古今和歌集 巻十一 恋一:歌の配置・コメント付

目次
  469
不知
470
素性
471
貫之
472
勝臣
473
元方
474
元方
475
貫之
476
業?
477
不知
478
忠岑
479
貫之
480
元方
481
躬恒
482
貫之
483
不知
484
不知
485
不知
486
不知
487
不知
488
不知
489
不知
490
不知
491
不知
492
不知
493
不知
494
不知
495
不知
496
不知
497
不知
498
不知
499
不知
500
不知
501
不知
502
不知
503
不知
504
不知
505
不知
506
不知
507
不知
508
不知
509
不知
510
不知
511
不知
512
不知
513
不知
514
不知
515
不知
516
不知
517
不知
518
不知
519
不知
520
不知
521
不知
522
不知
523
不知
524
不知
525
不知
526
不知
527
不知
528
不知
529
不知
530
不知
531
不知
532
不知
533
不知
534
不知
535
不知
536
不知
537
不知
538
不知
539
不知
540
不知
541
不知
542
不知
543
不知
544
不知
545
不知
546
不知
547
不知
548
不知
549
不知
550
不知
551
不知
 
 
※不知が85.5%(71/83)。一番多いのに圧倒的不知。不知から始まり不知に終わる。先頭が不知と素性。それに続ける貫之。この構図は先頭の春上に示された文屋の暗示。
 これは素性の知れない伊勢物語の影響、それを受けて国の歌集なのに、恋一が第一の厚さになっているということを象徴している。加えて、はかり知れないことも。
 まずここに文屋の歌が多く含まれている。というよりほぼ全てだろう。この一見して調整した(一箇所にまとめた)配置はそう。小町の男バージョン。それを始める482の貫之が「神」としていることからもそう言える。
 伊勢が業平のものではないことは前巻の解説参照。これは推測ではない。絶対確実なこと。伊勢自体が業平を否定し、その点について貫之と紫が明示的に支持している。
 両者とも神について、ズレた理解ではなく、ただ上辺でもなく、正面からリスペクトした。だからこその二人の立ち位置。ただ紫の方がより熱心だった、それが源氏物語。
 おかしな信仰の国は危ういが、信仰のない国は脆い。結局同じ。
 この信仰とは、最後には真っ当なことが絶対に貫かれる(真っ当にジャッジされる)という信念。
 貫之はそういう名。それに連なる紫。源氏では、伊勢が左右(一般の軽薄な評vs伊勢斎宮側の海ほど深い心=凡人にははかれない)に分かれて争われ、御前で裁定される。結果は当然の勝利。その当然のことが現実になる。その絶対の確信。この文脈での御前とは帝のことではない。

 
 

巻十一:恋一

   
   0469
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 郭公 なくやさ月の あやめくさ
 あやめもしらぬ こひもするかな
かな ほとときす なくやさつきの あやめくさ
 あやめもしらぬ こひもするかな
   
  0470
詞書 題しらす
作者 素性法師
原文 おとにのみ きくの白露 よるはおきて
 ひるは思ひに あへすけぬへし
かな おとにのみ きくのしらつゆ よるはおきて
 ひるはおもひに あへすけぬへし
   
  0471
詞書 題しらす
作者 紀貫之
原文 吉野河 いは浪たかく 行く水の
 はやくそ人を 思ひそめてし
かな よしのかは いはなみたかく ゆくみつの
 はやくそひとを おもひそめてし
   
  0472
詞書 題しらす
作者 藤原勝臣
原文 白浪の あとなき方に 行く舟も
 風そたよりの しるへなりける
かな しらなみの あとなきかたに ゆくふねも
 かせそたよりの しるへなりける
   
  0473
詞書 題しらす
作者 在原元方
原文 おとは山 おとにききつつ 相坂の
 関のこなたに 年をふるかな
かな おとはやま おとにききつつ あふさかの
 せきのこなたに としをふるかな
   
  0474
詞書 題しらす
作者 在原元方
原文 立帰り あはれとそ思ふ よそにても
 人に心を おきつ白浪
かな たちかへり あはれとそおもふ よそにても
 ひとにこころを おきつしらなみ
   
  0475
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 世中は かくこそ有りけれ 吹く風の
 めに見ぬ人も こひしかりけり
かな よのなかは かくこそありけれ ふくかせの
 めにみぬひとも こひしかりけり
   
  0476
詞書 右近のむまはのひをりの日、
むかひにたてたりけるくるまの
したすたれより女のかほ
ほのかに見えけれは、よむてつかはしける
作者 在原業平朝臣(※問題あり)
原文 見すもあらす 見もせぬ人の こひしくは
 あやなくけふや なかめくらさむ
かな みすもあらす みもせぬひとの こひしくは
 あやなくけふや なかめくらさむ
コメ

出典:伊勢99段(ひをりの日)。
「むかし、右近の馬場のひをりの日、
むかひに立てたりける車に、
女の顔の、下簾よりほのかに見えければ、
中将なりける男のよみてやりける、
『見ずもあらず 見もせぬ人の 恋ひしくは
 あやなくけふや ながめ暮さむ』」 
 
 中将なりける男=在原なりける男(65段)=業平。これは問題ないだろう。
 しかし中将が業平というのはフラットに見れば当然ではない。伊勢以降ならいざしらず、伊勢以前に中将=業平ではない。
 99段の歌は物語上でも数少ない業平(中将)が歌ったとされる段だが、他の表記から当人の言動を著者が翻案したもの。
 伊勢101段で、業平は歌をもとより知らないとされている。
 そしてこの「見もせぬ人」という女の顔とは、二条の后というオチ(のちは誰と知りにけり)。
 直接明示はされないが、車にのり、業平にクサされた女性は二条の后しかない(76段)。二条の后が伊勢に参った時に藤原の氏神を出して。
 またこの話の前でも、物語冒頭以来二条の后とせうと(兄)の話が連続していた(95~98段)。これを完全に無視するのはさすがに無理解。
 業平の歌は常にこのようなもの。中将とあるからと収録した時点で、認定者に理解はない。

   
  0477
詞書 返し
作者 よみ人しらす
原文 しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ
 思ひのみこそ しるへなりけれ
かな しるしらぬ なにかあやなく わきていはむ
 おもひのみこそ しるへなりけれ
   
  0478
詞書 かすかのまつりにまかれりける時に、
物見にいてたりける女のもとに
家をたつねてつかはせりける
作者 みふのたたみね(壬生忠岑)
原文 かすかのの ゆきまをわけて おひいてくる
 草のはつかに 見えしきみはも
かな かすかのの ゆきまをわけて おひいてくる
 くさのはつかに みえしきみはも
   
  0479
詞書 人の花つみしける所にまかりて、
そこなりける人のもとに
のちによみてつかはしける
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 山さくら 霞のまより ほのかにも
 見てし人こそ こひしかりけれ
かな やまさくら かすみのまより ほのかにも
 みてしひとこそ こひしかりけれ
   
  0480
詞書 題しらす
作者 もとかた(在原元方)
原文 たよりにも あらぬおもひの あやしきは
 心を人に つくるなりけり
かな たよりにも あらぬおもひの あやしきは
 こころをひとに つくるなりけり
   
  0481
詞書 題しらす
作者 凡河内みつね(凡河内躬恒)
原文 はつかりの はつかにこゑを ききしより
 中そらにのみ 物を思ふかな
かな はつかりの はつかにこゑを ききしより
 なかそらにのみ ものをおもふかな
   
  0482
詞書 題しらす
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 逢ふ事は くもゐはるかに なる神の
 おとにききつつ こひ渡るかな
かな あふことは くもゐはるかに なるかみの
 おとにききつつ こひわたるかな
   
  0483
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 かたいとを こなたかなたに よりかけて
 あはすはなにを たまのをにせむ
かな かたいとを こなたかなたに よりかけて
 あはすはなにを たまのをにせむ
   
  0484
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 夕くれは 雲のはたてに 物そ思ふ
 あまつそらなる 人をこふとて
かな ゆふくれは くものはたてに ものそおもふ
 あまつそらなる ひとをこふとて
   
  0485
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 かりこもの 思ひみたれて 我こふと
 いもしるらめや 人しつけすは
かな かりこもの おもひみたれて わかこふと
 いもしるらめや ひとしつけすは
   
  0486
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 つれもなき 人をやねたく しらつゆの
 おくとはなけき ぬとはしのはむ
かな つれもなき ひとをやねたく しらつゆの
 おくとはなけき ぬとはしのはむ
   
  0487
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 ちはやふる かもの社の ゆふたすき
 ひと日も君を かけぬ日はなし
かな ちはやふる かものやしろの ゆふたすき
 ひとひもきみを かけぬひはなし
   
  0488
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 わかこひは むなしきそらに みちぬらし
 思ひやれとも ゆく方もなし
かな わかこひは むなしきそらに みちぬらし
 おもひやれとも ゆくかたもなし
   
  0489
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 するかなる たこの浦浪 たたぬひは
 あれとも君を こひぬ日はなし
かな するかなる たこのうらなみ たたぬひは
 あれともきみを こひぬひはなし
   
  0490
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 ゆふつく夜 さすやをかへの 松のはの
 いつともわかぬ こひもするかな
かな ゆふつくよ さすやをかへの まつのはの
 いつともわかぬ こひもするかな
   
  0491
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 葦引の 山した水の こかくれて
 たきつ心を せきそかねつる
かな あしひきの やましたみつの こかくれて
 たきつこころを せきそかねつる
   
  0492
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 吉野河 いはきりとほし 行く水の
 おとにはたてし こひはしぬとも
かな よしのかは いはきりとほし ゆくみつの
 おとにはたてし こひはしぬとも
   
  0493
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 たきつせの なかにもよとは ありてふを
 なとわかこひの ふちせともなき
かな たきつせの なかにもよとは ありてふを
 なとわかこひの ふちせともなき
   
  0494
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 山高み した行く水の したにのみ
 流れてこひむ こひはしぬとも
かな やまたかみ したゆくみつの したにのみ
 なかれてこひむ こひはしぬとも
   
  0495
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 思ひいつる ときはの山の いはつつし
 いはねはこそあれ こひしきものを
かな おもひいつる ときはのやまの いはつつし
 いはねはこそあれ こひしきものを
   
  0496
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 人しれす おもへはくるし 紅の
 すゑつむ花の いろにいてなむ
かな ひとしれす おもへはくるし くれなゐの
 すゑつむはなの いろにいてなむ
   
  0497
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 秋の野の をはなにましり さく花の
 いろにやこひむ あふよしをなみ
かな あきののの をはなにましり さくはなの
 いろにやこひむ あふよしをなみ
   
  0498
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 わかそのの 梅のほつえに 鶯の
 ねになきぬへき こひもするかな
かな わかそのの うめのほつえに うくひすの
 ねになきぬへき こひもするかな
   
  0499
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あしひきの 山郭公 わかことや
 君にこひつつ いねかてにする
かな あしひきの やまほとときす わかことや
 きみにこひつつ いねかてにする
   
  0500
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 夏なれはや とにふすふる かやり火の
 いつまてわか身 したもえをせむ
かな なつなれは やとにふすふる かやりひの
 いつまてわかみ したもえにせむ
   
  0501
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 恋せしと みたらし河に せしみそき
 神はうけすそ なりにけらしも
かな こひせしと みたらしかはに せしみそき
 かみはうけすそ なりにけらしも
コメ 出典:伊勢65段(在原なりける男)。
「恋せじと 御手洗川にせしみそぎ 神はうけずも なりにけるかな」
 伊勢では女につきまとい拒絶された「在原なりける男」が嘆いて歌ったことになっているが、著者の翻案ということは、0476で上述。
 男の最大の恥でしかないこの歌が、本人の口から流布することなどありえない。
 これは業平の歌とする伊勢の歌の全てで言える。つまり間接的におかしなことを表現している。
   
  0502
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あはれてふ 事たになくは なにをかは
 恋のみたれの つかねをにせむ
かな あはれてふ ことたになくは なにをかは
 こひのみたれの つかねをにせむ
   
  0503
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 おもふには 忍ふる事そ まけにける
 色にはいてしと おもひしものを
かな おもふには しのふることそ まけにける
 いろにはいてしと おもひしものを
   
  0504
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 わかこひを 人しるらめや 敷妙の
 枕のみこそ しらはしるらめ
かな わかこひを ひとしるらめや しきたへの
 まくらのみこそ しらはしるらめ
   
  0505
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あさちふの をののしの原 しのふとも
 人しるらめや いふ人なしに
かな あさちふの をののしのはら しのふとも
 ひとしるらめや いふひとなしに
コメ 百人一首39(参議等)参照。
あさぢふの をののしのはら しのぶれど
 あまりてなどか ひとのこひしき
   
  0506
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 人しれぬ 思ひやなそと あしかきの
 まちかけれとも あふよしのなき
かな ひとしれぬ おもひやなそと あしかきの
 まちかけれとも あふよしのなき
   
  0507
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 思ふとも こふともあはむ 物なれや
 ゆふてもたゆく とくるしたひも
かな おもふとも こふともあはむ ものなれや
 ゆふてもたゆく とくるしたひも
   
  0508
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 いて我を 人なとかめそ おほ舟の
 ゆたのたゆたに 物思ふころそ
かな いてわれを ひとなとかめそ おほふねの
 ゆたのたゆたに ものおもふころそ
   
  0509
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 伊勢の海に つりするあまの うけなれや
 心ひとつを 定めかねつる
かな いせのうみに つりするあまの うけなれや
 こころひとつを ささめかねつる
   
  0510
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 いせのうみの あまのつりなは 打ちはへて
 くるしとのみや 思ひ渡らむ
かな いせのうみの あまのつりなは うちはへて
 くるしとのみや おもひわたらむ
   
  0511
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 涙河 何みなかみを 尋ねけむ
 物思ふ時の わか身なりけり
かな なみたかは なにみなかみを たつねけむ
 ものおもふときの わかみなりけり
   
  0512
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 たねしあれは いはにも松は おひにけり
 恋をしこひは あはさらめやは
かな たねしあれは いはにもまつは おひにけり
 こひをしこひは あはさらめやは
   
  0513
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あさなあさな 立つ河霧の そらにのみ
 うきて思ひの ある世なりけり
かな あさなあさな たつかはきりの そらにのみ
 うきておもひの あるよなりけり
   
  0514
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 わすらるる 時しなけれは あしたつの
 思ひみたれて ねをのみそなく
かな わすらるる ときしなけれは あしたつの
 おもひみたれて ねをのみそなく
   
  0515
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 唐衣 ひもゆふくれに なる時は
 返す返すそ 人はこひしき
かな からころも ひもゆふくれに なるときは
 かへすかへすそ ひとはこひしき
   
  0516
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 よひよひに 枕さためむ 方もなし
 いかにねし夜か 夢に見えけむ
かな よひよひに まくらさためむ かたもなし
 いかにねしよか ゆめにみえけむ
   
  0517
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 恋しきに 命をかふる 物ならは
 しにはやすくそ あるへかりける
かな こひしきに いのちをかふる ものならは
 しにはやすくそ あるへかりける
   
  0518
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 人の身も ならはしものを あはすして
 いさ心みむ こひやしぬると
かな ひとのみも ならはしものを あはすして
 いさこころみむ こひやしぬると
   
  0519
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 忍ふれは 苦しきものを 人しれす
 思ふてふ事 誰にかたらむ
かな しのふれは くるしきものを ひとしれす
 おもふてふこと たれにかたらむ
   
  0520
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 こむ世にも はや成りななむ 目の前に
 つれなき人を 昔とおもはむ
かな こむよにも はやなりななむ めのまへに
 つれなきひとを むかしとおもはむ
   
  0521
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 つれもなき 人をこふとて 山ひこの
 こたへするまて なけきつるかな
かな つれもなき ひとをこふとて やまひこの
 こたへするまて なけきつるかな
   
  0522
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 ゆく水に かすかくよりも はかなきは
 おもはぬ人を 思ふなりけり
かな ゆくみつに かすかくよりも はかなきは
 おもはぬひとを おもふなりけり
   
  0523
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 人を思ふ 心は我に あらねはや
 身の迷ふたに しられさるらむ
かな ひとをおもふ こころはわれに あらねはや
 みのまよふたに しられさるらむ
   
  0524
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 思ひやる さかひはるかに なりやする
 まとふ夢ちに あふ人のなき
かな おもひやる さかひはるかに なりやする
 まとふゆめちに あふひとのなき
   
  0525
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 夢の内に あひ見む事を たのみつつ
 くらせるよひは ねむ方もなし
かな ゆめのうちに あひみむことを たのみつつ
 くらせるよひは ねむかたもなし
   
  0526
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 こひしねと するわさならし むはたまの
 よるはすからに 夢に見えつつ
かな こひしねと するわさならし うはたまの
 よるはすからに ゆめにみえつつ
   
  0527
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 涙河 枕なかるる うきねには
 夢もさたかに 見えすそありける
かな なみたかは まくらなかるる うきねには
 ゆめもさたかに みえすそありける
   
  0528
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 恋すれは わか身は影と 成りにけり
 さりとて人に そはぬものゆゑ
かな こひすれは わかみはかけと なりにけり
 さりとてひとに そはぬものゆゑ
   
  0529
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 篝火に あらぬわか身の なそもかく
 涙の河に うきてもゆらむ
かな かかりひに あらぬわかみの なそもかく
 なみたのかはに うきてもゆらむ
   
  0530
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 かかり火の 影となる身の わひしきは
 流れてしたに もゆるなりけり
かな かかりひの かけとなるみの わひしきは
 なかれてしたに もゆるなりけり
   
  0531
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 はやきせに 見るめおひせは わか袖の
 涙の河に うゑましものを
かな はやきせに みるめおひせは わかそての
 なみたのかはに うゑましものを
   
  0532
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 おきへにも よらぬたまもの 浪のうへに
 みたれてのみや こひ渡りなむ
かな おきへにも よらぬたまもの なみのうへに
 みたれてのみや こひわたりなむ
   
  0533
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あしかもの さわく入江の 白浪の
 しらすや人を かくこひむとは
かな あしかもの さわくいりえの しらなみの
 しらすやひとを かくこひむとは
   
  0534
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 人しれぬ 思ひをつねに するかなる
 ふしの山こそ わか身なりけれ
かな ひとしれぬ おもひをつねに するかなる
 ふしのやまこそ わかみなりけれ
   
  0535
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 とふとりの こゑもきこえぬ 奥山の
 ふかき心を 人はしらなむ
かな とふとりの こゑもきこえぬ おくやまの
 ふかきこころを ひとはしらなむ
   
  0536
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 相坂の ゆふつけとりも わかことく
 人やこひしき ねのみなくらむ
かな あふさかの ゆふつけとりも わかことく
 ひとやこひしき ねのみなくらむ
   
  0537
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 相坂の 関になかるる いはし水
 いはて心に 思ひこそすれ
かな あふさかの せきになかるる いはしみつ
 いはてこころに おもひこそすれ
   
  0538
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 うき草の うへはしけれる ふちなれや
 深き心を しる人のなき
かな うきくさの うへはしけれる ふちなれや
 ふかきこころを しるひとのなき
   
  0539
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 打ちわひて よははむ声に 山ひこの
 こたへぬ山は あらしとそ思ふ
かな うちわひて よははむこゑに やまひこの
 こたへぬやまは あらしとそおもふ
   
  0540
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 心かへ する物にもか かたこひは
 くるしき物と 人にしらせむ
かな こころかへ するものにもか かたこひは
 くるしきものと ひとにしらせむ
   
  0541
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 よそにして こふれはくるし いれひもの
 おなし心に いさむすひてむ
かな よそにして こふれはくるし いれひもの
 おなしこころに いさむすひてむ
   
  0542
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 春たては きゆる氷の のこりなく
 君か心は 我にとけなむ
かな はるたては きゆるこほりの のこりなく
 きみかこころは われにとけなむ
   
  0543
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あけたては 蝉のをりはへ なきくらし
 よるはほたるの もえこそわたれ
かな あけたては せみのをりはへ なきくらし
 よるはほたるの もえこそわたれ
   
  0544
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 夏虫の 身をいたつらに なすことも
 ひとつ思ひに よりてなりけり
かな なつむしの みをいたつらに なすことも
 ひとつおもひに よりてなりけり
   
  0545
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 ゆふされは いととひかたき わかそてに
 秋のつゆさへ おきそはりつつ
かな ゆふくれは いととひかたき わかそてに
 あきのつゆさへ おきそはりつつ
   
  0546
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 いつとても こひしからすは あらねとも
 秋のゆふへは あやしかりけり
かな いつとても こひしからすは あらねとも
 あきのゆふへは あやしかりけり
   
  0547
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 秋の田の ほにこそ人を こひさらめ
 なとか心に 忘れしもせむ
かな あきのたの ほにこそひとを こひさらめ
 なとかこころに わすれしもせむ
   
  0548
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あきのたの ほのうへをてらす いなつまの
 ひかりのまにも 我やわするる
かな あきのたの ほのうへをてらす いなつまの
 ひかりのまにも われやわするる
   
  0549
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 人めもる 我かはあやな 花すすき
 なとかほにいてて こひすしもあらむ
かな ひとめもる われかはあやな はなすすき
 なとかほにいてて こひすしもあらむ
   
  0550
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 あは雪の たまれはかてに くたけつつ
 わか物思ひの しけきころかな
かな あはゆきの たまれはかてに くたけつつ
 わかものおもひの しけきころかな
   
  0551
詞書 題しらす
作者 読人しらす(よみ人しらす)
原文 奥山の 管のねしのき ふる雪の
 けぬとかいはむ こひのしけきに
かな おくやまの すかのねしのき ふるゆきの
 けぬとかいはむ こひのしけきに