宇治拾遺物語:藤六の事

伯の母、仏事 宇治拾遺物語
巻第三
3-11 (43)
歌よみ藤六
多田新発意郎等

 
 今は昔、藤六といふ歌よみありけり。下種の家に入りて、人もなかりける折を見つけて入りにけり。鍋に煮ける物をすくひけるほどに、家あるじの女、水を汲みて、大路の方より来て見れば、かくすくひ食へば、「いかにかく人もなき所に入りて、かくはする物をば参るぞ。あなうたてや、藤六にこそいましけれ。さらば歌詠み給へ」と言ひければ、
 

♪7
 昔より 阿弥陀ほとけの ちかひにて
 煮ゆるものをば すくふとぞ知る

 
 とこそ詠みたりける。
 

伯の母、仏事 宇治拾遺物語
巻第三
3-11 (43)
歌よみ藤六
多田新発意郎等