紫式部集87 曇りなく:原文対訳・逐語分析

86めづらしき 紫式部集
第七部
栄花と追憶

87曇りなく
異本78
88いかにいかが
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜当サイトで改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜当サイトで補注〉
又の夜、  次の夜、 【又の夜】-寛弘五年(一〇〇八)九月十六日の夜。
月の隈なきに 月が明るいので  
若人たち、 若い女房たちが、 【若人たち】-若い女房たち。
舟に乗りて遊ぶを見やる。 舟に乗って遊ぶのを眺める。  
中島の松の根に 中島の松の根もとに  
さしめぐるほど、 舟が漕ぎ廻るところが、  
をかしく見ゆれば、 趣き深く見えるので、 【をかしく】-実践本「おかし」は定家の仮名遣い。
     
曇りなく 翳りなく  
千歳に澄める 千年も澄んでいる  
水の面に 水の面に  
宿れる月の 宿っている月の  
影ものどけし 〈面影〉ものどかなこと

〈影:ここでは「水の面」を受け水面(みなも)の面影。投影。

通説の定義は、影の非実体性を解せず言葉を曲げる背理で誤り。

影とは光であることを言う言葉ではない。ここでは像・映像〉

     

参考異本=後世の二次資料

 「後一条院うまれさせたまへりける九月、つきくまなかりける夜、大二条関白、中将に侍りける、わかき人人さそひいでて、池のふねにのせて、中じまのまつかげさしまはすほど、をかしくみえ侍りければ  紫式部
くもりなくちとせにすめる水の面にやどれる月の影ものどけし」(寿本「新古今集」賀 七二二)