源氏物語 33帖 藤裏葉:あらすじ・目次・原文対訳

梅枝 源氏物語
第一部
第33帖
藤裏葉
若菜上

 
 本ページは、高千穂大名誉教授・渋谷栄一氏の『源氏物語の世界』(目次構成・登場人物・原文・訳文)を参照引用している(全文使用許可あり)。
 ここでは、その原文と現代語訳のページの内容を統合し、レイアウトを整えた。速やかな理解に資すると思うが、詳しい趣旨は上記リンク参照。
 
 

 藤裏葉(ふじのうらば)のあらすじ

 光源氏39歳の話。

 夕霧雲居の雁の恋を無理矢理裂いてから数年、二人の恋愛は世上に知られているし、今更違う相手と娘を結婚させるのは風聞が悪く、夕霧の方からあせって結婚を申し込む様子もなく、内大臣〔かつての頭中将〕は自分が折れるべきだと考えるようになった。二人の祖母であり、内大臣の母である大宮の法事の席で袖をひいて話しかけてきた内大臣に夕霧は戸惑い、もしや許してもらえるのかと煩悶する一夜を過ごす。

 四月、自邸で藤の花の宴を開くという内大臣の口上を持った息子の柏木が、夕霧を迎えにやってくる。緊張している夕霧に源氏は出かけるよう促し、着替え用にと自らの上等な衣服を選び与える。

 藤の花の宴で内大臣はかねての仲であった娘の雲居の雁と夕霧の結婚を認める。仲睦まじい夫婦の誕生に、源氏は親心に嬉しく夕霧の辛抱強さを褒めてやる。内大臣も結婚させてみると後宮での競争の多い入内より、立派な婿を迎えた今の結婚の方が幸せだと分かり、心から喜んで夕霧を大切に扱うのだった。 翌朝。源氏に結婚の報告をした夕霧は、大宮がかつて住んでいた三条の邸を改装し、「雲居の雁とそこで暮らす」事を告げた。

 一方、源氏の娘明石の姫君は宮中入りが決まる。源氏は自分に遠慮して、入内を控える貴族が多い事を憂慮し、明石の姫君の入内を延期。他の貴族にも姫君の入内を働きかけた。このことから早速左大臣の姫(のちの藤壺女御。薫の妻・女二宮の母)が、入内。殿舎は麗景殿に決まる。養母紫の上は姫に付き添えない事から生き別れた実母明石の君に配慮し、後見役を譲った。明石の君の喜びは大きかった。姫が入内し、入れ違いになった二人の母は初めて対面する。互いに相手の美点を見いだして認め合った二人はこれまでのわだかまりも氷解し、心を通わせるのだった。

 秋になり、四十の賀を控えて源氏は准太上天皇の待遇を受け、内大臣が太政大臣に昇任する。十一月、紅葉の六条院へ冷泉帝〔源氏の子〕朱雀院〔源氏の異母兄〕が揃って行幸し、華やかな宴が催された。かくて、少年の日の高麗人の予言は実現を見、源氏は栄華の絶頂に立ったのである。

(以上Wikipedia藤裏葉より。色づけと〔〕は本ページ)
 
目次
和歌抜粋内訳#藤裏葉(20首:別ページ)
主要登場人物
 
第33帖 藤裏葉(ふじのうらば)
 光る源氏の太政大臣時代
 三十九歳三月から十月までの物語
 
第一章 夕霧の物語
 雲居雁との筒井筒の恋実る
 第一段 夕霧と雲居雁の相思相愛の恋
 第二段 三月二十日、極楽寺に詣でる
 第三段 内大臣、夕霧を自邸に招待
 第四段 夕霧、内大臣邸を訪問
 第五段 藤花の宴 結婚を許される
 第六段 夕霧、雲居雁の部屋を訪う
 第七段 後朝の文を贈る
 第八段 夕霧と雲居雁の固い夫婦仲
 
第二章 光る源氏の物語
 明石の姫君の入内
 第一段 紫の上、賀茂の御阿礼に参詣
 第二段 柏木や夕霧たちの雄姿
 第三段 四月二十日過ぎ、明石姫君、東宮に入内
 第四段 紫の上、明石御方と対面する
 
第三章 光る源氏の物語
 准太上天皇となる
 第一段 源氏、秋に准太上天皇の待遇を得る
 第二段 夕霧夫妻、三条殿に移る
 第三段 内大臣、三条殿を訪問
 第四段 十月二十日過ぎ、六条院行幸
 第五段 六条院行幸の饗宴
 第六段 朱雀院と冷泉帝の和歌
 出典
 校訂
 

主要登場人物

 

光る源氏(ひかるげんじ)
三十九歳
呼称:六条の院・六条の大臣・主人の院・大臣・父大臣・主人
夕霧(ゆうぎり)
光る源氏の長男
呼称:宰相中将・宰相殿・宰相の君・宰相・中納言・中将・男君・男・君
雲居雁(くもいのかり)
夕霧の恋人
呼称:女君・女、内大臣の娘
内大臣(ないだいじん)
呼称:太政大臣・主人の大臣・大殿・大臣
柏木(かしわぎ)
呼称:頭中将・中将
紫の上(むらさきのうえ)
呼称:対の上・北の方・上
花散里(はなちるさと)
呼称:夏の御方
秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)
呼称:中宮・宮
冷泉帝(れいぜいてい)
呼称:朝廷・帝・内裏の帝・内裏
明石御方(あかしのおおんかた)
呼称:母君
明石姫君(あかしのひめぎみ)
呼称:御方
東宮(とうぐう)
呼称:宮
藤典侍(とうないしのすけ)
呼称:典侍、惟光の娘

 
 以上の内容は、全て以下の原文のリンクを参照。文面はそのままで表記を若干整えた。
 
 
 

原文対訳

和歌 定家本
(大島本
現代語訳
(渋谷栄一)
  藤裏葉(ふじのうらば)
 
 

第一章 夕霧の物語 雲居雁との筒井筒の恋実る

 
 

第一段 夕霧と雲居雁の相思相愛の恋

 
   御いそぎのほどにも、宰相中将は眺めがちにて、ほれぼれしき心地するを、「かつはあやしく、わが心ながら執念きぞかし。
 あながちにかう思ふことならば、関守の、うちも寝ぬべきけしきに思ひ弱りたまふなるを聞きながら、同じくは、人悪からぬさまに見果てむ」と念ずるも、苦しう思ひ乱れたまふ。
 
 御入内の準備の最中にも、宰相中将は物思いに沈みがちで、ぼんやりした感じがするが、「一方では、不思議な感じで、自分ながら執念深いことだ。
 むやみにこんなに恋しいことならば、関守が、目をつぶって許そうというほどに気弱におなりだという噂を聞きながら、同じことなら、体裁の悪くないよう最後まで通そう」と我慢するにつけても、苦しく思い悩んでいらっしゃる。
 
   女君も、大臣のかすめたまひしことの筋を、「もし、さもあらば、何の名残かは」と嘆かしうて、あやしく背き背きに、さすがなる御もろ恋なり。
 
 女君も、大臣がちらっとおっしゃった縁談のお話を、「もしも、そうなったら、わたしのことをすっかり忘れてしまうだろう」と嘆かわしくて、不思議と背を向けあった関係ながら、そうはいっても相思相愛の仲である。
 
   大臣も、さこそ心強がりたまひしかど、たけからぬに思しわづらひて、「かの宮にも、さやうに思ひ立ち果てたまひなば、またとかく改め思ひかかづらはむほど、人のためも苦しう、わが御方ざまにも人笑はれに、おのづから軽々しきことやまじらむ。
 忍ぶとすれど、うちうちのことあやまりも、世に漏りにたるべし。
 とかく紛らはして、なほ負けぬべきなめり」と、思しなりぬ。
 
 内大臣も、あれほど強情をお張りになったが、意地の張りがいのないのにご思案にあまって、「あの宮におかれても、そのようにお決めになってしまったら、再びあれこれと改めて別の相手を探す間、その相手にも悪いし、ご自分の方にも物笑いとなって、自然と軽率だという噂の種にされよう。
 隠そうとしても、内輪の失敗も、世間に漏れているだろう。
 何とか世間体をつくろって、やはり折れた方が良いようだ」と、お考えになった。
 
   上はつれなくて、恨み解けぬ御仲なれば、「ゆくりなく言ひ寄らむもいかが」と、思し憚りて、「ことことしくもてなさむも、人の思はむところをこなり。
 いかなるついでしてかはほのめかすべき」など思すに、三月二十日、大殿の大宮の御忌日にて、極楽寺に詣でたまへり。
 
 表面上は何気ないが、恨みの解けないご関係なので、「きっかけもなく言い出すのはどんなものか」と、ご躊躇なさって、「改まって申し出るのも、世間の人が思うところも馬鹿馬鹿しい。
 どのような機会にそれとなく切り出したらよかろう」などと、お考えだったところ、三月二十日が、大殿の大宮の御忌日なので、極楽寺に参詣なさった。
 
 
 

第二段 三月二十日、極楽寺に詣でる

 
   君達皆ひき連れ、勢ひあらまほしく、上達部などもあまた参り集ひたまへるに、宰相中将、をさをさけはひ劣らず、よそほしくて、容貌など、ただ今のいみじき盛りにねびゆきて、取り集めめでたき人の御ありさまなり。
 
 ご子息たちを皆引き連れて、ご威勢この上なく、上達部なども大勢参集なさっていたが、宰相中将、少しも引けを取らず、堂々とした様子で、容貌など、ちょうど今が盛りに美しく成人されて、何もかもすべて結構なご様子である。
 
   この大臣をば、つらしと思ひきこえたまひしより、見えたてまつるも、心づかひせられて、いといたう用意し、もてしづめてものしたまふを、大臣も、常よりは目とどめたまふ。
 御誦経など、六条院よりもせさせたまへり。
 宰相君は、まして、よろづをとりもちて、あはれにいとなみ仕うまつりたまふ。
 
 この大臣を、ひどいとお思い申し上げなさってから、お目にかかるのも、つい気が張って、とてもひどく気をつかって、取り澄ましていらっしゃるのを、大臣も、いつもよりは注目なさっている。
 御誦経など、六条院からもおさせになった。
 宰相の君は、誰にもまして、万端のことを引き受けて、真心をこめて奉仕していらっしゃる。
 
   夕かけて、皆帰りたまふほど、花は皆散り乱れ、霞たどたどしきに、大臣、昔を思し出でて、なまめかしううそぶき眺めたまふ。
 宰相も、あはれなる夕べのけしきに、いとどうちしめりて、「雨気あり」と、人びとの騒ぐに、なほ眺め入りてゐたまへり。
 心ときめきに見たまふことやありけむ、袖を引き寄せて、
 夕方になって、皆がお帰りになるころ、花はみな散り乱れ、霞の朧ろな中に、内大臣、昔をお思い出して、優雅に口ずさんで物思いに耽っていらっしゃる。
 宰相も、しみじみとした夕方の景色に、ますます物思いに沈んだ面持ちで、「雨が降りそうです」と、人々が騒いでいるのに、依然として物思いに耽りきっていらっしゃった。
 心をときめかせて御覧になることがあるのであろうか、袖を引き寄せて、
   「などか、いとこよなくは勘じたまへる。
 今日の御法の縁をも尋ね思さば、罪許したまひてよや。
 残り少なくなりゆく末の世に、思ひ捨てたまへるも、恨みきこゆべくなむ」
 「どうして、そんなにひどく怒っておいでなのか。
 今日の御法要の縁故をお考えになれば、不行届きはお許し下さいよ。
 余命少なくなってゆく老いの身に、お見限りなさるのも、お恨み申し上げたい」
   とのたまへば、うちかしこまりて、  とおっしゃるので、ちょっと恐縮して、
   「過ぎにし御おもむけも、頼みきこえさすべきさまに、うけたまはりおくことはべりしかど、許しなき御けしきに、憚りつつなむ」  「故人のご意向も、お頼り申し上げるようにと、承っておりましたが、お許しのないご様子に、遠慮致しておりました」
   と聞こえたまふ。
 
 とお答え申し上げになる。
 
   心あわたたしき雨風に、皆ちりぢりに競ひ帰りたまひぬ。
 君、「いかに思ひて、例ならずけしきばみたまひつらむ」など、世とともに心をかけたる御あたりなれば、はかなきことなれど、耳とまりて、とやかうやと思ひ明かしたまふ。
 
 気ぜわしい雨風に、皆ばらばらに急いでお帰りになった。
 宰相の君は、「どのようにお考えになって、いつもとは違って、あのようなことをおっしゃったのだろうか」などと、絶えず気にかけていらっしゃる内大臣家のことなので、ちょっとしたことであるが、耳が止まって、ああかこうかと、考えながら夜をお明かしになる。
 
 
 

第三段 内大臣、夕霧を自邸に招待

 
   ここらの年ごろの思ひのしるしにや、かの大臣も、名残なく思し弱りて、はかなきついでの、わざとはなく、さすがにつきづきしからむを思すに、四月の朔日ごろ、御前の藤の花、いとおもしろう咲き乱れて、世の常の色ならず、ただに見過ぐさむこと惜しき盛りなるに、遊びなどしたまひて、暮れ行くほどの、いとど色まされるに、頭中将して、御消息あり。
 
 長い年月思い続けてきた甲斐あってか、あの内大臣も、すっかり気弱になって、ちょっとした機会で、特別にというのでなく、そうはいっても相応しい時期をお考えになって、四月の初旬ころ、お庭先の藤の花、たいそうみごとに咲き乱れて、世間にある藤の花の色とは違って、何もしないのも惜しく思われる花盛りなので、管弦の遊びなどをなさって、日が暮れてゆくころの、ますます色美しくなってゆく時分に、頭中将を使いとして、お手紙がある。
 
   「一日の花の蔭の対面の、飽かずおぼえはべりしを、御暇あらば、立ち寄りたまひなむや」  「先日の花の下でお目にかかったことが、堪らなく思われたので、お暇があったら、お立ち寄りなさいませんか」
   とあり。
 御文には、
 とある。
 お手紙には、
 

439
 「わが宿の 藤の色濃き たそかれに
 尋ねやは来ぬ 春の名残を」
 「わたしの家の藤の花の色が濃い夕方に
  訪ねていらっしゃいませんか、逝く春の名残を惜しみに」
 
   げに、いとおもしろき枝につけたまへり。
 待ちつけたまへるも、心ときめきせられて、かしこまりきこえたまふ。
 おっしゃる通り、たいそう美しい枝に付けていらっしゃった。
 心待ちしていらっしゃったのにつけても、心がどきどきして、恐縮してお返事を差し上げなさる。
 

440
 「なかなかに 折りやまどはむ 藤の花
 たそかれ時の たどたどしくは」
 「かえって藤の花を折るのにまごつくのではないでしょうか
  夕方時のはっきりしないころでは」
 
   と聞こえて、  と申し上げて、
   「口惜しくこそ臆しにけれ。
 取り直したまへよ」
 「残念なほど、気後れしてしまった。
 適当に取り繕って下さい」
   と聞こえたまふ。
 
 と申し上げなさる。
 
   「御供にこそ」  「お供しましょう」
   とのたまへば、  とおっしゃったが、
   「わづらはしき随身は、否」  「面倒なお供はいりません」
   とて、返しつ。
 
 と言って、お帰しになった。
 
   大臣の御前に、かくなむ、とて、御覧ぜさせたまふ。
 
 大臣の御前に、これこれしかじかです、と言って、御覧にお入れになる。
 
   「思ふやうありてものしたまひつるにやあらむ。
 さも進みものしたまはばこそは、過ぎにし方の孝なかりし恨みも解けめ」
 「考えがあっておっしゃっているのであろうか。
 そのように先方から折れて来られたのならば、故人への不孝の恨みも解けることだろう」
   とのたまふ。
 御心おごり、こよなうねたげなり。
 
 とおっしゃる。
 そのご高慢は、この上なく憎らしいほどである。
 
   「さしもはべらじ。
 対の前の藤、常よりもおもしろう咲きてはべるなるを、静かなるころほひなれば、遊びせむなどにやはべらむ」
 「そうではございますまい。
 対の屋の前の藤が、例年よりも美しく咲いているというので、暇なころなので、管弦の遊びをしようなどというのでございましょう」
   と申したまふ。
 
 と申し上げなさる。
 
   「わざと使ひさされたりけるを、早うものしたまへ」  「わざわざ使者をさし向けられたのだから、早くお出掛けなさい」
   と許したまふ。
 いかならむと、下には苦しう、ただならず。
 
 とお許しになる。
 どんなだろうと、内心は不安で、落ち着かない。
 
   「直衣こそあまり濃くて、軽びためれ。
 非参議のほど、何となき若人こそ、二藍はよけれ、ひき繕はむや」
 「直衣はあまりに色が濃過ぎて、身分が軽く見えよう。
 非参議のうちとか、何でもない若い人は、二藍はよいだろうが、お召し替えになるかね」
   とて、わが御料の心ことなるに、えならぬ御衣ども具して、御供に持たせてたてまつれたまふ。
 
 とおっしゃって、ご自分のお召し物の格別見事なのに、何ともいえないほど素晴らしい御下着類を揃えて、お供に持たせて差し上げなさる。
 
 
 

第四段 夕霧、内大臣邸を訪問

 
   わが御方にて、心づかひいみじう化粧じて、たそかれも過ぎ、心やましきほどに参うでたまへり。
 主人の君達、中将をはじめて、七、八人うち連れて迎ヘ入れたてまつる。
 いづれとなくをかしき容貌どもなれど、なほ、人にすぐれて、あざやかにきよらなるものから、なつかしう、よしづき、恥づかしげなり。
 
 ご自分のお部屋で、念入りにおめかしなさって、黄昏時も過ぎ、じれったく思うころに参上なさった。
 主人のご子息たち、中将をはじめとして、七、八人うち揃ってお出迎えなさる。
 どの方となくいずれも美しい器量の方々だが、やはり、その人々以上に、水際立って美しい一方、優しく、優雅で、犯しがたい気品がある。
 
   大臣、御座ひきつくろはせなどしたまふ御用意、おろかならず。
 御冠などしたまひて、出でたまふとて、北の方、若き女房などに、
 内大臣、お座席を整え直させたりなさるご配慮、並大抵でない。
 御冠などお付けになって、お出になろうとして、北の方や、若い女房などに、
   「覗きて見たまへ。
 いと警策にねびまさる人なり。
 用意などいと静かに、ものものしや。
 あざやかに、抜け出でおよすけたる方は、父大臣にもまさりざまにこそあめれ。
 
 「覗いて御覧なさい。
 たいそう立派になって行かれる方だ。
 態度などもとても沈着で、堂々としたものだ。
 はっきりと、抜きん出て成人された点では、父の大臣よりも勝っているようだ。
 
   かれは、ただいと切になまめかしう愛敬づきて、見るに笑ましく、世の中忘るる心地ぞしたまふ。
 公ざまは、すこしたはれて、あざれたる方なりし、ことわりぞかし。
 
 あの方は、ただ非常に優美で愛嬌があって、見るとついほほ笑みたくなり、世の中の憂さを忘れるような気持ちにおさせになる。
 政治の面では、多少柔らかさ過ぎて、謹厳さに欠けるところがあったのは、もっともなことだ。
 
   これは、才の際もまさり、心もちゐ男々しく、すくよかに足らひたりと、世におぼえためり」  この方は、学問の才能も優れ、心構えも男らしく、しっかりしていて申し分ないと、世間の評判のようだ」
   などのたまひてぞ、対面したまふ。
 ものまめやかに、むべむべしき御物語は、すこしばかりにて、花の興に移りたまひぬ。
 
 などとおっしゃって、対面なさる。
 儀礼的で、固苦しいご挨拶は、少しだけにして、花の美しさに興味はお移りになった。
 
   「春の花、いづれとなく、皆開け出づる色ごとに、目おどろかぬはなきを、心短くうち捨てて散りぬるが、恨めしうおぼゆるころほひ、この花のひとり立ち後れて、夏に咲きかかるほどなむ、あやしう心にくくあはれにおぼえはべる。
 色もはた、なつかしきゆかりにしつべし」
 「春の花、どれもこれも皆咲き出す色ごとに、目を驚かさない物はないが、気ぜわしく人の気も構わず散ってしまうのが、恨めしく思われるころに、この藤の花だけがひとり遅れて、夏に咲きかかるのが、妙に奥ゆかしくしみじみと思われます。
 色も色で、懐しい由縁の物といえましょう」
   とて、うちほほ笑みたまへる、けしきありて、匂ひきよげなり。
 
 と言って、ちょっとほほ笑んでいらっしゃる、風格があって、つややかでお美しい。
 
 
 

第五段 藤花の宴 結婚を許される

 
   月はさし出でぬれど、花の色さだかにも見えぬほどなるを、もてあそぶに心を寄せて、大酒参り、御遊びなどしたまふ。
 大臣、ほどなく空酔ひをしたまひて、乱りがはしく強ひ酔はしたまふを、さる心して、いたうすまひ悩めり。
 
 月は昇ったが、花の色がはっきりと見えない時分なのだが、花を愛でる心に寄せて、御酒を召して、管弦のお遊びなどをなさる。
 大臣、程もなく空酔いをなさって、遠慮もせずに無理に酔わせなさるが、用心して、とても断るのに困っているようである。
 
   「君は、末の世にはあまるまで、天の下の有職にものしたまふめるを、齢古りぬる人、思ひ捨てたまふなむつらかりける。
 文籍にも、家礼といふことあるべくや。
 なにがしの教へも、よく思し知るらむと思ひたまふるを、いたう心悩ましたまふと、恨みきこゆべくなむ」
 「あなたは、この末世にできすぎるほどの、天下の有識者でいらっしゃるようだが、年を取った者を、お忘れになっていらっしゃるのが辛いことだ。
 古典にも、家礼ということがあるではありませんか。
 誰それの教えにも、よくご存知でいらっしゃろうと存じますが、ひどく辛い思いをおさせになると、お恨み申し上げたいのです」
   などのたまひて、酔ひ泣きにや、をかしきほどにけしきばみたまふ。
 
 などとおっしゃって、酔い泣きというのか、ほどよく抑えて意中を仄めかしなさる。
 
   「いかでか。
 昔を思うたまへ出づる御変はりどもには、身を捨つるさまにもとこそ、思うたまへ知りはべるを、いかに御覧じなすことにかはべらむ。
 もとより、おろかなる心のおこたりにこそ」
 「どうしてそのような。
 今は亡き方々を思い出しますお身変わりとして、わが身を捨ててまでもと、存じておりますのに、どのように御覧になってのことでございましょうか。
 もともと、わたしのうかつな心の至らなさのためです」
   と、かしこまりきこえたまふ。
 御時よく、さうどきて、
 と、恐縮して申し上げなさる。
 頃合いを見計らって、はやし立てて、
   「藤の裏葉の」  「藤の裏葉の」
   とうち誦じたまへる、御けしきを賜はりて、頭中将、花の色濃く、ことに房長きを折りて、客人の御盃に加ふ。
 取りて、もて悩むに、大臣、
 とお謡いになった、そのお心をお受けになって、頭中将、藤の花の色濃く、特に花房の長いのを折って、客人のお杯に添えになる。
 受け取って、もてあましていると、内大臣、
 

441
 「紫に かことはかけむ 藤の花
 まつより過ぎて うれたけれども」
 「紫色のせいにしましょう、藤の花の
  待ち過ぎてしまって恨めしいことだが」
 
   宰相、盃を持ちながら、けしきばかり拝したてまつりたまへるさま、いとよしあり。  宰相中将、杯を持ちながら、ほんの形ばかり拝舞なさる様子、実に優雅である。
 

442
 「いく返り 露けき春を 過ぐし来て
 花の紐解く 折にあふらむ」
 「幾度も湿っぽい春を過ごして来ましたが
  今日初めて花の開くお許しを得ることができました」
 
   頭中将に賜へば、  頭中将にお廻しになると、
 

443
 「たをやめの 袖にまがへる 藤の花
 見る人からや 色もまさらむ」
 「うら若い女性の袖に見違える藤の花は
  見る人の立派なためかいっそう美しさを増すことでしょう」
 
   次々順流るめれど、酔ひの紛れにはかばかしからで、これよりまさらず。
 
 次々と杯が回り歌を詠み添えて行ったようであるが、酔いの乱れに大したこともなく、これより優れていない。
 
 
 

第六段 夕霧、雲居雁の部屋を訪う

 
   七日の夕月夜、影ほのかなるに、池の鏡のどかに澄みわたれり。
 げに、まだほのかなる梢どもの、さうざうしきころなるに、いたうけしきばみ横たはれる松の、木高きほどにはあらぬに、かかれる花のさま、世の常ならずおもしろし。
 
 七日の夕月夜、月の光は微かであるのに、池の水が鏡のように静かに澄み渡っている。
 なるほど、まだ茂らない梢が、物足りないころなので、たいそう気取って横たわっている松の、木高くないのに、咲き掛かっている藤の花の様子、世になく美しい。
 
   例の、弁少将、声いとなつかしくて、「葦垣」を謡ふ。
 大臣、
 例によって、弁少将が、声をたいそう優しく「葦垣」を謡う。
 大臣、
   「いとけやけうも仕うまつるかな」  「実に妙な歌を謡うものだな」
   と、うち乱れたまひて、  と、冗談をおっしゃって、
   「年経にけるこの家の」  「年を経たこの家の」
   と、うち加へたまへる御声、いとおもしろし。
 をかしきほどに乱りがはしき御遊びにて、もの思ひ残らずなりぬめり。
 
 と、お添えになるお声、誠に素晴らしい。
 興趣ある中に冗談も混じった管弦のお遊びで、気持ちのこだわりもすっかり解けてしまったようである。
 
   やうやう夜更け行くほどに、いたうそら悩みして、  だんだんと夜が更けて行くにつれて、ひどく苦しげな様子をして見せて、
   「乱り心地いと堪へがたうて、まかでむ空もほとほとしうこそはべりぬべけれ。
 宿直所譲りたまひてむや」
 「酔いが回ってひどく辛いので、帰り道も危なそうです。
 泊まる部屋を貸していただけませんか」
   と、中将に愁へたまふ。
 大臣、
 と、頭中将に訴えなさる。
 大臣が、
   「朝臣や、御休み所求めよ。
 翁いたう酔ひ進みて無礼なれば、まかり入りぬ」
 「朝臣よ、お休み所になる部屋を用意しなさい。
 老人はひどく酔いが回って失礼だから、引っ込むよ」
   と言ひ捨てて、入りたまひぬ。
 
 と言い捨てて、お入りになってしまった。
 
   中将、  頭中将が、
   「花の蔭の旅寝よ。
 いかにぞや、苦しきしるべにぞはべるや」
 「花の下の旅寝ですね。
 どういうものだろう、辛い案内役ですね」
   と言へば、  と言うと、
   「松に契れるは、あだなる花かは。
 ゆゆしや」
 「松と約束したのは、浮気な花なものですか。
 縁起でもありません」
   と責めたまふ。
 中将は、心のうちに、「ねたのわざや」と思ふところあれど、人ざまの思ふさまにめでたきに、「かうもあり果てなむ」と、心寄せわたることなれば、うしろやすく導きつ。
 
 と反発なさる。
 中将は、心中に、「憎らしいな」と思うところがあるが、人柄が理想通り立派なので、「最後はこのようになって欲しい」と、願って来たことなので、心許して案内した。
 
   男君は、夢かとおぼえたまふにも、わが身いとどいつかしうぞおぼえたまひけむかし。
 女は、いと恥づかしと思ひしみてものしたまふも、ねびまされる御ありさま、いとど飽かぬところなくめやすし。
 
 男君は、夢かと思われなさるにつけても、自分の身がますます立派に思われなさったことであろう。
 女は、とても恥ずかしいと思い込んでいらっしゃるが、大人になったご様子は、ますます不足なところもなく素晴らしい。
 
   「世の例にもなりぬべかりつる身を、心もてこそ、かうまでも思し許さるめれ。
 あはれを知りたまはぬも、さま異なるわざかな」
 「世間の話の種となってしまいそうな身の上を、その誠実さをもって、このようにお許しになったのでしょう。
 わたしの気持ちをお分りになって下さらないとは、変なことですね」
   と、怨みきこえたまふ。
 
 と、お恨み申し上げなさる。
 
   「少将の進み出だしつる『葦垣』の趣きは、耳とどめたまひつや。
 いたき主かなな。
 『河口の』とこそ、さしいらへまほしかりつれ」
 「少将が進んで謡い出した『葦垣』の心は、お分りでしたか。
 ひどい人ですね。
 『河口の』と、言い返したかったなあ」
   とのたまへば、女、いと聞き苦し、と思して、  とおっしゃると、女は、とても聞き苦しい、とお思いになって、
 

444
 「浅き名を 言ひ流しける 河口は
 いかが漏らしし 関の荒垣
 「軽々しい浮名を流したあなたの口は
  どうしてお漏らしになったのですか
 
   あさまし」  あきれました」
   とのたまふさま、いとこめきたり。
 すこしうち笑ひて、
 とおっしゃる様子は、実におっとりしている。
 少し微笑んで、
 

445
 「漏りにける 岫田の関を 河口の
 浅きにのみは おほせざらなむ
 「浮名が漏れたのはあなたの父大臣のせいでもありますのに
  わたしのせいばかりになさらないで下さい
 
   年月の積もりも、いとわりなくて悩ましきに、ものおぼえず」  長い歳月の思いも、本当に切なくて苦しいので、何も分りません」
   と、酔ひにかこちて、苦しげにもてなして、明くるも知らず顔なり。
 人びと、聞こえわづらふを、大臣、
 と、酔いのせいにして、苦しそうに振る舞って、夜の明けて行くのも知らないふうである。
 女房たちが、起こしかねているのを、大臣が、
   「したり顔なる朝寝かな」  「得意顔した朝寝だな」
   と、とがめたまふ。
 されど、明かし果てでぞ出でたまふ。
 ねくたれの御朝顔、見るかひありかし。
 
 と、文句をおっしゃる。
 けれども、すっかり夜が明け果てないうちにお帰りになる。
 その寝乱れ髪の朝のお顔は、見がいのあったことだ。
 
 
 

第七段 後朝の文を贈る

 
   御文は、なほ忍びたりつるさまの心づかひにてあるを、なかなか今日はえ聞こえたまはぬを、もの言ひさがなき御達つきじろふに、大臣渡りて見たまふぞ、いとわりなきや。
 
 お手紙は、やはり人目を忍んだ配慮で届けられたのを、かえって今日はお返事をお書き申し上げになれないのを、口の悪い女房たちが目引き袖引きしているところに、内大臣がお越しになって御覧になるのは、本当に困ったことよ。
 
   「尽きせざりつる御けしきに、いとど思ひ知らるる身のほどを。
 堪へぬ心にまた消えぬべきも、
 「打ち解けて下さらなかったご様子に、ますます思い知られるわが身の程よ。
 耐えがたいつらさに、またも死んでしまいそうだが、
 

446
 とがむなよ 忍びにしぼる 手もたゆみ
 今日あらはるる 袖のしづくを」
  お咎め下さいますな、人目を忍んで絞る手も力なく
  今日は人目にもつきそうな袖の涙のしずくを」
 
   など、いと馴れ顔なり。
 うち笑みて、
 などと、たいそう馴れ馴れしい詠みぶりである。
 微笑んで、
   「手をいみじうも書きなられにけるかな」  「筆跡もたいそう上手になられたものだなあ」
   などのたまふも、昔の名残なし。
 
 などとおっしゃるのも、昔の恨みはない。
 
   御返り、いと出で来がたげなれば、「見苦しや」とて、さも思し憚りぬべきことなれば、渡りたまひぬ。
 
 お返事が、直ぐに出来かねているので、「みっともないぞ」とおっしゃって、ご躊躇なっているのももっともなことなので、あちらへお行きになった。
 
   御使の禄、なべてならぬさまにて賜へり。
 中将、をかしきさまにもてなしたまふ。
 常にひき隠しつつ隠ろへありきし御使、今日は、面もちなど、人びとしく振る舞ふめり。
 右近将監なる人の、むつましう思し使ひたまふなりけり。
 
 お使いの者への褒禄は、並大抵でなくお与えになった。
 頭中将が、風情のある様にお持てなしなさる。
 いつも人目を忍んでは持ち運んでいたお使い、今日は顔の表情など、人かどに振る舞っているようである。
 右近将監である人で、親しくお使いになっている者であった。
 
   六条の大臣も、かくと聞こし召してけり。
 宰相、常よりも光添ひて参りたまへれば、うちまもりたまひて、
 六条の大臣も、これこれとお聞き知りになったのであった。
 宰相中将、いつもより美しさが増して、参上なさったので、じっと御覧になって、
   「今朝はいかに。
 文などものしつや。
 賢しき人も、女の筋には乱るる例あるを、人悪ろくかかづらひ、心いられせで過ぐされたるなむ、すこし人に抜けたりける御心とおぼえける。
 
 「今朝はどうした。
 手紙など差し上げたか。
 賢明な人でも、女のことでは失敗する話もあるが、見苦しいほど思いつめたり、じれたりせずに過ごされたのは、少し人より優れたお人柄だと思ったことだ。
 
   大臣の御おきての、あまりすくみて、名残なくくづほれたまひぬるを、世人も言ひ出づることあらむや。
 さりとても、わが方たけう思ひ顔に、心おごりして、好き好きしき心ばへなど漏らしたまふな。
 
 内大臣のご方針が、あまりにもかたくなで、すっかり折れてしまわれたのが、世間の人も噂するだろうよ。
 だからといって、自分の方が偉い顔をして、いい気になって、浮気心などをお出しなさるな。
 
   さこそおいらかに、大きなる心おきてと見ゆれど、下の心ばへ男々しからず癖ありて、人見えにくきところつきたまへる人なり」  あのようにおおらかで、寛大な性格と見えるが、内心は男らしくなくねじけていて、付き合いにくいところがおありの方である」
   など、例の教へきこえたまふ。
 ことうちあひ、めやすき御あはひ、と思さる。
 
 などと、例によってご教訓申し上げなさる。
 釣り合いもよく、恰好のご夫婦だ、とお思いになる。
 
   御子とも見えず、すこしがこのかみばかりと見えたまふ。
 ほかほかにては、同じ顔を写し取りたると見ゆるを、御前にては、さまざま、あなめでたと見えたまへり。
 
 ご子息とも見えず、少しばかり年長程度にお見えである。
 別々に見ると、同じ顔を写し取ったように似て見えるが、御前では、それぞれに、ああ素晴らしいとお見えでいらっしゃった。
 
   大臣は、薄き御直衣、白き御衣の唐めきたるが、紋けざやかにつやつやと透きたるをたてまつりて、なほ尽きせずあてになまめかしうおはします。
 
 大臣は、薄縹色の御直衣に、白い御袿の唐風の織りが、紋様のくっきりと浮き出て艶やかに透けて見えるのをお召しになって、今もこの上なく上品で優美でいらっしゃる。
 
   宰相殿は、すこし色深き御直衣に、丁子染めの焦がるるまでしめる、白き綾のなつかしきを着たまへる、ことさらめきて艶に見ゆ。
 
 宰相殿は、少し色の濃い縹色の御直衣に、丁子染めで焦げ茶色になるまで染めた袿と、白い綾の柔らかいのを着ていらっしゃるのは、格別に優雅にお見えになる。
 
 
 

第八段 夕霧と雲居雁の固い夫婦仲

 
   灌仏率てたてまつりて、御導師遅く参りければ、日暮れて、御方々より童女出だし、布施など、公ざまに変はらず、心々にしたまへり。
 御前の作法を移して、君達なども参り集ひて、なかなか、うるはしき御前よりも、あやしう心づかひせられて臆しがちなり。
 
 灌仏会の誕生仏をお連れ申して来て、御導師が遅く参上したので、日が暮れてから、六条院の御方々から女童たちを使者に立てて、お布施など、宮中の儀式と違わず、思い思いになさった。
 御前での作法を真似て、公達なども参集して、かえって、格式ばった御前での儀式よりも、妙に気がつかわれて気後れするのである。
 
   宰相は、静心なく、いよいよ化粧じ、ひきつくろひて出でたまふを、わざとならねど、情けだちたまふ若人は、恨めしと思ふもありけり。
 年ごろの積もり取り添へて、思ふやうなる御仲らひなめれば、水も漏らむやは。
 
 宰相は、心落ち着かず、ますますおめかしし、衣服を整えてお出かけになるのを、特別にではないが、多少お情けをおかけの若い女房などは、恨めしいと思っている人もいるのであった。
 長年の思いが加わって、理想的なご夫婦仲のようなので、水も漏れまい。
 
   主人の大臣、いとどしき近まさりを、うつくしきものに思して、いみじうもてかしづききこえたまふ。
 負けぬる方の口惜しさは、なほ思せど、罪も残るまじうぞ、まめやかなる御心ざまなどの、年ごろ異心なくて過ぐしたまへるなどを、ありがたく思し許す。
 
 主人の内大臣、ますます側に近づくほど美しいのを、かわいらしくお思いになって、たいそう大切にお世話申し上げなさる。
 負けたことの悔しさは、やはりお持ちだが、こだわりもなく、誠実なご性格などで、長年の間浮気沙汰などもなくてお過ごしになったのを、めったにないことだとお認めになる。
 
   女御の御ありさまなどよりも、はなやかにめでたくあらまほしければ、北の方、さぶらふ人びとなどは、心よからず思ひ言ふもあれど、何の苦しきことかはあらむ。
 按察使の北の方なども、かかる方にて、うれしと思ひきこえたまひけり。
 
 弘徽殿女御のご様子などよりも、派手で立派で理想的だったので、北の方や、仕えている女房などは、おもしろからず思ったり言ったりする者もいるが、何の構うことがあろうか。
 按察使大納言の北の方なども、このように結婚が決まって、嬉しくお思い申し上げていらっしゃるのであった。
 
 
 

第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の入内

 
 

第一段 紫の上、賀茂の御阿礼に参詣

 
   かくて、六条院の御いそぎは、二十余日のほどなりけり。
 対の上、御阿礼に詣うでたまふとて、例の御方々いざなひきこえたまへど、なかなか、さしも引き続きて心やましきを思して、誰も誰もとまりたまひて、ことことしきほどにもあらず、御車二十ばかりして、御前なども、くだくだしき人数多くもあらず、ことそぎたるしも、けはひことなり。
 
 こうして、六条院の御入内の儀は、四月二十日のころであった。
 対の上、賀茂の御阿礼に参詣なさろうとして、例によって御方々をお誘い申し上げなさったが、なまじ、そのように後に付いて行くのもおもしろくないのをお思いになって、どなたもどなたもお残りになって、仰々しいほどでなく、お車二十台ほどで、御前駆なども、ごたごたするほどの人数でなく、簡略になさったのが、かえって素晴らしい。
 
   祭の日の暁に詣うでたまひて、かへさには、物御覧ずべき御桟敷におはします。
 御方々の女房、おのおの車引き続きて、御前、所占めたるほど、いかめしう、「かれはそれ」と、遠目よりおどろおどろしき御勢ひなり。
 
 祭の日の早朝に参詣なさって、帰りには、御見物なさる予定のお桟敷席におつきになる。
 御方々の女房たち、それぞれの車を後から連ねて、御前に車を止めているのは、堂々として、「あれは誰それだ」と、遠くから見ても仰々しいご威勢である。
 
   大臣は、中宮の御母御息所の、車押し避けられたまへりし折のこと思し出でて、  大臣は、中宮の御母御息所が、お車の榻を押し折られなさった時のことをお思い出しになって、
   「時により心おごりして、さやうなることなむ、情けなきことなりける。
 こよなく思ひ消ちたりし人も、嘆き負ふやうにて亡くなりにき」
 「権勢をたのんで心奢りなさって、あのようなことを起こすのは、心ないことであった。
 全然無視していた方も、その恨みを受けた形で亡くなってしまった」
   と、そのほどはのたまひ消ちて、  と、そこのあたりは言葉をお濁しになって、
   「残りとまれる人の、中将は、かくただ人にて、わづかになりのぼるめり。
 宮は並びなき筋にておはするも、思へば、いとこそあはれなれ。
 すべていと定めなき世なればこそ、何ごとも思ふさまにて、生ける限りの世を過ぐさまほしけれと、残りたまはむ末の世などの、たとしへなき衰へなどをさへ、思ひ憚らるれば」
 「後に残った人で、中将は、このような臣下として、やっと立身した程度だ。
 宮は並ぶ者のいない地位にいらっしゃるのも、考えてみれば、実にしみじみと感慨深い。
 何もかもひどく定めない世の中なので、どのようなことも思い通りに、生きている間の世を過ごしたく思うが、後にお残りになる晩年などが、言いようもない衰えなどまでが、心配されるものですから」
   と、うち語らひたまひて、上達部なども御桟敷に参り集ひたまへれば、そなたに出でたまひぬ。
 
 と、親しくお話しなさって、上達部などもお桟敷に参集なさったので、そちらにお出ましになった。
 
 
 

第二段 柏木や夕霧たちの雄姿

 
   近衛司の使は、頭中将なりけり。
 かの大殿にて、出で立つ所よりぞ人びとは参りたまうける。
 藤典侍も使なりけり。
 おぼえことにて、内裏、春宮よりはじめたてまつりて、六条院などよりも、御訪らひども所狭きまで、御心寄せいとめでたし。
 
 近衛府の使者は、頭中将であった。
 あの大殿邸を、出立する所から人々は参上なさったのであった。
 藤典侍も使者であった。
 格別に評判がよくて、帝、春宮をお初めとして、六条院などからも、御祝儀の数々が置き所もないほど、ご贔屓ぶりは実に素晴らしい。
 
   宰相中将、出で立ちの所にさへ訪らひたまへり。
 うちとけずあはれを交はしたまふ御仲なれば、かくやむごとなき方に定まりたまひぬるを、ただならずうち思ひけり。
 宰相中将、出立の所にまでお手紙をお遣わしになった。
 人目を忍んで恋し合うお間柄なので、このようにれっきとしたお方と結婚がお決まりになったのを、心穏やかならず思っているのであった。
 

447
 「何とかや 今日のかざしよ かつ見つつ
 おぼめくまでも なりにけるかな
 「何と言ったのか、今日のこの插頭は、目の前に見ていながら
  思い出せなくなるまでになってしまったことよ
 
   あさまし」  あきれたことだ」
   とあるを、折過ぐしたまはぬばかりを、いかが思ひけむ、いともの騒がしく、車に乗るほどなれど、  とあるのを、機会をお見逃しにならなかったことだけは、どう思ったことやら、たいそう忙しく、車に乗る時であるが、
 

448
 「かざしても かつたどらるる 草の名は
 桂を折りし 人や知るらむ
 「頭に插頭してもなおはっきりと思い出せない草の名は
  桂を折られたあなたはご存知でしょう
 
   博士ならでは」  博士でなくては」
   と聞こえたり。
 はかなけれど、ねたきいらへと思す。
 なほ、この内侍にぞ、思ひ離れず、はひまぎれたまふべき。
 
 と申し上げた。
 つまらない歌であるが、悔しい返歌だとお思いになる。
 やはり、この典侍を、忘れられず、こっそりお会いなさるのであろう。
 
 
 

第三段 四月二十日過ぎ、明石姫君、東宮に入内

 
   かくて、御参りは北の方添ひたまふべきを、「常に長々しうえ添ひさぶらひたまはじ。
 かかるついでに、かの御後見をや添へまし」と思す。
 
 こうして、御入内には北の方がお付き添いになるものだが、「いつまでも長々とお付き添い申していらっしゃることはできまい。
 このような機会に、あの実の親をご後見役に付けようか」とお考えになる。
 
   上も、「つひにあるべきことの、かく隔たりて過ぐしたまふを、かの人も、ものしと思ひ嘆かるらむ。
 この御心にも、今はやうやうおぼつかなく、あはれに思し知るらむ。
 かたがた心おかれたてまつらむも、あいなし」と思ひなりたまひて、
 対の上も、「結局は一緒になるはずなのに、このように離れて年月を過ごして来られたのを、あの方も、ひどいと思い嘆いていることだろう。
 姫君のお胸の中でも、今ではだんだんと恋しくお感じになっていらっしゃろう。
 お二方からおもしろくなく思われ申すのも、つまらないことだ」とお思いになって、
   「この折に添へたてまつりたまへ。
 まだいとあえかなるほどもうしろめたきに、さぶらふ人とても、若々しきのみこそ多かれ。
 御乳母たちなども、見及ぶことの心いたる限りあるを、みづからは、えつとしもさぶらはざらむほど、うしろやすかるべく」
 「この機会にお付き添わせ申しなさいませ。
 まだとてもか弱くいらっしゃるのも不安なので、伺候する女房たちとしても、若々しい人ばかり多いです。
 御乳母たちなども、気をつけるといっても行き届かない所がありますから、わたし自身は、ずっとお付きできません時、安心なように」
   と聞こえたまへば、「いとよく思し寄るかな」と思して、「さなむ」と、あなたにも語らひのたまひければ、いみじくうれしく、思ふこと叶ひはべる心地して、人の装束、何かのことも、やむごとなき御ありさまに劣るまじくいそぎたつ。
 
 と申し上げなさると、「よくお気が付いたなあ」とお思いになって、「これこれで」と、あちらにもご相談になったので、まことに嬉しく願っていたことが、すっかり叶った心地がして、女房の着る装束、その他のことまで、高貴な方のご様子に劣らないほどに準備し出す。
 
   尼君なむ、なほこの御生ひ先見たてまつらむの心深かりける。
 「今一度見たてまつる世もや」と、命をさへ執念くなして念じけるを、「いかにしてかは」と、思ふも悲し。
 
 尼君、やはりこの姫君のご将来を拝見したいお気持ちが深いのであった。
 「もう一度拝見する時があろうか」と、生きることに執念を燃やして祈っているのであったが、「どうしたらお目にかかれるだろうか」と、思うにつけても悲しい。
 
   その夜は、上添ひて参りたまふに、さて、車にも立ちくだりうち歩みなど、人悪るかるべきを、わがためは思ひ憚らず、ただ、かく磨きたてまつりたまふ玉の疵にて、わがかくながらふるを、かつはいみじう心苦しう思ふ。
 
 その夜は、対の上が付き添って参内なさるが、その際、輦車にも一段下がって歩いて行くなど、体裁の悪いことだが、自分は構わないが、ただ、このように大事に磨き申し上げなさった姫君の玉の瑕となって、自分がこのように長生きをしているのを、一方ではひどく心苦しく思う。
 
   御参りの儀式、「人の目おどろくばかりのことはせじ」と思しつつめど、おのづから世の常のさまにぞあらぬや。
 限りもなくかしづきすゑたてまつりたまひて、上は、「まことにあはれにうつくし」と思ひきこえたまふにつけても、人に譲るまじう、「まことにかかることもあらましかば」と思す。
 大臣も、宰相の君も、ただこのことひとつをなむ、「飽かぬことかな」と、思しける。
 
 御入内の儀式、「世間の人を驚かすようなことはすまい」とご遠慮なさるが、自然と普通の入内とは違ったものとならざるをえない。
 この上もなく大事にお世話申し上げていらっしゃって、対の上は、本当にしみじみとかわいいとお思い申し上げなさるにつけても、他人に譲りたくなく、「本当にこのような子があったらいいのに」とお思いになる。
 大臣も宰相の君も、ただこのこと一点だけを、「物足りないことよ」と、お思いであった。
 
 
 

第四段 紫の上、明石御方と対面する

 
   三日過ごしてぞ、上はまかでさせたまふ。
 たち変はりて参りたまふ夜、御対面あり。
 
 三日間を過ごして、対の上はご退出あそばす。
 入れ替わって参内なさる夜に、ご対面がある。
 
   「かくおとなびたまふけぢめになむ、年月のほども知られはべれば、疎々しき隔ては、残るまじくや」  「このようにご成人なさった節目に、長い歳月のほどが存じられますが、よそよそしい心の隔ては、ないでしょうね」
   と、なつかしうのたまひて、物語などしたまふ。
 これもうちとけぬる初めなめり。
 ものなどうち言ひたるけはひなど、「むべこそは」と、めざましう見たまふ。
 
 と、やさしくおっしゃって、お話などなさる。
 このことも仲好くなった初めのようである。
 お話などなさる態度に、なるほどもっともだと、目を見張る思いで御覧になる。
 
   また、いと気高う盛りなる御けしきを、かたみにめでたしと見て、「そこらの御中にもすぐれたる御心ざしにて、並びなきさまに定まりたまひけるも、いとことわり」と思ひ知らるるに、「かうまで、立ち並びきこゆる契り、おろかなりやは」と思ふものから、出でたまふ儀式の、いとことによそほしく、御輦車など聴されたまひて、女御の御ありさまに異ならぬを、思ひ比ぶるに、さすがなる身のほどなり。
 
 また、実に気品高く女盛りでいらっしゃるご様子を、お互いに素晴らしいと認めて、「大勢の御方々の中でも優れたご寵愛で、並ぶ方がいない地位を占めていらっしゃったのを、まことにもっともなことだ」と理解されると、「こんなにまで出世し、肩をお並べ申すことができた前世の約束、いいかげんなものでない」と思う一方で、ご退出になる儀式が実に格別に盛大で、御輦車などを許されなさって、女御のご様子と異ならないのを、思い比べると、やはり身分の相違というものを感じずにはいられないのである。
 
   いとうつくしげに、雛のやうなる御ありさまを、夢の心地して見たてまつるにも、涙のみとどまらぬは、一つものとぞ見えざりける。
 年ごろよろづに嘆き沈み、さまざま憂き身と思ひ屈しつる命も延べまほしう、はればれしきにつけて、まことに住吉の神もおろかならず思ひ知らる。
 
 とてもかわいげに、お人形のようなご様子を、夢のような心地で拝見するにつけても、涙ばかりが止まらないのは、同じ涙とは思われないのであった。
 長年何かにつけ悲しみに沈んで、何もかも辛い運命だと悲観していた寿命も更に延ばしたく、気も晴れやかになったにつけても、本当に住吉の神も霊験あらたかだと思わずにいられない。
 
   思ふさまにかしづききこえて、心およばぬことはた、をさをさなき人のらうらうじさなれば、おほかたの寄せ、おぼえよりはじめ、なべてならぬ御ありさま容貌なるに、宮も、若き御心地に、いと心ことに思ひきこえたまへり。
 
 思う通りにお世話申し上げて、行き届かないこと、それは、まったくない方の利発さなので、世人一般の人気、声望をはじめとして、並々ならぬご容姿ご器量なので、東宮も、お若い心で、たいそう格別にお思い申し上げていらっしゃった。
 
   挑みたまへる御方々の人などは、この母君の、かくてさぶらひたまふを、疵に言ひなしなどすれど、それに消たるべくもあらず。
 いまめかしう、並びなきことをば、さらにもいはず、心にくくよしある御けはひを、はかなきことにつけても、あらまほしうもてなしきこえたまへれば、殿上人なども、めづらしき挑み所にて、とりどりにさぶらふ人びとも、心をかけたる女房の、用意ありさまさへ、いみじくととのへなしたまへり。
 
 競争なさっている御方々の女房などは、この母君がこうして伺候していらっしゃるのを、欠点に言ったりなどするが、それに負けるはずがない。
 当世風で、並ぶ者がないことは、言うまでもなく、奥ゆかしく上品なご様子を、ちょっとしたことにつけても、理想的に引き立ててお上げになるので、殿上人なども、珍しい風流の才を競う所として、それぞれに伺候する女房たちも、心寄せている女房の、心構え態度までが、実に立派なのを揃えていらっしゃった。
 
   上も、さるべき折節には参りたまふ。
 御仲らひあらまほしううちとけゆくに、さりとてさし過ぎもの馴れず、あなづらはしかるべきもてなし、はた、つゆなく、あやしくあらまほしき人のありさま、心ばへなり。
 
 対の上も、しかるべき機会には参内なさる。
 お二方の仲は理想的に睦まじくなって行くが、そうかといって出過ぎたり馴れ馴れしくならず、軽く見られるような態度、言うまでもなく、まったくなく、不思議なほど理想的な方の態度、心構えである。
 
 
 

第三章 光る源氏の物語 准太上天皇となる

 
 

第一段 源氏、秋に准太上天皇の待遇を得る

 
   大臣も、「長からずのみ思さるる御世のこなたに」と、思しつる御参りの、かひあるさまに見たてまつりなしたまひて、心からなれど、世に浮きたるやうにて、見苦しかりつる宰相の君も、思ひなくめやすきさまにしづまりたまひぬれば、御心おちゐ果てたまひて、「今は本意も遂げなむ」と、思しなる。
 
 大臣も、「いつまでも生きていられないと思わずにはいられない存命中に」と、お思いであったご入内を、立派な地位にお付け申し上げなさって、本人が求めてのことであるが、身の上が落ち着かず、体裁の悪かった宰相の君も、心配もなく安心した結婚生活に落ち着きなさったので、すっかりご安心なさって、「今は出家の本意を遂げよう」と、お思いになる。
 
   対の上の御ありさまの、見捨てがたきにも、「中宮おはしませば、おろかならぬ御心寄せなり。
 この御方にも、世に知られたる親ざまには、まづ思ひきこえたまふべければ、さりとも」と、思し譲りけり。
 
 対の上のご様子の、見捨て難いのにつけても、「中宮がいらっしゃるので、並々ならぬお味方である。
 この姫君におかれても、表向きの親としては、真っ先にきっとお思い申し上げなさるだろうから、いくら何でも大丈夫」と、お任せになるのであった。
 
   夏の御方の、時に花やぎたまふまじきも、「宰相のものしたまへば」と、皆とりどりにうしろめたからず思しなりゆく。
 
 夏の御方が、何かにつけて華やかになりそうもないのも、「宰相がいらっしゃるので」と、皆それぞれに心配はなくお考えになって行く。
 
   明けむ年、四十になりたまふ、御賀のことを、朝廷よりはじめたてまつりて、大きなる世のいそぎなり。
 
 明年、四十歳におなりになる、御賀のことを、朝廷をお初め申して、大変な世を挙げてのご準備である。
 
   その秋、太上天皇に准らふ御位得たまうて、御封加はり、年官年爵など、皆添ひたまふ。
 かからでも、世の御心に叶はぬことなけれど、なほめづらしかりける昔の例を改めで、院司どもなどなり、さまことにいつくしうなり添ひたまへば、内裏に参りたまふべきこと、難かるべきをぞ、かつは思しける。
 
 その年の秋、太上天皇に準じる御待遇をお受けになって、御封が増加し、年官や年爵など、全部お加わりになる。
 そうでなくても、世の中でご希望通りにならないことはないのが、やはりめったになかった昔の例を踏襲して、院司たちが任命され、格段に威儀厳めしくおなりになったので、宮中に参内なさることが、難しいだろうことを、一方では残念にお思いであった。
 
   かくても、なほ飽かず帝は思して、世の中を憚りて、位をえ譲りきこえぬことをなむ、朝夕の御嘆きぐさなりける。
 
 それでも、なおも物足りなく帝はお思いあそばして、世間に遠慮して、皇位をお譲り申し上げられないことが、朝夕のお嘆きの種であった。
 
   内大臣上がりたまひて、宰相中将、中納言になりたまひぬ。
 御よろこびに出でたまふ。
 光いとどまさりたまへるさま、容貌よりはじめて、飽かぬことなきを、主人の大臣も、「なかなか人に圧されまし宮仕へよりは」と、思し直る。
 
 内大臣は太政大臣にご昇進になって、宰相中将は、中納言におなりになった。
 そのお礼言上にお出になる。
 輝きがますますお加わりになった姿、容貌をはじめとして、足りないところのないのを、主人の大臣も、「なまじ人に圧倒されるような宮仕えよりはましであった」と、お考え直しになる。
 
   女君の大輔乳母、「六位宿世」と、つぶやきし宵のこと、ものの折々に思し出でければ、菊のいとおもしろくて、移ろひたるを賜はせて、  女君の大輔の乳母が、「六位の人との結婚」と、ぶつぶつ言った夜のことが、何かの機会ごとにお思い出しになったので、菊のたいそう美しくて、色の変化しているのをお与えになって、
 

449
 「浅緑 若葉の菊を 露にても
 濃き紫の 色とかけきや
 「浅緑色をした若葉の菊を
  濃い紫の花が咲こうとは夢にも思わなかっただろう
 
   からかりし折の一言葉こそ忘られね」  辛かったあの時の一言が忘れられない」
   と、いと匂ひやかにほほ笑みて賜へり。
 恥づかしう、いとほしきものから、うつくしう見たてまつる。
 と、たいそう美しくほほ笑んでお与えになった。
 恥ずかしく、お気の毒なことをしたと思う一方で、いとしくも、お思い申し上げる。
 

450
 「双葉より 名立たる園の 菊なれば
 浅き色わく 露もなかりき
 「二葉の時から名門の園に育つ菊ですから
  浅い色をしていると差別する者など誰もございませんでした
 
   いかに心おかせたまへりけるにか」  どのようにお気を悪くお思いになったことでしょうか」
   と、いと馴れて苦しがる。
 
 と、いかにも物馴れた様子に言い訳をする。
 
 
 

第二段 夕霧夫妻、三条殿に移る

 
   御勢ひまさりて、かかる御住まひも所狭ければ、三条殿に渡りたまひぬ。
 すこし荒れにたるを、いとめでたく修理しなして、宮のおはしましし方を改めしつらひて住みたまふ。
 昔おぼえて、あはれに思ふさまなる御住まひなり。
 
 ご威勢が増して、このようなお住まいでは手狭なので、三条殿にお移りになった。
 少し荒れていたのをたいそう立派に修理して、大宮がいらっしゃったお部屋を修繕してお住まいになる。
 昔が思い出されて、懐しく心にかなったお部屋である。
 
   前栽どもなど、小さき木どもなりしも、いとしげき蔭となり、一村薄も心にまかせて乱れたりける、つくろはせたまふ。
 遣水の水草もかき改めて、いと心ゆきたるけしきなり。
 
 前栽どもなど、小さい木であったのが、たいそう大きな木蔭を作り、一叢薄ものび放題になっていたのを、手入れさせなさる。
 遣水の水草も取り払って、とても気持ちよさそうに流れている。
 
   をかしき夕暮のほどを、二所眺めたまひて、あさましかりし世の、御幼さの物語などしたまふに、恋しきことも多く、人の思ひけむことも恥づかしう、女君は思し出づ。
 古人どもの、まかで散らず、曹司曹司にさぶらひけるなど、参う上り集りて、いとうれしと思ひあへり。
 
 美しい夕暮れ時を、お二人で眺めなさって、情けなかった昔の、子供時代のお話などをなさると、恋しいことも多く、女房たちが何と思っていたかも恥ずかしく、女君はお思い出しになる。
 古い女房たちで、退出せず、それぞれの曹司に伺候していた人たちなど、参集して、実に嬉しく互いに思い合っていた。
 
   男君、  男君、

451
 「なれこそは 岩守るあるじ 見し人の
 行方は知るや 宿の真清水」
 「おまえこそはこの家を守っている主人だ、お世話になった人の
  行方は知っているか、邸の真清水よ」
 
   女君、  女君、

452
 「亡き人の 影だに見えず つれなくて
 心をやれる いさらゐの水」
 「亡き人の姿さえ映さず知らない顔で
  心地よげに流れている浅い清水ね」
 
   などのたまふほどに、大臣、内裏よりまかでたまひけるを、紅葉の色に驚かされて渡りたまへり。
 
 などとおっしゃっているところに、太政大臣、宮中からご退出なさった途中、紅葉のみごとな色に驚かされてお越しになった。
 
 
 

第三段 内大臣、三条殿を訪問

 
   昔おはさひし御ありさまにも、をさをさ変はることなく、あたりあたりおとなしく住まひたまへるさま、はなやかなるを見たまふにつけても、いとものあはれに思さる。
 中納言も、けしきことに、顔すこし赤みて、いとどしづまりてものしたまふ。
 
 昔大宮がお住まいだったご様子に、たいして変わるところなく、あちらこちらも落ち着いてお住まいになっている様子、若々しく明るいのを御覧になるにつけても、ひどくしみじみと感慨が込み上げてくる。
 中納言も、改まった表情で、顔が少し赤くなって、いつも以上にしんみりとしていらっしゃる。
 
   あらまほしくうつくしげなる御あはひなれど、女は、またかかる容貌のたぐひも、などかなからむと見えたまへり。
 男は、際もなくきよらにおはす。
 古人ども御前に所得て、神さびたることども聞こえ出づ。
 ありつる御手習どもの、散りたるを御覧じつけて、うちしほたれたまふ。
 
 理想的で初々しいご夫婦仲であるが、女は、他にこのような器量の人もいないこともなかろうと、お見えになる。
 男は、この上なく美しくいらっしゃる。
 古女房たちが御前で得意気になって、昔のことなどを申し上げる。
 さきほどのお二人の歌が、散らかっているのをお見つけになって、ふと涙ぐみなさる。
 
   「この水の心尋ねまほしけれど、翁は言忌して」  「この清水の気持ちを尋ねてみたいが、老人は遠慮して」
   とのたまふ。  とおっしゃる。
 

453
 「そのかみの 老木はむべも 朽ちぬらむ
 植ゑし小松も 苔生ひにけり」
 「その昔の老木はなるほど朽ちてしまうのも当然だろう
  植えた小松にも苔が生えたほどだから」
 
   男君の御宰相の乳母、つらかりし御心も忘れねば、したり顔に、  男君の宰相の御乳母、冷たかったお仕打ちを忘れなかったので、得意顔に、
 

454
 「いづれをも 蔭とぞ頼む 双葉より
 根ざし交はせる 松の末々」
 「どちら様をも蔭と頼みにしております、二葉の時から
  互いに仲好く大きくおなりになった二本の松でいらっしゃいますから」
 
   老人どもも、かやうの筋に聞こえ集めたるを、中納言は、をかしと思す。
 女君は、あいなく面赤み、苦しと聞きたまふ。
 
 老女房たちも、このような話題ばかりを歌に詠むのを、中納言は、おもしろいとお思いになる。
 女君は、わけもなく顔が赤くなって、聞き苦しく思っていらっしゃる。
 
 
 

第四段 十月二十日過ぎ、六条院行幸

 
   神無月の二十日あまりのほどに、六条院に行幸あり。
 紅葉の盛りにて、興あるべきたびの行幸なるに、朱雀院にも御消息ありて、院さへ渡りおはしますべければ、世にめづらしくありがたきことにて、世人も心をおどろかす。
 主人の院方も、御心を尽くし、目もあやなる御心まうけをせさせたまふ。
 
 神無月の二十日過ぎ頃に、六条院に行幸がある。
 紅葉の盛りで、きっと興趣あるにちがいない今回の行幸なので、朱雀院にも御手紙があって、院までがお越しあそばすので、実に珍しくめったにない盛儀なので、世間の人も心をときめかす。
 主人の六条院方でも、お心を尽くして、目映いばかりのご準備をあそばす。
 
   巳の時に行幸ありて、まづ、馬場殿に左右の寮の御馬牽き並べて、左右近衛立ち添ひたる作法、五月の節にあやめわかれず通ひたり。
 未くだるほどに、南の寝殿に移りおはします。
 道のほどの反橋、渡殿には錦を敷き、あらはなるべき所には軟障を引き、いつくしうしなさせたまへり。
 
 巳の時に行幸があって、まず、馬場殿に左右の馬寮の御馬を牽き並べて、左右近衛府の官人が立ち並んだ儀式、五月の節句に違わずよく似ていた。
 未の刻を過ぎたころ、南の寝殿にお移りあそばす。
 途中の反橋、渡殿には錦を敷き、よそから見えるにちがいない所には軟障を引き、厳めしくおしつらわせなさった。
 
   東の池に舟ども浮けて、御厨子所の鵜飼の長、院の鵜飼を召し並べて、鵜をおろさせたまへり。
 小さき鮒ども食ひたり。
 わざとの御覧とはなけれども、過ぎさせたまふ道の興ばかりになむ。
 
 東の池に舟を幾隻か浮かべて、御厨子所の鵜飼の長が、院の鵜飼を召し並べて、鵜を下ろさせなさった。
 小さい鮒を幾匹もくわえた。
 特別に御覧に入れるのではないが、お通りすがりになる一興ほどにである。
 
   山の紅葉、いづ方も劣らねど、西の御前は心ことなるを、中の廊の壁を崩し、中門を開きて、霧の隔てなくて御覧ぜさせたまふ。
 
 築山の紅葉、どの町のも負けない程であるが、西の御庭のは格別に素晴らしいので、中の廊の壁を崩し、中門を開いて、霧がさえぎることなく御覧にお入れあそばす。
 
   御座、二つよそひて、主人の御座は下れるを、宣旨ありて直させたまふほど、めでたく見えたれど、帝は、なほ限りあるゐやゐやしさを尽くして見せたてまつりたまはぬことをなむ、思しける。
 
 御座、二つ準備して、主人の御座は下にあるのを、宣旨があってお改めさせなさるのも、素晴らしくお見えになったが、帝は、やはり規定以上の礼をお現し申し上げられないのを、残念にお思いあそばすのであった。
 
   池の魚を、左少将捕り、蔵人所の鷹飼の、北野に狩仕まつれる鳥一番を、右少将捧げて、寝殿の東より御前に出でて、御階の左右に膝をつきて奏す。
 太政大臣、仰せ言賜ひて、調じて御膳に参る。
 親王たち、上達部などの御まうけも、めづらしきさまに、常の事どもを変へて仕うまつらせたまへり。
 
 池の魚を、左少将が手に取り、蔵人所の鷹飼が、北野で狩をして参った鳥の一番を、右少将が捧げて、寝殿の東から御前に出て、御階の左右に膝まづいて奏上する。
 太政大臣が、お言葉を賜り伝えて、料理して御膳に差し上げる。
 親王方、上達部たちの御馳走も、珍しい様子に、いつものと目先を変えて差し上げさせなさった。
 
 
 

第五段 六条院行幸の饗宴

 
   皆御酔ひになりて、暮れかかるほどに、楽所の人召す。
 わざとの大楽にはあらず、なまめかしきほどに、殿上の童べ、舞仕うまつる。
 朱雀院の紅葉の賀、例の古事思し出でらる。
 「賀王恩」といふものを奏するほどに、太政大臣の御弟子の十ばかりなる、切におもしろう舞ふ。
 内裏の帝、御衣ぬぎて賜ふ。
 太政大臣降りて舞踏したまふ。
 
 皆お酔いになって、日が暮れかかるころに、楽所の人をお召しになる。
 特別の大がかりの舞楽ではなく、優雅に奏して、殿上の童が、舞を御覧に入れる。
 朱雀院の紅葉の御賀、例によって昔の事が自然と思い出されなさる。
 「賀皇恩」という楽を奏する時に、太政大臣の御末子の十歳ほどになる子が、実に上手に舞う。
 今上の帝、御召物を脱いで御下賜なさる。
 太政大臣、下りて拝舞なさる。
 
   主人の院、菊を折らせたまひて、「青海波」の折を思し出づ。  主人の院、菊を折らせなさって、「青海波」を舞った時のことをお思い出しになる。
 

455
 「色まさる 籬の菊も 折々に
 袖うちかけし 秋を恋ふらし」
 「色濃くなった籬の菊も折にふれて
  袖をうち掛けて昔の秋を思い出すことだろう」
 
   大臣、その折は、同じ舞に立ち並びきこえたまひしを、我も人にはすぐれたまへる身ながら、なほこの際はこよなかりけるほど、思し知らる。
 時雨、折知り顔なり。
 太政大臣、あの時は、同じ舞をご一緒申してお舞いなさったのだが、自分も人には勝った身ではあるが、やはりこの院のご身分はこの上ないものであったと、思わずにはいらっしゃれない。
 時雨が、時知り顔に降る。
 

456
 「紫の 雲にまがへる 菊の花
 濁りなき世の 星かとぞ見る
 「紫の雲と似ている菊の花は
  濁りのない世の中の星かと思います
 
   時こそありけれ」  一段とお栄えの時を」
   と聞こえたまふ。
 
 と申し上げなさる。
 
 
 

第六段 朱雀院と冷泉帝の和歌

 
   夕風の吹き敷く紅葉の色々、濃き薄き、錦を敷きたる渡殿の上、見えまがふ庭の面に、容貌をかしき童べの、やむごとなき家の子どもなどにて、青き赤き白橡、蘇芳、葡萄染めなど、常のごと、例のみづらに、額ばかりのけしきを見せて、短きものどもをほのかに舞ひつつ、紅葉の蔭に返り入るほど、日の暮るるもいと惜しげなり。
 
 夕風が吹き散らした紅葉の色とりどりの、濃いの薄いの、錦を敷いた渡殿の上、見違えるほどの庭の面に、容貌のかわいい童べの、高貴な家の子供などで、青と赤の白橡に、蘇芳と葡萄染めの下襲など、いつものように、例のみずらを結って、額に天冠をつけただけの飾りを見せて、短い曲目類を少しずつ舞っては、紅葉の葉蔭に帰って行くところ、日が暮れるのも惜しいほどである。
 
   楽所などおどろおどろしくはせず。
 上の御遊び始まりて、書司の御琴ども召す。
 ものの興切なるほどに、御前に皆御琴ども参れり。
 宇多法師の変はらぬ声も、朱雀院は、いとめづらしくあはれに聞こし召す。
 楽所など仰々しくはしない。
 堂上での管弦の御遊が始まって、書司の御琴類をお召しになる。
 一座の興が盛り上がったころに、お三方の御前にみな御琴が届いた。
 宇多の法師の変わらぬ音色も、朱雀院は、実に珍しくしみじみとお聞きあそばす。
 

457
 「秋をへて 時雨ふりぬる 里人も
 かかる紅葉の 折をこそ見ね」
 「幾たびの秋を経て、時雨と共に年老いた里人でも
  このように美しい紅葉の時節を見たことがない」
 
   うらめしげにぞ思したるや。
 帝、
 恨めしくお思いになったのであろうよ。
 帝は、
 

458
 「世の常の 紅葉とや見る いにしへの
 ためしにひける 庭の錦を」
 「世の常の紅葉と思って御覧になるのでしょうか
  昔の先例に倣った今日の宴の紅葉の錦ですのに」
 
   と、聞こえ知らせたまふ。
 御容貌いよいよねびととのほりたまひて、ただ一つものと見えさせたまふを、中納言さぶらひたまふが、ことことならぬこそ、めざましかめれ。
 あてにめでたきけはひや、思ひなしに劣りまさらむ、あざやかに匂はしきところは、添ひてさへ見ゆ。
 
 と、おとりなし申し上げあそばす。
 御器量は一段と御立派におなりになって、まるでそっくりにお見えあそばすのを、中納言が控えていらっしゃるが、また別々のお顔と見えないのには、目を見張らされる。
 気品があって素晴らしい感じは、思いなしか優劣がつけられようか、目の覚めるような美しい点は、加わっているように見える。
 
   笛仕うまつりたまふ、いとおもしろし。
 唱歌の殿上人、御階にさぶらふ中に、弁少将の声すぐれたり。
 なほさるべきにこそと見えたる御仲らひなめり。
 
 笛を承ってお吹きになる、たいそう素晴らしい。
 唱歌の殿上人、御階に控えて歌っている中で、弁少将の声が優れていた。
 やはり前世からの宿縁によって優れた方々がお揃いなのだと思われるご両家のようである。
 
 
 

【出典】

 
  出典1 人知れぬ我が通ひ路の関守は宵々ごとにうちも寝ななむ(古今集恋三-六三二 在原業平)(戻)  
  出典2 みごもりの神しまことの神ならば我が片恋を諸恋になせ(古今六帖四-二〇二〇)(戻)  
  出典3 惆悵春帰留不得 紫藤花下漸黄昏(白氏文集十三-六三一)(戻)  
  出典4 夏にこそ咲きかかりけれ藤の花松にとのみも思ひけるかな(拾遺集夏-八三 源重之)(戻)  
  出典5 高祖五日一朝太公 如家人父子礼(史記-高祖本紀)(戻)  
  出典6 春日さす藤の裏葉のうらとけて君し思はば我も頼まむ(後撰集春下-一〇〇 読人しらず)(戻)  
  出典7 聞得園中花養艶 請君許折一枝花(和漢朗詠下-七八四 無名)(戻)  
  出典8 幾返り咲き散る花を眺めつつ物を思ひ暮らす春に逢ふらむ(新古今集恋一-一〇一七 大中臣能宣)(戻)  
  出典9 葦垣真垣 真垣かき分けて てふ越すと 負ひ越すと誰 てふ越すと 誰か 誰か この事を 親に まうよこし申し 轟ける この家 この家の 弟嫁 親に まうよこしけらしも(催馬楽-葦垣)(戻)  
  出典10 恋侘びて死ぬてふことはまだなきを世のためしにもなりぬべきかな(後撰集恋六-一〇三六 壬生忠岑)(戻)  
  出典11 河口の 関の荒垣や 関の荒垣や 守れども はれ 守れども 出でて我寝ぬや 出でて我寝ぬや 関の荒垣(催馬楽-河口)(戻)  
  出典12 玉簾明くるも知らで寝しものを夢にも見じとゆめ思ひきや(伊勢集-五五)(戻)  
  出典13 寝くたれの朝顔の花秋霧におも隠しつつ見えぬ君かな(河海抄所引-出典未詳)(戻)  
  出典14 などてかくあふごかたみになりにけむ水漏らさじと結びしものを(伊勢物語-六一)(戻)  
  出典15 久方の月の桂も折るばかり家の風をも吹かせてしかな(拾遺集雑上-四七三 菅原道真の母)(戻)  
  出典16 うれしきも憂きも心は一つにて別れぬものは涙なりけり(後撰集雑二-一一八八 読人しらず)(戻)  
  出典17 君が植ゑし一村薄虫の音のしげき野辺ともなりにけるかな(古今集哀傷-八五三 三春有助)(戻)  
  出典18 亡き人の影だに見えぬ遣水の底は涙に流してぞこし(後撰集哀傷-一四〇二 伊勢)(戻)  
  出典19 久方の雲の上にて見る菊は天つ星とぞ過たれける(古今集秋下-二六九 藤原敏行)(戻)  
  出典20 秋をおきて時こそありけれ菊の花移ろふからに色のまされば(古今集秋下-二七九 平定文)(戻)  
 
 

【校訂】

 
  備考--(/) ミセケチ--$ 抹消--# 補入--+ 傍書--= ナゾリ--& 独自異文等--* 朱筆--<朱> 不明--△  
  校訂1 恥づかしと--はつかしう(う/#と)(戻)  
  校訂2 少将--中(中/#少)将(戻)  
  校訂3 したり顔--ゑ(ゑ/$し<朱>)たりかほ(戻)  
  校訂4 心づかひにて--心つかひ(ひ/+に)て(戻)  
  校訂5 堪へぬ--たえ(え/$へ)ぬ(戻)  
  校訂6 消えぬ--き△(△/#こイ)えぬ(戻)  
  校訂7 手を--ゝも(ゝも/$てを)(戻)  
  校訂8 書きなられに--かき(き/+な<朱>)られり(り/$)に(戻)  
  校訂9 漏らし--もく(く/#ら)し(戻)  
  校訂10 男々しからず--をお(をお/#おゝ)しからす(戻)  
  校訂11 宰相殿は--宰相殿(殿/+は)(戻)  
  校訂12 とまり--もと(もと/$とま)り(戻)  
  校訂13 詣うで--まうへ(へ/$て<朱>)(戻)  
  校訂14 ぞ--その(の/#)(戻)  
  校訂15 もの騒がしく--*物さはかし(戻)  
  校訂16 さて--御てくるま(御てくるま/$)さて(戻)  
  校訂17 御参り--*まいり(戻)  
  校訂18 いと--いた(た/$と)(戻)  
  校訂19 内大臣--内大臣に(に/#)(戻)  
  校訂20 おもしろくて--おもしろく(く/+て<朱>)(戻)  
  校訂21 曹司曹司に--さま(ま/$うし)/\に(戻)  
  校訂22 言忌して--*こといみしく(戻)  
  校訂23 朽ちぬらむ--くちぬれ(れ/$ら)む(戻)  
  校訂24 直させ--なを(を/+させ<朱>)(戻)  
  校訂25 いと惜しげ--いとほ(ほ/$を)しけ(戻)  
  校訂26 楽所--*かくしよそ(戻)  
  校訂27 まさらむ--(/+ま<朱>)さらん(戻)