宇治拾遺物語:鄭太尉の事

孔子問答 宇治拾遺物語
巻第十二
12-17 (153)
鄭太尉
貧しき俗

 
 今は昔、親に孝する者ありけり。朝夕に木をこりて親を養ふ。孝養の心空に知られぬ。
 梶もなき舟に乗りて、向ひの島に行くに、朝には南の風吹きて、北の島に吹きつけつ。
 夕にはまた、舟に木をこりて入れて居たれば、北の風吹きて家に吹きつけつ。
 かくのごとくするほどに、年ごろになりて、おほやけに聞し召して、大臣になして召し使はる。その名を鄭太尉とぞ言ひける。