奥の細道 石巻:原文対照

瑞巌寺 奥の細道
石巻
平泉


『おくのほそ道』
素龍清書原本 校訂
『新釈奥の細道』
   十二日、平泉と志し、 十二日平泉と心さし
  姉歯の松 あねはのまつ
  緒絶えの橋など聞き伝へて、 緖だへの橋など聞傳へて
  人跡まれに、 人跡まれに
  雉兎蒭蕘の行き交ふ道そことも分かず、 雉兎蒭蕘の行かふ道そこともわかず
  つひに道踏みたがへて 終に道ふみたがへて
  石の巻といふ港に出づ。 石の卷といふ湊に出づ
     
  こがね花咲く」とよみて奉りたる金華山、 こかね花さくとよみて奉たる金花山
  海上に見渡し、 海上に見渡し
  数百の廻船入江につどひ、 數百の廻船入江につたひ一本つどひトアリ
  人家地をあらそひて、竈の煙立ち続けたり。 人家地を爭てかまどのけふり立つゝけたり
  思ひかけずかかる所にも来れるかな、と、 思ひかけず斯る所にも來れる哉と
  宿借らんとすれど、さらに宿貸す人なし。 宿からんとすれどさらに宿かす人なし
     
  やうやうまどしき小家に一夜を明かして、 漸くまどしき小家に一夜をあかして
  明くればまた知らぬ道迷ひ行く。 明れば又しらぬ道まどひ行く
  袖の渡り、 袖のわたり
  尾ぶちの牧、 尾ぶちの牧
  真野の萱原などよそ目に見て、 まのゝかや原などよそめに見て
  宿借らんとすれど、 遙なる堤を行く
     
  心細き長沼に添うて、 心ぼそき長沼にそふて
  戸伊摩といふ所に一宿して、 戶伊麻といふ所に一宿して
  平泉に到る。 平泉に至る
  その間二十余里ほどとおぼゆ。 その間廿余里ほどゝ一本ほどノ二字ナシ覺ゆ
瑞巌寺 奥の細道
石巻
平泉

「栗原のあねはの松の人ならば 都のつとにいざといはましを」(伊勢物語14段・陸奥の国、昔男=文屋)

「妹背山深き道をば尋ねずて 緒絶の橋に踏み迷ひけるよ」(源氏物語・藤袴、柏木=紫式部)