奥の細道 全昌寺:原文対照

別離 奥の細道
全昌寺
汐越の松


『おくのほそ道』
素龍清書原本 校訂
『新釈奥の細道』
   大聖寺の城外、 大聖持寺ノ誤ナリの城外
  全昌寺といふ寺に泊る。 全ノ誤ナリ昌寺といふ寺に泊る
  なほ加賀の地なり。 猶加賀の地也
  曾良も前の夜この寺に泊まりて、 曾良も前の夜このてらにとまりて
     

58
 よもすがら 秋風聞くや 裏の山  終夜 秋風きくや うらの山
     
  と残す。 と殘す
     
  一夜の隔て、千里に同じ。 一夜のへたて千里に同じ
  われも秋風を聞きて われも秋風を聞つゝ
  衆寮に臥せば、 衆寮に臥せは
  あけぼのの空近う、 明ほのゝ空近う
  読経声澄むままに、 讀經一本讀經のトアリ聲すむまゝに
  鐘板鳴りて食堂に入る。 鐘板鳴て食堂に入る
     
  今日は越前の国へと、 けふは越前國へと
  心早卒にして堂下に下るを、 心早卒にして堂下に下るを
  若き僧ども紙硯をかかへ、 若き僧ども紙硯をかゝへ
  階の下まで追ひ来たる。 階の下まで追來る
     
  をりふし庭中の柳散れば、 折ふし庭中の柳ちれば
     

59
 庭掃きて 出でばや寺に 散る柳  庭箒て 出るや寺に ちる柳
     
  とりあへぬさまして、 とりあへぬさまして一本とりあへぬさまして九字ナシ
  草鞋ながら書き捨つ。  
別離 奥の細道
全昌寺
汐越の松