てては 死には知らず 見つつあれば 心は燃えぬ かにかくに 思ひ煩ひ 音のみし泣かゆ
仮名 たまきはる うちのかぎりは たひらけく やすくもあらむを こともなく もなくもあらむを よのなかの うけくつらけく いとのきて いたききずには からしほを そそくちふがごとく ますますも おもきうまにに うはにうつと いふことのごと おいにてある あがみのうへに やまひをと くはへてあれば ひるはも なげかひくらし よるはも いきづきあかし としながく やみしわたれば つきかさね うれへさまよひ ことことは しななとおもへど さばへなす さわくこどもを うつてては しにはしらず みつつあれば こころはもえぬ かにかくに おもひわづらひ ねのみしなかゆ
左注 (天平五年六月丙申朔三日戊戌作)
校異 等→壽 [紀][細] / 醎→鹹 [矢][京] / <>→可 [西(右書)][紀][細][温]
事項 作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀
訓異 うちのかぎりは;うちのかきりは, たひらけく;たいらけく, いたききずには;いたききすには, そそくちふがごとく;そそくちふかことく, いふことのごと;いふことのこと, あがみのうへに;わかみのうへに, くはへてあれば;かてあれは, なげかひくらし;なけかひくらし, いきづきあかし;いきつきあかし, としながく;としなかく, やみしわたれば;やみしわたれは, しななとおもへど;しななとおもへと, さばへなす;さはへなす, さわくこどもを;さわくこともを, しにはしらず;しなむはしらす, みつつあれば;みつつあれは, おもひわづらひ;おもひさつらひ, 
   
  05/0898
題詞 (老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌
題訓 反し歌
原文 奈具佐牟留 心波奈之尓 雲隠 鳴徃鳥乃 祢能尾志奈可由
訓読 慰むる心はなしに雲隠り鳴き行く鳥の音のみし泣かゆ
仮名 なぐさむる こころはなしに くもがくり なきゆくとりの ねのみしなかゆ
左注 (天平五年六月丙申朔三日戊戌作)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀
訓異 なぐさむる;なくさむる, くもがくり;くもかくれ, 
   
  05/0899
題詞 ((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)
原文 周弊母奈久 苦志久阿礼婆 出波之利 伊奈々等思騰 許良尓<佐>夜利奴
訓読 すべもなく苦しくあれば出で走り去ななと思へどこらに障りぬ
仮名 すべもなく くるしくあれば いではしり いななとおもへど こらにさやりぬ
左注 (天平五年六月丙申朔三日戊戌作)
校異 作→佐 [類][紀][古][細]
事項 作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀
訓異 すべもなく;すへもなく, くるしくあれば;くるしくあれは, いではしり;いててはしり, いななとおもへど;いななとおもへと, 
   
  05/0900
題詞 ((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)
原文 富人能 家能子等能 伎留身奈美 久多志須都良牟 絁綿良波母
訓読 富人の家の子どもの着る身なみ腐し捨つらむ絹綿らはも
仮名 とみひとの いへのこどもの きるみなみ くたしすつらむ きぬわたらはも
左注 (天平五年六月丙申朔三日戊戌作)
校異 なし
事項 作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀
訓異 いへのこどもの;いへのこともの, 
   
  05/0901
題詞 ((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)
原文 麁妙能 布衣遠陀尓 伎世難尓 可久夜歎敢 世牟周弊遠奈美
訓読 荒栲の布衣をだに着せかてにかくや嘆かむ為むすべをなみ
仮名 あらたへの ぬのきぬをだに きせかてに かくやなげかむ せむすべをなみ
左注 (天平五年六月丙申朔三日戊戌作)
左注訓 山上憶良頓首謹みて上る。
校異 なし
事項 作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀
訓異 ぬのきぬをだに;ぬのきぬをたに, かくやなげかむ;かくやなけかむ, せむすべをなみ;せむすへをなみ, 
   
  05/0902
題詞 ((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)
原文 水沫奈須 微命母 栲縄能 千尋尓母何等 慕久良志都
訓読 水沫なすもろき命も栲縄の千尋にもがと願ひ暮らしつ
仮名 みなわなす もろきいのちも たくづなの ちひろにもがと ねがひくらしつ
左注 (天平五年六月丙申朔三日戊戌作)
校異 なし
事項 作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀 枕詞
訓異 みなわなす;みなはなす, たくづなの;たくなはの, ちひろにもがと;ちひろにもかと, ねがひくらしつ;ねかひくらしつ, 
   
  05/0903
題詞 ((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)
原文 倭<文>手纒 數母不在 身尓波在等 千年尓母<何>等 意母保由留加母 [去神龜二年作之 但以<類>故更載於茲]
訓読 しつたまき数にもあらぬ身にはあれど千年にもがと思ほゆるかも [去る神龜二年之を作る。但し類を以ての故に更に茲に載す]
仮名 しつたまき かずにもあらぬ みにはあれど ちとせにもがと おもほゆるかも
左注 天平五年六月丙申朔三日戊戌作
左注訓 天平五年六月の丙申ひのえさるの朔つきたち三日みかのひ戊戌つちのえいぬ作めり。
校異 父→文 [類][細] / 可→何 [類][紀][古] / <>→類 [類][紀]
事項 作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 枕詞
訓異 かずにもあらぬ;かすにもあらぬ, みにはあれど;みにはあれと, ちとせにもがと;ちとせにもかと, 
   
  05/0904
題詞 戀男子名古日歌三首 [長一首短二首]
題訓 男子をのこ名は古日ふるひを恋ふる歌三首 長一首、短二首
原文 世人之 貴慕 七種之 寶毛我波 何為 和我中能 産礼出有 白玉之 吾子古日者 明星之 開朝者 敷多倍乃 登許能邊佐良受 立礼杼毛 居礼杼毛 登母尓戯礼 夕星乃 由布弊尓奈礼<婆> 伊射祢余登 手乎多豆佐波里 父母毛 表者奈佐我利 三枝之 中尓乎祢牟登 愛久 志我可多良倍婆 何時可毛 比等々奈理伊弖天 安志家口毛 与家久母見武登 大船乃 於毛比多能無尓 於毛波奴尓 横風乃 <尓布敷可尓> 覆来礼婆 世武須便乃 多杼伎乎之良尓 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡 弖尓登利毛知弖 天神 阿布藝許比乃美 地祇 布之弖額拜 可加良受毛 可賀利毛 神乃末尓麻尓等 立阿射里 我例乞能米登 須臾毛 余家久波奈之尓 漸々 可多知都久保里 朝々 伊布許等夜美 霊剋 伊乃知多延奴礼 立乎杼利 足須里佐家婢 伏仰 武祢宇知奈氣<吉> 手尓持流 安我古登<婆>之都 世間之道
訓読 世間の 貴び願ふ 七種の 宝も我れは 何せむに 我が中の 生れ出でたる 白玉の 我が子古日は 明星の 明くる朝は 敷栲の 床の辺去らず 立てれども 居れども ともに戯れ 夕星の 夕になれば いざ寝よと 手を携はり 父母も うへはなさがり さきくさの 中にを寝むと 愛しく しが語らへば いつしかも 人と成り出でて 悪しけくも 吉けくも見むと 大船の 思ひ頼むに 思はぬに 邪しま風の にふふかに 覆ひ来れば 為むすべの たどきを知らに 白栲の たすきを掛け まそ鏡 手に取り持ちて 天つ神 仰ぎ祈ひ祷み 国つ神 伏して額つき かからずも かかりも 神のまにまにと 立ちあざり 我れ祈ひ祷めど しましくも 吉けくはなしに やくやくに かたちつくほり 朝な朝な 言ふことやみ たまきはる 命絶えぬれ 立ち躍り 足すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち嘆き 手に持てる 我が子飛ばしつ 世間の道
仮名 よのなかの たふとびねがふ ななくさの たからもわれは なにせむに わがなかの うまれいでたる しらたまの あがこふるひは あかぼしの あくるあしたは しきたへの とこのへさらず たてれども をれども ともにたはぶれ ゆふつづの ゆふへになれば いざねよと てをたづさはり ちちははも うへはなさがり さきくさの なかにをねむと うつくしく しがかたらへば いつしかも ひととなりいでて あしけくも よけくもみむと おほぶねの おもひたのむに おもはぬに よこしまかぜの にふふかに おほひきたれば せむすべの たどきをしらに しろたへの たすきをかけ まそかがみ てにとりもちて あまつかみ あふぎこひのみ くにつかみ ふしてぬかつき かからずも かかりも かみのまにまにと たちあざり われこひのめど しましくも よけくはなしに やくやくに かたちつくほり あさなさな いふことやみ たまきはる いのちたえぬれ たちをどり あしすりさけび ふしあふぎ むねうちなげき てにもてる あがことばしつ よのなかのみち
左注 ?(右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 波→婆 [紀][細] / 尓母布敷可尓布敷可尓→尓布敷可尓 [新訓]
事項 山上憶良 仏教 儒教 孝養 子供 嘆翮 枕詞
訓異 よのなかの;よのひとの, たふとびねがふ;たふともねかふ, なにせむに;なにかせし, わがなかの;わかなかの, うまれいでたる;むまれいてたる, あがこふるひは;わかこふるひは, あかぼしの;あかほしの, とこのへさらず;とこのへさらす, たてれども;たてれとも, をれども;をれとも, ともにたはぶれ;ともにたはふれ, ゆふつづの;ゆふほしの, ゆふへになれば;ゆふへになれは, いざねよと;いさねよと, てをたづさはり;てをたつさはり, うへはなさがり;うへはなさかり, うつくしく;おもはしく, しがかたらへば;しかかたらへは, ひととなりいでて;ひととなりいてて, おほぶねの;おほふねの, よこしまかぜの;よこかせのにも, にふふかに;にもしくしくかにふくかに, おほひきたれば;おほひきぬれは, せむすべの;せむすへの, たどきをしらに;たときをしらに, まそかがみ;まそかかみ, あふぎこひのみ;あふきこひのみ, かからずも;かからすも, たちあざり;たちあさり, われこひのめど;われこひのめと, しましくも;しはらくも, あさなさな;あさなあさな, たちをどり;たちをとり, あしすりさけび;あしすりさけひ, ふしあふぎ;ふしあふき, むねうちなげき;むねうちなけき, あがことばしつ;あかことはしつ, 
   
  05/0905
題詞 (戀男子名古日歌三首 [長一首短二首])反歌
題訓 反し歌
原文 和可家礼婆 道行之良士 末比波世武 之多敝乃使 於比弖登保良世
訓読 若ければ道行き知らじ賄はせむ黄泉の使負ひて通らせ
仮名 わかければ みちゆきしらじ まひはせむ したへのつかひ おひてとほらせ
左注 ?(右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 山上憶良 仏教 儒教 孝養 子供 嘆翮
訓異 わかければ;わかけれは, みちゆきしらじ;みちゆきしらし, 
   
  05/0906
題詞 ((戀男子名古日歌三首 [長一首短二首])反歌)
原文 布施於吉弖 吾波許比能武 阿射無加受 多太尓率去弖 阿麻治思良之米
訓読 布施置きて我れは祈ひ祷むあざむかず直に率行きて天道知らしめ
仮名 ふせおきて われはこひのむ あざむかず ただにゐゆきて あまぢしらしめ
左注 右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉
左注訓
校異 歌 [西] 謌 / 太 [類][細] 大
事項 山上憶良 仏教 儒教 孝養 子供 嘆翮
訓異 ふせおきて;ふしおきて, あざむかず;あせむかす, ただにゐゆきて;たたにゐゆきて, あまぢしらしめ;あまちしらしめ,