古事記 猪問答~原文対訳

大山守の乱 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
大山守の乱
2 猪問答
ちはやぶる宇治の渡歌
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是其兄王。 ここにその兄王、 ここにその兄の王が
隱伏兵士。 兵士いくさびとを隱し伏せ、 兵士を隱し、
衣中服鎧。 鎧を衣の中に服きせて、 鎧よろいを衣の中に著せて、
到於河邊。 河の邊に到りて、 河のほとりに到つて
將乘船時。 船に乘らむとする時に、 船にお乘りになろうとする時に、
望其嚴餝之處。 その嚴飾かざれる處を望みさけて、 そのいかめしく飾つた處を見遣つて、
以爲弟王。 弟王 弟の王が
坐其呉床。 その呉床あぐらにいますと
思ほして、
その椅子においでになると
お思いになつて、
都不知。
執楫而
立船。
ふつにかぢを取りて
船に立ちませることを
知らず、
棹を取つて
船に立つておいでになることを
知らないで、
即問
其執楫者曰。
すなはちそのかぢ執れる者に
問ひたまはく、
その棹を取つている者に
お尋ねになるには、
     
傳聞。
茲山有忿怒之大猪。
「この山に怒れる大猪ありと
傳つてに聞けり。
「この山には怒つた大猪があると
傳え聞いている。
吾欲取其猪。 吾その猪を取らむと思ふを、 わしがその猪を取ろうと思うが
若獲其猪乎。 もしその猪を獲むや」
と問ひたまへば、
取れるだろうか」
とお尋ねになりましたから、
     
爾執楫者。 かぢ執れる者答へて曰はく、 棹を取つた者は
答曰不能也。 「得たまはじ」といひき。 「それは取れますまい」と申しました。
     
亦問曰何由。 また問ひたまはく、
「何とかも」と問ひたまへば、
また「どうしてか」と
お尋ねになつたので、
答曰。 答へたまはく  
時時也徃徃也。 「時時よりより往往ところどころにして、 「たびたび取ろうとする者があつたが
雖爲取而不得。 取らむとすれども得ず。 取れませんでした。
是以白
不能也。
ここを以ちて得たまはじと
白すなり」といひき。
それだからお取りになれますまい
と申すのです」と申しました。
大山守の乱 古事記
中巻⑧
15代 応神天皇
大山守の乱
2 猪問答
ちはやぶる宇治の渡歌