枕草子104段 淑景舎、東宮に参り給ふほど

雨の 枕草子
上巻下
104段
淑景舎
殿上より

(旧)大系:104段
新大系:100段、新編全集:100段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:108段
 


 
 淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど、いかがめでたからぬことなし。
 

 東宮の御使ひに周頼の少将参りたり。御文取り入れて、渡殿は細き縁なれば、こなたの縁に褥さしいだしたり。御文取り入れて、殿・上・宮など御覧じわたす。「御返し、はや」とあれど、とみにも聞こえ給はぬを、「なにがしが見侍れば、書き給はぬなめり。さらぬをりは、これよりぞ、間もなく聞こえ給ふなる」など申し給へば、御おもては少しあかみて、うちほほゑみ給へる、いとめでたし。「まことに、とく」など、上も聞こえ給へば、奥に向きて書い給ふ。上、近う寄り給ひて、もろともに書かせ奉り給へば、いとどつつましげなり。
 

 宮の方より、萌黄の織物の小袿、袴おしいでたれば、三位の中将かづけ給ふ。首苦しげに持ちて立ちぬ。
 

 松君のをかしうもの宣ふを、たれもたれも、うつくしがり聞こえ給ふ。「宮の御子たちとて、ひきいでたらむに、わるく侍らじかし」など、宣はするを、げになどか、さる御事の今までとぞ、心もとなき。